2019年03月09日

ジョン・フェイヒィ レジェンド・オブ・ブラインド・ジョー・デス

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John Fahey/The Legend of Blind Joe Death
(Takoma)


え〜、アコースティック・ギター1本で歌ナシの曲を演奏する「ギターインストゥルメンタル」なるジャンルがありまして、2000年頃から一定の根強い人気を誇っております。

「へぇ〜ギター1本で?どんなことすんのかねぇ」

ぐらいの気持ちで聴いてみたら、単にコードをジャカジャカやったり、メロディをテロテロ弾くんじゃなくて、リズムもメロディも、果てはネックやボディを叩いたりするパーカッシブな小技も同時にやったりと、そのテクニカルな技術にド肝を抜かれるような凄いプレイヤーがこのジャンルにはいっぱいいて、しかも最近はYoutubeとかで見ても、アマチュアギタリストでギターインストやってる人達ってのは凄いですよね。

ほいでもって、やっている曲がまた、ロックでもカントリーでもジャズでもない、でもその全部の要素がひとつの楽曲の中に整然と入っているような、本当に独特の曲が多いです。


今日ご紹介するのは、アタシが思う「元祖ギター・インストゥルメンタル」ジョン・フェイヒイでございます。

まずですね、知らない人はこの人の名前、ぜひとも覚えて欲しいです。

もうね、この人は本当に凄いです。

アメリカにある色んなルーツ音楽、たとえばブルースとかカントリーとかフォークとかそういうもののギター演奏の最高のテクニックを、たった1本のアコースティック・ギターで、しかも歌ナシで完璧に弾きこなしてます。

とはいえそのプレイはあくまで穏やかで「どうだ凄いだろう」というような押しつけがましさは一切なく、それゆえにド派手な弾き倒しみたいな事はしない。そこに鳴っているのはギターの音だけなのに、まるでアコースティック・ギターの軽やかな伴奏に乗って見事に歌が歌われているような・・・、聴く人を優しく世界に引きずりこんで、そんな不思議な感覚に包み込んでしまう、ギタリストとかミュージシャンとかを越えた魔法使いのような人なのであります。


1930年代に生まれ、ワシントンD.C.という都会が故郷でありますが、カントリーやブルーグラスに夢中になって、やがて戦前のブルースにのめり込み、古いSP盤を探して曲を覚え、それらを完璧にマスターしてライヴで演奏し、1950年代から60年代にかけての”フォーク・ブルース・リヴァイバル”のきっかけも作りました。

元々メジャーになる気はなく、最初から自分のレーベルを作ってそこで淡々とレコーディングを行っては作品をリリースしているような人でありましたが、ルーツ・ミュージックを愛好するファンからの支持やミュージシャン達からのリスペクトは熱狂的なものがあり、アンダーグラウンドのカリスマとして、その素顔を滅多に表に出さない謎めいた存在感、ブルースやカントリーを軸としながらも、インド音楽などの即興演奏的要素も大胆に(しかし聴いてる分にはほとんど違和感なく)取り込んだミステリアスな音世界ともども、異彩を放ち続けます。

残念ながらフェイヒィ自身は2001年に亡くなりましたが、その時彼のギター・プレイを熱心に聴いて評価していたのは、音響系と呼ばれるエレクトロニカなロックの人達。

完全にアコースティックなフェイヒィのプレイに何故?と思いましたが、彼の特に即興演奏に興じている時の音色には、エレクトリックな機材を使っても敵わないナチュラルな物凄いトリップ感があると何かで読んで、確かに!と激しく共感したことを覚えております。



Complete Blind Joe Death


【収録曲】
1.On Doing An Evil Deed Blues
2.St. Louis Blues
3.Poor Boy, Long Ways from Home
4.Uncloudy Day
5.John Henry
6.In Christ There Is No East or West
7.Desperate Man Blues
8.Sun Gonna Shine in My Back Door Someday Blues
9.Sligo River Blues
10.On Doing An Evil Deed Blues
11.St. Louis Blues
12.Poor Boy, Long Ways from Home
13.Uncloudy Day
14.John Henry
15.In Christ There Is No East or West
16.Desperate Man Blues
17.Sun Gonna Shine in My Back Door Someday Blues
18 Sligo River Blues
19.I'm Gonna Do All I Can for My Lord
20.The Transcendental Waterfall
21.West Coast Blues


ご紹介するアルバムは、フェイヒィ初期の自家レーベル盤でございます。

ブルースを聴き始めた頃に彼はブラインド・ウィリー・ジョンソンブラインド・ウィリー・マクテルブラインド・レモン・ジェファソンといった戦前の伝説の盲目ブルースマン達の音楽とそのミステリアスな存在感に強く衝撃を受け、自らも”ブラインド・ジョー・デス”と名乗り「謎の盲目ギタリスト」として作品を世に出しておりましたが、これはその時期の音源をまとめたもの。


楽曲は古いブルースや、ブルース/カントリー以前のトラディショナル・ナンバーが多いです。親指でボンパンボンパンと的確なベースラインを刻みながら、人差し指で同時にメロディーを弾いてゆくスタイルは、目を閉じてじっくり聴かなくても、まるで1920年代30年代のSPレコードのノイズを除去したもののように聞こえます。少なくとも「これ、20代の若い白人ギタリストが弾いてるんだよ」と言われても、すんなり納得できる人はいないのではないでしょうか。

この人の演奏は、確かにフィンガーピキングからスライドまで、どんな奏法もスイスイこなせる完璧なギターテクニックの凄味が淡々と溢れてるんですが、それよりも何よりも、まるでそこで時間が止まったまま別次元に移行した音楽が延々と鳴り響いているような、そんな独特の「この世のものではない感じ」がありまして、それが恐ろしく中毒性高いんですよ。






『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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2019年03月02日

ザ・サイケデリック・サウンズ・オブ・13th・フロア・エレベーターズ

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The Psychedelic Sounds of the 13th Floor Elevators


お店に立ってた2000年代の前半に、トランス・ミュージックが流行った事がありました。

その頃の10代とか20代前半の人達は、メロコアやスカコアなどのパンク系やヒップホップを入り口に、自分が「お、これいいな」と思った音楽は、ジャンルとかとりあえず関係なく聴いてみるという、実に良い感性を持ってて、で、不思議とロック系ラップ系どちらも共通の「いいよな」ってのがボアダムスだったり、そんでもってボアダムスからトランスに行った若い人達が自分でスピーカーとかミキサーとかを屋外に持ち込んでイベントしたり、あれ今思うとレイヴってヤツですね、とにかくアクティヴに色々と面白い事をやってて楽しかったですね。

で、そんな時東京から帰ってきたばかりだったアタシは思った訳です。

「トランスってことはサイケだから、このいい機会にこの島で本格的にサイケデリックロックとかフリージャズとかを布教しよう」

と。


目論見はそこそこ成功して、その辺のトランス聴いてる若い人達は、レッド・クレイオラとかサン・ラーとかMC5とか、後期コルトレーンとかも熱心に聴いてくれるようになって、はい、アタシは凄く嬉しかったし今も嬉しいです。

そういう音楽がそこそこ受け入れられるようになってくると「ところでお兄さん”サイケ”って何すか?」という質問もよく受けるようになりまして、うぅ〜ん、そうねぇ、サイケデリックってのは60年代からアメリカで出回るようになったLSDっていう幻覚剤があってだね、その幻覚作用を感じさせるよーな音楽を、ガレージロックっつう・・・まぁこれはパンクみたいなもんだと思ってもらっていいんだけど、そういう激しい音楽やってる連中が始めたのが最初なんだよ。

ほれ、エフェクターとか使って音をギョーンとかびろーんとかホワンホワンホワンってやったりするのって、今はロックでも何でも簡単に出来るし効果音として当たり前になってるでしょ?でもその頃は少ない機材とかで色々と無理やってそういう音を出してたんだ。で、薬物やってるヤツがそれ聴くと「うはぁ!オレが飛んでる時そういえば音楽がこんな風に聞こえるよー!!」って、ますます飛ぶんだね。

「ほぉ〜ん、そうやって出来たのがサイケってんですね。わかりました。でも、そういうのって最初にやったバンドってあるんすか?」

と、言う鋭い質問が来る時のために、コーナーには常に13thフロア・エレベーターズを置いていたりもしました。

はい、13thフロア・エレベーターズは『元祖サイケ』と呼ばれる伝説のバンド。

ガレージロックがローカルなティーンエイジャー達に人気で、アメリカでもビートルズやストーンズっぽいのとか、もうちょっとブルースや50年代型のロックンロールのテイストが入ったのとか、割とポップなやつとか色々なバンドが出て一瞬の煌めきを放っていた1960年代半ばに、大大的にドラッグからの影響というものを前面に打ち出して「壊れたロック」をやって世界に衝撃を与えたのが13thフロアー・エレベーターズであります。

大体バンド名からして不吉な数字として忌み嫌われていた「13」が入ってるし、ファースト・アルバムはよくフリーメーソンの陰謀とか何とかで取り上げられる「ピラミッドの目」だったりするし、とにかく音楽性云々以前に、純粋なリスナーには「うへぇ、何だコイツらヤバそう」と思わせるに十分なインパクトを持っておりました。

サウンドの方も名前に全然負けておらず、一言で言っちゃえばヴォーカルのロッキー・エリソンの”奇行”がそのまんまマイク持って歌ってるかのような、通常のちょいヘナい声からいきなり感極まったようなハイトーンで絶叫するスタイルとか、ギタリストのステイシー・サザーランドによる、汚く歪んだファズトーンに、常識では考えられなかった大胆なエコー使い。

そして、究極に”おかしい”のが、何とこのバンドには”ジャグ”という工業用の瓶、つまりコレは戦前のブルースの形態でジャグバンドってのがあって、詳しくは下のリンク読んでくださいなんですが





この、手作り楽器バンドがベースの代わりに吹いてボンボン言ってた楽器を、エレキギターガンガンのロックで使って、で、呼び方は「エレクトリック・ジャグ」なんだと。演奏の中でもこれがずっと不自然にポコポコ言ってて、もしかしたらドラッグ云々よりコイツらの一番ヤバいところはここなんじゃないかと思うぐらいにインパクト強烈なんです。


この13thフロアー・エレベーターズ、1966年に音楽に関しては「行き過ぎ、やり過ぎ、イカレ過ぎ」な連中が定期的に輩出されるテキサスで結成され、この地を中心に活動をしておりました。

地元が同じテキサスのジャニス・ジョプリンやZZトップのビリー・ギボンズらは彼らのファンで、その音楽的な影響力がアンダーグラウンドからメジャーなロックにまで幅広く及んでいる事もあり、ロック史全体で重要なバンドとも言われておりますが、人気絶頂の1968年に解散の憂き目を見ました。

その理由が、よくある音楽性の違いとか金銭トラブルとかじゃなくて「薬物の使用に関する法律問題」で解散に追い込まれたという話ですから、まぁ本当に”よほど酷かった”んでしょう。

実際にヴォーカルのロッキー・エリクソンはかなりの情緒不安定で、ステージの下でも度重なる奇行を繰り返し、ギターのステイシーも薬物中毒により入院、78年に夫婦喧嘩がエスカレートして奥さんに射殺され死亡。”エレクトリック・ジャグ”のトミー・ホールも深刻な薬物中毒患者となり、その後新興宗教にハマっております。




PSYCHEDELIC SOUNDS OF(DEL


【収録曲】
1.You're Gonna Miss Me
2.Roller Coaster
3.Splash 1
4.Reverberation
5.Don't Fall Down
6.Fire Engine
7.Thru the Rhythm
8.You Don't Know (How Young You Are)
9.Kingdom of Heaven
10.Monkey Island
11.Tried to Hide
12.Everybody Needs Somebody to Love (Live)
13.You Really Got Me (Live)
14.Gloria (Live)
15.You're Gonna Miss Me (Live)


結局薬物に関するゴタゴタと、元々ベースとドラムが何度も入れ替わる不安定な編成によって解散した13thフロアー・エレベーターズ。

後に地道な治療によって精神の病が少しづつ回復してきたロッキー・エリクソンは、90年代以降13thフロアー・エレベーターズとしての活動をぼちぼち再開しますが、オリジナル・メンバー(つまりギターのステイシー・サザーランドとエレクトリック・ジャグのトミー・ホールが揃った編成)でリリースしたスタジオ・アルバムはたったの3枚。

その3枚はどれも「ガレージからサイケ」橋渡し期の起爆剤と呼ばれるにふさわしい、アシッドでエキセントリックな名盤であります。

で、その中でもやっぱりロックバンドとしてのテンションと「コイツらは一体何をやらかしてくれるんだろう」という不穏なスリルと衝動に満ち溢れた作品といえば、やはりファーストでしょう。

「テキサスから出て来た凶悪なサイケモンスター」の異名とは裏腹に、楽曲は意外にも高いポップ・センスを感じさせる、例えばビートルズのファーストとか、日本のGSにも通じる、60年代ならではのレトロでキャッチーな雰囲気。

ただ・・・、そう”ただ”なんです。

楽曲は非常にポップで、むしろ聴きやすいぐらいなんですが、ザラザラした異様な輪郭のギターのトーンと、泥酔しているかのようなヨレヨレの声が突如「アイィィィーーーー!アイィィィーーーー!」と何かが乗り移ったかのようなシャウト・ヴォーカル、そして、一番怪しいのが、曲調に関係なく「ポコポコポコポコポコポコ」と終始鳴っているエレクトリック・ジャグ。

普通”ジャグ”つったら、曲のリズムに合わせて「ボフッ、ボフッ」とベースラインを刻むはずなのですが、13thのジャグはそういう吹き方なんかしておらず、高い音を、多分声を使ってぷくぷく言ってるだけ。更にその音に微妙なエフェクターをかけてるのか、何だか楽器の音っていうより、レコードの中に住んでるちっちゃいゴリラがウホウホ言ってるような、せっかく他のメンバーが真面目にイカレた音を出しているのに何だお前は、全部ブチ壊しおってからに!と、ツッコミを入れたくなるんですが、いやでも13thの何だか得体の知れない破れて壊れた感じは、このエレクトリック・ジャグがいないと成り立たないよなぁと、いつの間にか、そう、いつの間にか聴く側に思わせてしまう、本当にエグい中毒性が高い、実に厄介かつ体に悪い音なんです。


「サイケデリック」なる概念を最初に音にしたのが13thフロアー・エレベーターズかどうかは、本当のところよく分かりません。行き過ぎ、やり過ぎで常識をぶっこわそうとしていたバンドは、この時代それこそ多くおりましたから。


しかし、それでもなおこの時代のイカレたロックンロールとしても13thの個性と狂気は突き抜けたレベルですし、何よりサウンド全体の「あちこち破れてちょうどいい感じ」や、エリクソンのヴォーカルの虚飾のない不安定ぶりや、何度聴いても何の脈絡もないエレクトリック・ジャグの異様な存在感ゆえに、単なるヴィンテージロックではない生々しさを、このアルバムからは今も感じてならんのです。






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2019年02月25日

トゥーツ・シールマンス イメージズ

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トゥーツ・シールマンス/イメージズ
(Candid)


しばらくブログを休んでる間、何かとバタバタしておりまして、家に帰ったら何かこうホッと出来る音楽を探しているうちに、穏やかなジャズに流れ着く事が多い最近ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

このブログをご覧になっている皆様の中にも、昼間は一生懸命働いて、夜になるとホッと一息する時間を求めてネットとかでリラックス出来る音楽をお探しの方も多いんじゃないかと思いますので、丁度いいやということで、今日はアタシが家でボケーっと抜け殻のようになって聴いているジャズをご紹介しましょうという訳で、今日はジャズ・ハーモニカ奏者のトゥーツ・シールマンスという人を紹介します。

ハーモニカっていう楽器は、小学校でも習うし、昔からアタシ達日本人には馴染みの深い楽器ですね。あと、フォークなんかでもギター持ちながらハーモニカ吹いたり、ブルースにはブルースハープっていう立派なスタイルもありますし、実に親しみやすい楽器でありながら、その実奥が深く、色んなジャンルに合わせる形でそれぞれ奏法が確立されてきたという長い歴史もございます。

では、ジャズではどうかというと、まーこれがおりません。色々とレコードをいっぱい出しているぐらいの有名人になってくると、トゥーツ・シールマンスとリー・オスカーという人ぐらいでありましょうか。

何故いないのかというと、ハーモニカという楽器が実に難しいからなんでありますね。

や、穴を通して息を吸ったり吐いたりするだけで音が出て、なんなら和音もすぐに吹けてしまうハーモニカは、実はジャズのように複雑な和音構造を持って半音とかが当たり前に出て来るフレーズを細かく吹くというのがとんでもなく難しい。難しいからそもそもやりたがる人がいない。それに、サックスとかトランペットとか、見た目も派手でソイツを抱えてデカい音を出すってのはいかにもカッコイイんだけど、それに比べてハーモニカ。ん?あのちっちゃい筆箱みたいな、音もそんなにデカくない楽器やって楽しいの?と思う人は、ミュージシャンの中でも恐らく多数。


でも、トゥーツ・シールマンスはそんな世間の偏見(?)にも負けず、このハーモニカという楽器を見事に上質なジャズを奏でる楽器として良い演奏を沢山残しましたし、問答無用のこの楽器の第一人者として、ジャズの世界で一際輝く存在感を放ちましたし、そのズバ抜けたセンスと軽やかなフットワーク、それと「ジャンル?うん、ボクはあんまりこだわらないなぁ〜」という懐の広さで、ベテラン世代でありながら70年代後半に出て来たフュージョンにもいち早く理解を示し、80年代以降はクインシー・ジョーンズのコンテンポラリーなR&Bアルバムや、ジャコ・パストリアスのバンドでその軽やかなハーモニカを披露し、ビリー・ジョエルにポール・サイモンといったポップスのミュージシャンとも積極的に共演、そして何と久保田利伸、レベッカ、南野陽子の作品にもしれっと参加するという、ついでに言えばアメリカでは大人から子供達まで誰もが知っている人気番組『セサミストリート』のあのテーマ曲の作曲者でもあるという、びっくりするほど幅広い活躍で、ポピュラー音楽全般にも深く関わっているという、実に凄い人なんですよ。

それでいて、根っこから実にオシャレで洗練されたホンモノのジャズを感じさせるスタイルは、どんなにバックが変わっても、或いは共演するメインのアーティストがどのような音楽性だろうが一歩も退かずに死守するという、何というかミュージシャン道を通り越して、武士道とか騎士道にも通じるポリシーを感じます。


はい、トゥーツ・シールマンスはベルギーに生まれ、第二次大戦中にジャズに目覚めて、特に隣国フランスのギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトに憧れて、まずはギターでジャズを習得します。

やがて戦争が終わり、アメリカで本格的なジャズ演奏家になりたいと思ったシールマンスは、50年代にアメリカに移住。大御所ベニー・グッドマンにそのセンスの良さを買われ、以後コンスタントに活躍することになります。

ハーモニカで有名になってからもギターは変わらず弾いておりまして、これが口笛とかスキャットとかとユニゾンで一緒に歌ったり、洒落たボサノヴァを奏でたり、なかなかに味のあるもんでございますよ。

で、ハーモニカなんですが、実は彼にとってハーモニカは、幼い頃から慣れ親しんだ「ちょっとした余技の楽器」だったんです。

ところがヨーロッパに居た頃から「コイツで何か出来ないかなぁ」と考えているうちに、ギターを弾きながらホルダーに固定して、まるでフォークシンガーのようないでたちで軽く吹いておったら、お、これがなかなかいけるじゃないか、ていうかハーモニカの音って思ってた以上にジャズと合うんだなぁ、どれどれ、ほんならちょいとコイツでスタンダードでも吹いてみようかということになりまして、じっくり感情を込めて吹いてみたら、周囲からも「いいねぇ、ギターもいいけどハーモニカもメインの楽器にするべきだ」と認められ、それ以来ギターとハーモニカの二刀流で。

ほいでもってジャズでハーモニカというのは珍しいし、何よりシールマンスが奏でるハーモニカの独特の淡くドリーミーな音色と、半音階もオクターブぐらい離れた音符を繋ぐような複雑な奏法も軽くこなす優れたテクニックで築き上げられた無二の個性が多くの人を心地良く魅了し、2014年に体調不良で引退(その2年後の2016年に94歳で大往生)するまで、第一人者として常に最高に洗練されたハーモニカとギターのプレイでファンを楽しませておりました。





Images


【パーソネル】
トゥーツ・シールマンス(harmonica)
ジョアン・ブラッキーン(p)
セシル・マクビー(b)
フレディ・ウェイツ(ds)


【収録曲】
1.Days Of Wine And Roses
2.I Never Told You
3.Dr. Pretty
4.Airegin
5.Images
6.Day Dream
7.Giant Steps
8.Snooze
9.Stella By Starlight
10.Revol

(録音:1974年9月16日)


キャリアの長い人で、時代によって様々なスタイルを吸収し、それを軒並み「はいよ〜」とばかりに軽〜くこなせちゃってる人でありますが、やはりこの人の根底に淀みなく流れているのは、上質なジャズのリズムとエレガンスであります。

いやほんと、どの年代のリーダー作も参加作も、ちょろっとハーモニカ吹くだけで空気が爽やかな気品に満ち溢れ、しかもそれが決して軽くなく、ジャズの持つ特有の哀愁やスリリングな質感をもしっかりと感じさせてくれるから、トゥーツ・シールマンスって人は本当にどれ聴いてもいいんですが、ガッツリとジャズをやっているハーモニカをまずは聴いて浸りたい方には、この70年代のライヴ・アルバムがオススメです。

楽曲は、古くから演奏されているおなじみのスタンダードナンバーの中にジョン・コルトレーンのハイテクな難曲『ジャイアント・ステップス』なんかもあって「お、これどうやって料理してるんだろう?」と、曲名を見るだけでウキウキします。

そしてバックを固めるメンバーがまた、ジョアン・ブラッキーンにセシル・マクビー、フレディ・ウェイツと・・・おぉ、それぞれ濃いキャラクターと、オーソドックスからアヴァンギャルドまでこなす音楽性を併せ持つ、70年代にはそれこそ硬派でクセの強いアルバムを出したり参加したりという、実に魑魅魍魎な人達ではありませんか。


さて、こんな感じの、いわば武闘派な若い連中を従えて、シールマンスはどうしてるかといえば、これが”どうもしない”んです。

いや、もう、びっくりするほど穏やかに滑らかに、大人の男の上品さをハーモニカで匂い立つエスプリと共に「ふわぁん」と醸している。実際のプレイそのものは、激しく攻めているにも関わらず、ハーモニカという楽器が持つ柔らかい特性ゆえか、それともシールマンスの人柄ゆえか、演奏全体からみなぎる激しさを、スーッと美しくまとめ上げ、純粋に心地良いジャズとして最初から最後まで聴かせてくれます。

ていうかシールマンスのほんのり憂いを含んだハーモニカの音、ほんといいなぁ・・・。




『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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