2016年12月21日

チェット・ベイカー 枯葉

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チェット・ベイカー/枯葉
(CTI/キングレコード)

チェット・ベイカーのアルバムを、さて紹介しようと思って聴いていたら、その美しい「ほろびの香気」に、すっかりヤラレてしまい、ここのところまんまとチェット・ベイカー漬けです。

麻薬が原因で、何度も何度も引退しては復帰するを繰り返していたチェットですが、1988年にホテルの窓から転落という不慮の死を迎えるまで、実に膨大な数の作品を残していて、流石にアタシも全部までは耳を通してはおりませんが、今まで聴いたアルバムの中で「これはつまらない」というものに出くわしたことがありません。

どのアルバムも、この人独特の、柔らかく優しく、そして美しく破滅に向かっているあの感じで満たされていて、そしてこの人はデビューしてから晩年まで、スタイルが全く変わらないんです。

引退して復活するタイプのジャズマンというのは、その間演奏のアプローチや、或いは音色そのものが変化してることが多いんです。でも、チェットの場合は、引退して復活しても、または麻薬の影響で顔がショッキングに変わってしまっても(顔がしわしわになった上、歯も抜けていた)、スピーカーから聞こえるトランペットの音は相変わらず繊細で柔らかく、ハッとするようなアドリブは、煌めきと詩情に輝いていて、唄声も淡さの中に深く沈んだ陰影を感じさせる、あの幻想的な声のままです。

今日はそんなチェット・ベイカーの、後期のアルバムの中から名盤の誉れ高い「枯葉」です。




【パーソネル】
チェット・ベイカー(tp,voAE)
ポール・デスモンド(as)
ボブ・ジェームス(el-p)
ロン・カーター(b)
スティーブ・ガッド(ds,@〜C)
ジャック・デジョネット(ds,D〜F)
ドン・セベスキー (cond)

【収録曲】
1.枯葉
2シー・ワズ・トゥー・グッド・トゥ・ミー
3.ファンク・イン・ディープ・フリーズ
4.タンジェリン
5.我が心に歌えば
6.ホワットル・アイ・ドゥー
7.イッツ・ユー・オア・ノー・ワン


「枯葉」といえば、元々はシャンソンでありながら、ジャズで最も有名なスタンダードとして知られるようになった曲ですが、キャノンボール・アダレイの、実質マイルス・デイヴィスのアルバム「枯葉」を筆頭に、その後モダンジャズの甲乙付けがたい名演が次々世に出されます。

ビル・エヴァンス、サラ・ヴォーン、ウィントン・ケリー、あぁ、個人的にはドン・ランディやアーニー・ヘンリーも推したいな・・・などと、ジャズファンならば誰もが納得の名盤と「私のお気に入り枯葉」を色々浮かべて楽しめる、そんぐらいの曲なんですけどね。チェットのこの枯葉は、文句なしに前者、つまり「聴けば誰もが納得の名演」の枯葉です。

アタシの体験で恐縮ですが、音を聴く前は「きっとチェットが唄ってるんだ」と思ってました。そして50年代の録音のように、端正にスウィングする西海岸サウンドのストレートなジャズだと思ってました。

実際はチェットは唄わず(ヴォーカルはAとEの2曲だけ)、サウンドもいかにも70年代な、ややフュージョン入ってる現代的なアレンジでした。

これが70年代に一世を風靡したフュージョンの先駆けである"CTIレーベルの音"と知るのは大分後のことです。

微妙に王道の4ビートからは距離のある独特のリズムに、うっすらとストリングスの絡むアレンジに、全く反発することも迎合することもなく、ジャズのお手本のような、フレーズを重ねる毎に美しい、ふんわりと匂い立つアドリブを唄うチェットのトランペットは、これはもうジャズがどうとかいうよりも、音楽の美しさそのものを感じます。

もしも私がトランペッターで「理想の枯葉をやりなさい」と言われたら、多分このアドリブを完コピしてはいどうぞ、ってやるでしょうね。それぐらい完璧で美しく、非の打ち所のない演奏。しかもただ単に綺麗なだけでなく、そのフレーズの中には譜面では起こせない目一杯の悲哀がたっぷりとまぶされているんです。

バックが当たり前のジャズじゃない、特にスティーヴ・ガットのドラムは、ガンガンに攻めるタイプで、彼が最初は慎重に装飾を付けるのみに抑えてるのですが、途中から堰を切ったように情熱的に煽ってくるのがとにかくいいんですよ。

あと、ピアノでなくエレキピアノを弾いてるボブ・ジェームスもいいですね。フェンダーローズの甘い音色が美しい音楽と出会った時の中毒性の高さは、ビル・エヴァンスやチック・コリアの必殺技だと思ってましたが、チェットの退廃に寄り添うこのアルバムのエレキピアノ、かなり危険な美しさです。

とにかく「枯葉」は、チェット生涯の極めつけでありますが、「唄うチェット」の極めつけ「ホワットル・アイ・ドゥ」での、どこまでも沈み混む退廃美の、もう行き着く果てのようなやるせない唄とバックとのコンビネーションも筆舌に尽くしがたいものがあります。

いや、でもどの曲も、気持ちよく哀しさに浸れますので、チェットに少しでもハマりそうな予感を胸の内に抱えてどうしようと思っている人はコチラぜひ。




(この儚い儚いトランペットと、諦めに満ちたヴォーカル。でも美しい・・・)


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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 19:05| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする