2016年11月21日

スザンヌ・ヴェガ 孤独

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スザンヌ・ヴェガ/孤独
(A&M/ユニバーサル)


今にして思えば1980年代という時代は、あらゆるものがキラキラしていて、まるで魔法がかかったように見えていたような気がします。

たとえば音楽だと、ディスコやニューウェーブ、またはフュージョンであり、またはそれらの影響を強く受けたポップスのほとんどは、まるで過去と決別するかのような爽やかさと軽やかさを、競って放出していたように思います。ありったけのエネルギーを、キラキラすることに費やしながら。

そんな時代の中にあって、スザンヌ・ヴェガの歌声は、常に異質でした。

90年頃でしたかね?テレビのCMで、それはとても静かな、ちょっとオーバーに言えば「無音より静けさを感じさせる歌声」が、流れるようになりました。

これは誰?

と、親父に訊けば

「あぁ、スザンヌ・ヴェガだな、この人はちょっと前にデビューして、結構いいシンガーだと思ったけど、暗いからかなかなか売れなかったなー。でも今CMで人気が出てる」

と。

その時は「へ〜」と思って、それだけだったのですが、あの"アカペラの歌"それから妙なタイミングで、ふとしたはずみで脳内再生されることがままあって、アルバムを聴きました。"アカペラ"を耳にして、5年ぐらいは経っていたでしょうか。





【収録曲】
1.トムズ・ダイナー
2.ルカ
3.鉄の街
4.瞳
5.夜の影
6.孤独
7.カリプソ
8.ことば
9.ジプシー
10.木の馬
11.トムズ・ダイナー (リプリーズ)


探していた"アカペラ"は「トムズ・タイナー」という曲で、1987年にリリースされたという「孤独」という、スザンヌ・ヴェガのセカンド・アルバムの1曲目に収録されていました。


CM曲というのは、なかなか厄介なもので、耳にしたその時いいなと思っても、実際アルバムを買うとその曲だけしか聴けるものがなかったり、もっと酷いのはCMで流されているその部分だけしか良くなかったり、ということも往々にしてあったのですが、スザンヌ・ヴェガに関しては、何故かそんな不安はなかったですね。

何というか、曲やアレンジがどうであっても、あの薄絹のような、透明で儚くて、どこか切ない声の魅力は多分変わらない。そんな確信を持ちながらアルバムのジャケットを手にしたら、ジャケットもタイトルもいい。

実際に歌詞カードをじっくり読みながら、聴き込みました。

「トムズ・タイナー」は、期待通り全編美しいアカペラで、歌詞を読むと、とても詩的練度の高い、心情と風景の巧みな描写が美しい曲です。(歌詞で一番衝撃だったのは、虐待を受けている子供の視点で書かれた、2曲目の「ルカ」でしたが)。

さて、「ルカ」含む2曲目以降は、確かにアレンジは軽やかで爽やかな、いかにも80年代のポップスでしたが、彼女の内へ内へと緩やかに沈み込んでゆくような、ささやきとため息の中間みたいな声ゆえに、少しもキラキラした感じがなく、気持ちを乗せて深い世界に誘われる心地よさに、時間とか生活とか、自分を俗な所に縛っている感覚がヒリヒリと溶けていきました。

80年代という、何もかもがキラキラ狂っていた時代には異質だったかも知れません。では世界中が暗く混沌として、どこか重苦しい2010年代では?と訊かれたら、やはりここでも彼女の声と独特の寂寥感で充たされた唄世界は異質かも知れません。しかし、この"異質"は、どこまでも切なく美しいですね。






『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 18:57| Comment(0) | TrackBack(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする