2016年12月16日

ボブ・ディラン クリスマス・イン・ザ・ハート

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ボブ・ディラン/クリスマス・イン・ザ・ハート
(ソニー・ミュージック)

これは一昨年ぐらいにリリースされたものだと思ってたら、もう6年前の2009年発売だったんですね。ボブ・ディラン初のクリスマス・アルバムであるところの「クリスマス・イン・ザ・ハート」です。

あの〜、ノーベル賞獲ってしまってから、色々と受賞を巡るあれこれや、その後のテレビ特集なんかを見ておりますと、うん、アタシゃ素直にクソガキの頃から好きで、アタシの知らない音楽を知るきっかけをたくさん与えてくれたボブ・ディラン、大好きなんですけど、だからこそ余計に「何か、詩がすっげぇ難しいけど、社会的な影響力がすげぇ大きかったよ」ということに終始した話ばかりなような気がして、ちょっとそういう持ち上げられ方には「んん〜?」と思っております。

「詩」っていうのは、ボブ・ディランが書いたものでなくても、それが「詩」として成立しているものは、どれもある程度の難しさはあって、だからこそその解釈や感動の道筋は、聴く人や読む人に委ねられ、個々人の知性や感性の中で、ゆっくりじっくりと消化されるべきものなんだと思います。

研究者や評論家といった、いわゆる”偉い人”が解釈する歌詞の話は、確かに参考にはなるかも知れませんが、あくまで参考程度にしておきましょうね。大切なのは歌詞もアレンジも曲調も音色もぜんぶひっくるめての「音楽」です。

CD屋としては、まぁきっかけは何でもよろしい。それこそ「ノーベル賞もらった凄い人の音楽聴いてみよう」でもいいから、ボブ・ディラン聴いてみて、先入観とか世間の評価とかそういうものを、少しづつぺろんと剥がして楽しんでほしいな〜。というのが本音であります。

そんなことをあれこれとここ数日モヤモヤと考えていて

「う〜ん、ボブ・ディラン。そしてもうすぐクリスマス・・・う〜ん、う〜ん・・・あ、そうだ!いいのあるじゃない!!」

と、思い出して、今日は「クリスマス・イン・ザ・ハート」について書いております。


というのも、このアルバムはクリスマスの、というよりも、ディランの非常にリラックスして純粋に音楽楽しんでる”素”が良い具合に出てるアルバムだと思うからです。


【収録曲】
1.サンタクロースがやってくる
2.ドゥ・ユー・ヒア・ホワット・アイ・ヒア?
3.ウィンター・ワンダーランド
4.天には栄え
5.クリスマスを我が家で
6.リトル・ドラマー・ボーイ
7.クリスマス・ブルース
8.神の御子は今宵しも
9.あなたに楽しいクリスマスを
10.マスト・ビー・サンタ
11.シルバー・ベルズ
12.牧人 羊を
13.クリスマス・アイランド
14.ザ・クリスマス・ソング
15.ああベツレヘムよ

このアルバムは、1930年代から60年代にかけて作曲され、どちらかといえばクリスマス・ポップスというよりも、昔から家庭や学校などで歌われているおなじみ定番のクリスマス・ソングをカヴァーしたものです。

ディランといえば、ブルースやカントリー、スピリチュアル(ゴスペルの前身)など、古い時代のルーツ・ミュージックが大好きで、そういう曲をアルバムで演奏する時のディランは、どこかいつもと違う深〜い味わいを放ってくれたりするんですよね。

で、最近のディランといえば、自作曲であってもライヴや新作では結構いい感じに”グダグダ”にして歌ってまして、声も年相応のしわがれ声に年季が入ってて、アタシなんかは「もうこれでいい、これでいっちゃえ〜♪」と嬉しくなります。

で、このアルバムでのディランは正に”それ”です。

バックを手練の名手達(トニー・ガーニエ、トニー・ヘロンにフィル・アップチャーチ、ロス・ロボスのデヴィッド・イダルゴも!)を従えて、安定したアコースティック・サウンドをバックに、ディランがひたすら気分よく、そしてちょっぴり寂しさや切なさを漂わせながらやってる。

ディラン本人は音はずしたり、タイミングがバックと絶妙にズレてたりするんですよね。でもそれは、例えば昔のブルースマンみたいな「おっちゃんしょうがないなぁもう」と、暖かい笑いにしてしまえるぐらい、いい感じの味になってる。

今日これ聴いて「あ、ボブ・ディランのいい加減さ、相変わらずだな〜」と、何か安心しました。

そう、ボブ・ディランは優れた詩人で、音楽や社会に大きな影響を与えた人かも知れませんが、何だかんだでCDやレコード聴いてると、そんなこたぁ関係ない、ただ私個人の中での「イカしたミュージシャン」として、感動させてくれたりホッとさせてくれたりするんです。

「クリスマス・イン・ザ・ハート」とっても暖かくて良いアルバムですよ。





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2016年12月14日

セロニアス・モンク ザ・ユニーク

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セロニアス・モンク/ザ・ユニーク
(Riverside/ユニバーサル)

さて、「プレイズ・デューク・エリントン」でRiversideからデビューし直したセロニアス・モンクでしたが、このレコード、これまで出した彼の作品の中ではまあまあ売れた方ではありましたが、モンクの名を広く世間に知らしめるまでには至りませんでした。

「うう〜んセロニアス、これは困った。俺はアンタの演奏は素晴らしいと思う。がしかし世間にはまだまだ上手く伝わってはいないみたいだ・・・」

レーベルオーナーのオリン・キープニュースは頭を抱えます。

「ふぅん、そうかぁ・・・(それならそれで別に構わんが、そろそろ自分で作った曲をレコーディングしたいなぁ)。」

「聞いてるかセロニアス?」

「あぁ、聞いてなくはないよ」

「レコードが売れないことには話にならないんだよ、次のレコードを作るにも資金が要る」

「(だからオリジナルをレコーディングさせてくれ)へぇ、そういうものかね・・・」

「次のレコーディングなんだが、スタンダード集にしようと思うんだ。もちろんトリオでね」

「う〜ん、私はオリジナルをやりたいんだ。サックスも入れて欲しい。曲はもう出来ている・・・」

「それは次のセッションじゃダメかな?」

「気持ちは分かるがまずはスタンダードだ」

てな具合に、揉めたかどうかは解りませんが、多分揉めたでしょう。しかしやはり先立つものがないと曲の発表どころではありません。モンクはスタンダードでアルバムを作る事に同意してスタジオに入ります。

そうして出来上がったアルバムに、キープニュースは「ザ・ユニーク」というタイトルを付けてレコードにしました。

このユニークには

「セロニアス・モンクって面白いよ」

という意味と

「さあ聴いてくれ、ここに収められているのはみんながよく知るスタンダードだ、しかしね奥さん、ただのスタンダードじゃあないんだよ。えぇ、並の弾き方じゃない、一度聴いたら忘れられないこれはちょいと変わった他じゃあ聴けないユニークなスタンダード・アルバムだぁ」

という二重の意味を込めたんだと思います。



【パーソネル】
セロニアス・モンク(p)
オスカー・ペティフォード(b,@B〜F)
アート・ブレイキー(ds,@B〜F)

【収録曲】
1.ライザ
2.メモリーズ・オブ・ユー
3.ハニーサックル・ローズ
4.ダーン・ザット・ドリーム
5.二人でお茶を
6.ユー・アー・トゥー・ビューティフル
7.ジャスト・ユー、ジャスト・ミー


実際に、モンクはおなじみのスタンダード・ナンバーを、のっけから"ハズし"も"崩し"も"ズラし"も全開の、まるで曲を一回完全にどかーんと壊して楽しく組み直したような、そりゃもうオリジナルにしか聴こえないようなゴキゲンな演奏に終始していまして、ホントに痛快です。

メンバーは前作から引き続きのオスカー・ペティフォードと、Riversideでは初共演ですが、実はモンクとは以前からちょくちょく共演したり、セッションではモンクやミルト・ジャクソンと共謀して、わざと複雑なリズムやバッキングを編み出して、ホーン奏者達を困らせて喜んでいたアート・ブレイキー。

本作ではこのブレイキーの煽りまくるやんちゃなドラムが、モンクの「スタンダード、やりたい放題」に見事に火を点けてます。

1曲目からハイテンポで不協和音も"フレーズのぶった斬り"も炸裂してて笑いが止まらんのですが、ハイライトはファッツ・ウォーラー作の「ハニーサックルローズ」。

ファッツ・ウォーラーはモンクも直接影響を受けた「ぶんちゃっ、ぶんちゃっ♪」のストライド・ピアノの名人ですが、モンクの奇妙によじれながらの「ぶんちゃっ、ぶんちゃっ♪」のキケンな香りのプンプン漂うカッコ良さ/疾走感が、もうアホみたいに中毒性高いのですよ。

と、思わせつつ、淡々と美しいバラードの「ダーン・ザット・ドリーム」や「ユー・アー・トゥー・ビューティフル」など、ドキッとさせる演奏もしっかりとあり「ハチャメチャなようで実は深い」「哲学的な破天荒」なモンクの魅力は全編で炸裂しています。

それにしてもモンクの弾くスタンダードはまるでモンクが作った曲であるかのように斬新で刺激的ですね。

「なんて豊かな音楽だろう」

聴く度にそう思います。



(この外れたバネがピョンピョンしてる感!ペティフォードのベースソロもよろしいなぁ♪)


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2016年12月13日

セロニアス・モンク・プレイズ・デューク・エリントン

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セロニアス・モンク・プレイズ・デューク・エリントン
(Riverside/ユニバーサル)

思えば2016年後半は「チャーリー・ラウズ強化月間」でした

ラウズのテナーマンとしてのカッコ良さと、セロニアス・モンクのバンドでの「堅実で忠実な若頭ぶり」の両方をじっくりと時間をかけて聴き比べ、レビューにしていくことで、多くの方々に「おぉ、チャーリー・ラウズってそんなカッコイイのか、じゃあ聴いてみようかな?」と思ってくれるところまで何とか行けたんじゃないでしょうか。

や、そこまでまだ多くの人に興味を持って頂けてなくても、ジャズの歴史をそんなに激しく揺さぶりはしなかったけれども、良質な”ジャズ気分”の味わえる演奏を生涯プレイしつづけたこの素晴らしいテナー吹きのことを、更に多くの人に知ってもらうための啓蒙活動は、無視されようが笑われようが今後も続けて行きたいと思いますので、皆さんどうかひとつよろしくお願いします。

で、ラウズの演奏聴きたさに、60年代以降のモンクの演奏を、ここんとこ暇を見ては聴いていました。

その、楽しさと軽やかさ、そして淡々とした表情の中に拡がる何やら超然とした深遠な世界の魅力には、聴く度にすっかり心ほだされてしまうんですが、そこでぼぅっとなっている時に、ふと1950年代、つまり初期のモンクを聴きたくなりました。

今日、しとしとと冷たい雨の中、車でず〜っと聴いていたのは、1955年作の「プレイズ・デューク・エリントン」。

モンクが世に認められるきっかけとなった、リバーサイド・レーベルからの第一作目なんですねぇ。

実はモンク、40年代の初めから活躍していた「結構腕のいいピアニスト」でした。

音源がないので何とも言えませんが、実際に演奏を観た人達の証言によると「アート・テイタムのように、右手左手を駆使してノリノリのスピードで弾きまくるテクニカルなピアノ」だったようです。

そんなモンクは40年代後半に、ジャズの全く新しいスタイル、そう"ビ・バップ"の誕生に深く関わり、スタイルを一変。

ビ・バップといえば、初期バド・パウエルみたいな、高度なフレーズを超高速で弾きまくるあのスタイルでありますが、バドはいわばモンクの弟子です。ところが師匠のモンクは、ビ・バップが生まれるやいなや、自分一人でとっとと"次"へ行きました。

リズムを更に独自のアクセントと"間"で、一端ブチ壊して新たに作り上げたような、更にわざとハズした音を効果的に混ぜ込んで、聴く人の耳にたくさんの不思議を刻み込む、あの独特のスタイルを、完全に作り上げ「よし、俺はもうコレで行くぞ」と決めちゃったんですね。

モンクは今でこそ「ワン&オンリーのスタイルを築き上げ、後のジャズに大きな影響を与えた」とか言われてますが、当時は流行のビ・バップのような、単純明快なノリを求めるリスナーの理解を得ることは出来ず、活動も低迷してました。

そんなモンクの演奏を「いや、分かりやすいし面白い!」と、最初に認めたのは、ブルーノート・レーベルのオーナー、アルフレッド・ライオンです。

ライオンは47年から52年までモンクのレコーディングを続け、2枚のアルバムを出しましたが、これがほとんど売れず、また、モンクもバド・パウエルを庇って麻薬不法所持の疑いで逮捕され、ニューヨークでの演奏許可証を没収されてしまいます。

失意のモンクはフランスでソロ・ピアノ・レコーディングを行ったり、Prestigeレコードで"小遣い稼ぎ"のレコーディングを行うも、普段は奥さんの稼ぎで生活しながら、ひたすら自宅でピアノの練習と作曲に精を出しておりました。

そんな不遇のモンクにある日転機が訪れます。生活苦のためにモンクは友人や音楽関係者からちょこちょこ借金をしていましたが、その中にリバーサイドという小さなレコード会社のオーナーで、オリン・キープニュースという人がおりました。

この人が「なぁモンク、カネはいいからウチでレコーディングしないかい?」と声を掛けたのが、モンクにとっては運命の一言でありました。

オリン・キープニュースは、モンクの才能を理解していた数少ない音楽関係者だったんですね。そしてPrestigeで飼い殺しみたいな扱いを受けていたモンクを何とかしてやりたかった気持ちもあったでしょう。

モンクはキープニュースの言葉に乗ってPrestigeとの契約を消化してRiversideに移籍します。

ここから初期モンクの名盤が沢山生まれ、それが今の正当な評価にも一気に繋がってくるんですが、キープニュースのモンクの売り出し方は、最初は意外にも慎重でした。

まず、モンクの余りにも強すぎる個性。これは認知されれば最大の強みにはなるでしょうが、いかんせん他の演奏家とアプローチが違い過ぎます。

それにジャズの世界では、やはりウケるのはスタンダードや、有名ミュージシャンが作曲してヒットさせた曲です。いきなり無名のアーティストがオリジナルばかり発表しても、ほとんど聴かれることなく、モンクにはまた「売れないレコード」を作らせてその繰り返しになるでしょう。

キープニュースは言いました。

「セロニアス、オリジナルを演りたい気持ちは分かるし、オレもアンタの曲は好きなんだが、まずはアンタのピアノを多くの人に聴いてもらう事からはじめないか?」




【パーソネル】
セロニアス・モンク(p)
オスカー・ペティフォード(b,@〜EG)
ケニー・クラーク(ds,@〜EG)

【収録曲】
1.スウィングしなけりゃ意味ないね
2.ソフィスティケイテッド・レディ
3.アイ・ガット・イット・バッド
4.黒と茶の幻想
5.ムード・インディゴ
6.アイ・レット・ア・ソング・ゴー・アウト・オブ・マイ・ハート
7.ソリチュード
8.キャラヴァン


「どういう事かね?俺はオリジナルをやっちゃいかんのか」

「まぁ聞いてくれ、アンタは最も偉大なピアニストで、最も素晴らしい曲を多く書いてるジャズマンは誰だと思う?」

「決まってる、それはデュークだ。デューク・エリントン」

「尊敬している?」

「もちろんだ」

「何曲か弾けるかい?」

「当然だ」

「おお、素晴らしい!実にオリジナリティに溢れる演奏だ」

「言いたい事が段々分かってきたよ」

「それは嬉しいね、まずはデュークの曲でアルバムを作ろうか!」

という訳で出来上がった「セロニアス・モンク・プレイズ・デューク・エリントン」です。


内容はモンク独特の"ハチャメチャ"は割と抑えて、エリントンの素晴らしい楽曲を、モンクが詩的イマジネーションに溢れた解釈で、実に丁寧かつエレガントに弾いています。

バックを務めるのは、オスカー・ペティフォードとケニー・クラーク。

実はこの2人は、モンク同様ビ・バップ誕生に深く関わっていて、モンクとはその頃からセッションでよく遊んでいた仲。

つまり、この時代では珍しい「モンクが突然はっちゃけても、冷静に対処できるリズム隊」なんです。

このアルバムでは、二人は堅実な伴奏に撤しています。特に素晴らしいのはオスカー・ペティフォードのベース・プレイ。終始穏やかにリズムを刻んでいるだけなのに、何と存在感のある豊かな音色で、何て安定感のある太いグルーヴなんだろうと、聴いてて惚れ惚れしてしまいます。

モンクのピアノに関しては、本作はよく「個性が薄められた」と評されることも多いですが、果たしてそうでしょうか?"ハチャメチャ"は抑え気味と書きましたが、要所要所でしっかりと"間"と"絶妙なずらし"はしっかり聴いていて、決してモンクの個性がプロデュースによって削がれた感じはしません。

それにモンクの個性はハチャメチャだけにあらず、最初から斬新なメロディ解釈の裏に、しっかりとした古き良きジャズ特有のエスプリ、つまりワン・フレーズ弾いただけでむわぁっと立ち上る色気みたいなものがいつだってあるんです。





(このさり気ない崩し方と”間”ですよね〜、そしてしっかりスウィングしてます。カッコイイ♪)

「ソフィスティケイテッド・レディ」「黒と茶の幻想」「ソリチュード」などは、エリントン曲の中でも特に美しく、芳醇な香気の漂うナンバーですが、モンクのピアノがメロディを奏でた後に残る余韻の素晴らしい物語性に、まずはじっくり耳を傾けてみてください。

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