2016年11月30日

チャーリー・ラウズ モーメンツ・ノーティス

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チャーリー・ラウズ/モーメンツ・ノーティス


(Storyvile/Solid)

はい、明日から12月ですが、当ブログでは

「11月はチャーリー・ラウズ強化月間だい!」

と勝手に盛り上がりまして、アルバムを2枚ほどレビューを致しましたが、直接のお問い合わせも、このブログを経由してのポチもまだないようで・・・。ついでにちょいと前に

#チャーリー・ラウズとブッカー・アーヴィンのいないジャズなんて考えられない人RT

を、ツイッターで流してみましたが、コチラのツイートも反応してくれたのが僅か1名の方のみという淋しい状況。


よよよよよよ・・・(泣)


うん、確かにチャーリー・ラウズはそんな有名でもないし、派手な人ではないです。ジャズ界隈でもいまだにその評価が「何かセロニアス・モンクのとこにいた人でしょ?へー、ソロアルバムも出してるの、あ、そー」みたいな感じで不当に低いです。

断言しますがラウズのソロ作こそ、適度にブルーで程よくハードボイルド。何より大事なのはラウズの誠実なテナー・サックスのプレイが、聴いてる人の気持ちをじわじわと自然に豊かなものにしてくれるのです。刺激だけでは到底間に合わない「あ、これはいい音楽を聴いたなぁ・・・」というしみじみとした感慨を、そのジャズの良心がギュッと詰まった素敵な演奏で、私達の心に優しく植え込んでくれるのです。

正直なところを言いますと、モンク・カルテットでのラウズの、ひたすらリーダーを立てて破綻のない演奏をやっているラウズは、当初あまり好きではありませんでした。


でもどこかで、アタシはこう感じてもいたんです。

「ちょっと待って、このオーソドックスなスタイルと、人の良さそうな柔らかいトーンは、もしかしてモンクよりもっと普通のジャズを、渋く吹いたらカッコイイんじゃない?」

と。

で、ホントに"もののついで"に、たまたまフラッと入ったCD屋さんにラウズの「ヤー!」が置いてあって、それを何の気なしに買って家でボケーっと聴いていた時にグッときたのが、バラードの「ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ」。

これがもうどれほど素晴らしいバラードだったか・・・。とにかくアタシの認識はガラッと一転して、ソロのラウズ、モンク・カルテットでのラウズを徹底して聴き込んで、ジャズの表面の刺激を求めるだけでは分からなかった奥深い味わいの虜になりました。




【パーソネル】
チャーリー・ラウズ(ts)
ヒュー・ローソン(p)
ボブ・クランショウ(b)
ベン・ライリー(ds)

【収録曲】
1.ザ・クラッカー
2.レット・ミー
3.ジューボイエ
4.ウェル・ユー・ニードント
5.ロイヤル・ラヴ
6.ア・チャイルド・イズ・ボーン
7.リトル・シェリ
8.ロイヤル・ラヴ(別テイク)
9.レット・ミー(別テイク)
10.ザ・クラッカー(別テイク)
11.ウェル・ユー・ニードント(別テイク)



で、本日のオススメは、一貫してまろやかでハートウォームな音色で、実に多彩な表情に溢れるラウズのソロ作の中では、最もハード・ドライヴィングなノリを楽しめる、1977年製作のアルバム「モーメンツ・ノーティス」です。

70年代といえば、ラウズは長年奉公してきたモンク・カルテットを卒業し、滅茶苦茶ヤル気をみなぎらせていた時期で、気鋭のリズム・セクションが繰り出す斬新な解釈の4ビート(時に8ビートや16ビートに変化する!)に乗って気持ち良く吹きまくるアルバムなんですよ。

メンバーは、メリハリの効いたピアノ・プレイはもちろん、70年代にジャズ・ファンク(やや)フリー系の曲をたくさん書いていたヒュー・ローソン、惜しくも先頃亡くなりましたが、60年代以降のソニー・ロリンズの録音には欠かせない職人ベーシスト、ボブ・クラウンショウ、そして!ラウズとは共にモンクを長年支え、もう"あ・うん"で演奏できる仲の盟友ベン・ライリー。

この渋〜いメンツに渋〜いラウズですから、内容は悪かろうはずがありません。

1曲目、ヒュー・ローソン作曲のノリノリの、何故かヒジョーにロックを感じる「ザ・クラッカー」から、バンド全体がガッツリ一丸となった素晴らしくホットなノリを浴びた瞬間に「あ、これ決まったわ」となること必至ですが、更にほとばしる熱気の鋭利な4ビート・ミディアムや、気持ちソウルやロック寄りのナンバー、そしてモンクの「ウェル・ユー・ニードント」。

これはもうラウズとライリーの「目ェつぶってでも出来るぜぇ♪」な圧倒的"オハコ感"溢れる、多分モンクそんなに知らない人でも、のけぞりは間違いない名演ですが、極め付けはバラード名演の「ア・チャイルド・イズ・ボーン」。

「ススス・・・」と、吐息の混ざる豊潤な憂いを含んだ音色で"唄"を紡いでゆく、ラウズのいいところの集大成のような、どんな言葉を尽くして書いても、それら全てが薄っぺらくなるような、理屈抜きのバラードですよ。

アルバム全体としても、尋常じゃないバンドの熱気が、最後まで飽きさせずに全部の曲をしっかりじっくりと聴かせてくれますので「ラウズかぁ、まだ持ってないんだよね」という方には、最初の1枚としても全然Okです。そんぐらい、ジャズとしての密度は濃厚です。や、ラウズ自体はどんなに気合い入ってても、柔らかく人なつっこい音で破綻なく吹いてるんですけど、それが最高なんですわ。




(最初聴いて「これは何ということでしょう!」と叫びました、バラード名演です。)

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2016年11月28日

サニーボーイ・ウィリアムスン(T) The Original Vol.1

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The Original Sonny Boy Williamson (4CD Box Set)

(JSP)


え〜と、はい、先日のサニーボーイ・ウィリアムスンの記事で「本家本元のオリジナル・サニーボーイがいる」とかいきなり書いてしまって、読者の皆さんには「え?何それ??」と、戸惑った方も多いかと思います。

で、記事を書いている途中に

「え〜と、コノ人が戦前最初に”サニーボーイ・ウィリアムスン”として活躍したオリジナルでございます」

と、リンクを貼ろうとしたんですが、いけません、アタシとしたことが、サニーボーイ・ウィリアムスン(ライス・ミラー)のCDは3枚も紹介しておきながら、コチラのオリジナル・サニーボーイの方はまだ1枚も紹介しておりませんでした。お詫びして紹介いたします。

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サニー・ボーイ・ウィリアムスン、本名ジョン・リー・カーティス・ウィリアムスン。

1914年(もしくは1916年)テネシー州ジャクソン生まれで、1934年にシカゴへ出てきたこのブルースマンは、紛れもなく本家本元の”サニーボーイ・ウィリアムスン”でございます。

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よくブルースの世界では、ややこしい2人を区別化されるために、このジョン・リー・サニーボーイを”サニーボーイ・ウィリアムスンT世”、アチラのライス・ミラーを”サニーボーイ・ウィリアムスンU世”と呼んで区別しておりますので”T世”ときたら戦前〜戦時中〜戦後すぐの時期に活躍したこのサニーボーイだと思ってやってつかあさい。

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さて、サニーボーイ(T世)なんですが、戦後になってから結構長い間活躍して作品も入手しやすい形で結構出しているサニーボーイ(U世)とは対照的に、シカゴにやってきて第一線のブルースマンとして活躍していたのが1937年から1946年までと、僅か10年にも満たない期間だったのに加え、レコーディングはSP盤でしか出していなかったので”アルバム”というものがなかったので、復刻版のLPやCDもなかなか入手しづらかったということで(アタシもサニーボーイT世が欲しい一心で、輸入盤を探しまくってたものです)、知名度はU世に比べて大分劣ります。

おまけに、U世の方も色々と胡散臭い(まだ言うか)キャラではありましたが、実力の方は負けず劣らずの”ホンモノ”であったため、ブルースに目覚めた人達のほとんどは、U世の超ダウンホームで実にイナタくトッポいブルースに感動して、ついついT世を聴くのを後回しにしちゃってそのまんま忘れてしまうということも結構あるみたいで、あいやこれは、という状況がここんとこずーっと続いておったりします。

でも、この人こそが、ブルースにおける「ヴォーカルとハープの基本スタイル」というものを戦前に大成させたイノベイターであり、実は戦後に大活躍したリトル・ウォルタージュニア・ウェルズといったモダン・ブルースハープの巨人達は、実際こぞってサニーボーイ(T世)のスタイルから多大な影響を受けており、その流麗で様々なニュアンスに富んだフレージングを懸命にコピーすることからキャリアをスタートさせておるんですね。

サニーボーイT世がシカゴでスターになった頃というのは、実はハープというのは、軽い伴奏楽器的なポジションの楽器でありました。

これは例えば戦前のデルタ・ブルース系やメンフィスのジャグバンドとかを聴いてみれば分かると思うんですけど、唄とギターの間を取り繕うかの如くプワプワ鳴っているものが多い。

ハープというのはキィに合わせて持ち替えることは可能ですが、穴が10個しかないので、単音でメロディアスなフレーズを繋げて行くのは実際本当に難しかったりするんですよね。

サニーボーイ(面倒くさいので”T世”は省略!)がシカゴに出てきて、凄腕のギタリストやピアニスト、またはジャズ・ミュージシャン達が百花繚乱状態だった時、彼は「じゃあオレのハープを、演奏の中でソロが吹けるぐらいまでに地位を上げてやんよ♪」と決意し、ヴィブラートやベント(舌を使って半音階など微妙な音程を出す裏技)を鬼のように鍛え上げ、次々と新しい奏法を確立させました。

シカゴといえば大都会です。

大都会の人達は何につけても最先端を求めますから、この時代のシカゴ・ブルースは、バンド・スタイルでジャズの影響を前面に押し出した、非常に洗練されたものでした。

こんな中で、同時代の南部で演奏されていたような、泥臭く牧歌的な音楽なんかやろうもんなら「ダサいヤツ」のレッテルをあっという間に貼られてつまみ出されてしまいます(実際シカゴのクラブを仕切っていたのはマフィア達だったので、演奏するにも命がけだったんです)。

サニーボーイの革新的なハープは、洗練されたシカゴ・ブルースの、その都会的なサウンドと驚くほどピッタリと合いました。

また、底抜けに陽気で愛嬌たっぷり、更にどこか不思議な、つっかかって引きずるようなオリジナリティ溢れるヴォーカルも、何とも言えない魅力でありますが、実は彼は吃音、つまりしゃべる時どもってしまうハンデがあったのですが、それも逆手に取って素晴らしい芸風に変えてしまう辺り、やはり並みのブルースマンではありません。

さて、1948年に不幸にも自宅に入ってきた強盗にアイスピックで頭を刺されて、短いキャリアに終止符を打ってしまったオリジナル・サニーボーイ。自分が作り上げたブルース・ハープの新しスタイルを、その後の電気化されたシカゴ・ブルース・サウンドに乗せることは叶いませんでしたが、その代わり戦前から40年代末までの生楽器を主体としたシカゴ・ブルース・サウンドに、その究極をことごとく刻んで残しました。

かつては入手困難だった音源も、このように素晴らしい質量詰まったCDで、今はそのほとんどをまとめて聴けます。↓




(Disc-1)
1.Good Morning, Little School Girl
2.Blue Bird Blues
3.Jackson Blues
4.Got the Bottle Up And Gone
5.Sugar Mama Blues
6.Skinny Woman
7.Tough Luck
8.Prowling Night-Hawk
9.Sweet Pepper Mama
10.I Know You Gonna Miss Me
11.Rootin' Ground Hog
12.Brother James
13.I Won't Be In Hard Luck No More
14.Up the Country Blues
15.Worried Me Blues
16.Black Gal Blues
17.Collector Man Blues
18.Frigidaire Blues
19.Suzanna Blues
20.Early In the Morning
21.Project Highway
22.My Friend Has Forsaken Me
23.Mean Black Cat
24.Brickyard
25.Mamie Lee
26.Take It Easy Baby

(Disc-2)
1.I Have Spent My Bonus
2.CNA
3.Lose Your Man
4.All I've Got's Gone
5.A Ramblin' Mind
6.Now I Stay Away
7.My Little Cornelius
8.Decoration Blues
9.You Can Lead Me
10.Moonshine
11.Miss Louisa Blues
12.Sunny Land
13.I'm Tired Trucking My Blues Away
14.Down South
15.Beauty Parlor
16.Until My Love Come Down
17.Katy Fly
18.Big Boat
19.Only Boy Child
20.Lonesome Man
21.Mean Actin' Mama
22.Stuff Stomp
23.J.L. Dairy Blues
24.Rachel Blues
25.Lake Michigan Blues

(Disc-3)
1.I'm Wild And Crazy As Can Be
2.Honey Bee Blues
3.My Baby I've Been Your Slave
4.Whiskey Headed Blues
5.Lord, Oh Lord Blues
6.You Give an Account
7.Shannon Street Blues
8.You've Been Foolin' Round Town
9.Deep Down In the Ground
10.When You Feel Down And Out
11.Texas Tommy
12.It's All Over
13.My Mind Got Bad
14.Get Your Head Trimmed Down
15.Peach Orchard Mama
16.Haven't Seen No Whiskey
17.Goin' Up the Mountain
18.You Got To Fix It
19.Number Five Blues
20.Christmas Morning Blues
21.Susie-Q
22.Blue Bird Blues - Part 2
23.Little Girl Blues
24.Low Down Ways

(Disc-4)
1.Goodbye Red
2.The Right Kind Of Life
3.Insurance Man Blues
4.Rainy Day Blues
5.Next Door Neighbor
6.Big Apple Blues
7.Freight Train Blues
8.Good Gamblin'
9.Bad Luck Blues
10.My Little Baby
11.Doggin' My Love Around
12.Little Low Woman Blues
13.Good For Nothing Blues
14.Sugar Mama Blues No.2
15.Good Gravy
16.T.B. Blues
17.Something Goin' On Wrong
18.Good Gal Blues
19.Joe Louis And John Henry Blues
20.Thinking My Blues Away
21.I'm Not Pleasing You
22.New Jail House Blues
23.Life Time Blues
24.Miss Ida Lee
25.Tell Me, Baby



何と4枚組で¥2000ちょっとという恐ろしいCDです。入門用としても「一気聴き用」としても、今のとこコレがベストでしょう。

神憑りなハープの至芸と、ビッグ・ビル・ブルーンジィ、ビッグ・ジョー・ウィリアムス、ブラインド・ジョン・デイヴィス、ビッグ・メイシオ、エディ・ボイドら、当時を代表する凄腕のギタリストやピアニストがガッツリ脇を固め、すこぶるな名演でフォローする究極のアコースティック・シカゴ・スタイルにとことんシビレましょう♪



(代表曲はいっぱいありますが、個人的にはこの”シュガー・ママ”好きですねぇ。スローブルースなのに深刻過ぎないノリがイイ♪)

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サニーボーイ・ウィリアムスン ダウン・アンド・アウト・ブルース

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サニーボーイ・ウィリアムスン/ダウン・アンド・アウト・ブルース
(Chess/ユニバーサル)

”有名アーティストの名前を勝手に名乗って活動してたら、気が付けばオリジナルよりも有名になっちゃってた”

といえばサニーボーイ・ウィリアムスン(U世)。

え?ニセモノだって?とんでもない、語り口調のような軽妙なハープに、同じく軽妙だけどしみじみと唄わせれば何とも味のあるやや濃い口のヴォーカルに、戦後シカゴブルース一流のバンドを率いて、R&B調の曲だってトッポくキメる。しかし心はいつだってディープ・サウス!どんなにモダンなサウンドをひっさげても、魂の奥底から無尽蔵に出てくる熟成に熟成を重ねた味わいのブルース・フィーリングは尽きる事がない。

人生の苦楽の全てを豪快に呑み込んで、悲哀に満ちた深い眼差しで彼がハープを泣かせると、老いも若きも男も女も、黒人も白人も関係なく、誰もがぐっと息を呑み、ジュークジョイントの暗がりの中から南部の闇の大空へ消えてゆくその音の行方を、消えてなくなるまでずっと無言で見守った・・・。

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う〜ん・・・・

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う〜ん・・・・


ごめんなさい、途中から嘘です!!

だってサニーボーイだもの、どんなにカッコ良く文章を書いても、山師そのもの・・・少なくともカタギには見えないこの飄々とした胡散臭さ漂う写真を見せたら、誰だって「騙された!金返せ!!」ってなるじゃないですかー。

という訳で本日は

「いやだからサニーボーイ(U)のカッコ良さはそこなんだよ、後輩のマディとかウルフとかが、お互いナンバーワンを目指して、それこそシノギを削っていた時に、自分一人だけ”おぉ、やってるかぁ〜”ぐらいの飄々っぷりで、んでもって勝手にいいメンバーを揃えたバンドを従えて、マイペース極まりないブルースを演奏してたところなんだよ。でもって60年代にロックの連中からブルースが注目されたら、その流れにしっかり乗って、しぶとくブルースし続けたところなんだよ」

という話をしたいと思います。

でもってサニーボーイ・ウィリアムスン。

戦前から活躍を続ける、実際凄腕のハープ吹きであり、個性派なヴォーカリストであるブルースマンです。

そしてこの人のブルースには、飄々としていながらも、聴く人の「何かカッコイイんだよね心」をくすぐって止まない最高な魅力があるんです。

生まれた年はよくわからない、多分1900年代の初め頃で、ブルースマンとしては限りなく第一世代に近い。

ブルースマンになる前は何をやっていたかほとんど不明だが、みんなが気付いた頃には"ライス・ミラー"(本名はアレックス・ミラーというらしい)の名前で、ハープ片手にジューク・ジョイントに現れて、演奏しておりました。

有名な話は「ロバート・ジョンソンの臨終に立ち会った」という話ですがこれは得意のホラ。でも無くなる前のロバート・ジョンソンとは演奏もして、一緒にカウンターで呑んでたことは紛れもない事実。

この時"ライス・ミラー"は30代、しかし彼がブルースマンとしてその本領を発揮するのは実はこっからで、40代になってから地元の製粉会社が持っていたラジオ番組のDJの座を、多分上手いこと言って手にするんでしょうが、この時大都会シカゴで人気だったハープ吹きの名前『サニーボーイ・ウィリアムスン』をいきなり名乗ります。

もちろん無許可で。

ややこしいのは"サニーボーイ"を名乗ってやっていたラジオ番組が、南部一体で大ブレイクしてしまったこと。

これにムカついた本家本元の"サニーボーイ・ウィリアムスン"が「てめ、いつか覚えてろよ!」と思ってたといいますが、本人は「あ?文句があるならいつでも南部来いや、ヘラヘラ」とニヤついてるうちに、本家サニーボーイが、自宅に入ってきた強盗に刺されて死んでしまう。

それからしばらくして、サニーボーイはラジオの仕事をギター弾きの少年(後のB.B.キング)に「じゃあよろしく」と丸投げして、何とシカゴへ乗り込むのです。

あろうことか『サニーボーイ・ウィリアムスン』を名乗ったまんまで。

シカゴにやってきたライス・ミラー、いやサニーボーイ・ウィリアムスンは、既に上京してきた南部の後輩達(マディとかウルフとかその辺の超大物)に、やあやあとテキトーに近付いて、ほいでもってチェス・レコードの経営陣にも上手いこと言ったんでしょうな。まんまと契約にこぎつけてレコードデビューもちゃっかり果たします。

つっても普段はヘラヘラして実に胡散臭くて調子のいいオッサンですが、ミュージシャンとしての実力は超一流だし、そこらの若い新人と違って20年以上も南部の凄まじくディープな現場で百戦錬磨してきたベテランです。上手いこと言わんでもそこは実力で勝ち取れる話なんです。

で、1955年にマディ・ウォーターズ(ギター)、ジミー・ロジャース(ギター)、フレッド・ビロウ(ドラムス)という、当時のシカゴ・オールスターズをバックに従えて、チェス・レコード初のセッションを行い、翌年、翌々年と、セッションを重ねてゆくのですが、途中からまだ若いルーサー・タッカーと、南部から出てきたばかりのかつての盟友ロバート・ジョンソンの義理の息子、ロバート・ジュニア・ロックウッドという二人の気鋭のギタリストが加わって、バンド・サウンドはどんどんバリエーション豊かなものになって、強烈なサニーボーイのキャラクターそのままの、タフでラフでユーモラスなものへと仕上がって行きます。





【収録曲】
1.ドント・スタート・ミー・トゥ・トーキン
2.アイ・ドント・ノウ
3.オール・マイ・ラヴ・イン・ヴェイン
4.ザ・キー
5.キープ・イット・トゥ・ユアセルフ
6.ディスサティスファイド
7.ファットニング・フロッグズ・フォー・スネイクス
8.ウェイク・アップ・ベイビー
9.ユア・フューネラル・アンド・マイ・トライアル
10.“99”
11.クロス・マイ・ハート
12.レット・ミー・エクスプレイン
13.アイ・ドント・ノウ(別テイク)
14.ファットニング・フロッグズ・フォー・スネイクス(別テイク)
15.ユア・イマジネーション
16.レット・ユア・イマジネーション・ビー・ユア・ガイド
17.トラスト・ミー・ベイビー
18.バイ・バイ・バード
19.マイ・ヤンガー・デイズ

「サニーボーイの代表作」

「50年代のシカゴ・バンド・ブルースのお手本のような傑作」

「ジャケットで寝そべっているのはサニーボーイではありません」


と、ブルースファンの間ではそれこそ至宝の如く語られているアルバム「ダウン・アンド・アウト・ブルース」は、正に1955年から58年までの、サニーボーイがシカゴに来て行った最初期のセッションがしっかりと収録されております。


サニーボーイのハープは一貫してアンプを通さない生ハープなので、バンドの音がすこぶるモダンでも、どこか濃厚な"戦前南部のブルースの香り"がして、これがもーたまらんのですよね。海千山千ぶりが実によく顕れた歌の魅力もまた、病み付きになって止められない味わいの固まりです。

あと、50年代のチェス・レコードは音の録り方、特にドラムの録音がとても素晴らしいんです。フレッド・ビロウの、空気をたっぷり含んで「シュバッ!」と鳴るスネアの音、これがもー最高なんですよねー♪





(アルバム冒頭の”Don't Start Me To Talkin` いや実にイナタい♪)



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2016年11月27日

11月27日、ジミ・ヘンドリックス生誕祭


1480243677972-139373148.jpgはい、本日は11月27日ジミ・ヘンドリックスの誕生日でございますね。

「アニバーサリーな日には、そのアーティストの作品を聴く」ということをささやかな楽しみにしているアタシとしては、今日はこれもうジミヘンを聴かねばなりません。

「どれにしようかなー?」

とはなりませんでした。

アタシにとってジミヘンの特別なアルバムといえば、1992年、彼の生誕50周年記念の年にリリースされたこのベスト・アルバム。

とある日、学校帰りに友達の家に遊びに行ったら、部屋にポンとこのCDがケースごと立てて置いてあったのを見て

「おぉ、ジミヘンかぁ〜、渋いなぁ。このアルバムいいわけ?」

「おぉ、お前それいいぞ」

「じゃあ俺も後で買ってくわー」

と、軽〜いノリで買ったんですけどね、これが最高のベスト・アルバムでした。

しかしその頃はジミヘン「なんかすごい!」とは思いつつも「でもよーわからん、うん、よーわからんがすごいんだ。うん」といった感じでしょうか。まーそんなもんです。

でも、それからジミヘンが影響を受けたブルースやソウル、R&Bなんかをたくさん知って、その都度このアルバムを引っ張り出して聴くと「何か分かってきたー!!」という感動が波のように来ることがあって、それがイコール私の音楽体験、つまり「音楽的な拡がり」みたいなのと深くかかわってるんです。

ジミヘンのオリジナル・アルバムやライヴなんかもちょこちょこ集めて、彼の全体像から細かいところまで、今はすっかり分かったつもりになってきてますが、このアルバムはいつまでもアタシを”ジミヘン初心者”のウブな気持ちに引っ張り戻してくれるから手放せません。

いや、手放そうなんて思ったこと一度もありませんけどね♪






posted by サウンズパル at 19:35| Comment(0) | TrackBack(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月26日

スキッド・ロウ SKID ROW


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スキッド・ロウ/SKID ROW
(Atlantic)

ここへきて「昔聴いていたロックのアルバムを聴き返す」というのが流行っています。

単純に「あの時のアレ、どんなだったかなー?」と、感動と興奮を思い出す作業をやらないかと思って始めたことではあったんですが、今聴いてみるとまた新たな発見があったり、当時気付かなかった音楽的な深い部分などに気付いて、これがなかなか楽しい♪

で、スキッド・ロウです

スキッド・ロウは、その昔洋のハードロック/ヘヴィメタルを聴く人達の間ではそりゃもう人気があった。割と本気でメタルやってるギタ小僧にもバンドマンにも、洋楽ミーハーな女子達にも、不思議と安定した支持があったことを記憶してます。

アタシがハマッたきっかけも、達の家で彼らのセカンド「スレイヴ・トゥ・ザ・グラウンド」を聴いたことでしたね。ガッシリとしたヘヴィうねるサウンド、刺激的なリフやギターソロ、そしてクリアだけど芯があるめちゃくちゃ上手いヴォーカルが一体となった凄まじいクオリティのサウンドに、ヘヴィメタルの究極的な何かを勝手に感じてしまいました。

これが1992年頃の話だったんですが、翌年にはニルヴァーナの大ブレイクをきっかけにして空前のオルタナティヴブームが沸き起こり、それまで隆盛を極めていたメタルブームがあっという間に過ぎ去ったことを考えると、確かにスキッド・ロウのサウンドは、それまでヘヴィメタルという音楽が、80年代に作り上げてきたことの総決算のようなものだったのかも知れないなと、今も思っています。




【収録曲】
1.Big Guns
2.Sweet Little Sister
3.Can't Stand The Heartache
4.Piece Of Me
5.18 And Life
6.Rattlesnake Shake
7.Youth Gone Wild
8.Here I Am
9.Makin' A Mess
10.I Remember You
11.Midnight/Tornado


「スレイヴ・トゥ・ザ・グラインド」から遡るように買って聴いたのが、1989年リリースのファースト・アルバム「SKID ROW」。

はい、コレが実はその頃のアタシはあまりお気に召さなかった(笑)。

「ロックバンドのファーストは、その後のアルバムよりも荒削りで未完成な部分もあるが、不足してる面をすべて初期衝動でやり込めているものだ」

という、やや原理主義的な思想(?)を持っていたアタシは、ハードな曲もバラードも完璧な、このすこぶる完成度の高いアルバムの良さが、今ひとつピンとこなかったのです。

バラードで大ヒットした「I Remember You」「18 And Life」そしてアメリカン・ハードロックの王道のようなキャッチーなノリの「Youth Gone Wild」なんかには目もくれず「あー、この曲とかこの曲だけはいいなー」と「Big Guns」「Makin' A Mess」を聴き狂ってましたねぇ。。。

しかし、それから月日が経って、すっかりオルタナやモダン・ヘヴィネスに夢中になってたある日、ふと有線か何かで耳にした「I Remember You」が、何だろう?メタル云々はとりあえず置いといて、ロックのバラードとしてすごくカッコ良かった、つまり全然古臭く聞こえなかったことに「えぇ!?」と思い、そんなに聴くこともなくCD棚の一番奥の方にしまっておいたCDを引っ張り出して改めて聴き直してみました。

そしたらこれが、もちろんヘヴィでありハードであり、そしてバラードは特に洗練と"拡がり"を感じさせる、非常に「先端」な何かを感じさせるものに変わりはないんですが、再び聴いて感じたのは

「これはとても質の高いアメリカン・ロックンロール」

ということでした。

サウンドキャラクターは全然違うかもですが、スキッド・ロウの、特にヘヴィにうねるミディアム・テンポのナンバーからは、ニューヨーク・ドールズのアプローチに似通ったものを感じます。つまり派手でルーズで不良で粋な、ロックンロール特有のあの感じです。

80年代の末にリリースされて、90年代の頭に大流行したスキッド・ロウなのに、何となく「あ〜、流行ったね〜」で終わらせたくない硬派な魅力を感じます。

懐メロじゃなくてカッコイイ「クラシックス」でしょう。




(ピストルズのカヴァーではじまる1989モスクワライヴ)



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2016年11月22日

伝説のギタリスト、ジョージ・シバンダ-ジンバブエ(ローテシア)南部-48'49'50'52

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伝説のギタリスト、ジョージ・シバンダ-ジンバブエ(ローテシア)南部-’48、’49、’50、’52
(アオラ・コーポーレーション)

「アフリカつっても太鼓や唄だけじゃねぇぞ!」ということを、声を大にして言いたいアタシにとって、戦後40年代〜60年代ぐらいまでのアフリカのポップス。つっても商業化されたド派手なものじゃなく、地元の人たちの間で素朴に聴かれてはいるが、その形態は伝統音楽とは違うものって、すごくグッとくるし興味をそそるんですよね。

あ、すいません「何のこっちゃ?」とお思いの方も多いと思いますが、例えばアメリカにはブルースがありますね。

その中でも”ダウンホーム・ブルース”と呼ばれる、例えばミシシッピとかの深南部で、レコーディング・スターではなく、週末になるとジューク・ジョイントという安酒場に集まってくる地元の人達相手に、流行とはまったく関係ない、アンダーグラウンド感満載で、どぶろくのような濃いブルースを演奏している人達の音楽が大好きなんです。

はい、戦後「ポップス」といえば、これはもうアメリカやイギリスの音楽がほとんどでした。

世界に向けて”売れる音楽”を供給できる販売網と宣伝力を持つのは、この2ヶ国だけだったからですね。だからそれ以外の国の音楽は「ローカル」です。つまりレコードが出されても、その国の人達だけか、せいぜい文化圏を同じくする周辺諸国の人達が聴くだけで、素晴らしいものが録音されて売り出されても、世界のほとんどの人が全く知らなかった訳です(だってほら、日本の歌謡曲の世界的な大ヒット曲でさえ”スキヤキ”でしたから・・・)。

で、最初に言ったように「アフリカといえば太鼓と唄だろう」というのも、これは間違いではないんですが、ある意味において偏見であり「世界の音楽がアメリカとイギリスのヒットしかなかった時代」の、悪い名残りだと思いますね。

はい、払拭いたしましょう。本日は1940年代末から50年代初頭にレコーディングされた、アフリカの素晴らしいギターポップを紹介します。

アフリカはジンバブエといえば、南アフリカの丁度真上に位置する「大陸最深部に近い国」です。

この国は、何といっても”ムビラ(カリンバ)”と呼ばれる親指でポロポロ弾く親指ピアノが有名で、かつて民族音楽の聖典、ノンサッチのシリーズでリリースされた時は、アフリカファンに大いに受け、これがきっかけでムビラは我が国でも有名になりました。楽器屋さんではなく、エスニックな雑貨屋さんなんかに行けば、オルゴールのご先祖みたいなムビラが置いてあるので、それで何となく遊んだ経験のある人も多いのではないかと思いますが、ムビラの話はまたの機会に。。。

で、そんなジンバブエ。

戦前は主に演奏されていたのは伝統的な音楽ばかりでしたが、1940年代にギターが普及して、この新しい楽器を片手に新たなる流行歌が、次々と生まれてきておりました。

街や村で、ギターを片手に歌い歩く人達はどこへ行っても人気者で、中には全国を旅して唄い歩く人も多かったといいます。

あれ?

ここまで書いて「お、ブルースマンじゃないか」と思ったアナタ、正解です。

正直リアルタイムでアメリカのブルースとジンバブエの音楽がどのような関係にあったのかは詳しく知りませんし、また、語られている資料も少ないので何ともいえないのですが、距離的にものすごーく離れていたはずの、二つの音楽は、もうびっくりするほどそっくりなんです。

いや、違うのは言葉だけで、独特のシンコペーションや間の取り方なんかは、もう双子なんじゃないか。いや、リアルタイムにアメリカで活躍していたブルースマンがこっそり密航してジンバブエで誰かにブルース教えたんじゃないかと思うぐらいのものです。



【収録曲】
1.Dali Ngiyakuthanda Bati Ha-Ha-
2.Ungahamba No Tsotsi
3.Ngiyakuthanda Ntombi Emnyama
4.Otsotsi
5.Guabi Guabi
6.Chuzi Mama
7.Kwantu
8.Kuyini Loku
9.Eranda Ngabop' Itrain
10.Llanga Lashona
11.Uma Lovie
12.Sake Sabotshwa
13.Sivele Sithandana
14.Inyakanyaka
15.Amandebele
16.Hamba La Venda
17.Emely Uyabizwa
18.Itshumi Lami Bafana
19.I-I Thina Lapha Esishupekayo
20.Mami
21.Dlala Laiza
22.Umfazi We Polisa Usegqoka Amal
23."Yinindaba Wena, My Boy"
24.Epilogue


この”まんまブルースなジンバブエのギター弾き語り男”の中で、最も伝説的な存在として語り継がれている人が、今回ご紹介するジョージ・ジバンダです。

民族音楽の世界では「この人がいなかったらアフリカ音楽の正しい姿はおそらく世界に伝わらなかったんじゃないか」と言われている民俗学者でヒュー・トレイシーという”漢”がおります。

アフリカ音楽の採集に命をかけているトレイシーが、ジンバブエ南部で現地の音楽を録音していた時に出会ったのがジョージ・シバンダで、数少ない資料には、彼がこの時披露した歌と、類まれなギターの才能に感動したヒュー・トレイシーが「録音しよう!そうだ、商業用のレコードも出そうよ!君は絶対に売れる」と約束して、1948年からおよそ10年近く、トレイシーの肝煎りでアフリカ諸国はもちろんアメリカにまで名が売れるシンガーとなったものの、典型的な「宵越しのカネは持たねぇ」主義だったジョージは、せっかく稼いだカネの全てを遊興とアルコールに注ぎ込み、結局それが元でミュージシャンとしての活動も僅か10年足らず、1枚の写真すら残さずに、あっという間に伝説の彼方の人になってしまいました。

とりあえず今出ているCDで、彼の演奏が聴けるのもこれだけのようです。

しかしどこまでも自然体ののどかな歌唱、でもバラッドやラグタイムなど、どこか不思議な洗練された完璧なギター・テクニックは、これは聴く人の心にふんわりと一生モノの感動を残してくれる音楽だと思います。

アフリカのブルース、いいよ♪


(これが1曲目、ゴキゲンやろー♪)

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2016年11月21日

スザンヌ・ヴェガ 孤独

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スザンヌ・ヴェガ/孤独
(A&M/ユニバーサル)


今にして思えば1980年代という時代は、あらゆるものがキラキラしていて、まるで魔法がかかったように見えていたような気がします。

たとえば音楽だと、ディスコやニューウェーブ、またはフュージョンであり、またはそれらの影響を強く受けたポップスのほとんどは、まるで過去と決別するかのような爽やかさと軽やかさを、競って放出していたように思います。ありったけのエネルギーを、キラキラすることに費やしながら。

そんな時代の中にあって、スザンヌ・ヴェガの歌声は、常に異質でした。

90年頃でしたかね?テレビのCMで、それはとても静かな、ちょっとオーバーに言えば「無音より静けさを感じさせる歌声」が、流れるようになりました。

これは誰?

と、親父に訊けば

「あぁ、スザンヌ・ヴェガだな、この人はちょっと前にデビューして、結構いいシンガーだと思ったけど、暗いからかなかなか売れなかったなー。でも今CMで人気が出てる」

と。

その時は「へ〜」と思って、それだけだったのですが、あの"アカペラの歌"それから妙なタイミングで、ふとしたはずみで脳内再生されることがままあって、アルバムを聴きました。"アカペラ"を耳にして、5年ぐらいは経っていたでしょうか。





【収録曲】
1.トムズ・ダイナー
2.ルカ
3.鉄の街
4.瞳
5.夜の影
6.孤独
7.カリプソ
8.ことば
9.ジプシー
10.木の馬
11.トムズ・ダイナー (リプリーズ)


探していた"アカペラ"は「トムズ・タイナー」という曲で、1987年にリリースされたという「孤独」という、スザンヌ・ヴェガのセカンド・アルバムの1曲目に収録されていました。


CM曲というのは、なかなか厄介なもので、耳にしたその時いいなと思っても、実際アルバムを買うとその曲だけしか聴けるものがなかったり、もっと酷いのはCMで流されているその部分だけしか良くなかったり、ということも往々にしてあったのですが、スザンヌ・ヴェガに関しては、何故かそんな不安はなかったですね。

何というか、曲やアレンジがどうであっても、あの薄絹のような、透明で儚くて、どこか切ない声の魅力は多分変わらない。そんな確信を持ちながらアルバムのジャケットを手にしたら、ジャケットもタイトルもいい。

実際に歌詞カードをじっくり読みながら、聴き込みました。

「トムズ・タイナー」は、期待通り全編美しいアカペラで、歌詞を読むと、とても詩的練度の高い、心情と風景の巧みな描写が美しい曲です。(歌詞で一番衝撃だったのは、虐待を受けている子供の視点で書かれた、2曲目の「ルカ」でしたが)。

さて、「ルカ」含む2曲目以降は、確かにアレンジは軽やかで爽やかな、いかにも80年代のポップスでしたが、彼女の内へ内へと緩やかに沈み込んでゆくような、ささやきとため息の中間みたいな声ゆえに、少しもキラキラした感じがなく、気持ちを乗せて深い世界に誘われる心地よさに、時間とか生活とか、自分を俗な所に縛っている感覚がヒリヒリと溶けていきました。

80年代という、何もかもがキラキラ狂っていた時代には異質だったかも知れません。では世界中が暗く混沌として、どこか重苦しい2010年代では?と訊かれたら、やはりここでも彼女の声と独特の寂寥感で充たされた唄世界は異質かも知れません。しかし、この"異質"は、どこまでも切なく美しいですね。






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2016年11月20日

ウエス・モンゴメリー ア・デイ・イン・ザ・ライフ

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ウエス・モンゴメリー/ア・デイ・イン・ザ・ライフ
(A&M/ユニバーサル)

ウエス・モンゴメリーといえば、ジャズ・ギターの奏法をとにかく一歩先を行く斬新なものにした革新者であります。

親指一本で信じられないぐらいの流麗で力強い単弦ソロや、オクターブ弦を同時に鳴らす”オクターブ奏法”を繰り出し・・・と、まぁ専門的なことを言えばいくらでも言えるしキリがありませんが、とにかくウエスの凄いところは、たとえばジャズとかギターの音とか、そういうことに全く興味がない人にも

「あら、このギターちょっといいわね」

と言わせてしまうとこなんですよね。

「まさかそんなヤツおらんだろー」

と、お思いの方には、アルバム「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を聴いて頂いております。



【パーソネル】
ウェス・モンゴメリー(g)
ハービー・ハンコック(p)
ロン・カーター(b)
グラディ・テイト(ds)
レイ・バレット(perc)
ジャック・ジェニングス(perc)
ジョー・ウォーレルズ(perc)
ドン・セベスキー(arr,cond)
with.オーケストラ

【収録曲】
1.ア・デイ・イン・ザ・ライフ
(原曲はビートルズのアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」に収録)

2.ウォッチ・ホワット・ハプンズ
(ミシェル・ルグラン作「シェルブールの雨傘」挿入歌)

3.男が女を愛する時
(パーシー・スレッジが歌った1966年のR&B大ヒット曲)

4.カリフォルニア・ナイツ
(レスリー・ゴーアの1967年のヒット曲。当時のポップスを代表する歌)

5.エンジェル
(ジミヘンではありません、ウエス・モンゴメリーの本作唯一のオリジナル・ナンバー)

6.エリナー・リグビー
(ビートルズ、アルバム「リボルバー」収録)

7.ウィロー・ウィープ・フォー・ミー
(「柳よ泣いておくれ」で知られるジャズ・スタンダード)

8.ウィンディ
(アソシエイションズが歌ってヒットした、60年代ソフト・ロック名曲)

9.トラスト・イン・ミー
(戦前から演奏される有名スタンダード)

10.ジョーカー
(元々はミュージカル・ナンバーで、セルジオ・メンデスとブラジル66が歌ってヒットさせたブラジリアン・ポップス)

これ凄くいいんですよ〜、内容はビートルズ・ナンバーを中心に、ポップスのヒット曲を爽やかなストリングス・オーケストラをバックに演奏しているんですけど、ウエスのギターはアドリブ控え目に、原曲のポップなメロディーを、しっかりと”ジャズの音”で弾いております。

曲目の内訳を【収録曲】のところに書いてあったんですが、ビートルズの2曲を筆頭に、このアルバム収録当時のポップスのカヴァーが中心です。

アルバムが収録された1967年は、丁度ロック全盛期で、世界中をビートルズ旋風が席捲していた時代。

ジャズはセールス的に苦戦を強いられておりましたが、ジャズの演奏家達も「これじゃいかん」と自分達の演奏の中に、何か新しいものを見出そうと必死で模索していた時代ですね。マイルス・デイヴィスはエレクトリックなバンドを実験的にやり出して、色んな人がソウル・ジャズとかジャズ・ファンクとか、とにかく世間で流行している音楽の要素を取り入れながら、次々とジャンルを跨いだ面白い作品を出し始めていた時代。

後に”フュージョン”という音楽が、こういった流れの中から生まれてきますが、ウエスのこのアルバムは、その元祖ともいえるかも知れません。

楽曲はポップで、ストリングスやパーカッション(ソフトなやつ)を配した、これまたポップなアレンジ。でも、その中でキラッと渋い光沢を放つ、熟練のジャズなフィーリング。聴き易いけれども決して軽薄な音ではなくて、入り込む人の耳をしっかりと惹きつけて離さない後味の物凄いコクがあるんです。

ウエスがギター弾きまくってる、あるいはジャズしまくってるアルバムなら、断然初期のRiverside盤でしょうが、後期のポップなアルバムには、抗し難い音楽的な魅力が詰まってるような気がします。


(「男が女を愛する時」短い演奏でアドリブも抑え気味ではあるんですが、これが泣けますね)




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2016年11月17日

ブラック・サバス 黒い安息日

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ブラック・サバス/黒い安息日
(Vertigo/Hostess Entertainmen)

今も元気で「キング・オブ・ヘヴィ・ロック」をやってるオジー・オズボーンが、世に出るきっかけとなったのがブラック・サバスであり、そのブラック・サバスの記念すべきデビュー・アルバムこそが、この「黒い安息日(Black Sabath)」なのですよえっへん♪

と、言ったところで今ドキの若い人には「そんなの知ってるよバカヤロー」な話でありましょう。

何てったって今やオジーは、ロック界の大御所として、または今この時点でシーンを賑わせているヘヴィ・ロックのバンド達みんなが尊敬するカリスマであり、はたまた世界中のフェスでなくてはならないライヴの神的存在であり、お茶の間では「ロッカーなんだけど家族をとても大切にする優しくてカッコイイヒーロー」としても、世界的な人気を誇るほどの存在です。

思えば1990年代初頭、アタシら頭の悪いロック小僧にとっては、あのランディ・ローズ、ジェイク・E・リー、ザック・ワイルドなどなど、それまで無名だった若き天才ギタリストを次々と発掘しては素晴らしいアルバムを作る凄い人なんだけど、世間一般には「何か・・・コウモリとか食べる人でしょ?やだこわい・・・」と、ひたすら敬遠されておったことなどを思い出すと、あぁ時代って変わるんだな・・・と、遁世の感があります。

とにもかくにも一時期”悪のカリスマ”ぐらいだったあのオジーが、世間一般でこれほどまでにメジャーになって、しかも知ってる人のほとんどに好意的に見られているというのは、長年のファンとしては嬉しい限り。

さてさて、オジーのことを知っていて、しかも悪しからず思ってくださっている全国のロックファンの皆様には「ブラック・サバスなんて今更」でありましょうが、本日も少しばかりアタマの少々弱いおっさんの与太にお付き合い頂ければ幸いです。

で、もし、万が一「オジーは知ってるけどブラック・サバスって何?つおいの?」と思っていらっしゃる方が折られるならば、今から書く記事をそれなりにちょいと気を向けて読んで頂ければと思います、ハイ。

このバンドが結成されたのは、1969年のイギリスはバーミンガムです。

バーミンガムという所は鉄鋼業の街で、サバスやジューダス・プリーストなどを排出したことから「ヘヴィ・メタルの聖地」とも呼ばれております。

60年代イギリスを席捲していたのが、ビートルズを頂点とする、明るくポップな”リバプール・サウンド”だったのですが、バーミンガムの連中はそれとはちょっと違う、へヴィでドロドロしたブルース・ロックを主に演奏しておったようで、街全体が何かこう不穏でガラが悪く、当然そういう所からは”新しい音楽”が生まれる気配がビンビンありました。

オジー・オズボーン、トニー・アイオミ、ギーザー・バトラー、ビル・ワードという、この街の「女風呂を覗くためにツルんでた」よーな悪ガキ達が、新バンドを結成するべく集まったのは、1960年代末の頃であります。

「んで、オレらはバンド組むために集まったんだけど・・・」

「何かいいアイディアあるか?何つうかこう・・・世間をあっと言わせたいべ」

「あぁ?んなもんやかましくて気合いの入った曲やればいいだけよぉ!」

「いや・・・ちょっと待て、オレよぉ、昔映画館行ったんだわ。そん時えーと、ブラック・サバスっつうホラー映画やっててよォ、何だそりゃ?って思ってたんだけど、あん時行列出来てたんだよなー」

「フザケんな、それとロックと何のカンケーがあるんだよ!?」

「フザケてねーべ、ホラー映画って人気あんだろ?だから・・・人間は怖いものが好きなんだよ。オレらもただロックやるんじゃなくてよォ、怖い要素とか入れてみんべ。歌詞を黒魔術っぽくしたりとか、ホラー映画の音楽みたいなことをロックでやったりしたらけっこーウケんべ?」

「マジかよ!?お前アタマいいな!!それやるべ!」

「う、売れたらモテるべ」

「じゃあバンド名は”ブラック・サバス”でよくね?”黒い安息日”とか渋いべ?」


・・・と、割と軽いノリでバンドはその名前と方向性を決めました。

これが1969年のことなんですが、この時バーミンガムの4人の不良の軽い発想が、この後世界中のメタルとかの連中の一種のアイコンになる

「黒魔術、悪魔崇拝、反キリスト、見た目も黒で毒々しい」

とか、そういう流れの源流になったとか、胸がアツくなりますよね。




【収録曲】
1.黒い安息日 (Black Sabbath)
2.魔法使い (The Wizard)
3.眠りのとばりの後に (Behind The Wall Of Sleep)
4.N.I.B.
5.魔女よ、誘惑するなかれ (Evil Woman)
6.眠れる村 (Sleeping Village)
7.警告 (The Warning)
8.悪魔の世界 (Wicked World)

で、オジーを筆頭に、メンバー達は結構涙ぐましい努力をして(不良は夢のためには一生懸命頑張るのです)、ライヴをしながらあちこちにデモテープを送り、地元バーミンガムを中心に徐々に有名になって行くのですが、この時新興のロック・レーベル”ヴァーティゴ”という会社が「お前らのシングル出してもいいぞー。まずシングル出すからついでにアルバムもレコーディングしたらー?」と、連絡をしてきました。

喜び勇んでレコーディングに臨んだサバスの面々でしたが、アルバム製作のために与えられた時間はたったの二日。

「コレどうすんだよ!?」

「ざけんなよ、ダボォ!」

とか何とか悪態をついたり、スタジオの中で酒瓶を投げたりしてたんでしょうが、コイツらは不良なので頑張って気合いと根性で、ブルースのカヴァー2曲を入れつつ、全8曲。何とかアルバム1枚分のレコーディングを終わらせてしまいます。

多分レーベルも「予算ないし、コイツら何かチンピラ臭いから、シングルだけ録音させてみるか。まー多分そんなに売れんだろうが売れたらラッキー」ぐらいに思ってたんでしょう。しかし、アルバム1枚分の曲が入ったマスターテープをレーベルに渡したメンバー達は

「オイ、てめえこの野郎、オレらやってやったぜ。やってやったからよォ、このアルバムを13日の金曜日に発売しろや!」

と、突きつけたかどうかは分かりませんが、話として面白いのでそう夢想しましょう。

そして出来上がったオドロオドロしいジャケットに包まれて、本当に「13日の金曜日」に発売されたのが、この名盤です。

低音弦のハモり(今で言うパワーコード)を効果的に使ったへヴィなギターリフ、呪術的なオジーの声、そして悪魔的キーワードをふんだんに盛り込んだ歌詞によって、このアルバムは若者の間では凄くウケました。もちろん評論家には「テクニックがない」とか酷評されましたが、ともすれば色んなものに凝って、結果やや難しくなってしまったり、理屈っぽくなってしまったりするバンドが多かった当時のイギリスで、サバスの存在は、そのセンセーショナルなキャラクターとサウンド面での分かりやすさ、親しみ易さの絶妙なバランスでもって革命を巻き起こしたのかも知れません。

実はこのアルバム、テーマやイメージは、後のヘヴィメタルの元祖そのものですけど、サウンドの方は当時のイギリスでのスタンダードな流行だったブルースロックのテイストがとても残っていて「フツーにかっこいいロック」としても十分に聴けます。

簡単に言えば「ドロドロにヘヴィなブルースロック」といった感じでしょうか。とにかくこの粘りに粘るサウンドと、ややオカルトチックな雰囲気の不思議な一体感は、サバスのアルバムの中でも何かこうクセになる味わいがたまらんのです。

最後にややマニアックな事を言わせてもらえば、2曲目の「魔法使い」でオジーがブルース・ハープ吹いてるんですよ(!)もちろんそんなオジー他では聴けませんし、これがまたなかなかいいプレイなんですよ。





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2016年11月15日

ビリー・ホリデイ 奇妙な果実

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ビリー・ホリデイ/奇妙な果実
(Comodore/キングレコード)

昨日に引き続きビリー・ホリデイです。

何と言いますか、コレはアタシのもしかしたら思い入れに関する部分も多分にあるとは思いますが、一旦想いを語ってしまうと「あ、しまった、アレもあった。コレもあった。」と、後からどんどん想いが湧き出してくるシンガーがビリーなんです。

彼女を語るには、その余りにも不幸な生い立ちと、余りにも不幸な最期というのが必ずセットになります。

私生児として生まれ、そしてシンガーとして脚光を浴びたのも束の間、私生活では麻薬とアルコール、そしてパートナーとなる男性達からの暴力や金銭トラブルなどなどなど・・・。

ザックリ言ってしまえば、彼女の唄の力、そしてアーティストとしての魅力というのは、ほとんどがそのハード過ぎる人生の中で傷ついたり、打ちひしがれたりした心の傷の生々しさだったりすると思うんです。

でも、アタシの中ではどうしても「心の傷=音楽のカッコ良さ」には安直に結び付けたくない葛藤があります。

それはもちろん、ミュージシャンのハードライフを、まるで芸能ゴシップみたいにあげつらって見世物にしたくない、彼女の心の傷ばかりに関心を引くリスナー達によって、肝心の唄がぞんざいに扱われたくないということもありましょうが、やはりアタシは誰がどう言おうが、読み物に何が書かれていようが、彼女の唄が好きなんです。

こういうことを話すとキリがありませんので、今日はサクサク作品を紹介しましょうね。



【パーソネル】
ビリー・ホリデイ(vo)
フランク・ニュートン(tp)
ドク・チータム(tp)
フレディ・ウェブスター(tp)
ヴィック・ディッケンソン(tb)
タブ・スミス(as)
スタンリー・パイン(ts)
レン・ディヴィス(ts)
ケネス・ホロン(ts) 
ソニー・ホワイト(p)
エディ・ヘイウッド(p)
ジミー・マックリン(g)
テディ・ウォルターズ(g)
ジョン・ウィリアムス(b)
ジョン・シモンズ(b)
エド・ショーネシー(ds)
シドニー・カトレット(ds) 

【収録曲】
1.奇妙な果実
2.イエスタデイズ
3.ファイン・アンド・メロウ
4.ブルースを歌おう
5.ハウ・アム・アイ・トゥ・ノウ
6.マイ・オールド・フレーム
7.アイル・ゲット・バイ
8.水辺にたたずみ
9.アイル・ビー・シーイング・ユー
10.アイム・ユアーズ
11.エンブレイサブル・ユー
12.時の過ぎゆくまま
13.ヒーズ・ファニー・ザット・ウェイ
14.恋人よ我に帰れ
15.アイ・ラヴ・マイ・マン
16.明るい表通り


はい「奇妙な果実」です。

ビリーの名刺代わりの代表曲であり、ジャズというジャンルを超えて、今もなお世界中の人々に聴かれ続けている名曲「奇妙な果実」の初演ヴァージョンが入っており、かつタイトルにもなっている、これはLP時代からビリーの作品の中で最も有名な一枚であります。

ビリーがこの歌の元となる歌詞と出会ったのは1939年、メジャー・レーベル”コロムビア”の契約シンガーであり、ニューヨークの人気クラブ”カフェ・ソサエティ”の専属として、正にニューヨークの並み居る歌手達の中で頂点を極めていた時、ルイス・アレンという詩人(本業は教師)から、一遍の詩を見せられたことがきっかけでした。

これこそが「奇妙な果実」。

その詩は、当時アメリカ南部で頻繁に起きていた、悲惨な黒人リンチの様子を、余りにも生々しい描写で淡々と書いたショッキングなものでした。

これを読んだビリーは「唄おう」と決意したのですが、その背景には、人種差別に対する抗議の怒りというよりも、実際に南部で、黒人ミュージシャンであったために病院で診察をことごとく拒否されて亡くなった彼女の父親の話も、心にオーバーラップしたからだとも言われております。

ビリーは早速コロムビアに打診して「奇妙な果実を録音したい」と願いますが、メジャー・レーベルであるコロムビアは、そういった社会性の高い(そして、白人層に対して心象の良くない)歌をレコーディングすることに難色を示します。

そこで「じゃあウチで吹き込みなよ」と、声をかけたのが、当時レコード店兼レーベルだった「コモドア」という小さな会社だったのです。

このレーベル、小さいながらも当時のスイング・ジャズのとてもいい音源を結構残していて、ビリーの「奇妙な果実」も、バックには素晴らしいミュージシャン達が集って、演奏も選曲も、アルバム単位で素晴らしく、結果ビリーのコモドア・レコーディングは真摯にレコードを追いかけているジャズファンの間で「アレは素晴らしい」と話題になります。

当時はシングルのSP盤の時代だったので、コレがLPになるのは、リリースから何十年も経ってからなのですが、とにかくLPとなって、ビリーの死後(戦後)、丁度社会運動も大いに盛り上がってきた時流にも乗って「ビリー・ホリディの奇妙な果実は、社会問題に関心がある人間なら聴かねばならない問題曲」とまで言われるようになって、さっきも言ったように、世界中に拡がります。

しかし、アタシが注目したいのは、そういった社会運動あれこれが絡んだ時代も過ぎた80年代とか90年代、そして21世紀になった現在でも、ビリーのこのアルバムは「ジャズ・ヴォーカルの代表的名盤」として、音楽を愛する人々から、正当に評価され続けているということです。

それもそのはず、このコモドア・レコーディングは「奇妙な果実」1曲のみではなく、この1枚のアルバムの中に、しっとりとした曲、穏やかな曲、やや明るめの爽やかな曲と、単に"暗い”だけではない彼女の素晴らしい魅力が、絹のようになめらかな伴奏と共に、丁度良い塩梅でまとめられているのです。

「イエスタデイズ」「水辺にたたずみ」「ヒーズ・ファニー・ザット・ウェイ」なんかは、後年も彼女のライヴでは欠かせないレパートリーとして、多くのアルバムにレコーディングされた曲です。

ビリーの声、力強さとか華麗な明るさとはちょっと違う位置にある独特のものですが、その一語一語を噛み締めるように、隅々まで切々とした感情(哀しさと優しさ)が行き渡っていて、これはもうやめられませんわ・・・。



(個人的にこのアルバムの中で一番好きな「水辺にたたずみ」)


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