2016年12月11日

サム・クック ナイト・ビート

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サム・クック/ナイト・ビート(RCA/ソニー・ミュージック)


サム・クック

どこにでもいそうなアメリカ人の男性の名前ですが、この言葉を聞く時、私の胸の内には言いようのないアツく切ないものがこみ上げます。

彼こそはアメリカン・ミュージックの歴史の中で"特別の中の特別"なシンガーであり、1950年代後半から60年代の中盤、音楽も社会全体も大きく震え、変革する中で、最も多くの人々の感動の象徴であり、また、希望そのものでありました。

16歳の頃からゴスペル・グループのリード・ヴォーカルとして活躍し、やがてR&Bの世界へ進出。世俗の歌を唄っても、教会で福音を歌ってた頃と全く変わらぬ高揚と多幸感に満ち溢れた歌声で、聴く人の魂そのものを、彼は救済し続けました。

そう、サム・クックの声、その激烈シャウトと限りなく甘い囁きが奇跡の調和を保つ、全ての感情を揺さぶっては癒し、癒してはまた揺さぶるその歌声に包まれた時の聴く側の心の状態は、正に「救済」と呼ぶ他に、私は適切な言葉を知りません。

彼のヴォーカルが素晴らしいのは、もちろん天性の声に恵まれたのもあるでしょうし、幼い頃からゴスペル・グループの歌い手として、鍛練を重ねた結果でもあるでしょう。

けれどもそれ以上に、彼の歌は「上手い/カッコイイ」を飛び越えてどうしようもなく響くのです。

何故か?

それは分かりません、考えたって恐らく永遠に答えは出ないでしょう。

だから敢えて「偉大」とか「天才」とかいったありきたりの言葉でアタシはサム・クックを語りたくありません。

「お前はそこまで絶賛するけどサム・クックなんて本当にいいの?どうせ古い音楽なんだろ?」

という方には反論はしません、ただ黙ってサム・クックのアルバムを、何でもいいから聴いてごらんなさい。これは最高のソウルだしR&Bだしゴスペルだしロックだし、何より音楽だよ。

と、言うより他ありません。




【収録曲】
1.ノーバディ・ノウズ・ザ・トラブル・アイヴ・シーン
2.ロスト・アンド・ルッキン
3.ミーン・オールド・ワールド
4.プリーズ・ドント・ドライヴ・ミー・アウェイ
5.すべてを失くして
6.ゲット・ユアセルフ・アナザー・フール
7.リトル・レッド・ルースター
8.ラーフィン・アンド・クラウニン
9.トラブル・ブルース
10.ユー・ガッタ・ムーヴ
11.フールズ・パラダイス
12.シェイク・ラトル・アンド・ロール


1963年、サム・クックが亡くなる前年に発表した8枚目のアルバム「ナイトビート」を今日は皆さんに紹介します。

サム・クックといえば、以前も紹介した「ライヴ・アット・ザ・ハーレム・スクエア」や「ツイストで踊り明かそう」などの、その強烈に胸の透く力強い歌声が、ノリノリのゴキゲンな楽曲と共に炸裂して、感極った時にドコーン!とバラードがくる作品が人気で、再発される時もやっぱり注目を集めるんですが、サムの表現者としての底無しの凄味は、シャウトをグッと抑えて、優しい声で切々と唄う時により迫ります。

そう、このアルバムは、サムの深遠なるバラード・アルバム。

唄われているのはほとんどがブルースやゴスペルのカヴァーで、バックもしっとり落ち着いた小編成のバンドです。

この時代にずば抜けた人気をモノにしたサムには、度々レコード会社から「ポップスを唄わないか」と打診が来るようになりました。

というのも、R&Bで人気が出た黒人歌手は、次のステップとして、白人聴衆も購買層にすべく、いわゆる「黒っぽさ」を抑えたポップ・シンガーになることが、この時代望ましいとされていました。

何だかとても差別的に思えるかも知れませんが、この時代はブルースやR&Bの地位は驚くほど低く、音楽業界でもこういった考えは当たり前だったんです。

ところがサムは、デビューしてすぐにアーティストの著作権を正しく保護するための出版社を設立したり、マルコムXら公民権運動の指導者達とも非常に近しい関係にあり、自らも人種問題や政治的議論にも積極的に加わるほど、公民意識の高い人でありました。

レコード会社からの申し出はもちろん受け入れるのですが、彼が作った「ポップスなアルバム」は、シャウトは控え、ファンキーな"盛り上がるノリ"も抑えているにも関わらず、いや、それがかえって彼のルーツの最も深い部分にあるゴスペルの、荘厳な祈りのパートをポピュラー音楽の皮に包んで、リアルに鳴らすことに見事成功した、最高に質の高い、まごうことなきブラック・ミュージックの結晶がここには刻まれております。







(「ゲット・ユアセルフ・アナザー・フール」このピアノのイントロから唄、ギター、オルガンがゆっくり立ち上がる瞬間がもう・・・)



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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 19:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ソウル、ファンク、R&B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする