2017年01月16日

アート・テイタム〜ベン・ウェブスター・クァルテット

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アート・テイタム〜ベン・ウェブスター・クァルテット
(Pablo/ユニバーサル)

鍵盤に指がタッチした瞬間に「ふわぁっ」と拡がる、上質なフィーリング。

その可憐でいて力強いソロが終わると同時に「ス・・・ススス・・・」と、たっぷりの吐息の中に目一杯の男の哀愁を詰め込んで鳴らされる、優しい優しいテナー・サックス。

あぁ・・・いいなぁ・・・、こんなのが聴きたかったんだ・・・。

もう何百回針を落として聴いているはずなのに、聴く度に泣かされる。そして、聴いた後はまるで恋の病にでもかかったかのように、ポーっとして言葉が何も出てこなくなる。

これですよ。

「ジャズってなぁに?」

って訊かれたら、色んな答え方、色んなたとえがそれこそ出てはくるのですが

「ジャズを聴いた時、すごくいいなぁと思うんだけど、どこか切なくなって胸が苦しくなる。そんなのが聴きたい。ある?」

って訊かれたら、アタシはもう何も言わずにこのアルバムを聴いてもらいます。

ピアノのアート・テイタムと、テナー・サックスのベン・ウェブスター。

それぞれ戦前のスウィング・ジャズが華やかだった頃から活躍し、どちらも素晴らしいテクニックと、独特のサウンドの”強さ”で、イケイケの名手の名を欲しいままにした、いわばその時代のスーパーヒーローです。

そんな2人が、晩年ともいえる1956年に、スタジオで再会し、繰り広げたこのセッションは、人生の酸いも甘いも知り尽くした男たちによる、静かで深い音楽がゆったりした時空を漂うバラード・アルバム。

アタシは普段から、これはモダン・ジャズだのビ・バップだの、フリーだのフュージョンだの何だの言いますが、コレに関してはそんな細かくてしちめんどくさいカテゴライズなど一切不要です。

ただもう上質な音と空気に酔いしれて、聴く人すべてが言葉を失えばいい。遠い目をした先に淡く浮かぶジャズの切なさ、秘めた狂おしさの幻影を、名手達が奏でる音のその向こうに見ればいい。そう思います。





【パーソネル】
アート・テイタム(p)
ベン・ウェブスター(ts)
レッド・カレンダー(b)
ビル・ダグラス(ds)

【収録曲】
1.風と共に去りぬ
2.オール・ザ・シングス・ユー・アー
3.ジョーンズ嬢に会ったかい?
4.マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ
5.ナイト・アンド・デイ
6.マイ・アイデアル
7.ホエア・オア・ホエン
8.風と共に去りぬ(別テイク1)
9.風と共に去りぬ(別テイク2)
10.ジョーンズ嬢に会ったかい?(別テイク)


ひとつだけ、テイタムのピアノについて述べさせてください。

このアルバムは、ほぼミディアムスロウのバラードアルバムなんですが、テイタムのピアノは、”美しい”とは言っても、決して綺麗なメロディや上辺の情緒に流れていません。

むしろガンガンに速いフレーズを繰り出して弾きまくっているんですが、何がどうなってそうなっているのか、演奏全体がとても優雅で気品に満ちた空気で覆われています。これは本当に何がどうなっているのか解りません。戦前のスイング時代を生きてきた人にしか出せない香気です。

あと、レッド・カレンダーのベースとビル・ダグラスのドラムスの、絶対に目立とうとしないけど、実はものすごくしっかり演奏の屋台骨を支えているリズムも見事です。こういうサポートは、技術があるから出来るといった類いのことではありません。





(いつ聴いても涙腺にクる「オール・ザ・シングス・ユー・アー」です。この音色、この”間”この雰囲気、もう何も言うことありません)



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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2017年01月14日

テキサス・ナイフスライド・ギター・ブルース

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ランブリン・トーマス、オスカー・ウッズ/テキサス・ナイフスライド・ギター・ブルース
(Pヴァイン)

ブルースギターの尽きせぬ魅力のひとつがスライドギターでありますね。

今はほとんどが指にボトルネックをはめたスタイルが主流になっておりますが、その原型を辿ると、ギターを膝の上に置いて、ナイフを滑らせる「ナイフ・スライド」というスタイルに行き着きます。

ナイフ・スライドがどれぐらい古いのか?誰が最初に始めたのか?というのは今もってブルースの歴史の藪の中でありますが、少なくとも弾き語りブルースマンのレコードとしては一番古いシルヴェスター・ウィーヴァーという人が、1923年には「ギター・ブルース」のタイトルでレコーディングした曲で、その頃には既に奏法として定着してたと言えるでしょう。

さてさて、このナイフ・スライド、最初の頃どこで拡がったのか?といえば、これはテキサスです。

「え?スライドといえばミシシッピ・デルタでしょ?テキサスって意外だなぁ」

と、思われる方も多いかも知れませんが、どうやらスライドギターは、テキサスにほど近いルイジアナ州のシューヴリポートという街で盛んになり、そこから西へ行ってテキサスで一気に拡がり、東へ行ってミシシッピのデルタ地域で進化したという見方が出来そうです。

今日ご紹介するのは、そんなルイジアナ州シューヴリポートで流行り、テキサスに広まったその当時の空気を感じさせるナイフ・スライドの名手二人のコンパイル盤。

スタイルとしては至極シンプルで、やや陰影の濃い味のあるブルースを聴かせるランブリン・トーマスと、ブルースからラグタイム、ジャズバンドとの共演まで多彩な芸を持つオスカー・ウッズ。

特にランブリン・トーマスに関しては、残された全録音ということもあり、歴史的にも貴重な音源なんですが、それだけでなくやはり戦前ブルースの"ナイフ・スライド"という独自のスタイルの楽しさがギッシリ詰まった素晴らしいアルバムなんですよ。




【収録曲】
(ランブリン・トーマス)
1.So Lonesome
2.Hard To Rule Woman Blues
3.Rock And Key Blues
4.Sawmill Moan
5.No Baby Blues
6.Ramblin'Mind Blues
7.No Job Blues
8.Back Gnawing Blues
9.Jig Head Blues
10.Hard Dallas Blues
11.Ramblin'Man
12.Poor Boy Blues
13.Good Time Blues
14.New Way Of Living Blues
15.Ground Hog Blues
16.Shake It Gal
(オスカー”バディ”ウッズ)
17.Red Nightgown Blues
18.Davis's Salty Dog Blues
19.Evil Hearted Woman Blues
20.Lone Wolf Blues
21.Don't Sell It-Don't Give It Away Blues
22.Baton Rouge Blues
23.Jam Session Blues
24.Low Life Blues
25.Token Blues
26.Come On Over To My House Baby Blues


まずは前半16曲収録のランブリン・トーマス。

戦後90年代まで活躍した、ジェシー・トーマスというブルースマンがおりますが、そのお兄さんです。

1902年(頃)にルイジアナ州ロンガスポートという街に生まれ、ほどなくシューヴリポートに行き、こことテキサス州のダラスとを行き来しているうちに、ブラインド・レモン・ジェフアソンやテキサス・アレクサンダーら、同地のブルースマンらと交流を深め、1928年から32年にかけて散発的にレコーディングを残しております。

その短い生涯(1940年代に旅先のメンフィスで病没)のほとんどを放浪の旅に費やした彼のブルースは、芸名通り"旅"にちなんだ苦悩や悲哀を朴訥な唄い口と、ヴォーカルに静かに寄り添う内省的なギターに、じんわりくる個性を感じさせます。

「職を求めてぶらぶらしてたら放浪罪で捕まった」

など、生活者ならではのブルーなテーマを扱った歌詞を、語りかけるように唄えば、ギターがそのメロディを追いかけるように、シンプルなコール&レスポンスの繰り返しが、この人の唯一ともいえるスタイルです。

しかも唄っている間は派手なバッシングは鳴らさず、場合によってはギター弾かないことすらありますので、かなり原初的といえば原初的、聴きようなやよっては相当にヘヴィ。バンドブルースに鳴れた耳には、いきなり喉元に錆びたナタでも突き付けられたような戦慄を覚えるのではないでしょうか。

一方、後半の10曲で、打って変わって派手で華麗なナイフさばき(?)で楽しませてくれるのが、オスカー"バディ"ウッズ。

この人は1900年頃、シューヴリポート生まれとされておりますが、正式な事は判っておりません。

しかし、1930年に白人ヒルビリー歌手、ジミー・デイヴィスのバック・ギタリストとしてレコード・デビューしてから、自己名義での録音の合間にグループでの録音もちょこちょこ残していることなどから、戦前のテキサス〜ルイジアナ近辺では、かなり名の売れたギタリストであり、放浪生活で何とか食っていたランブリン・トーマスとは対照的に、そこそこ羽振りの良い生活をしていたんじゃないかと思われますが、1940年に民俗学者のアラン・ロマックスに発見され、インタビューを受けた時には

「街角やジューク・ジョイントで演奏して生計を立ててるヨ。景気?良くないね、こんな生活をもう15年は続けてるなァ・・・」

と、語っていたようで、実際のところはよく判りません。

しかし、軽やかでどこか都会的な洗練と華やかさを持つ、例えば同じ30年代に活躍した、大都会シカゴのタンパ・レッドなんかにも通じそうな音楽性と、カラッとした明るい唄いっぷりは、なかなかどうして景気の良い感じがします。

ジミー・デイヴィス名義の「ミッドナイト・ガウン・ブルース」なんかもう、軽快なラグタイムですし、曲の展開に合わせて速度を上げて演奏をリードするところなんか、なかなか斬新ですし、管楽器(コルネット)も入るジャジーな後半もかなりセンスよく、この人の尋常でない芸の広さと懐の深さを感じさせます。


しかし、ランブリン・トーマスとオスカー・ウッズ、ほぼ同じ時代の同じ地域を中心に活躍した人ですが、こんなにも正反対&ほとんどスタイルに共通点が見られないというところがまた戦前ブルースの"ひとり1ジャンルぶり"ですね。本当に素晴らしいです。










(内へ内へ沈み込んでゆくランブリン・トーマスと)



(明るく豪快な味わいのオスカー・ウッズ♪)




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2017年01月13日

ボニー・レイット ギヴ・イット・アップ

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ボニー・レイット/ギヴ・イット・アップ
(ワーナー)

「電光石火の恋に落ちる」

という言葉がありますね。

その人を見た一瞬で、もう電流を走ったような衝撃が走って惚れてしまう。

アタシは大体が惚れやすい人間です。

十代の頃なんかね、そりゃもうヒドかった(汗)

人を見ても音楽を聴いても映像を見てもすぐに惚れてしまうアタシ、どれだけの人に恋をしたかわかりません。

今日はひとつだけ、そんな十代のアタシの恋の話をします。

深夜の音楽番組を、毎週熱心に見ていたアタシ。その頃有難かったのは、洋楽の古いロックのビデオをよくセレクトして流してくれたことですね。

クラプトンやジミヘン、レッド・ツェッペリン、サンタナなんかはそんな深夜の音楽番組で知りました。


とまれ上に挙げたビッグネームな方々は、音知らなくても親父から名前ぐらいは聞いていたので「おお、これがそうかぁ・・・」と思ってふむふむしてたんですが「名前を聞いたことない凄い人」が出てくる時が、一番興奮しましたね。

で、ある日のこと、赤毛の女の人がストラト持って、中指にボトルネックはめてスライドギターをぎゅいんぎゅいん弾いているのをいきなり見ました。

当時は女の人が泥臭いブルースのギターを弾いてるなんて、そんなの一度も見たことなかったし、しかもその弾きっぷりとハスキーな声を目一杯張り上げて唄うその思い切りの良さに、一発で惚れましたね。えぇ、ものの見事に恋に落ちました。

その人がボニー・レイット。

70年代にデビューして、当時からブルース、しかも最高に濃いミシシッピ・デルタ・ブルースに傾倒してスライドギターをガンガンに弾くアメリカの女ロッカーであるということを、翌日親父に教えてもらいました。

んでもって、そのスライドギターの神髄を、南部へ行ってミシシッピ・フレッド・マクダウェルに弟子入りして直に教えてもらったということは、ちょっと後になって知りました。


(この人、当時アタシも初めて買ったブルースのオムニバスに入ってたそのキョーレツなスライドに夢中になってました)


つまりこのお方、レコードで聴いてブルースを身に付けたとか、そういうのじゃなく、女だてらに度胸ひとつで南部まで行き「危ないから女子供は絶対に行くな」とさえ言われてた、深南部のブルース・コミュニティの中にガンガン入って行き、そこのまぁボスみたいな人に「お前はオレの娘だ!」ぐらいに気に入られてホンモノのブルースを極めてロック界に殴りこみをかけた方です。

カッコイイですよね、そりゃ惚れますて。

以後、アタシはボニー・レイットを”姐さん”と呼び、勝手に慕って今に至ります。




【収録曲】
1.ギヴ・イット・アップ・オア・レット・ミー・ゴー
2.あなただけが
3.アイ・ノウ
4.誰かに恋をするなら
5.ラヴ・ミー・ライク・ア・マン
6.トゥー・ロング・アット・ザ・フェア
7.アンダー・ザ・フォーリング・スカイ
8.あなたの想いどうり
9.ユー・トールド・ミー・ベイビー
10.ラヴ・ハズ・ノー・プライド

そんなあれこれが、高1の頃の話ですよ。

小遣いもらってやや鼻息を荒くしながら学校帰りにサウンズパルに寄って、親父に「ボニー・レイイット(と、当時呼んでた)のCDどれがいい?」と訊いたらオススメされたのはこのセカンド・アルバムです。


もう一発目のスライドでぶっ飛びましたね。

乾いた音と、何かよくわからんけどリズム感が「ブルースも弾けるわよ」じゃなくて、もう完全に「アタシゃブルースだよ!」と、強烈に自己主張してて、これはカッコよくてフィーリングも溢れてるスライドギターの素晴らしいお手本です。

ハスキーで気風のいい声もまたいいんですよね。もちろん姐さんの曲は、ドロドロにブルースな曲ばかりではなくて、カントリー風味の小粋な曲とかキャロル・キングばりのしっとりしたバラードもあって、全てのアメリカン・ルーツ・ミュージックの根っこを感じさせるその音楽性は実に幅広いんですが、その幅の広さが軽くならずにしっかりとソウルを根付かせるエモーショナルな声のとりこにもなりました。えぇ、今もしっかりと惚れてますとも。


ちなみに”人”としてのボニー・レイット姐さんも、難民や社会的弱者を支援する活動や、ビジネスのことをよく知らないミュージシャン達がレコード会社やプロダクションに搾取されている現状を訴えて、ブルースマンにちゃんと印税が入るようにあちこち直談判に走り回ったり、心も熱い人です。





(「Give It Up」ライヴです!姐さんカッコイイ!!)



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