2017年01月16日

アート・テイタム〜ベン・ウェブスター・クァルテット

887.jpg

アート・テイタム〜ベン・ウェブスター・クァルテット
(Pablo/ユニバーサル)

鍵盤に指がタッチした瞬間に「ふわぁっ」と拡がる、上質なフィーリング。

その可憐でいて力強いソロが終わると同時に「ス・・・ススス・・・」と、たっぷりの吐息の中に目一杯の男の哀愁を詰め込んで鳴らされる、優しい優しいテナー・サックス。

あぁ・・・いいなぁ・・・、こんなのが聴きたかったんだ・・・。

もう何百回針を落として聴いているはずなのに、聴く度に泣かされる。そして、聴いた後はまるで恋の病にでもかかったかのように、ポーっとして言葉が何も出てこなくなる。

これですよ。

「ジャズってなぁに?」

って訊かれたら、色んな答え方、色んなたとえがそれこそ出てはくるのですが

「ジャズを聴いた時、すごくいいなぁと思うんだけど、どこか切なくなって胸が苦しくなる。そんなのが聴きたい。ある?」

って訊かれたら、アタシはもう何も言わずにこのアルバムを聴いてもらいます。

ピアノのアート・テイタムと、テナー・サックスのベン・ウェブスター。

それぞれ戦前のスウィング・ジャズが華やかだった頃から活躍し、どちらも素晴らしいテクニックと、独特のサウンドの”強さ”で、イケイケの名手の名を欲しいままにした、いわばその時代のスーパーヒーローです。

そんな2人が、晩年ともいえる1956年に、スタジオで再会し、繰り広げたこのセッションは、人生の酸いも甘いも知り尽くした男たちによる、静かで深い音楽がゆったりした時空を漂うバラード・アルバム。

アタシは普段から、これはモダン・ジャズだのビ・バップだの、フリーだのフュージョンだの何だの言いますが、コレに関してはそんな細かくてしちめんどくさいカテゴライズなど一切不要です。

ただもう上質な音と空気に酔いしれて、聴く人すべてが言葉を失えばいい。遠い目をした先に淡く浮かぶジャズの切なさ、秘めた狂おしさの幻影を、名手達が奏でる音のその向こうに見ればいい。そう思います。





【パーソネル】
アート・テイタム(p)
ベン・ウェブスター(ts)
レッド・カレンダー(b)
ビル・ダグラス(ds)

【収録曲】
1.風と共に去りぬ
2.オール・ザ・シングス・ユー・アー
3.ジョーンズ嬢に会ったかい?
4.マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ
5.ナイト・アンド・デイ
6.マイ・アイデアル
7.ホエア・オア・ホエン
8.風と共に去りぬ(別テイク1)
9.風と共に去りぬ(別テイク2)
10.ジョーンズ嬢に会ったかい?(別テイク)


ひとつだけ、テイタムのピアノについて述べさせてください。

このアルバムは、ほぼミディアムスロウのバラードアルバムなんですが、テイタムのピアノは、”美しい”とは言っても、決して綺麗なメロディや上辺の情緒に流れていません。

むしろガンガンに速いフレーズを繰り出して弾きまくっているんですが、何がどうなってそうなっているのか、演奏全体がとても優雅で気品に満ちた空気で覆われています。これは本当に何がどうなっているのか解りません。戦前のスイング時代を生きてきた人にしか出せない香気です。

あと、レッド・カレンダーのベースとビル・ダグラスのドラムスの、絶対に目立とうとしないけど、実はものすごくしっかり演奏の屋台骨を支えているリズムも見事です。こういうサポートは、技術があるから出来るといった類いのことではありません。





(いつ聴いても涙腺にクる「オール・ザ・シングス・ユー・アー」です。この音色、この”間”この雰囲気、もう何も言うことありません)



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 20:42| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする