2017年03月02日

サン・ハウス ファーザー・オブ・ザ・フォーク・ブルース

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サン・ハウス/ファーザー・オブ・ザ・フォーク・ブルース
(ソニー・ミュージック)

とにかくもうジャケットが素晴らしくありませんか?

白いシャツに紐ネクタイをキッチリ占めた老ブルースマンが、ナショナル・スティール・ボディ・ギターを構え、歳月が深く刻まれた皺だらけの顔と尋常ならざる深い目付きで真っ直ぐに前を見据えている。あぁ、これがブルース。

いや、これがブルースのレコードのジャケットじゃなかったら、一体何をブルースだと言えばよろしいのかと・・・。

本音を言えばこのアルバム

「はい、このジャケにブルースを感じた人は買いなさい。あとはアタシがガチャガチャ言うまでもねーから」

とだけ殴り書きして終わりにしたい。

だって中身はジャケット通りの100%ピュアな、混じりっ気なしの見事なディープ・ブルース。

つうかこれがブルースじゃなかったら何をブルースと(以下略)なんでございますが、せっかく今からブルースの深い泥沼に沈み込んでやろうと思っているこのブログの読者さん(いるのか本当に)に対してあまりに不親切なので、はい、ちゃんと中身をご紹介します。

サン・ハウスは、俗に「ブルース発祥の地」とも言われるミシシッピ・デルタ地方にて"デルタ・ブルースの父"と呼ばれ、同じく"デルタ・ブルースの創始者"と崇められるチャーリー・パットンと共に、ブルース第一世代の傑出したシンガー/ギタリストとして、独特のパーカッシブで荒々しいスタイルのミシシッピ・デルタ・ブルースの基本型を作り上げました。

「バカバカ叩き過ぎて木製のギターだとすぐにボディが割れてしまうから」

という凄まじい理由で金属ボディのギターを持ち、弦を激しくバチバチ弾きながら背骨をえぐるかのような強烈なスライドを放ち、また、腹の底からブルースが溢れているかのようなパワフルなヴォーカルは、戦前南部では圧倒的な存在感を放ち、聴く者をことごとく引きずり込んでいたといいます。

ちなみに彼やチャーリー・パットンを直に見て引きずり込まれ、ブルースの道へと突き進んだのが、若き日のロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフらであります。

個人的には特にマディ・ウォーターズのとことん泥臭いタフなボトルネック奏法は、サン・ハウスの"直系"であると思っとります。

サン・ハウスは、1902年に生まれ(諸説あり)、熱心な教会信者だった両親の影響で、幼い頃から教会で唄い、やがて一人立ちしてからは、ギター片手にあちこちで神の教えを激烈なスピリチュアル(ゴスペルの原型)と共に解く説教師として活躍しておりました。

「えぇ!デビルズ・ミュージックの元締めみたいなブルースマンが説教師!?」

と、アタシも思いましたが、これには深い訳があって、実は彼は説教師時代にタチの悪い絡み方をしてきた男に殺されそうになり、反撃して相手を殺してしまいます。

正当防衛とはいえ、殺人は宗派的には大罪ですからサンは破門。同時に説教師としての職を失い、刑務所に服役します。

その時の態度がとても殊勝であると、なんとたった1年のお務めで釈放されたサンは、出所してしばらくは農場や鉄道工事などの肉体労働者として働いていますが、やはり音楽への想いは絶ち難く、ドッケリー農場で出会ったチャーリー・パットンやウィリー・ブラウンらと共に、さすらいのブルース人生を送ることを決意するのであります。

1930年代はミシシッピ近郊では「知らない人はいない」とすら言われ、パットンらとレコーディングも行います(「伝説のデルタ・ブルース・セッション」)。

更に1941年から42年にかけては国会図書館用のレコーディング・セッションもこなすなど、一見順調そうに見えた音楽人生でしたが、パットンとのレコードは結局リアルタイムで陽の目を見ることはなく、国会図書館用の音源も単なる資料であり、彼の存在を広く世に知らしめることはなく、ラジオから次々流れるレコード・ヒットの勢いに押し流される形で、ブルースマンとしてのサン・ハウスは、40年代後半にもなると、いつの間にか過去の人になっておりました。

