2016年11月15日

ビリー・ホリデイ 奇妙な果実

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ビリー・ホリデイ/奇妙な果実
(Comodore/キングレコード)

昨日に引き続きビリー・ホリデイです。

何と言いますか、コレはアタシのもしかしたら思い入れに関する部分も多分にあるとは思いますが、一旦想いを語ってしまうと「あ、しまった、アレもあった。コレもあった。」と、後からどんどん想いが湧き出してくるシンガーがビリーなんです。

彼女を語るには、その余りにも不幸な生い立ちと、余りにも不幸な最期というのが必ずセットになります。

私生児として生まれ、そしてシンガーとして脚光を浴びたのも束の間、私生活では麻薬とアルコール、そしてパートナーとなる男性達からの暴力や金銭トラブルなどなどなど・・・。

ザックリ言ってしまえば、彼女の唄の力、そしてアーティストとしての魅力というのは、ほとんどがそのハード過ぎる人生の中で傷ついたり、打ちひしがれたりした心の傷の生々しさだったりすると思うんです。

でも、アタシの中ではどうしても「心の傷=音楽のカッコ良さ」には安直に結び付けたくない葛藤があります。

それはもちろん、ミュージシャンのハードライフを、まるで芸能ゴシップみたいにあげつらって見世物にしたくない、彼女の心の傷ばかりに関心を引くリスナー達によって、肝心の唄がぞんざいに扱われたくないということもありましょうが、やはりアタシは誰がどう言おうが、読み物に何が書かれていようが、彼女の唄が好きなんです。

こういうことを話すとキリがありませんので、今日はサクサク作品を紹介しましょうね。



【パーソネル】
ビリー・ホリデイ(vo)
フランク・ニュートン(tp)
ドク・チータム(tp)
フレディ・ウェブスター(tp)
ヴィック・ディッケンソン(tb)
タブ・スミス(as)
スタンリー・パイン(ts)
レン・ディヴィス(ts)
ケネス・ホロン(ts) 
ソニー・ホワイト(p)
エディ・ヘイウッド(p)
ジミー・マックリン(g)
テディ・ウォルターズ(g)
ジョン・ウィリアムス(b)
ジョン・シモンズ(b)
エド・ショーネシー(ds)
シドニー・カトレット(ds) 

【収録曲】
1.奇妙な果実
2.イエスタデイズ
3.ファイン・アンド・メロウ
4.ブルースを歌おう
5.ハウ・アム・アイ・トゥ・ノウ
6.マイ・オールド・フレーム
7.アイル・ゲット・バイ
8.水辺にたたずみ
9.アイル・ビー・シーイング・ユー
10.アイム・ユアーズ
11.エンブレイサブル・ユー
12.時の過ぎゆくまま
13.ヒーズ・ファニー・ザット・ウェイ
14.恋人よ我に帰れ
15.アイ・ラヴ・マイ・マン
16.明るい表通り


はい「奇妙な果実」です。

ビリーの名刺代わりの代表曲であり、ジャズというジャンルを超えて、今もなお世界中の人々に聴かれ続けている名曲「奇妙な果実」の初演ヴァージョンが入っており、かつタイトルにもなっている、これはLP時代からビリーの作品の中で最も有名な一枚であります。

ビリーがこの歌の元となる歌詞と出会ったのは1939年、メジャー・レーベル”コロムビア”の契約シンガーであり、ニューヨークの人気クラブ”カフェ・ソサエティ”の専属として、正にニューヨークの並み居る歌手達の中で頂点を極めていた時、ルイス・アレンという詩人(本業は教師)から、一遍の詩を見せられたことがきっかけでした。

これこそが「奇妙な果実」。

その詩は、当時アメリカ南部で頻繁に起きていた、悲惨な黒人リンチの様子を、余りにも生々しい描写で淡々と書いたショッキングなものでした。

これを読んだビリーは「唄おう」と決意したのですが、その背景には、人種差別に対する抗議の怒りというよりも、実際に南部で、黒人ミュージシャンであったために病院で診察をことごとく拒否されて亡くなった彼女の父親の話も、心にオーバーラップしたからだとも言われております。

ビリーは早速コロムビアに打診して「奇妙な果実を録音したい」と願いますが、メジャー・レーベルであるコロムビアは、そういった社会性の高い(そして、白人層に対して心象の良くない)歌をレコーディングすることに難色を示します。

そこで「じゃあウチで吹き込みなよ」と、声をかけたのが、当時レコード店兼レーベルだった「コモドア」という小さな会社だったのです。

このレーベル、小さいながらも当時のスイング・ジャズのとてもいい音源を結構残していて、ビリーの「奇妙な果実」も、バックには素晴らしいミュージシャン達が集って、演奏も選曲も、アルバム単位で素晴らしく、結果ビリーのコモドア・レコーディングは真摯にレコードを追いかけているジャズファンの間で「アレは素晴らしい」と話題になります。

当時はシングルのSP盤の時代だったので、コレがLPになるのは、リリースから何十年も経ってからなのですが、とにかくLPとなって、ビリーの死後(戦後)、丁度社会運動も大いに盛り上がってきた時流にも乗って「ビリー・ホリディの奇妙な果実は、社会問題に関心がある人間なら聴かねばならない問題曲」とまで言われるようになって、さっきも言ったように、世界中に拡がります。

しかし、アタシが注目したいのは、そういった社会運動あれこれが絡んだ時代も過ぎた80年代とか90年代、そして21世紀になった現在でも、ビリーのこのアルバムは「ジャズ・ヴォーカルの代表的名盤」として、音楽を愛する人々から、正当に評価され続けているということです。

それもそのはず、このコモドア・レコーディングは「奇妙な果実」1曲のみではなく、この1枚のアルバムの中に、しっとりとした曲、穏やかな曲、やや明るめの爽やかな曲と、単に"暗い”だけではない彼女の素晴らしい魅力が、絹のようになめらかな伴奏と共に、丁度良い塩梅でまとめられているのです。

「イエスタデイズ」「水辺にたたずみ」「ヒーズ・ファニー・ザット・ウェイ」なんかは、後年も彼女のライヴでは欠かせないレパートリーとして、多くのアルバムにレコーディングされた曲です。

ビリーの声、力強さとか華麗な明るさとはちょっと違う位置にある独特のものですが、その一語一語を噛み締めるように、隅々まで切々とした感情(哀しさと優しさ)が行き渡っていて、これはもうやめられませんわ・・・。



(個人的にこのアルバムの中で一番好きな「水辺にたたずみ」)


『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:19| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする