2020年07月15日

高崎怪談会 東国百鬼譚

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 高崎怪談会 東国百鬼譚
(竹書房怪談文庫)


いやもう奄美はいつもならとっくに明けているはずの梅雨が明けないんですね。とはいっても大体梅雨といっても当地はザーッと大粒の台風みたいな雨が降る日とギラッと晴れて容赦ない日差しが照り付ける日が3日、4日起きぐらいに交互にあって、その一週間のサイクルが「雨2、照5」ぐらいになって安定すると、さぁ梅雨明けして本格的な夏(!)って事になるんだと思うのですが、今年は「梅雨明けでいいんじゃない?」と思ったら前線が張り出して雨が降る日がずるずると続いて、まだ梅雨です。

こんなおかしな気候が続いておりますものですから、気温と湿度が変な感じに高くなって、気分的なものもおかしな感じになります。

こういう時ってのは、無理矢理元気を出そうと思っても元気が出ない自分にイライラするばかりでよろしくありません。が、音楽を聴いたり本を読んだりすると、いつもよりリアルな感覚でそれを楽しめるなんてこともあるんです。

夏といえば怪談ですが、何で夏に怪談なのかというのは、単純にゾッする感覚を涼として楽しもうとか、お盆が近いからとか、そういうのばかりでなく、アタシはどうしてもこの高温多湿で変になる感覚によって、いつもより話が生々しく思えるようになるからなんじゃないかと思うんですよね。

そんな訳でこのムシ暑い季節に楽しんでおりましたのは、怪談といえば素晴らしい文庫シリーズを多く出しております竹書房から発売されました『高崎怪談会・東国百鬼譚』であります。

実はですね、アタシには短歌の繋がりがきっかけでTwitterなんかで楽しく会話させてもらっている方がおりまして、その方が「今度こんな本に参加しますよー」という告知を流してたんですね。

文章とか言葉のセンスが最高な方ですので、あぁこらもう面白いのは間違いない。で、何の本だい?えぇ!怪談!!??とびっくりして、というのも、その方が呟く内容というのは割と多岐に及んでいるけど、怖い事は言わない方なんですね。だから余計に楽しみになってしまって、あぁこらもうこの高崎怪談、文庫本を注文して買うしかないと早速地元の本屋さんで注文してワクワクで舞っていたのです。


先にネタバレギリギリなしの感想から書いておきます。結論から言うと

すっごい面白かった!

「高崎」という地名があるので、これは群馬県高崎市の怪異の伝説とかそういうものに因んだ話を集めたものかなぁと、読む前は思ってたんです。ところがところが、お話の舞台はほぼ現代。しかも私達の身近な場所がモチーフで、作家さん達の文章はどれも自分がまるで話の当事者になったような気分にさせてくれる「身近な恐怖」を心底感じさせてくれるものでした。


ハッキリと霊が姿を現さず、魅入られた人間の様子だけで何やらただごとじゃない出来事が進行しているお話(「金木犀」など)や、人間が狂って行く/狂っていた系のお話(「ほうたいさん」「ユウマさんの絞首台」など)や、たまたま住んだ家に強烈なモノが住んでいて、逃げるように引っ越した後は因果関係の分からない恐怖が襲うお話(「酒乱の地縛霊」)、禁足地の因縁と共に襲い掛かる恐怖のお話(「太刀魚と刀)、言い伝えや怪談など何も関係ない場所の関係ない行為から異界の翻弄が始まるお話(「河畔林の異界」)などなど、内容はバラエティに富んでおりまして、かつどれも「あれは結局・・・」という後味の悪い(もちろん怪談に対しては褒め言葉です)恐怖が読了後も続きます。

最近は怖い話もネットに行けば、文字としても映像としても簡単に楽しめますが、やっぱり紙の本でこうやってキチンと編集されたものには、格別の怖さと共に、怪談そのものよりももっと深い人間の心理とか人間界を取り巻く因果因縁とか、そういったものにまで思いを巡らせる、そういう特別な引力があるように思えます。





【目次】
〜まえがき〜

春南 灯
「焼きまんじゅう」
「炎」
「金木犀」
「モニター」
「姿なき読経」
「遺影」
「ドライブ」
「棲家」
「だるま」
「コード」

夜馬裕
「ほうたいさん」
「死猫三景」

マリブル
「雛人形の首」
「赤城山の夜道」
「蛙の置物」
「Lサイズよりも大きな紙コップ」

籠 三蔵
「改竄」
「病棟」
「どうもすいません」
「ユウマさんの絞首台」
「哀しみの行方」

北城椿貴
「酒乱の地縛霊」

しのはら史絵
「着信音」
「三本の腕」
「水子になる前」
「太刀魚と刀」

戸神重明
「蚕よ、飛べ」
「河畔林の異界」
「新田義貞の呪い」
「高崎郊外の古寺」
「守られた男」
「高崎の四つ辻」


高崎怪談会ブログ


さて、この『高崎怪談会』は、群馬県高崎市在住の怪談作家、戸神重明さんが主宰するリアル怪談会の書籍版という側面もあります。本を読んで更に興味を持った方には、Youtubeチャンネルもありますので、そちらの方も併せてぜひご覧ください。この夏には執筆陣の作家さん達も怪談朗読に参加する放送を流すとのことで、アタシはとても楽しみにしております♪


(戸神重明の怪談標本箱vol.1『高崎郊外の古寺』)








『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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ラベル:恐怖 怪談
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2020年06月30日

藤井風 HELP EVER HURT NEVE

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藤井風/HELP EVER HURT NEVE
(ユニバーサル)

アタシは好きな音楽をとことん掘り下げて聴くのも好きですが、それぐらい大事にしたいのは「何の前知識ナシでふと耳にした音楽
感動すること」も大事にしたいなと思っております。

しかしまぁ最近はテレビでもほとんど音楽番組やらなくなってしまったし、音楽雑誌も立ち読み出来るほど出回らなくなった。だから自分の感覚というのがどんどん風化していってるんじゃないかと心配です。特に新しい国内の音楽に関しては不安ですね。流行に乗りたいとか、もうそういう事を考える歳でもないのですが、やっぱり「知らない新しいものと出会いたい!」という気持ちは常にあるのですよ。

だからこそ「知らない新しい日本のミュージシャン」のグッとくる曲や作品を見付けると嬉しくなる。

という訳で2020年デビューの「おっ!これはカッコイイ!!」と思った日本のシンガーを今日は紹介します。藤井風です。

ウチの奥さんがですね、家事をしながら何か良い感じのソウル聴いてると思ってよくよく耳を澄ませたらどうも音質が凄く新しい感じで

「おや、これは最近の人かい?カッコイイじゃないか」

と言ったら

「藤井風っていう人だよ、この人凄いんだよ」

と言っていたので、ちょいと興味が出て自宅で一緒にずっとCDとかネットにアップしてある音源とかを聴いておりましたが、いやぁこの人は深い。プロフィールを読むと小学生の頃から色んな歌をカヴァーして、それを演奏しながら歌ったやつをYoutubeにアップしていたとか。

楽器は多分色んなのが出来ると思うんですが、特にピアノ(鍵盤)が凄く上手いんですね。上手な人にありがちなタッチのカキンコキンがなくて、かつ音がべちゃっと潰れないナチュラルな響き。上手く言えないんですがあの〜、アレですよ。スティーヴィー・ワンダーとかがとてもファンキーな曲やってるんだけど、ピアノの音を聴くとどの音も凄く粒が揃ってて、かつ特有のぬくもちを有した響きがあって「いや、スティーヴィー・ワンダーのピアノってよく聴くとすげぇな・・・」ってなる”あの感じ”を持っているトーンなんです。

う〜ん、何だか抽象的でわかりづらくてすいませんねぇ。。。とにかくこの人の歌や演奏を聴いて感じたのは、小さい頃から英才教育受けてきて凄いとか天才とかそんなんじゃなくて

「ソウル・ミュージックが本当に心から好きで、好きな音楽を自分のサウンドを使って自分の表現で伸び伸びとやってる」

という、心からの音楽好きが歌ったり演奏したりする時にだけ出る”わかるヤツにはわかる匂い”に裏付けられたカッコ良さや切なさや音の暖かみだったんです。

それからほどなくして、都会的なR&Bテイストの楽曲と、岡山弁の歌詞という意表を突いた組み合わせのアルバム1曲目「何なんw」が大いに注目されて、メディアでもこの人の音楽を頻繁に聴くようになりましたが、この人の地に足が付いた音楽性と、ナチュラルな声の魅力の前には、アイディアとかは些細な事で、やはりアルバム全編を聴いて、その上質なソウル・フィーリングにずっと浸っていたい。そんな風に思います。


HELP EVER HURT NEVER(初回盤)(2CD)

【収録曲】
(Disc-1)
1.何なんw
2.もうええわ
3.優しさ
4.キリがないから
5.罪の香り
6.調子のっちゃって
7.特にない
8.死ぬのがいいわ
9.風よ
10.さよならべいべ
11.帰ろう

(Disc-2)
1.Close To You
2.Shape Of You
3.Back Stabbers
4.Alfie
5.Be Alright
6.Beat It
7.Don’t Let Me Be Misunderstood
8.My Eyes Adored You
9.Shake It Off
10.Stronger Than Me
11.Time After Time

普通アルバムといえばシングル・ヒットした曲の存在感が際立っていて、他の曲はまぁいい感じみたいなのがいくつかあって・・・というものもあると思っていたんですが、このアルバムはやっぱり何度聴いてもどの曲も軒並みクオリティが素晴らしいです。しかも全曲インパクトが凄いとか、テンションが落ちないとか、そういうのとは少し違って、何というかどの曲もポップスとしての完成度の高さを下支えしているのが、変わらない自然なテンションと、盛り上げ過ぎないグルーヴの心地良さ。

自然と体が動いて、曲が終わると当たり前に「今のカッコ良かったね〜」と心の声を引き出してくれます。アレンジも様々な楽器の音やエフェクトをこれでもかと詰め込む最近の音作りとは真逆の、至る所に心地良い隙間があって聴く方の耳を疲れさせません。

あと、初回盤には2枚目にカヴァー曲が入っていて、これが彼の声とピアノの良さを、本編とはまた違った形で楽しませてくれる素晴らしい内容です。収録曲は上にも書きましたが、オリジナルを歌ったアーティスト名も表記しておきますので、藤井風カッコイイなと思った方はこれら洋楽のアーティスト達もチェックしてもらえたらと思います。


1.Close To You(カーペンターズ)
2.Shape Of You(エド・シーラン)
3.Back Stabbers(オージェイズ)
4.Alfie(ヴァネッサ・ウィリアムス)
5.Be Alright(アリアナ・グランテ)
6.Beat It(マイケル・ジャクソン)
7.Don’t Let Me Be Misunderstood(アニマルズ)
8.My Eyes Adored You(フランキー・ヴァリ)
9.Shake It Off(テイラー・スウィフト)
10.Stronger Than Me(エイミー・ワインハウス)
11.Time After Time(チェット・ベイカー)*ジャズ・スタンダード


アレンジのシンプルなカッコ良さもあってか、アタシはてっきり昔のソウルやR&Bのカヴァーばかりだと思ったのですが、2000年代以降の曲が多かった事にびっくりしました。こうやって自分が知らない音楽の素晴らしさを教えてくれるアルバムに新しく出会えてとても嬉しく思います。







『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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2020年06月27日

鈴木智彦 ヤクザときどきピアノ


ヤクザときどきピアノ
(CCCメディアハウス)

久々に心の底から”撃たれた”というものを読みました。

これは素晴らしい「音楽の本」であります。

鈴木智彦さんという人は、日本の裏社会へ単身乗り込んで行って体を張ったレポを書くヤクザ専門ライターです。

その文章はとにかく鋭い写実そのもので、アタシが今まで読んだどのレポも「ヤクザ」という対象を通して、社会が絶えず生み出している不条理そのものが文章から迫ってくるようで、常にそれなりの緊張感を持って読んでおりました。

そんな鈴木さんの新しいエッセイのテーマが何と「ピアノ」と聞いてちょっと驚きましたね。

もちろん鈴木さん自身はヤクザでもコワモテの人でもない、どちらかというとどんな現場であれ丁寧に足を運んで、無駄のない文章で記事にする今ドキ珍しいぐらいの真面目な生粋の”文屋”です。前評判のあらすじを見れば

「50を過ぎてピアノを習いはじめる」

とあり、うむむ、そのように完全なる”趣味の分野”のあれこれと、これまで読んできた文章からかいま見られる硬派なイメージとがどうも直結せずにおりましたが、内容は今まで読んだ著作とは全く違うユーモアとピュアネスに溢れた微笑ましいものだけど、これが凄く硬派で面白い(!)

事の発端は『ヤクザとサカナ』の原稿を全て書き終えて、いわゆるライターズ・ハイになっている時、フラッと入った映画館で観たミュージカル映画、そこで使われていたABBAの『ダンシング・クイーン』を聴いたこと。そして、不意にその曲を聴いて涙が溢れて止まらなかったこと。

「ダンシング・クイーンをピアノで弾けるようになりたい!」とそれからまるで何かに憑りつかれたようになって、門前払い覚悟であちこちのピアノ教室に電話をかける。「アバのダンシング・クイーンをピアノで弾けるようになりますか?」と電話で訊き、ほとんどの教室で「無理です」「男性の方のレッスンは受け付けていません」と冷たく断られるが、アポ取り2日(!)を費やした後見学に訪れたピアノ教室で、運命の”レイコ先生”との出会いを果たします。

「アバのダンシング・クイーンが弾けるようになりますか?」

「練習すれば弾けない曲はありません」

「俺でも弾けるんですか?」

「練習すればどんな曲でも必ず弾けます」

「難しい曲でもですか?」

「講師に二言はないわ」


まるで習う側が何をしたいか、どうなりたいかを聞く前から知っているようにピシャリと断言するこのレイコ先生に

「人を殺したことのあるヤクザが特別なオーラを放っているのに似ている雰囲気」

を感じ、更にレイコ先生が「弾けるようになったお手本」として弾いたリストの『ラ・カンパネラ』を目の前で聴いて

「LAで防弾チョッキ越しに38口径の銃弾を受けた思い出」

が、衝撃と共に生々しく蘇り、同時にピアノという楽器本来の素晴らしさに目覚め、猛練習を重ねて・・・。

というノンフィクションです。

途中途中で引用によるクラシック音楽の歴史やピアノという楽器についての詳細な解説、やはり切っても切り離せないヤクザなたとえが軽妙に挟まれながら、最初から最後まで一気にダレることなく読ませてくれます。

鈴木さんとレイコ先生の名言金言は、それこそもうわんさか出てきて何度も無言で頷きましたが、最初から最後まで一貫しているのは

「音楽を本気で愛する2人の人間の、どこまでも真摯でひたむきな音楽愛の表現」

が、会話にも行動にも滲み出ているということでしょう。

レイコ先生は一応クラシックのピアノ講師ですが、そもそもプロとしての華やかな道ではなく、最初からピアノの先生を目指して音大に入っただけあって、それはつまり「音楽が好きで、自分が教えた人が音楽を本当に好きになるのが嬉しいから」というちゃんとした理由があり、全ての音楽に偏見がない。そして「行ってきなさい」と暗に背中を押すようにフジロックの話をしたりします。

学生時代はロック大好きで、ザ・キュアーのようなディープなパンク/ニューウェーブ系のサウンドを追っかけていた鈴木さんは「何でオレがABBAみたいなポップスに感激したんだろうか?」と、不思議に思いながらも、最後にその理由をちゃんと”音楽的”に理解するに至ります。アタシ的にはこの辺りがもう感動的で、涙が滲みました。


アタシも音楽が大好きで、CD屋を閉じてからもこうやって音楽のブログをやっております。で、今音楽って世の中にあんまり大切にされていないように思える事が凄く多くて気が滅入ることもありますが、世の中には鈴木さんやレイコ先生のように、音楽が好きでそれを大切に守ったり育んだりしている人がきっとたくさんいる。そうだ、そもそも音楽っていうのはひとりひとりの個人の心に大切なものであって、それを売れるとか売れないとか、注目されているとかされていないとか、そういう尺度で測るもんじゃあない。そう思えてアタシも頑張らなくてはと、心に強く決意しました。

音楽好きな人にもあんま興味ない人にも、人生を豊かなものにして欲しいと思っておりますので、この本はぜひとも読んで欲しいです。












『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 11:37| Comment(0) | 音楽本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする