2016年09月14日

アル・ヘイグ・トゥデイ!

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アル・ヘイグ・トゥデイ!
(MINT Records/SSJ)

世の中には「幻の名盤」という言葉がございます。

発売当初は、そんなに売れなかったのに、後の世になってようやくその真価が認められたとか、ものっすごいマイナーレーベルで少量しかプレスしていなかったため、オリジナルのLP盤がすんごい値段になって中古市場に出回り、その伝説が作品の内容以上に話題を集めたとか、その両方の事情があれこれなって、とにかくファンの間では再発が待ち望まれていた作品のことであります。

んで、ジャズの世界というのは特に「幻の名盤」の宝庫であります。

というよりも、人間というのはジャズ好きとして年季を重ねてゆくとどうしても「人があんまり聴いてない、自分だけの名盤を探そう」という気持ちが出てくるらしく、えぇ、世間一般から見ればこれは病気・・・もとい”ビョーキ”と言っていい深刻な症状であるんですが、モダン・ジャズからモード、フリー、ジャズ・ファンク、フュージョンなどなど・・・どの時代の、どんなスタイルのジャズを聴いていても、ついつい「自分だけの特別」を探そうという気持ちが出てくるもんでして、えぇ、アタシも困っております(嬉)。

そういうジャズ好きのジャズ心をくすぐる達人として、寺島靖国さんというジャズ喫茶店主兼物書きの方がいらっしゃいます。

独断と偏見を装った、いかにも昭和のジャズ喫茶のオヤジという文章上のキャラクターである”テラシマヤスクニヌシノミコト”(勝手に命名)というキャラクターを実に巧みに操って、特に90年代以降、この人が独断と偏見を装ってオススメするアルバムは実によく売れました。

この方は、まだツイッターもフェイスブックもない時代に「アンチが騒げば名が知れ渡る」ということも熟知していて、今で言う炎上ビジネスの先駆けでもありまして・・・。まぁそれは本題とは余り関係がないのでサクサク行きましょう。

ジャズ聴き始めの頃のアタシは、まぁ若いし純粋だし、フリー・ジャズから入ってもおりますから、当然後期コルトレーンやアルバート・アイラーなんかをけちょんけちょんにけなす寺島さんの、強烈なアンチでありました。

「ぬわにがピアノトリオじゃい!ぬゎにが大人のテナーじゃい!てめぇの勧めるヤツなんか聴くかい!ヴォケェ!!」

と、突っ張ってはおったんですが、ある日たまたま偶然、寺島さんが大絶賛するズート・シムズを聴いたんですね。

そこで

「カ・・・カッコイイ・・・何これ・・・」

と。

で、アル・ヘイグです。

雑誌か何かで、これも寺島靖国さんの「絶賛アーティスト」でした。

記憶が曖昧なのですが、とにかく「バド・パウエルがどうした、ジャズ好きならアル・ヘイグだろ」ぐらいの、実に挑発的な書き方をされておったんじゃないかと思います。

ここでアタシは、またしてもまんまとヤラレました。

バド・パウエルはもちろん好きです。

むしろ、バド・パウエルはジャズの世界では、モダン・ジャズの演奏法の基本となる部分を作り上げた人ですから、ものすごぉく有名です。

また、その絵に描いたようなワイルドサイドの住人的な生き様からも、惹かれる人は多く、ジャズファン以外にも、強烈なファンが多いのです。

そのバド・パウエルを引き合いに出して「アル・ヘイグ」だとぉ!?

・・・賢い皆さんは、ここで気付きましたよね?

そうなんです、これはバド・パウエルをこき下ろすための文章ではなく、バド・パウエルを知っている人に”アル・ヘイグ”というピアニストの名前を強いインパクトで刻み付けるための、高等なレトリックなんです。

で、まんまとはめられたアタシ、「アル・ヘイグなんて・・・聴かないんだから!!」と、しっかり名前を覚えつつ、プンスカしておりました。

当時、東京のとあるUニオンで働いてたんですが、アタシがいたお店は、ディスク部とオーディオ部が併設されている店舗で、バックルームのロッカーに行くためには、オーディオの店舗の中をちょっとごめんなさいしてススス・・・っと通ってたんですね。

たまに閉店後、オーディオチェックのためにジャズを爆音で鳴らしていることがあって、これがまた鬼のようにいい装置で鳴らすもんだから、すこぶるカッコ良く聴こえてました。

ある日の夜半、レジ締めをしていると、オーディオの方から、最高にヒップでメロディアスで、しかも全体的にゆんわりと狂気を感じさせるジャズのピアノが流れてきます。

「おぉ、今日のジャズはピアノかぁ。えらいカッコイイなぁ・・・。バド・パウエルみたいだけど、いや、違う。もう少し音が端正で、バドみたいに明らかに病んでる音じゃないんだけど、この美しいアドリブ運びからは、どうもバドとは異質なクレイジーさを感じる・・・」

とか、レジ締めそっちのけで思っていまして、仕事終わってソッコーで、オーディオ部の先輩に

「すげぇピアノですね、これ誰すか?」

と訊いたら

「あぁ、コレ?アル・ヘイグだよ?」

と、先輩は眠そうに答えました。

うぉう、アル・ヘイグ!!

悔しかったので、前もって情報収集していて

・1940年代にデビューして

・バド・パウエルに唯一対抗できる白人ピアニストとして、ビ・バップ時代に人気を誇った

・でも、やっぱりヤク中であり、肝心の50年代、60年代のモダン・ジャズ全盛期にはあまり表立って活動してなかった

・70年代に突如復活を遂げた”生きる伝説”だった。

・そのプレイ・スタイルはセンスの塊で、メロディ感覚にも独自の美意識があって、更にリズム感も並外れたものがあった


ということが分かったので、いつか聴きたいと思ってはおったんです。

いやはや、確かに評判通りのズバ抜けたメロディの美学とリズム感の非凡さをビシバシ感じさせるけれども、それが決して勢いで「ドカーン!」とやってるんじゃなくて、完璧な”引き”を心得た、何というか余裕と深みを感じさせる演奏。

で、その完璧な演奏に、淡くふんだんにまぶされた”毒”の成分。

いや、これはもしかしたら気付く人と気付かない人がいる類のもんだと思います。

気付いた人は、もうアル・ヘイグ好きとかそういう以前に中毒になるだろうし(はぁい、アタシです)、気付かない人は気付かないでも「このピアノすごくオシャレでいいねぇ」と思えるだろうと考えると、もう気持ちはすっかりアル・ヘイグに夢中になって、その時すげぇいいオーディオで再生されていた「幻の名盤・アル・ヘイグのトゥデイ!」を買うことしか考えておりませんでした。





【パーソネル】
アル・ヘイグ(p)
エディ・デハーズ(b)
ジミー・カップス(ds)

【収録曲】
1.バグス・グルーヴ
2.ザ・グッド・ライフ
3.ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ
4.サテン・ドール
5.ブルー・スエット
6.スリオ
7.ブラザー・ホエア・アー・ユー
8.ポルカ・ドッツ・アンド・ムーン・ビームス
9.ウィロー・ウィープ・フォー・ミー
10.サウダージ


で、まんまと買ったんですね。はい、まんまと。

お店のような立派なオーディオ装置より100段ぐらい落ちるウチの安物コンポで再生しても、そのカッコ良さ、美しさ、センスの良さ、ミディアム・テンポの曲とバラードが小気味よく配置された選曲の良さ、そしてヘイグの両手から時にしっとりと、特に力強く放たれるアドリブに、やっぱり”ぬわぁ〜”とまとわる毒の香気にクラクラしました。

こういう派手さはないけれど、独特の味で聴かせる作品は飽きないんです。最初毒気にあてられてから今まで、このアルバムを退屈だと思ったことはありません。

で、ライナノーツを読んでみたら、

例えば「スリオ」だが、ぼくはこれを本作のベストと信じて疑わない。魅惑的なテーマ・メロディーが終わってアドリブに移ってからの滝が落ちるような流麗なラインをとっくりご賞味いただきたい



うんうん、わかる!「スリオ」のテーマからアドリブに行くあのスリルと快感は「ヤバイ!」ってなるもんねー。


ヘイグの偉大さは、こうしたことだけにあるのではない。華麗な奏法のわりに音色が憂いを帯びて聴こえてくるのにお気づきだろうか。例えば本盤の「柳よ泣いておくれ」「貴女は恋を知らない」「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーン・ビームス」といったバラッド群に注目していただきたい。妙な言い方だが、ピアノが泣いている。


ホントそれですわ!いや、泣いてる。うんうん、ワンワン泣いてるんじゃなく、人知れずむせび泣いているみたいな、音が「スッ」と消え行く時のあの余韻。アンタ凄いなぁ、分かってる人だなぁ。

で、ライナノーツの最後の執筆者の太字を見たら「寺島靖国」と書いてありました。

う〜ん、まんまと。



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:22| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする