2017年06月24日

ジュニア・ウェルズ サウス・サイド・ブルース・ジャム

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ジュニア・ウェルズ/サウス・サイド・ブルース・ジャム
(Delmark/Pヴァイン)

季節は夏、湿った重たい夜の空気にからみ付きブルースが歌う。

ベランダから真っ黒な空を眺めると、雲の向こうにある月がぼんやりと鈍い光を放つ。背中からは「ドン、ドドッ・・・」と、まるで砂袋を殴りながら引きずっているかのようなビートを刻むドラムが、この夜に果てなどないことを訥々と語っている。

突如、狂ったように鋭利なギターが宙を切り裂く。剥き身の刃のようなストラトキャスターの音はバディ・ガイだ。1960年代から70年代のシカゴで、全米各地からの移住者を受け容れて急激に人口が増えていた”最も治安の悪い地区”サウスサイドで、今や知らぬ者はいない若きギタリスト。

夜な夜な盛り場に繰り出す不良達の間では今、この街の若いヤツらの中で、誰が一番ヤバいブルースができるか?ということが話題になっている。

テキサスからやってきて、B.B.キングばりの巨体とよく歌う豪快なスクィーズ・ギターでみんなの心をかっさらったフレディ・キング。気分にムラがあってノらない時はさほどでもないが、一旦ハイになると誰も寄せ付けない凄まじいプレイをするサウスポーのオーティス・ラッシュ。

あるいは隣のウエスト・サイドで急激に名を売り出していた、イカシたギター・テクニックとサム・クックのようなエモーショナルなヴォーカルで、どんなクラブだろうと独断場にしてしまうマジック・サム。または他の連中とはちょっと違った、ジャジーでスカした感覚が最高にヒップなフェントン・ロビンソン・・・。

ブルース、R&B、そしてジャズ。あらゆる黒人音楽の猛者がひしめくシカゴで、ノリにノッている連中の名前を出せば、コイツらの名前は必ず挙がり、そこに集まった大体のヤツらはひとつひとつの”ヤバさ”をハイになって語りながら、互いに「あぁそうだ」と深く頷き合うのだ。

そして”シカゴ1キレたギターとヴォーカル”のバディ・ガイと、重くヒリヒリとした緊張感を孕んだブルース・フィーリングと、ジェイムス・ブラウンから大きく影響を受けた斬新なR&Bのノリを自在に操るヴォーカル&ハープのジュニア・ウェルズが最近コンビでツルんでいるらしいということも、他聞に漏れずサウスサイドの不良達の間ではハイな話題の中心だった。

このコンビのことは、クラブでのステージ以前に1965年に地元サウスサイドにあるレコード・レーベル”デルマーク”で録音された「フードゥーマン・ブルース」というアルバムで広く知られていた。

イギリスから海を渡ってきたロックが、親と慕うブルースを模倣して、また実際に往年のヒットチャートを賑わせていたマディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、ボ・ディドリー、そしてチャック・ベリーといったブルースの伝説たちを再び世に引っ張り出して脚光を浴びさせていた頃、彼らより若い世代のウェルズやバディは、そんな流れに真っ向から対抗するように、よりブラックなノリと勢いに溢れたR&Bから多くを取り入れ

「オレたちにしか出せない新しいブルースの音」

を、それぞれ必死で模索していた。

故に「フードゥーマン・ブルース」は、当時のロックにはないスカスカな音で、ブルースを極限まで研いで研いで、その重い切れ味で元々のブルースファンは元より、多くのロックファンに耳に斬り込んでそして虜にした名盤だ。

それからおよそ5年

ウェルズとバディはサウスサイドにあるデルマーク・スタジオにいた。もちろん久々のこのレーベルでのレコーディングをするために。

集まったのは2人の他に、シカゴでは最強のリズム・セクションとして知られていた”ジ・エイシズ”のギタリスト、ルイス・マイヤーズとドラマーのフレッド・ビロウ。当時バディのバンドでベースを弾いていたアーネスト・ジョンソン。

そしてマディ・ウォーターズの左腕として、素晴らしいピアノ・プレイと温厚な人柄で、マディのバンドにも、我の強い暴れん坊揃いのシカゴ・ブルース・シーンにもなくてはならない存在だったオーティス・スパン。

「オーティス、久しぶりだなぁ。ヨーロッパはどうだった?」

「悪くなかったね、まぁあんなもんだ」

「顔色が悪いぜ大丈夫か?」

「あぁ、ちょっとここんとこ調子が悪いんだがすぐによくなるさ。・・・はじめようか。今日はどうすんだい?」

「今日はセッションだ。普段やってるありのままの、オレ達のサウスサイドのタフなブルースだな」

「そいつはいいな」

録音マイクがオンになり、テープが周り続けているスタジオの中、男たちの談笑の声が響く。やがて誰かが楽器を鳴らし始めると、その空間には一気に緊張が走る。楽曲のほとんどはスローテンポの典型的なブルース。

しかし、異様な粘度で絡み付くリズム、重く叩き付けられるピアノ、それらに絡み付くウェルズの声とハープに緊張を溜めに溜めて一気に切り裂くバディのギター、それらの音の濃厚な存在感は、単純にスタジオでのお気楽なジャム・セッションの枠を大きくはみ出して時間と空間の中を黒々と塗りつぶしてゆく。

オーティスはこの直後に死んだ。レコーディングの時は既に肝臓をヤラレていて深刻な病状だったそうだが、あんな凄まじいプレイを目の当たりにしたメンバー達も、レコードを聴いたリスナー達も、誰もがそれを信じなかった。


真夏のベランダから夜空へ、鈍い月の光以外には何もない暗闇に、タバコの煙と追想が流れては消える。

今から45年以上前の音楽から狂おしいまでに漏れてくる異様な空気感の何とリアルなことか。









【収録曲】
1.Stop Breaking Dwon
2.I Could Have Had A Religion
3.I Just Want To Make Love To You
4.Baby, Please Lend Me Your Love
5.You Say You Love Me
6.Blues For Mayor Daley
7.I Wish I Knew What I Know Now
8.Trouble Don't Last Always


今日はちょっと趣向を変えて、文体をハードボイルド風にしてみました。

色々書いては消しましたが、このラフで凄まじくヘヴィなブルース・ジャムセッションを一言で形容する言葉は未だ見付かりません。








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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 19:26| Comment(2) | TrackBack(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする