2016年12月30日

リトル・クリーチャーズ 未知のアルバム

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リトル・クリーチャーズ/未知のアルバム
(Chordiary)

「知る人ぞ知る実力派」とかいう言葉が好きです。

そいでもって「その時代の流行と無縁」とか「正直どこからの影響でこんなサウンドになったのか分からない」という言葉も好きなアタシは、日本において、90年代初頭にデビューしたバンドで大好きなのがリトル・クリーチャーズ。

はい、この人達こそ「知る人ぞ知る」じゃないですか。ほいでもってその当時の流行と無縁というか、最先端のオシャレでカッコイイ音は作ってきたけれども、いわゆる渋谷系と近いようで本質的なものが何か全然違う。全曲英語の歌詞で、浮ついたところの一切ないクールな音楽性は、とても斬新で刺激的だったものです。

はい、かく言うアタシも90年代は激しい音楽ばかり求めて聴いていましたので、デビュー当時のリトル・クリーチャーズ、あんま知らんかったんです。ウチの奥さんが大大大ファンで、付き合った当初に教えてもらい。

「うそぉ!?あのバンドブーム最後の賑わいの時にこんなことやる日本人バンドいたんだー!!」

と、かなりびっくりして以来、特別に注目しています。

彼らが世に出てきたのは1990年、あの有名なオーディション番組「いかすバンド天国(イカ天)」で19代キングに輝いてからなんですね。

もうイカ天最後の方でしたが、この番組は、色んな意味でアクも個性も強くてカッコいいロックバンドをたくさん世に送った番組です。

ギラギラにトンガッたバンドや、サウンドもヴィジュアルも激しく自己主張していたバンドだらけだったイカ天で、ジャズや60年代ノーザンソウル、カントリーポップ(いずれもリアルタイムではそういう音楽だとは気付かなかった)などをサラッと消化して、しかも演奏がめちゃくちゃ上手い。その上手さも派手に弾きまくるとかそんなんじゃなくて、最小限の音で的確にグルーヴする、聴かせる上手さというか、まだ10代だったはずなのにその音楽性にも演奏にも不思議な熟練と、とても上質なアメリカン・ルーツ・ミュージックのエスプリが演奏全体に漂っておったんです。


(初期の彼らはこんな感じ)

それからリトル・クリーチャーズは大ブレイクすることもなく、コンスタントに良質な作品を作り続け、メンバー3人は、それぞれソロやセッションマン等で別個に活動をしながら音楽性をひたすら磨いてきました。

普通、バンドメンバーが、それぞれ外で色んなジャンルの音楽をやってきて、自分達のバンドの作品を作ると、幅が拡がったカラフルな作品が出来そうな気がするのですが、このバンドの凄いところは、それぞれ外で活動して、再び集まって作品を作る毎に、無駄な音がどんどん削ぎ落とされて、統一感のある作品が出来上がるんです。




【収録曲】
1.海原
2.未知の世界
3.夢ならば
4.絡めとられて
5.かんちがい
6.声なき者
7.月の顔
8.嘘の朝
9.赤いスカート
10.隼飛ぶ
11.わずかばかり


「未知のアルバム」は、5年という期間を置いて制作された7枚目のフル・アルバム。


「最小限の音数で、如何にグルーヴするか」ということに、ストイックにこだわったかのように、ギターはループする中毒性の高いリフを刻み、ベースはうねりながら微妙な緩急でサウンドを冷静にコントロールし、ドラムはひたすら乾いた音で、まるで打ち込みのように、厳選された打撃を重ねます。

リトル・クリーチャーズといえば、とにかく曲調とか展開とかよりも豊かに、楽曲に込められたストーリーを語る、青柳拓次、鈴木正人、栗原務の3人がそれぞれ持っている音色の豊かさに尽きるんですが、今回は本当にギター、ベース、ドラムという3つの楽器の音だけで、実に歌っています。

パッと聴くと、洗練を極めていてミニマルな要素で組み立てられた楽曲は無機質に聞こえなくもないはずですが、聴いてて心踊るしじんわりくるし、何よりも音楽そのものが暖かい。ジャンルで言えば何?って訊かれると非常に説明に困るのですが、これは間違いなくアナタの心を豊かにしてくるグッド・ミュージックです。

あと、これまでずっと英語で歌詞を付けてきたリトル・クリーチャーズが、今回全ての歌詞を日本語で唄ってます。これも意味と響きが不思議な次元で調和していてとってもとっても深いです。



(とてもスマートなシティ・ポップ。人力なのにどこかマシーンっぽいドラムもいいんです♪)



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2016年12月29日

ジャニス・ジョプリン チープ・スリル

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ジャニス・ジョプリン/チープ・スリル
(ソニー・ミュージック)

ジャニス・ジョプリンは、もちろんロックやブルースを聴く人にとっては、例外なくその名前を聴けば胸にこみ上げてくるものを覚える特別な歌姫だと思います。

小柄な体から内面のすべてを振り絞りながら吐き出すような唄い方にしても、その生きざまにおいても、あらゆる意味で60年代ロックを象徴する(そして悲劇の)ヒロインでありながら、アタシなんかはどうしても”ジャニス・ジョプリン”という言葉を聞くと、それがどうしても「ブルース」という言葉とイコールなんじゃないかと思い、いつも心が熱く震えて目頭が熱くなります。

アメリカの中でも最も保守的と言われるテキサスで生まれ、生来の内気さと繊細すぎる性格から、同級生たちとはあまり馴染めず、自宅で家族の世話を焼きながら、自室でベッシー・スミスやレッドベリーなど、古いブルースのレコードを聴いたり、本を読んだり、ギターを弾きながらブルースを唄う静かで優しい少女はしかし、どうしても学校での生活とはうまが合わず、大学を中退して、ヒッピー達が集うサンフランシスコに一人出て行きます。

ここで彼女は唄が認められ、初めて心打ち解けて話が出来る仲間達と出会う訳なんですけれども、同時にドラッグとも出会ってしまい、片時も手が離せなくなってしまうんです。

結局、彼女は子供の頃からの夢だった「唄で認められる」という夢を叶えて、何万人もの観衆を熱狂させるスターになっても、色んな男達と付き合っても、最終的に心の隙間を埋める相手に選んだのはヘロインで、それがために正式にデビューしてからたった3年で、27歳の短い生涯を閉じざるを得ませんでした。

「独特」とか「個性的」とかいう陳腐なものを通り越して、鮮烈と衝撃に彩られたジャニスの唄は、人生の苦悩や悲哀に彩られています。

でも、彼女の唄からは、常にそういったものを飛び越えて心を躍らせる不思議な前向きのエネルギーがあって、アタシはそれにいつも元気付けられたり励まされたり、慰められたりしています。

「ブルース」といわずして何と言いましょう。




【収録曲】
1.ふたりだけで
2.愛する人が欲しい
3.サマータイム
4.心のカケラ
5.タートル・ブルース
6.オー、スウィート・マリー
7.ボールとチェーン
8.通行止め *
9.フラワー・イン・ザ・サン *
10.キャッチ・ミー・ダディ (ライヴ)*
11.マジック・オブ・ラヴ (ライヴ)*

*ボーナストラック



ブルースをがむしゃらに補充したい時アタシは、ジャニスの「チープ・スリル」をよく聴きます。

サンフランシスコで出会い、最初に彼女を受け入れた"ビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニー"というロック・バンドが、ジャニスのヴォーカルをメインにして製作した、ジャニスにとっては実質的なデビュー・アルバムです(ビッグブラザー&ホールディング・カンパニーとしては2枚目)。

伝説のモンタレー・ポップ・フェスティバルで名演となり、ジャニスの名前を一気に知らしめた、ブルース・シンガー、ビッグ・ママ・ソーントンのカヴァー「ボールとチェーン」、身を切るような壮絶な歌唱で彼女の代表曲となった「サマータイム」はもちろん、明るく弾ける唄い方が何故かどうしようもなく切ない「心のカケラ」、ピアノのみをバックに、戦前ブルースのフィーリング濃厚な「タートル・ブルース」とか、あぁもうたまんなくヒリヒリするような曲がたっぷり入ってます。

ビッグ・ブラザーの演奏は、お世辞にもテクニカルとは言えません。ファズをガンガンかましてキレの良さとサイケな破れっぷりで暴れるサム・アンドリューのギターは「おぉ!」と思わせますが、リズム隊は結構素人っぽいんですよね。

だからジャニスはもっと本格的なソウル/R&Bなバッキングが出来るバンドを求めてビッグ・ブラザーから離れて行っちゃうのですが、この粗削りでドサクサな感じのバンド・サウンドとジャニスのエモーショナルなヴォーカルが、テク云々とはカンケーないところで爆発してるこの感じ、やっぱり特別です。

ブルースといわずして何と言いましょう。





(ジャニスとビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニーによる「ボールとチェーン」モンタレー・ポップ・フェスティバルの映像です)


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2016年12月28日

レッド・ホット・チリ・ペッパーズ ワン・ホット・ミニット

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レッド・ホット・チリ・ペッパーズ/ワン・ホット・ミニット
(Wea/ワーナー・ミュージック)

は〜い年末ですね〜。皆さん仕事納めとかで、今日はホッと一息付いている方も多いかと思いますが、アタシは31日までガッツリ仕事ですよ〜。でも、その間ブログはきっちり更新しますので、見てやってくださいねー(切実)!!

今日は年末のアタフタに触発されて、急激にロック魂が目覚めましたのでレッチリです。

懐かしいな〜と思って聴いていたのが「ワン・ホット・ミニット」。

これが発売されたのは、確か1995年。

「ブラッド・シュガー・セックス・マジック」で、ドカーンと人気が出た、あのレッド・ホット・チリ・ペッパーズの4年ぶりの新作ということで、大々的に宣伝されて物凄く売れたアルバムだったんですが、聴いた人からの反応は賛否両論。

アタシの周りでもどちらかといえば「否」の方が多かったんですね。

え?何で?確かに音は昔のレッチリに比べてポップになったけど、より厚みが出て曲もしっかり作りこまれたものになって、これはこれでなかなかカッコイイじゃん?どして?

と、訊いたら

「う〜ん、やっぱりジョン・フルシアンテのギターじゃなきゃなぁ〜・・・」

というものでした。

はい「ブラッド・シュガー〜」の大ヒットの後、レッチリのサウンドの要だったギタリスト、ジョン・フルシアンテが、実は脱退してたんですね。

そん時にギタリストのオーディションを色々と行ったんだけど、いいヤツがいなくて、結局当時ジェーンズ・アディクションを解散して体が空いていたジョン・フルシアンテが後釜として加入したという経緯が、このアルバム誕生の裏にはあります。

ジェーンズ・アディクションといえば、ややそのサウンドはハードロック寄りではあったんですが、レッチリやR.E.M.なんかと大体同時期に出てきて、オルタナティヴ・ロックの元祖とか呼ばれていて、音楽的な傾向も、うん、なかなか合うんじゃない?問題はナヴァロがどれだけファンクとかそういう路線に対応できるかなんだけど・・・いや出来てんじゃん!フルシアンテとはまたアプローチ違うけど、これ全然いけるじゃん!

と、アタシは普通に嬉しかったんですが、やっぱりデビュー当時から知るファンにとっては、初期ギタリストのヒレル・スロバクとジャック・シャーマンが「とっちらかったハチャメチャ感が楽しいレッチリ・サウンド」を作り上げ、それをフルシアンテが「母乳」で”ファンク、ジャズ、ヒップホップの要素を軸にハードなサウンドを整理した作風”という風に纏め上げたというのがおっきかったんでしょうね。で、その頃付いたファンにとっては「ブラッド・シュガーで親しんだ音が変わることに抵抗がある」という考えの人は多かったでしょう。

加えて後年になって(つまりフルシアンテが復帰してから)メンバー達がインタビューで「ワン・ホット・ミニットは正直しんどかった」とかいうネガティヴ発言をしたことなどが、このアルバム不人気のおっきな要因として考えられます。

でも、それらはすべて、今となってはどうでもいいことであります。

その当時、そういったネガティヴな情報など何も知らんで聴いた正直な感想としては

「何か、ギターがちょいとヘヴィになって、ポップな曲はこれまで以上にポップでファンキーなんだけど、アンダーグラウンド臭に関しては”ブラッド・シュガー”以上だし、何よりもすごく丁寧に練り込まれた感があるぞ!」

というものでした。



【収録曲】

1.レッチリの電撃ワープ
2.エアロプレイン
3.ディープ・キック
4.マイ・フレンズ
5.コーヒー・ショップ
6.ピー
7.ワン・ビッグ・モブ
8.ウォークアバウト
9.ティアージャーカー
10.ワン・ホット・ミニット
11.フォーリン・イントゥ・グレース
12.教祖たちのゲーム
13.トランセンディング~リヴァーに捧ぐ~


実際に、アルバムをレコーディングするに当たって、ナヴァロはとても気合いが入っていて、メンバー達と入念に曲作りからアレンジに至るまで作り込んだみたいです。

だからレコーディングは、レッチリとナヴァロの激しい我のぶつかり合いだったことは想像できます(実際このアルバムのリリース直後、ナヴァロは脱退しておりますし)。でも、両者の緊張感が極限まで達して見事にピタッと合った曲が、ヒットした「電撃ワープ」とか「エアロプレイン」とか「ディープキック」等のノリノリイケイケな前半の曲であり、ナヴァロの攻めるギターに思いっきり当てに行って、結果これまでの作品の中で最もグルーヴィー、バキバキに弾きまくってるフリーのベースだと思うのです。

ナヴァロのギターとフリーのベース(ボリュームでかめ)とが、トラック上で強引に響き合うところなんか、今でも鳥肌立つぐらいカッコイイし、このアルバムでしか聴けない特別な展開だと思います。

加えて後半の、ややダウナーで沈鬱な展開。

これは多分、レッチリ側とナヴァロ側の意見があまり合わないままレコーディングされた(とはいってもお互い一流のミュージシャン同士、妥協は感じられません)とおぼしき曲でありますが、ジトジトと不気味に高まってゆくテンションの中に、バンドとしてのとてつもないヤバい存在感を感じさせてくれて、何よりも飽きが来ません。

アタシは最近後半がとても好きなんですよね〜♪

今や「カリフォルニケイションでレッチリ知った」という人がファンの大半で、”2000年以降”のレッチリのサウンドや曲作りの原点がある作品として、このアルバムが再び評価されているのは嬉しいことです。




(「エアロプレイン」ライヴ。この頃は頭に電球被ったりコートのフード被ったり、色々と忙しかった)


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2016年12月26日

ハウリン・ウルフ ライヴ・アンド・クッキン

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ハウリン・ウルフ/ライヴ・アンド・クッキン
(Chess/ユニバーサル)

何てったって我らがハウリン・ウルフ親分のライヴであります。悪かろうはずがないのです。

何しろあのキョーーーレツなダミ声で、どのアルバムだろうが遠慮ナシに吠えまくり、190cm、138kgの巨体を揺さぶりながらステージもスタジオも所狭しと暴れまくっていたといいます。

どんな風に暴れまくっていたかといえば

『激しく身をよじり、柱や壁の幕によじ登っていた』


おいおい・・・プロレスじゃねえか。

と、誰もが思います。

しかし、そんな親分のパフォーマンスと、同時代の誰よりも激しいロッキンなブルースは、50年代のシカゴの若者達の心を激しく掴み、ウエストサイドの子供達の間では、ダミ声で叫びながらのたうちまわる「ウルフごっこ」なる遊びも流行ったようであります。

ほれ、ブルースっつったら、何だかんだロックのルーツで凄いですとか、人生の悲哀が滲んでて深いとか言われるじゃないですか。それはもちろん正解で、アタシもブルース聴く時はそんな凄さだとか深さに感激したり身震いしたりして聴いてたりするんですが、ウルフ親分に関してだけは、そんな凄さや深さを常々上回る荒々しさを、アタシはいつも感じるんです。

もちろん、ウルフ親分、並のミュージシャンのそれを遥かに上回る渋さや深みを十分に持ってる人なんですが、上回ってなお、脳天にガツーンとくる衝撃力なるものを持っております。

そりゃもうどのアルバムでも親分は、一切の手抜きをすることなく、死ぬまで愚直なまでにラフでタフで荒々しいブルースで、ロックしまくるわけなんです。

1960年代の半ば頃から心臓病の持病を抱え、70年にはカナダで交通事故に遭ってしまい、この後遺症で腎臓を悪くした上に車椅子に乗るようになってしまい、結果ステージを所狭しと暴れ回るパフォーマンスは出来なくなってしまいましたが、それでも声の迫力や楽曲の荒々しさは全然変わりません。

どころか、少なくともCDやレコードなどの音源を聴いただけでは、肉体的な衰えなんさあ微塵も感じさせません「え、そんなことあったの?」と、アタシは今でも思います。






【収録曲】
1.ホエン・アイ・レイド・ダウン・アイ・ワズ・トラブルド
2.アイ・ディドゥント・ノウ
3.ミーン・ストリーター
4.アイ・ハド・ア・ドリーム
5.コール・ミー・ザ・ウルフ
6.ドント・ラフ・アット・ミー
7.ジャスト・パッシング・バイ
8.シッティング・オン・トップ・オブ・ザ・ワールド
9.ビッグ・ハウス
10.ミスター・エアプレイン・マン

で、親分唯一のこのライヴ・アルバムなんですが、コレが録音されたのが1972年。

ミドルテンポの曲が多く、実にくつろいだ雰囲気だったので、最初こそ「あ〜、ウルフも丸くなったんだね。楽しそうに吠えてるね〜」なんて思ったのですが、よくよく聴いてたら、全然そんなことはない。

70年代の録音のはずなのに、ささくれだったゴリゴリのバンド・サウンドはシカゴ・ブルースが最もキケンな緊張感に満ちていた50年代の空気そのものだし、ギターのヒューバート・サムリン、テナー・サックスのエディ・ショウ、ピアノのサニーランド・スリム、そして「シカゴ・ブルースといえばこのリズム隊」の、デイヴ・マイヤーズとブレッド・ビロウの"ジ・エイシズ"コンビという、これはもうハウリン・ウルフのバックバンドとしてはこれ以上望むべくもない最高のメンツ。

特に"ウルフ一家若頭"ヒューバート・サムリンのプレイは、1954年に親分がシカゴに出て来てから、ずーっと一緒にプレイしてきて18年の見事なバックアップです。

初期の頃から親分の暴れまくるヴォーカルを、オブリガードの鋭い斬り込みで煽る絶妙なレスポンスでしたが、ここでの破壊力溢れる"斬り倒し"ギターの凄まじさは、サムリン傷害の、や、生涯のベスト・プレイですよこれは。「かっこいいブルース・ギター」を志す人は、まずもってこのアルバムのギターを聴いてください。

あと、このアルバムを聴く時は、通常より少し大きめの音で聴いてくださいね。「ヤバい!」の度合いが全然違いますから。










(素敵なライヴ動画発見!これは1970年代頭か60年代後半頃ですね〜♪)

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ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜



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2016年12月24日

B.B.キング クリスマス・セレブレイション・オブ・ホープ

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B.B.キング/クリスマス・セレブレイション・オブ・ホープ
(ユニバーサル)

アメリカのミュージシャンにとって、スターの条件というのは

「クリスマス・アルバム」を作ること。

なんだそうです。

で、B.B.キング。

ブルースファン、いや、洋楽好きな人なら、B.B.がブルースを代表する大スターであることは、既に承知のこと。

長年シーンの最前線に立って頑張ってきたからベテランになって有名になったんでしょ?ほれ、60年代になってクラプトンとかストーンズがブルース人気に一役買って、それで「B.B.は凄い」とか言ったから人気出たんじゃ?と思う人、それは正解だけれどもちと違いまして、B.B.の場合は比較的若い頃からブルースの枠を飛びぬけた、異例とも言える人気を誇ってたんです。

その理由というのはもちろん50年代当時は斬新だったエレキギターでの単音のソロをぎゅいぎゅいと、当時最も人気だった「ホーン入りのフルバンド・スタイルのバンドサウンド」に乗っけて、当時これまたブルースやR&Bの世界では一番ナウでカッコイイものだったゴスペルの影響が濃い強烈なシャウトで唄ってたとか、そういうスタイル的なものもあったでしょうが、やっぱり何よりもB.B.キングという人は、ブルースという音楽を「個人の感情の奥底を表現したもの」として明確に捉え、かつそれを「最高のエンターティメントとして吐き出すこと」に、全キャリアを通じて心砕いていたからでしょう。

なのでB.B.のブルースは、いつどんな時にどの時期のどの曲を聴いても、最高にディープなブルースとしての奥行きと、パンチの効いたブラック・ミュージックとしての興奮と、上質なポップスとしてのツカミを持っています。

B.B.のブルースは、王道も王道、その真ん中に常にどっしりと腰を下ろしてはおるのですが、そこからちょいと手足を伸ばせばジャズにも行けるしジャンプやジャイヴにもR&Bにもソウルにも行けるし、当然ロックにもすぐ行けちゃう。それがどれだけ凄いことかということを、アタシは最近にしてしみじみ考えるようになっております。恐らくB.B.に関して言えば、60年代にロックの連中がブルースを再評価しなくても、一定以上の人気を保ったまま、60年代70年代、そして80年代90年代をたくましく生き残っていたと思います。えぇ。

さて、随分と前置きが長くなりましたが、今日ご紹介するのはB.B.キングのクリスマス・アルバムです。






【収録曲】
1.プリーズ・カム・ホーム・フォー・クリスマス
2.ロンサム・クリスマス
3.バック・ドア・サンタ
4.クリスマス・イン・ヘヴン
5.アイル・ビー・ホーム・フォー・クリスマス
6.トゥ・サムワン・ザット・アイ・ラヴ
7.クリスマス・セレブレイション
8.メリー・クリスマス・ベイビー
9.クリスマス・ラヴ
10. ブルー・デコレイションズ
11.クリスマス・カムズ・バット・ワンス・ア・イヤー
12.ブリンギング・イン・ア・ブランド・ニュー・イヤー
13.蛍の光
14.ホワット・ア・ワンダフル・ワールド(ボーナス・トラック)


リリースは2003年、B.B.が何と御歳73歳の頃に”満を持して”リリースに踏み切ったアルバムなんですよ。

アタシは正直「B.B.ほどの大物が、これまでクリスマス・アルバムを作ってなかったんだ」という驚きの方が大きかったですね。えぇ、何と言っても最初に書いたようにアメリカのミュージシャンにとっては「クリスマス・アルバムを作ること」がひとつの人気の基準であった訳ですから。本当に意外でした。

でもまぁここまで来たら今のすっかりいいじいちゃんになったB.B.のアルバムだから、もうここまで来たら新作そのものがお祭りみたいなもんだから、きっと和気藹々の同窓会みたいな感じでゲストとか招いてやってるんだろう。うん、いいね、いいよね、そういうのもなんかね。

とか、思っていたのですが、コレが聴いてみてビックリ、ゲストとかは一切ナシで、当時のツアーバンドのみをバックに、唄もギターもかなり気合いの入った、本気度の高いクリスマス・アルバムでした。

のっけからロンサム感満載のじっくり聴かせる@で「あ、すいません、クリスマスナメてました」と反省したアタシ。

Aは、B.B.の敬愛するローウェル・フルスン御大の曲かと思えば、コチラはロイド・グレンのヴァージョンで、これまたミドルテンポでジワジワ盛り上げながら聴かせます。

「これぞブルースのクリスマス!」といった感じの、すこぶるハードボイルドな渋みが滲むB(原曲はクラレンス・カーターだぜぇ!)、ここで盛り上げといて次は絶対にバラードで泣かせにかかると思ったらやっぱりその通り涙腺直撃のC、前半のここまでで、本当に「あぁ、いいもん聴いたなぁ・・・と余韻に浸る間もなくジャジーなオルガンでスウィンギーに後半の幕開けを告げるDのインスト、すげぇグッとくるバラードE、60年代にヒットしたクリスマス・ソング(シングルは出してたの)のアレンジも楽しいセルフカヴァーF、ブルース/R&Bクリスマス・チューンの必殺定番曲、チャールズ・ブラウンのGときて、インストでたっぷりギターの泣きを響かせるH、このアルバムでは一番パーティー度の高い軽快なI、チャールズ・ブラウンと同じく、若き日のB.B.にとってはアイドルであったシンガー/ピアニスト、エイモス・ミルバーンのJ、そして再びチャールズ・ブラウンの小洒落たパーティー・ソングのK。

で、ラストの「蛍の光」なんですが、これは「ヤラレた!」「まさかここでこの曲が来るとは!」と話題になり、確かグラミー賞のベスト・インストゥル・メンタル賞に輝いた曲なんですけど



これにはちょいとした意味があって、もちろんこの曲は「古い年を送って新年を迎える曲」なので、クリスマス・アルバムのラストには意外でもなく、じつにしっくり来る選曲なんですが、Jのチャールズ・ブラウンのヴァージョンを聴いてみてください。



ね、イントロで使われてるでしょ。

こういう「先人へのさり気ないリスペクト」を大事な所にサラッと入れ込んでくるB.B.カッコイイんですよね〜・・・。

単純にクリスマスという「メモリアルな意味」だけじゃなくて、バンドとの本気のやりとりとか、70を過ぎてもまだまだアツいB.B.の気迫とか、こういった”リスペクト”がいっぱい詰まった、本当にひとつのアルバムとしての聴きどころが一杯詰まった素晴らしいB.B.のクリスマス・アルバムです。

それとこのアルバム、収益は、がんやエイズの治療などを行う医療センターに寄付されたそうです。

「自分の長年の夢」を実現させたその喜びを、人のためにスマートに使う。そういうところがカッコイイんですよねぇ・・・。





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2016年12月21日

チェット・ベイカー 枯葉

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チェット・ベイカー/枯葉
(CTI/キングレコード)

チェット・ベイカーのアルバムを、さて紹介しようと思って聴いていたら、その美しい「ほろびの香気」に、すっかりヤラレてしまい、ここのところまんまとチェット・ベイカー漬けです。

麻薬が原因で、何度も何度も引退しては復帰するを繰り返していたチェットですが、1988年にホテルの窓から転落という不慮の死を迎えるまで、実に膨大な数の作品を残していて、流石にアタシも全部までは耳を通してはおりませんが、今まで聴いたアルバムの中で「これはつまらない」というものに出くわしたことがありません。

どのアルバムも、この人独特の、柔らかく優しく、そして美しく破滅に向かっているあの感じで満たされていて、そしてこの人はデビューしてから晩年まで、スタイルが全く変わらないんです。

引退して復活するタイプのジャズマンというのは、その間演奏のアプローチや、或いは音色そのものが変化してることが多いんです。でも、チェットの場合は、引退して復活しても、または麻薬の影響で顔がショッキングに変わってしまっても(顔がしわしわになった上、歯も抜けていた)、スピーカーから聞こえるトランペットの音は相変わらず繊細で柔らかく、ハッとするようなアドリブは、煌めきと詩情に輝いていて、唄声も淡さの中に深く沈んだ陰影を感じさせる、あの幻想的な声のままです。

今日はそんなチェット・ベイカーの、後期のアルバムの中から名盤の誉れ高い「枯葉」です。




【パーソネル】
チェット・ベイカー(tp,voAE)
ポール・デスモンド(as)
ボブ・ジェームス(el-p)
ロン・カーター(b)
スティーブ・ガッド(ds,@〜C)
ジャック・デジョネット(ds,D〜F)
ドン・セベスキー (cond)

【収録曲】
1.枯葉
2シー・ワズ・トゥー・グッド・トゥ・ミー
3.ファンク・イン・ディープ・フリーズ
4.タンジェリン
5.我が心に歌えば
6.ホワットル・アイ・ドゥー
7.イッツ・ユー・オア・ノー・ワン


「枯葉」といえば、元々はシャンソンでありながら、ジャズで最も有名なスタンダードとして知られるようになった曲ですが、キャノンボール・アダレイの、実質マイルス・デイヴィスのアルバム「枯葉」を筆頭に、その後モダンジャズの甲乙付けがたい名演が次々世に出されます。

ビル・エヴァンス、サラ・ヴォーン、ウィントン・ケリー、あぁ、個人的にはドン・ランディやアーニー・ヘンリーも推したいな・・・などと、ジャズファンならば誰もが納得の名盤と「私のお気に入り枯葉」を色々浮かべて楽しめる、そんぐらいの曲なんですけどね。チェットのこの枯葉は、文句なしに前者、つまり「聴けば誰もが納得の名演」の枯葉です。

アタシの体験で恐縮ですが、音を聴く前は「きっとチェットが唄ってるんだ」と思ってました。そして50年代の録音のように、端正にスウィングする西海岸サウンドのストレートなジャズだと思ってました。

実際はチェットは唄わず(ヴォーカルはAとEの2曲だけ)、サウンドもいかにも70年代な、ややフュージョン入ってる現代的なアレンジでした。

これが70年代に一世を風靡したフュージョンの先駆けである"CTIレーベルの音"と知るのは大分後のことです。

微妙に王道の4ビートからは距離のある独特のリズムに、うっすらとストリングスの絡むアレンジに、全く反発することも迎合することもなく、ジャズのお手本のような、フレーズを重ねる毎に美しい、ふんわりと匂い立つアドリブを唄うチェットのトランペットは、これはもうジャズがどうとかいうよりも、音楽の美しさそのものを感じます。

もしも私がトランペッターで「理想の枯葉をやりなさい」と言われたら、多分このアドリブを完コピしてはいどうぞ、ってやるでしょうね。それぐらい完璧で美しく、非の打ち所のない演奏。しかもただ単に綺麗なだけでなく、そのフレーズの中には譜面では起こせない目一杯の悲哀がたっぷりとまぶされているんです。

バックが当たり前のジャズじゃない、特にスティーヴ・ガットのドラムは、ガンガンに攻めるタイプで、彼が最初は慎重に装飾を付けるのみに抑えてるのですが、途中から堰を切ったように情熱的に煽ってくるのがとにかくいいんですよ。

あと、ピアノでなくエレキピアノを弾いてるボブ・ジェームスもいいですね。フェンダーローズの甘い音色が美しい音楽と出会った時の中毒性の高さは、ビル・エヴァンスやチック・コリアの必殺技だと思ってましたが、チェットの退廃に寄り添うこのアルバムのエレキピアノ、かなり危険な美しさです。

とにかく「枯葉」は、チェット生涯の極めつけでありますが、「唄うチェット」の極めつけ「ホワットル・アイ・ドゥ」での、どこまでも沈み混む退廃美の、もう行き着く果てのようなやるせない唄とバックとのコンビネーションも筆舌に尽くしがたいものがあります。

いや、でもどの曲も、気持ちよく哀しさに浸れますので、チェットに少しでもハマりそうな予感を胸の内に抱えてどうしようと思っている人はコチラぜひ。




(この儚い儚いトランペットと、諦めに満ちたヴォーカル。でも美しい・・・)


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2016年12月20日

チェット・ベイカー・シングス

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チェット・ベイカー・シングス
(Pacific Jazz)

チェット・ベイカー

1950年代にデビューし、その卓越したメロディアスさを誇るトランペットの演奏テクニックと、アイドル並みの端正なルックスに加え、中性的でアンニュイな独特な声の魅力でもって、その時代のジャズマンとしては桁外れの人気を誇った(あのマイルス・デイヴィスでさえ、レコードの売り上げでは桁違いの差を付けられていた)。

そんな時代の寵児でありながら、ミュージシャンとして世に出たその時から麻薬(ヘロイン)にドップリはまり、絵に描いたような転落の後、周囲を振り回し、巻き込み、傷付け、裏切り、ボロボロになって最期は自殺とも事故とも他殺とも取れる悲惨な人生の閉じ方をした。

・・・はい、只今イーサン・ホーク主演の映画「ブルーに生まれついて」が公開されておりまして、この映画を観たことで、主人公であるチェット・ベイカーやジャズという音楽に興味を持つ人が増えているようです。

良いことですね、素晴らしい。

ところでアタシ、ミもフタもないこと言っちゃいますが、ジャズって暗い音楽だと思うのですよ。

「えぇ!?ジャズはオシャレでノリノリで明るいじゃん、どーして?」

と言う方は多いと思いますし、それ否定しません。

でもね、ジャズにのめり込むと、何の前触れもなく、フッと気付くことがあるんです。自分はこのオシャレでスイングする音楽に、どこか不吉な"死"とか退廃の匂いを感じて、それを求めて聴いている。って。

特にジャズは、繊細で美しい演奏や表現をする人に、その傾向が顕著だったりします。

ビル・エヴァンスCDが何十回同じものが再発されても、変わらず売れ続け、ジャズ・ピアノで不動の人気No1.をずーっとキープしてるのも、やっぱり単純に彼の音楽性が普遍的で分かり易い、親しみ易いというよりも、彼のピアノのガラス細工のように美しいフレーズのそこかしこから、どうしようもないものが絶えず滲んでいて、好きな人は大体その"どうしようもないもの"の魅力にヤラレてしまって中毒になるからなんだと思います。

チェット・ベイカーも、アタシにとってはビル・エヴァンスと同質の"どうしようもないもの"の不吉な美しさを、オシャレとか軽やかとかそういった表向きの顔の裏側にたっぷりと持っている人だと思います。




【パーソネル】
チェット・ベイカー(vo,tp)
ラス・フリーマン(p,celeste)
ジェイムス・ボンド(b,@〜E)
カーソン・スミス(b,F〜M)
ピーター・リットマン(ds,@〜E)
ボブ・ニール(ds,F〜M)

【収録曲】
1.ザット・オールド・フィーリング
2.イッツ・オールウェイズ・ユー
3.ライク・サムワン・イン・ラヴ
4.マイ・アイディアル
5.アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォア
6.マイ・バディ
7.バット・ノット・フォー・ミー
8.タイム・アフター・タイム
9.アイ・ゲット・アロング・ウィズアウト・ユー・ヴェリー・ウェル
10.マイ・ファニー・ヴァレンタイン
11.ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー
12.ザ・スリル・イズ・ゴーン
13.アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー
14.ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング


「チェット・ベイカー・シングス」は、1954年から56年、ミュージシャンとしては最も元気だった時代に作られた「歌もの」のアルバム。

元々、トランペットでは10代の頃か並外れた実力で、何とチャーリー・パーカーのライヴに飛び入りしてバリバリに吹きまくって気に入られたという、折り紙付きでしたが、ライヴでは時々気分転換に唄うことがあり、それを聴いた女性客が、常にそのささやくような声にメロメロになっていたといいます。

レコード会社は、これを逃しませんでした。

「試しに」と吹き込んでシングルで発売した「バット・ノット・フォー・ミー」と「タイム・アフター・タイム」が大ヒット。

これがきっかけでブレイクしたチェットは「歌えるトランペッター」として、大々的に売り出されます。

実はチェットにとってヴォーカルは、ライヴの合間の、あくまで余技でしたが、いつの時代でも最も売れるのは歌手でありますし、本人の気持ちとは裏腹に、彼の声にはやはり、その繊細で儚い音色のトランペット同様、聴き手の理性をトロトロに溶かしてしまう、抗し難い魔力があります。

たとえば1曲目「ザット・オールド・フィーリング」での、小粋にスウィングしつつも、どこか思い詰めたような甘酸っぱい痛みがジワッと拡がる歌い出しの空気は何でしょう。3曲目「ライク・サムワン・イン・ラヴ」の、穏やかに凪いでいながら気が付くと聴き手の感情を柔らかく呑みこんでしまいそうな、この果てしない虚無感は何でしょう。声と共に、どこまでも深みに優しく堕ちてゆく「アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォア」や「ザ・スリル・イズ・ゴーン」での、ラス・フリーマンのピアノの、滅びの美に満ち溢れた情景を、どんな美しく狂おしい言葉に置き換えればいいでしょう。

もちろんこれを「オシャレで最高にクールなジャズ」として聴いて、聴き続けても全然間違いではないです。

でも、願わくばジャズに興味を持った方が、チェット・ベイカーのトランペットと唄に、ふんだんにまぶされた「毒の美味なること」にハマりますように。。。。







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2016年12月18日

ブルース&ソウル・レコーズ 2017年2月号!!

ローリング・ストーンズの全曲気合いの入ったブルース・カヴァー「ブルー&ロンサム」が、大人気で大変なことになっております。

ウチみたいに店舗を持たない地下CD屋ですら、国内盤と輸入盤とアナログLPの予約や注文が次々入ってくるんですよ。これは凄いことですよね。お客さんからは「いやぁ、アンタんとこのブログでブルースのことも書いてるの読んで、ストーンズ欲しくなったんだよ〜♪」と、嬉しい言葉も頂きます。はい、本当にありがとうございます。

アタシも個人的に「ブルー&ロンサム」は愛聴盤です。仕事(正業)が車でもってあちこち行く仕事なので、仕事車のカーステに放り込んで、一日中ゴキゲンで聴いたりしています。

いや、このアルバム本当に素晴らしいですよね、ストーンズが若い頃聴いて夢中になったブルース、そのブルースの本質である”ヤバい空気”これがそのまんま回顧や情緒に流されることなく、ギラギラにトンガったサウンドに乗って、今の時代の音楽に慣れた耳にも刺激と興奮を「てめぇこのやろう!」と流し込んでくれる。このガチンコのサウンドには、今もって「やべー!かっこいー!!」以外の言葉が上手く出てこない、というのが正直なところです。

さてさて、このところそんな感じでリアルでもネットでも、会話する人とは「ストーンズいいよね」「ブルー&ロンサムほんとやべぇ」という話で飽きもせず盛り上がっているところに、我が国が誇る唯一のブルースとソウルの雑誌様『ブルース&ソウル・レコーズ』が、イカした特集を最新号でぶっこんできました。

『ザ・ローリング・ストーンズ ブルー&ロンサムを聴く!』

これは当然です、我らがブルース&ソウルレコーズなら、ストーンズのこの素晴らしいブルース・アルバムについて書かない訳はないでしょうし、ここでカヴァーされたブルースの原曲や、演奏しているブルースマン達のことをひとつひとつ丁寧に掘り下げて、最強のロックンロール・バンド、ローリング・ストーンズとブルースの深い関わりについての、滅茶苦茶気合いの入った記事を書くだろうと・・・。

どれどれ、内容をおさらいしておくか・・・。




ど!

どぉぉぉぉぉぉ!!!!





何ですと!?

付録CDに「ブルー&ロンサム」で採り上げられた曲の原曲を、しかもアルバム収録順に全曲入れてます。


ですとぉ!?

いや、前々から粋なことをしてくださる雑誌様でしたが、今回は粋過ぎるでしょ、買わなきゃ・・・。






ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜



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2016年12月17日

ビッグ・ウォルター・ホートン メンフィス・レコーディング1951

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ビッグ・ウォルター・ホートン/メンフィス・レコーディング1951
(Pヴァイン)

ブルースにおけるハーモニカの歴史で、その奏法に革命を起こした人は何人かおります。

特に戦後、ギンギンに鳴るエレキギターのサウンドに合わせるようにハーモニカの音もアンプで電気増幅させたサウンドで吹かれるブルース・ハープのことを”アンプリファイド・ハープ”と言いますが、ブルースファンの中ではこの奏法を生み出したのは、これはもうリトル・ウォルターであると言われてます。

ところがブルースの世界には実は”もうひとりのウォルター”が居て、彼もハーモニカ奏者として試行錯誤の末に「あれ?ハープをアンプに突っ込んだらいけるんじゃね?」ということを発見した人だと云われております。

彼の名はビッグ・ウォルター。

ウォルター・ホートンとか”シェイキー・ジェイク・ホートン”とかも呼ばれております。

戦前から活動し、戦後シカゴ・ブルースの黄金期を創った忘れじの名手の一人であり、1981年まで長生きして一線で活躍し続けたので、音源も結構残っているんですが、リトル・ウォルターのような破天荒な生き様で数々の伝説を作った訳でもなく、サニー・ボーイ・ウィリアムスン(U)のような強烈にアクの強いキャラクターで、ブルースに憧れるキッズ達に「ブルースマンっておもしれぇなぁ〜」と深い印象を残した訳でもありません。

大言壮語、或いは生き様そのものが派手でギャンブル的なブルースマンの中で、彼の性格はどちらかといえば控え目でお人好し。自分がリーダーのレギュラーバンドはほとんど持たず、サイドマンとして呼ばれたら参加して、どんなセッションでもキッチリとリーダーを引き立てる熟練のプレイで応えるという大人っぷり。

吹き方もまた、大胆な強弱を付けてゴリゴリ吹いたり、伴奏の時もメインのフレーズにガンガン絡む訳ではなく、あくまでメインのフレーズや楽曲のメロディに寄り添って、ジワジワと情感を拡げてゆくようなスタイルで、一度ハマッたらこよなく好きになってしまう類の”味”で聴かせる人なんです。

さてさて、そんなビッグ・ウォルター、1917年にミシシッピで生まれておりまして、10代の頃に家族でメンフィスに移住しておりますが、この地でメンフィス・ジャグ・バンドスリーピー・ジョン・エスティスとコンビを組んでいたハミー・ニクソンらにハーモニカの吹き方を教わり、30年代には既にメンフィスからミシシッピ周辺のジューク・ジョイントを演奏して回る程のいっぱしのハーモニカ吹きになっておりました。

1940年代になると、メンフィスではブルース・バンドの電気化がいち早く行われておりました。

メンフィスといえばご存知エルヴィス・プレスリーでありますが、プレスリーの音楽が何であんなに初期の頃からロックしてたのかといえば、彼が小さい頃によく隠れて観に行ってたブルースのライヴが、既にギンギンにロッキンなヤツだったからなんですね。

「あの頃のメンフィスやウエスト・メンフィスでは分かりやすいクレイジーなノリのブルースがウケてた。ギターのボリュームを上げられるだけ上げて、ドラムもピアノもその音に負けないぐらいに目一杯叩くんだ。当然唄うヤツはもっと負けてられない。そんなノリだったよ、みんな」

と、シカゴに出る前にウエスト・メンフィスでブイブイ言わせていたハウリン・ウルフが言うように、当時のメンフィスで演奏されていたブルースは、とにかくラウドでロッキンだったんですねぇ。

ビッグ・ウォルターも、そんな環境の中で必要に迫られて”アンプリファイド”という技を編み出したんだと思います。

という訳で、彼がメンフィスでレコーディングしていた頃(一部シカゴ時代のものあり)の音源「メンフィス・レコーディングス」を聴いてみましょう。



【収録曲】
1.Jumpin’ Blues
2.Black Gal
3.Hard Hearted Woman
4.Go Long Woman
5.What’s The Matter With You (take 1)
6.Cotton Patch Hot Foot
7.Little Boy Blue (take 2)
8.I’m In Love With You Baby (Walter’s Blues) (take 1)
9.Blues In The Morning
10.Now Tell Me Baby (take 1)
11.I’m In Love With You Baby (Walter’s Blues) (take 2)
12.What’s The Matter With You (take 2)
13.Little Boy Blue (take 1)
14.Now Tell Me Baby (take 2)
15.Have A Good Time
16.Need My Baby (in a session)
17.Need My Baby (in a session)




お〜いぇ〜♪ いぇいいぇ〜い♪ な、8ビート・シャップル・ナンバーが多く、コレが実にノリやすくゴキゲン、またサウンドがいいですね。カラッと乾いたサウンドが醸しだす、何とも言えないヴィンテージ感と、ゲインの付いてないアンプでここまでやれるかというささくれだったギターの音と堂々渡り合っているホートンの、音色こそマイルドだけどかなりモダンなフレーズを繰り出すハープ、たまりません。

これがシカゴに行って小慣れてくると、よりヘヴィな質感になるんだよな〜。なんて機嫌良く思いながら、繰り返し聴けるサウンドです。これぞ50'sメンフィス・ロッキン・ブルース!

この時点でビッグ・ウォルターのハープは後年のようにギンギンにリヴァープを効かせた音ではありませんが、ワイルドに荒くれるバック・サウンドと何の違和感もなく、埋もれることなくブギしてジャンプするハープはたまりませんね。「戦後メンフィス・ブルース」と言っても、あんまりピンと来てくれる人は少ないんですが、このサウンドの質感、味わってしまったらもうこの音のとりこになりますよ。

ちなみにこのセッション、バックには後にジャズ・ピアニストとして有名になるフィニュアス・ニューローンJr.ら、ニューボーン兄弟、ギター、ヴォーカル、ドラム、ハープ、カズーを同時に一人でこなす”一人フルバンド男”(ここではギター、ドラムを同時演奏)ジョー・ヒル・ルイスなど、結構豪華なメンツが脇を固めております。

ちなみに”リトル・ウォルター”という芸名は、実は最初ビッグ・ウォルターが名乗ってたんです。

年齢的に大分後輩になるウォルター・ジェイコブスという少年が”リトル・ウォルター”を勝手に名乗って有名になっちゃったので「ま、いっか。じゃあオレはビッグ・ウォルターを名乗ろうね」と、あっさり名前を譲って、特にリトル・ウォルターのことを嫌うとかそういったのもなく、会えば親しく話をして可愛がってたんだとか。この人のそういうとこほんと好き。



(もういっちょご機嫌なやつを♪ 彼のハーモニカは音色フレーズ共にサニーボーイ・ウィリアムスンT世の影響が強いように思いますがどうでしょう?)

ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜



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2016年12月16日

ボブ・ディラン クリスマス・イン・ザ・ハート

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ボブ・ディラン/クリスマス・イン・ザ・ハート
(ソニー・ミュージック)

これは一昨年ぐらいにリリースされたものだと思ってたら、もう6年前の2009年発売だったんですね。ボブ・ディラン初のクリスマス・アルバムであるところの「クリスマス・イン・ザ・ハート」です。

あの〜、ノーベル賞獲ってしまってから、色々と受賞を巡るあれこれや、その後のテレビ特集なんかを見ておりますと、うん、アタシゃ素直にクソガキの頃から好きで、アタシの知らない音楽を知るきっかけをたくさん与えてくれたボブ・ディラン、大好きなんですけど、だからこそ余計に「何か、詩がすっげぇ難しいけど、社会的な影響力がすげぇ大きかったよ」ということに終始した話ばかりなような気がして、ちょっとそういう持ち上げられ方には「んん〜?」と思っております。

「詩」っていうのは、ボブ・ディランが書いたものでなくても、それが「詩」として成立しているものは、どれもある程度の難しさはあって、だからこそその解釈や感動の道筋は、聴く人や読む人に委ねられ、個々人の知性や感性の中で、ゆっくりじっくりと消化されるべきものなんだと思います。

研究者や評論家といった、いわゆる”偉い人”が解釈する歌詞の話は、確かに参考にはなるかも知れませんが、あくまで参考程度にしておきましょうね。大切なのは歌詞もアレンジも曲調も音色もぜんぶひっくるめての「音楽」です。

CD屋としては、まぁきっかけは何でもよろしい。それこそ「ノーベル賞もらった凄い人の音楽聴いてみよう」でもいいから、ボブ・ディラン聴いてみて、先入観とか世間の評価とかそういうものを、少しづつぺろんと剥がして楽しんでほしいな〜。というのが本音であります。

そんなことをあれこれとここ数日モヤモヤと考えていて

「う〜ん、ボブ・ディラン。そしてもうすぐクリスマス・・・う〜ん、う〜ん・・・あ、そうだ!いいのあるじゃない!!」

と、思い出して、今日は「クリスマス・イン・ザ・ハート」について書いております。


というのも、このアルバムはクリスマスの、というよりも、ディランの非常にリラックスして純粋に音楽楽しんでる”素”が良い具合に出てるアルバムだと思うからです。


【収録曲】
1.サンタクロースがやってくる
2.ドゥ・ユー・ヒア・ホワット・アイ・ヒア?
3.ウィンター・ワンダーランド
4.天には栄え
5.クリスマスを我が家で
6.リトル・ドラマー・ボーイ
7.クリスマス・ブルース
8.神の御子は今宵しも
9.あなたに楽しいクリスマスを
10.マスト・ビー・サンタ
11.シルバー・ベルズ
12.牧人 羊を
13.クリスマス・アイランド
14.ザ・クリスマス・ソング
15.ああベツレヘムよ

このアルバムは、1930年代から60年代にかけて作曲され、どちらかといえばクリスマス・ポップスというよりも、昔から家庭や学校などで歌われているおなじみ定番のクリスマス・ソングをカヴァーしたものです。

ディランといえば、ブルースやカントリー、スピリチュアル(ゴスペルの前身)など、古い時代のルーツ・ミュージックが大好きで、そういう曲をアルバムで演奏する時のディランは、どこかいつもと違う深〜い味わいを放ってくれたりするんですよね。

で、最近のディランといえば、自作曲であってもライヴや新作では結構いい感じに”グダグダ”にして歌ってまして、声も年相応のしわがれ声に年季が入ってて、アタシなんかは「もうこれでいい、これでいっちゃえ〜♪」と嬉しくなります。

で、このアルバムでのディランは正に”それ”です。

バックを手練の名手達(トニー・ガーニエ、トニー・ヘロンにフィル・アップチャーチ、ロス・ロボスのデヴィッド・イダルゴも!)を従えて、安定したアコースティック・サウンドをバックに、ディランがひたすら気分よく、そしてちょっぴり寂しさや切なさを漂わせながらやってる。

ディラン本人は音はずしたり、タイミングがバックと絶妙にズレてたりするんですよね。でもそれは、例えば昔のブルースマンみたいな「おっちゃんしょうがないなぁもう」と、暖かい笑いにしてしまえるぐらい、いい感じの味になってる。

今日これ聴いて「あ、ボブ・ディランのいい加減さ、相変わらずだな〜」と、何か安心しました。

そう、ボブ・ディランは優れた詩人で、音楽や社会に大きな影響を与えた人かも知れませんが、何だかんだでCDやレコード聴いてると、そんなこたぁ関係ない、ただ私個人の中での「イカしたミュージシャン」として、感動させてくれたりホッとさせてくれたりするんです。

「クリスマス・イン・ザ・ハート」とっても暖かくて良いアルバムですよ。





”ボブ・ディラン”関連記事



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