いくらミシシッピの片田舎で唄っても唄っても、何ら報われない生活に嫌気がさしたサンは、故郷と音楽を捨て、ひっそりカタギとして生きていくことを選びます。これが1948年のことであります。

それからおよそ15年、サンはニューヨーク州のロチェスターという、およそブルースとは縁のない街で、日雇い労働者、調理人、動物病院の補助係などをしてひっそり暮らしておりました。

ここでやって来るのが、おなじみの60年代フォーク・ブルース・リバイバルです。

熱心な白人青年らが、アメリカ南部中を探し回って、活動休止中の伝説のブルースマン達を次々"再発見"してはライヴやレコーディングに引っ張り出していた、あのムーヴメントによってサンも1964年に再発見されるのですが、皆が「生きてるとしたらミシシッピ近辺に住んでいるだろう」と思い込んでいたために、彼だけがかなり発見が遅れたと言われております。

サンを発見した3人の青年達は、最初不審がって話も聴こうともしない彼に昔の演奏のテープを聴かせてこう言いました。

「ミスター・サン・ハウス、僕らはもう一度こういう素晴らしい衝動にうち震えたブルースが聴きたいんだ。そして僕らと同じようにこういうホンモノのブルースが聴きたいと願っている若者がたくさんいる」

サンの中で、必死に圧し殺し、無理矢理忘れ去ろうとしていたブルース衝動が沸き上がり

「オレに出来るかって?小僧共、目の前に誰がいると思ってるんだ」

と、鋭い目付きのブルースマンの顔になって言い放つのに、そんなに長い時間はかからなかったといいます。



(ギター・レジェンド・シリーズ)


【収録曲】
1.デス・レター
2.パーリーン
3.ルイーズ・マギー
4.ジョン・ザ・レヴェレーター
5.エンパイア・ステイト・エクスプレス
6.プリーチン・ブルーズ
7.グリニン・イン・ユア・フェイス
8.サンダウン
9.レヴィー・キャンプ・モーン


サン・ハウスがニューヨーク州ロチェスターから、3人の白人青年によって再びブルースの世界へ飛び出したその年の1964年、最大のコンサートである「ニューポート・フォーク&ブルース・フェスティバル」に出演。

"生きた伝説"の、伝説に違わない壮絶な演奏を目の当たりにした聴衆はもちろん大熱狂、サンは演奏の後のステージ裏で、満足に酒を煽り、煙草を吹かしておりました。

そんな彼を、一人の巨大な、多くのブルースマン達の中でも一際目付きが鋭く、凶暴なオーラをまとった男が立ち尽くして見ています。

サンは彼が、かつて南部で自分やチャーリー・パットンの周囲でちょこまかしていた若者だとすぐに気付き、緊張で固くなっている彼にスタスタ近付いて行って、ニヤリと笑って言いました。

「よぉクソガキ。俺達が夢中で追っかけていた南部の双子のべっぴんは今どうしてるだろうな?」

緊張していたその男、いや、今やシカゴブルースの一画を束ねるビッグボスとなっていたハウリン・ウルフは、最初緊張していましたが、サンのその言葉に満面の笑みを浮かべ、それからしばらく和やかに昔話で盛り上がったそうであります。

そしてそのステージ裏での話が

「あのハウリン・ウルフがそんな風になったサン・ハウスって一体何者だ!?」

と更に伝説となり、皆がアルバムを心待ちにしていた1965年、伝説のブルースマン、サン・ハウスの初めてのレコードである本作「ファーザー・オブ・ザ・フォーク・ブルース」が遂に世に出されました。

このジャケット、そして「フォークブルースの父」のタイトルの素晴らしさを凌駕するコレが素晴らしい内容なんです。

63歳という年齢に蓄積された深い深い、というよりも、どうあがいても体から剥がれずに、どれだけ逃げても逃げ切れない強烈なブルース・フィーリングがです。

全身から激しく振り絞った声、全力でブッ叩かれて弦とボディが「バカン!ビキン!」と硬い悲鳴を上げるギターによって弾き出されるモノホンのデルタ・ブルースは、もう息をするのもはばかられるような、重く濃密な空気を聴く人に突き付けます。

「お前のブルースはどうなんだ?」

と。

「朝起きたら"急げ急げ、お前の女が死んじまった"って書かれた手紙がきた」

と、ヘヴィな死を唄う「デスレター」や、恐らくは実体験に基づいているであろう日雇い労働と恋人との別れがえぐるようなスライドとともに切々と唄われる「レヴィー・キャンプ・モーン」等の看板曲はもちろん、伴走は手拍子だけの強烈なスピリチュアルソングの「ジョン・ザ・レヴェレーター」、キャンド・ヒートのアル・ウィルソンによるサイドギターとの絡みが重厚なデルタ・ビートを生み出す「エンパイヤ・ステート・エクスプレス」いやもう曲がどうとかではなく、この盤から叩き出されるサンの声、ギター、そして荒々しいブレスなどの全てが異様な程の緊迫感と生々しさに満ちています。

これ聴いた時、アタシは感動はもちろんしましたが、同時に聴いてはいけない類いのヤバいものを知ってしまったとも思いました。

奇しくもライナノーツにサン・ハウスの言葉があって、これがまたすごく一言でこのアルバムを言い表してる言葉にだったんで、シメに引用します。


『ブルースというのはひどく感情的な、ゾクゾクさせるスリルに過ぎない。君たち坊やがそれを一度も経験したことがないなら、絶対に知らないままでいた方がいい』

ーサン・ハウス










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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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2017年03月01日

V.A./スライドギター

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V.A./スライドギター
(ソニー・ミュージック)

皆様お久しぶりでございます。

ちょっと体調を崩しているうちに、まぁ世の中というのは凄まじいスピードで動いておりますようで、ボーっとした重たい頭を抱えつつ、ツイッターなぞ見ながら養生しておった訳ですが、その中で看過できないある情報を目撃して「うぉう!!」となりました。

えぇと、ソニーがですね「ギター・レジェンド・シリーズ」と題しまして、ロックからジャズ、ブルースの、特にギターがカッコイイ名盤を、税込みで¥1080という狂った価格で一挙に50枚リリースしますよと。

ほうほうと思ってカタログを見てたら、流石にロックやジャズでは、これはもう誰にでもオススメできるヨダレものの超名盤(サンタナとかスティーヴィー・レイ・ヴォーンとかジョニー・ウィンターとかチャーリー・クリスチャンとかフリードウッド・マックとか)から「うん分かる!」と、ツウを唸らせる渋いところまでを流石に一流レーベルらしく綺麗に網羅していて感動したんですが、問題・・・いや、これはもう事件と言っていいのが「ブルース」のとこです。

何と、タイトル全部の5分の1にあたる10タイトルが戦前ブルースの復刻。しかも!そのほとんどが90年代前半にリリースされたっきりひっそりとカタログから消えてしまっていた幻の名盤なんですよ。

ロバート・ジョンソンはもちろん、ロニー・ジョンソンの「ステッピン・オン・ザ・ブルース」とかサン・ハウスの「ファーザー・オブ・ザ・デルタ・ブルース」とかブッカ・ホワイトの「パーチマン・ファーム」とか・・・あぁ全部書くとキリがありませんが、とにかく厳選10枚のタイトルのことごとくが、当時ブルースのガイドブックにはスペースをデカデカと取って「とにかく必聴」とかそういう言葉と共に掲載されていたものばかりで、90年代戦前ブルースの泥沼に足を突っ込み始めたアタシは、そらもう片っ端から少しづつ買い集めていたアルバムばかり。

もちろんこれらのタイトルは「これからブルースを聴いてみたい」という方や「今ブルースにハマッてやべぇ」となっておられます若い音楽好きギター弾きの皆さんにも、内容&値段の素晴らしさと共に、ホントにオススメしておきたいブツですので、えぇ、アタシさっきからちっとも冷静じゃありませんが、勢いでこれから気力の続く限りこの素晴らしいシリーズから、戦前ブルースの名盤をできるだけ詳しくわかりやすく皆さんにご紹介していきたいと思います。

一発目の本日は「そんなこと言ってもじゃあ最初に何聴けばいいんだよ」と、お思いの方に、とりあえずでもいいから耳を通して欲しいオムニバスです。




(ギター・レジェンド・シリーズ)



【アーティスト/収録曲】
1.Weaver & Beasley/Bottleneck Blues (Album Version)
2.Barbecue Bob/Untitled (Album Version)
3.Blind Willie Johnson/God Don't Never Change (78rpm Version)
4.Blind Willie Johnson/Dark Was The Night, Cold Was The Ground (78rpm Version)
5.Weaver & Beasley/St. Louis Blues (Album Version)
6.Ruth Willis & Blind Willie McTell/Experience Blues (Album Version)
7.Sylvester Weaver/Guitar Rag (Album Version)
8.Tampa Red&Georgia TomYou Can't Get That Stuff No More
9.Charlie Patton/High Sheriff Blues (Album Version)
10.Blind Boy Fuller/Homesick & Lonesome Blues (Album Version)
11.Leadbelly/Packin' Trunk Blues
12.Casey Bill Weldon/I Believe I'll Make a Change
13.Buddy Woods/Don't Sell It (Don't Give It Away) (Album Version)
14.Buddy Woods/Muscat Hill Blues
15.Robert Johnson/Traveling Riverside Blues (Album Version)
16.Bukka White/Bukka's Jitterbug Swing (Album Version)
17.Bukka White/Special Stream Line (Album Version)


じゃじゃじゃん!

スライドギターですよ皆さん、ブルースと言えばのスライドギターですよ。

しかもこれ、ロバート・ジョンソン、チャーリー・パットン、ブッカ・ホワイトら、元祖ボトルネックのミシシッピ・デルタ勢からナイフ・スライドのテキサス・ブルース、ジャズとのオーバーラップ感も楽しい戦前シティ・ブルースの名手達から、アトランタの12弦使い、バーベキュー・ボブやブラインド・ウィリー・マクテル、更にはレッドベリー、盲目の説教師で戦前ゴスペル(ギター弾き語り部門)最強のスライドマスター、ブラインド・ウィリー・ジョンソンまで、本当に広く深く、戦前ブルースを地域やスタイル別に厳選して選曲/収録してあって、何度も言いますがスライドギターや、戦前ブルースの入門には最適。

名前を挙げた有名どころの演奏は、もう言うに及ばず聴きまくってください。重要なのは恐らくほとんどの人が「誰?」となるであろうシティ・ブルースのスライド名手達の隠れた名演。

冒頭の"Weaver & Beasley"は、戦前に南部と北部を結ぶ中継都市で、ブルースの都と言われたセントルイスで人気だったシルベスター・ウィーヴァーとウォルター・ビーズリーのゴキゲンなギター・デュオ。

軽快なリズムで唄うような小粋なウィーヴァーのギターに、絶妙にメロディーで絡むビーズリーによる「こんな風に弾けたらきっと楽しいだろうなぁ」と思うスライドギター×スライドギターの贅沢なインストであります。

Gのタンパ・レッドは戦前シカゴで"スライドの魔術師"と呼ばれたテクニシャン。敢えて太いビブラートを使わず、精密なフレットさばきとやや甘口の繊細な音色が実に都会的で、そのメロディアスな単弦フレーズとモダンな響きのコードを巧みに掛け合わせた技は、なるほど戦後のマディ・ウォーターズからエルモア・ジェイムスからB.B.キングにまで深い影響を与えただけのことはありますわいと納得です。

そして、スタイル云々はまず置いて素直な気持ちで聴いて頂きたいのが、スライドギターの音を世界で初めてレコードに刻んだだけでなく、弾き語り男性ブルース・シンガー&ギタリスト第一号として、後進に計り知れないデカい道を切り開いたシルヴェスター・ウィーヴァーのF。

奇をてらわない、むしろ素朴な味わいの軽妙な演奏の、噛めば噛むほど色々染みる味わいの豊かさはどうでしょう(!)

スライドギターだらけの贅沢な全17曲、コレ一枚あればあなたのブルースライフ、きっと深まりますよ♪



ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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