2017年01月23日

マーヴィン・ゲイ ミッドナイト・ラヴ

5.jpg
マーヴィン・ゲイ/ミッドナイト・ラヴ
(CBS/ソニー・ミュージック)

60年代後半から70年代にかけての「ソウル」の代名詞、マーヴィン・ゲイであります。

マーヴィンが「Love」の一言を、その甘く切ない声と旋律に乗せて発する時、恐らくそれを耳にしているアタシ達の心の中にも、多くの体験から「あぁ、あれは確かにそうだったな・・・」と、追想と共に巡る同じような「Love」が、胸を焦がしてもうどうしようもなくなります。

さて、そんなマーヴィンといえば、60年代のデトロイトで誕生し、ブラック・ミュージックを究極的に洗練させて誰が聴いてもクオリティの高い上質なポピュラー・ミュージックにしたと言われるモータウン・レコードの看板シンガーでした。

彼の端正で豊かな拡がりのあるヴォーカルは、モータウン特有の、生バンドにストリングスやホーン・セクションを贅沢に配したゴージャスなサウンドと共鳴し、このレーベルでマーヴィンは「ホワッツ・ゴーイング・オン」をはじめとする数多くの名盤を次々とリリースし、それこそ音楽の歴史そのものを刻んでゆくのであります。

しかし、そんなマーヴィンの全盛も、モータウン・レコードの栄光も、1970年代をピークに斜陽に向かうことになります。

ひとつの時代を象徴するものを築いたら、今度は別のところから出てくる新しい時代の波に、古いものは呑み込まれてゆく。これは仕方のないことですが、マーヴィンにはモータウンとの金銭トラブル、私生活での2度の離婚に関わる泥沼の調停問題や破産、そして薬物への傾倒など、プライベートでの不幸な出来事が重なり、遂に70年代後半には身も心もズタボロになってしまいます。

失意のマーヴィンは、ヨーロッパやハワイで、まるで何かから逃げているかのような隠遁生活を送りますが、かつてデビュー前に同じドゥー・ワップ・グループで唄っていたハーヴィ・フュークワと、CBSコロムビアの副社長であり、ソウルの敏腕ディレクターとして有名だったラーキン・アーノルドという人達が献身的に彼を支援します。

特にラーキンは弁護士でもあり、この頃のマーヴィンを苦しめていたモータウンとの契約を切ってCBSに迎えるために、あれこれ必死で走り回って、契約の問題から元妻達への慰謝料など、ひとつひとつを的確にクリアーしていき、ようやくボロボロになっていたマーヴィンを迎えることに成功するのです。

とはいえ、この時のマーヴィンには、再び人前に出て唄えるかが心配なほど精神的に消耗しておりましたし、何より作品を作ったり音楽活動を行うための資金を持ち合わせておりませんでした(一説によると友人がマーヴィンの住んでいるアパートを訪れた時、彼は現金を10セントも持っていなかったと言われております)。

ラーキンとマネージャーは「麻薬をやめてクリーンになること、再び音楽で復活して、新しく契約するレーベルに利益をもたらすこと」を条件に、早速マーヴィンのアルバムを作ることを約束するのです。



【収録曲】
1.ミッドナイト・レディ
2.セクシャル・ヒーリング
3.ロッキン・アフター・ミッドナイト
4.この瞬間を愛して
5.愛の交歓
6.サード・ワールド・ガール
7.ジョイ
8.燃える情熱

そんなこんなの苦難の中から生まれたのが「セクシャル・ヒーリング」です。

1981年、世間ではもうマーヴィン・ゲイは「落ちぶれた元シンガー」でしかなく、予算もあまり取れない中、スタジオではかつて使っていたゴージャスな生バンドの代わりに、シンセサイザーやリズムマシーンといった機材を懸命に使いこなして楽曲やアレンジを試行錯誤するマーヴィンの姿がありました。

今でこそ打ち込みやサンプリングを使って、生バンドに劣らない程度のクオリティの楽曲を作ることは出来ますが、当時の機材は一番高価なものでも今(2010年代)の機材にはとても及ばないぐらいのサウンドしか出せませんでした。

しかし、マーヴィンはやります。

粗末とは言えないまでも、決して高価ではない機材を使い、心血を注いだ最高の作品を作り上げます。

もう一度言います『最高の作品』です。

様々な苦難を経験して、歌詞や声に、自己の内面を投影し、それをほぼ自分自身の手によるアレンジでギュッと音に詰め込んだこのアルバムは、マーヴィンの数ある作品の中で最も深く内側へ斬り込んだものと言えるでしょう。

でも、このアルバムはそういった作品特有の重さ、暗さがない。むしろチープな打ち込みや軽やかなシンセやギターのカッティングに彩られたサウンドは静謐でどこまでも優しく、マーヴィンの声も悲哀を秘めつつ、ふんわりと至福の時間の彼方へと聴く人の耳も心も誘います。

よく「このチープさが逆にいい」と言われるアルバムですが、アタシはむしろマーヴィンが意図してなかったところでチープな音が上質な輝きに変換されて、声と相乗効果で響き合っているように思います。

考えてみたら80年代後半から90年代のR&Bは、打ち込みやサンプリングによるトラックが主流で、それらは決して妥協の産物ではない独自のシルキーな味わいを宿しておりました。

その、流れを作ったのがこのアルバムだと思います。

シングルカットされた「セクシャル・ヒーリング」は大ヒットし、83年のグラミー賞も獲得。マーヴィンは苦境を乗り越え完全な復活を勝ち取ります。

ところが翌84年、些細なことから口論となった両親の仲裁に入り、激昂した父親が放った銃弾が胸に当たり、そのまま帰らぬ人となってしまいマーヴィンはそのまま帰らぬ人となると共に、永遠の伝説となってしまうのでした。


「もし、マーヴィンが生きていたら・・・」と考えると想像は尽きませんが、その音楽的な遺伝子は、ディアンジェロ、ブライアン・マクナイトをはじめ、特に80年代後半から90年代を経て今に至るブラック・コンテンポラリー・ミュージックの中に、しっかりと生命を宿らせて生き続けております。


(「セクシャル・ヒーリング」名曲ですねぇ、アレンジの爽やかさと共に歌声が染みます。。。)



”マーヴィン・ゲイ”関連記事



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:23| Comment(0) | TrackBack(0) | ソウル、ファンク、R&B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月21日

ジミー・スミス Root Down!

4.jpg
ジミー・スミス/ルート・ダウン!
(Verve)

いぇ〜い、大寒だぜ〜、寒いぜ〜!!

寒くなると皆さんアレですよね、オルガン・ジャズのファンキーでアッツいやつであったまりたくなりますよね?

や、曲がファンキーでアーシーで、アツいぜ!というのはもちろんあるんですが、ハモンド・オルガン、特に昔のジャズの人達が使ってるハモンドB3オルガンの音って、とってもあったかい。

オ〜ライ?

オ〜イェ〜?

というわけで、本日はオルガンです。

いくら奄美とはいえ、ここ数日北風ゴンゴンでハンパなく寒いので、こらもうコッテコテのやつを紹介しますね〜!

はぁい、ジミー・スミスです。


【パーソネル】
ジミー・スミス(org)
スティーヴ・ウィリアムス(harmonica,B)
アーサー・アダムス(g)
ウィルトン・フェルダー(el-b)
ポール・ハンフリー(ds)
バック・クラーク(conga,perc)

【収録曲】
1.Sagg Shootin' His Arrow
2.For Everyone Under The Sun
3.After Hours
4.Root Down (And Get It)
5.Let's Stay Together
6.Slow Down Sagg
7.Root Down And Get It (Alternate Take)


「ジャズでオルガン」

といえば、これはもうジミー・スミス。

何てったって、それまで地味な楽器に過ぎなかったオルガン、どころかジャズの演奏で使うと

「え?何で教会で使う楽器を、わざわざジャズのステージに持ってきてんの?」

と、不思議がられてすらいたというオルガンを

「んなこたぁねぇぜ、オルガンだって立派にスウィングできるんだぜぇ♪」

と、見事モダン・ジャズの楽器に仕立て上げ、60年代には後継者が続々と登場。

で、そこにソウルとかファンクのムーブメントと濃厚に繋がったジャズが生まれ、その中でオルガンはなくてはならない楽器になって行くんですが、ジミー・スミスのアルバムといえば、プレイ自体はファンキーだったりアーシーだったりするんですが、内容は意外と真面目(?)な4ビートでスウィングするアルバムが多いので、コテコテにファンキーで、いわゆるソウル・ジャズとかジャズ・ファンクなノリを求められる方には

「ん?ジミー・スミスってこんなだったっけ〜?」

と、言う方も多いです。

はい、そんな「ファンキーでアーシーでイェ〜イ」な方々のご要望をイェ〜イと満たすアルバムがこの「ルート・ダウン」。

これは凄いんです、ジミー・スミス史上、いや、ジャズ・オルガン史上すこぶるアツい。何てったってライヴですよ、しかも16ビート、更にブルース(!)でガンガンゴンゴン攻めまくる。

1972年、ジミー・スミスは長年契約していたBLUENOTEからVerveという、ジャズでは大手名門のレーベルを経て、レコード会社からの独立と自身のライヴハウス経営に向けて動いておりました。

で、長年住んでいたニューヨークから、西海岸のロサンゼルスに拠点も移して頑張るぞー!と燃えていた丁度その時のロサンゼルスでのライヴですね。

メンバーは、ドラムのポール・ハンフリー以外はほとんど無名の若手ばかり、なおかつギターのアーサー・アダムスに至っては、B.B.キングに影響を受けたブルースマン。

これが結果的に素晴らしくジャンルレス、というか「ジャズ」の「」を見事に取っ払って、ジャズにソウルにブルースにファンク、この時代に至るまでのヒップなブラックミュージックがアツアツに混ざりあって沸騰する、ズバリな熱演を生んだ訳です。

@の16ビートからクライマックスで4ビートでの疾走とか、Bのブルースハープ入りのどストレートなモダン・ブルースとか、ビースティ・ボーイズがサンプリングしたCとか、もう「ファンキー!」と叫ばずにおれない名演てんこ盛り。ジミー・スミスの傑作、アツいジャズファンク名盤であることは間違いなくて、更に70年代のクラブの濃厚な空気もそのままの温度で体験させてくれますよ。これ聴いてあったまろう!








(イェェェェェェェェエス!!!!)


”ジミー・スミス”関連記事




『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 15:16| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月20日

ストラングラーズ グレイテスト・ヒッツ1977-1990

セックス・プストルズ、クラッシュ、ダムドときてストラングラーズ・・・。

いわゆる「オリジナル・パンク四天王」というやつですね。

ロックに目覚めてからはとにかくパンクだと、この4つのバンドは聴きまくりました。

でもその中で一番よくわからなかったのがストラングラーズ。

はい、何というかストラングラーズの曲って、一曲一曲がとてもよく作り込まれてて、勢いに任せて疾走する曲というのがあんまりなかったんですよ。

だから最初の頃、というか十代の頃はストラングラーズの良さが今いちピンとこなかった。

ただ、彼らの思想だとか姿勢だとか、ベースのジャン・ジャック・バーネルが武士道大好きで極真カラテやってるとか、そういう精神面での”パンク”だと思って聴いていました。



それがちょっと変わってきて「ストラングラーズってフツーにカッコイイじゃん!」と思え出したのがハタチ過ぎた頃、パンクより前の時代のロックとかブルースとかソウルとかジャズとか、それなりに聴き漁って、一周回ってパンクを改めて聴いた時でした。

何がどうって、ストラングラーズの音が純粋に力強くてズバッ!ときたんです。

ぐいぐい前に出てくるベース、厚みのあるオルガン、粘りのある独特のグルーヴ、メロディのまっすぐな美しさとか、はっきりと分かるようになりました。

長年の付き合いになる「グレイテスト・ヒッツ1977-1990」これすごくいいです。

彼らの音楽性は結構めまぐるしく進化してて、アルバムも作品としての完成度とかコンセプトとか、そういうのが高いんで、ベストアルバムはどうかなと最初思ってたんですが、結局何だかんだ愛聴してます♪



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 20:28| Comment(0) | TrackBack(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする