2017年06月26日

アート・ペッパー サーフ・ライド

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アート・ペッパー/サーフ・ライド
(Savoy/日本コロムビア)

笑顔でサーフィンに興じる派手なビキニ姿の女性のイラスト。

いくら目を引くとはいえアナタ、これが1950年代に出されたジャズのアルバムのジャケットだと信じられますか?

そうなんです、ジャケットだけを見る限りではまーったくそんな雰囲気は致しません。

でもこれ、正真正銘の立派な50年代ジャズなんです。

中で演奏している方はもちろんビキニ姿の女性ではなくてこの人

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はい、アート・ペッパーです。

1950年代にはチェット・ベイカーと並んで「ジャズ界を代表するイイ男」として抜群な人気があった人で、でも顔だけじゃなくてその軽やかさと芯の強さを併せ持つアルト・サックスのプレイにおいても、間違いなく時代を代表する実力者の一人でありましょう。

この時代のジャズ・シーンは、主にニューヨークのナイトクラブでの興行を中心とした東海岸ジャズと、ハリウッド等の映画産業と密接な関わりを持つ西海岸ジャズとに大きく分かれておりました。

ニューヨークでは40年代の後半にチャーリー・パーカーらによって、非常にスピーディーで迫力に満ちたジャズ、つまりビ・バップが生み出され、とにかく現場でのアドリブ合戦に強いプレイヤーが次々とそれまでの常識を覆すような演奏でシーンを沸かせておりました。

それに対する西海岸のジャズは、夜はクラブで演奏するミュージシャン達も、ちょくちょいく映画や舞台の音楽の仕事に呼ばれ、スタジオでしっかりと譜面を見ながら、アンサンブルを重視した知的かつ軽妙な演奏を得意としておりました。

とはいえ、東と西、それぞれの地域のジャズマン達が、互いのことなど全く眼中になく、それぞれのスタイルの範疇でジャズをやっていたのかといえばそうではなく、西海岸のミュージシャン達はビ・バップのスピーディーでエキサイティングな演奏をセッションではこぞってやっておりましたし、東海岸のミュージシャンの中でも、マイルス・デイヴィスのような、若く探究心に溢れたミュージシャン達は西海岸のバンドのアレンジを熱心に研究し、またツアーで互いに行き来をしながら親しくセッションをしたりレコーディングの話なんかも持ち掛け合ったりしながら、1950年代は東と西で競合しながら互いの良いところを取り込んで、両方の個性がグングン確立されていった時代、と言えましょう。

さて、本日の主役のアート・ペッパーですが、この人は西海岸にこのバンドありと言われたスタン・ケントンのビッグバンドに若き白人アルト奏者として籍を置くことでミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせました。

ケントンのオーケストラは、クラシックの技法なども積極的に取り入れ「ホールでダンスするためだけのジャズではなくて、コンサートでキチンとした鑑賞に耐えうるジャズを作ろうよ」と、緻密でドラマチックなスコアを練り上げて楽曲を完成させ、また「コイツはできる」と思ったメンバーには、そのアレンジの中で出来るだけ本人の感性に任せたソロを取らせる人でもありました。

ペッパーはそんなケントンのバンドで、才能をグングン発揮して1952年、27歳の時に満を持してソロ・デビューのレコーディングを行います。

その後彼はソロ・アーティストとして知らない人はいないぐらいの存在になり、その端正なルックスに劣らない詩的な叙情に溢れたサックス・プレイで多くの人の心を捉え、また、麻薬中毒による長い社会不在と奇跡の復活を繰り返した正にジャズマンを地で行くような劇的な人生などなど、まぁとにかく話題には事欠きませんが、本日はペッパーの記念すべき1952年の初リーダーセッションと翌年翌々年のセッションを集めたデビュー・アルバム、冒頭でジャケットのお話をした「サーフ・ライド」をご紹介いたしましょう。




【パーソネル】
アート・ペッパー(as)

(@〜B)
ラス・フリーマン(p)
ボブ・ウィトロック(b)
ボビー・ホワイト(ds)

(C〜E)
ハンプトン・ホーズ(p)
ジョー・モンドラゴン(b)
ラリー・バンカー(ds)

(F〜K)
ジャック・モンテローズ
クロード・ウィリアムソン
モンティ・バドウィック
ラリー・バンカー

【収録曲】
1.ティックル・トゥ
2.チリ・ペッパー
3.スージー・ザ・プードル
4.ブラウン・ゴールド
5.ホリデイ・フライト
6.サーフ・ライド
7.ストレート・ライフ
8.ザ・ウェイ・ユー・ルック・トゥナイト
9.シナモン
10.ナツメグ
11.タイム・タイム
12.アーツ・オレガーノ



さてさてアタクシ、冒頭で「このサーフィンのジャケットがジャズのアルバムなんて信じられないわ」と申し上げまして、読者の皆さんもにわかにそのようにお思いになっておるとは思いますが、実は1950年代はまだロックやポップスもない時代、ブルースからロックンロールが生まれチャートではR&Bが破竹の快進撃を続けていたことは確かに事実ではありますが、この時代ポピュラー音楽といえばやっぱりジャズだったんです。

で、最新のトレンドだった西海岸のクールなジャズを売り出すために、ジャケットに持ってきたレジャー界の最新トレンドがサーフィン。

元々はハワイやポリネシアの極めて民族的な意味合いが強かったこの海での遊びがアメリカに渡ったのは、1900年のアメリカによるハワイ併合がきっかけであります。ハワイに入植した若い軍人達が兵役を終えてこの遊びを本国に持って帰ったのですが、アメリカで温暖かつサーフィンが出来る広い海岸があるという条件を満たしていたのが西海岸のカリフォルニア。

で、第二次世界大戦も終わってアメリカが豊かになり、レジャーとかリゾートとかいう考えがぼちぼち定着し始めた1950年代初頭、アメリカの西海岸に住む、裕福な白人の若者達の間で「サーフィンっていうクールな遊びがあるんだぜ」と流行りました。日本で言うところの太陽族みたいなもんですな。

つまりこの、オシャレ最先端のジャケットの中に入っているのは、サーフィンのメッカ西海岸の最高にカッコイイ音楽なんだぜ。ということを、実に当時の若者に分かりやすく説明しているのでありますよ。

ビーチボーイズの「サーフィンUSA」が世界中でヒットしてブームが巻き起こる10年以上前に、こんなところで音楽とサーフィンのコラボは既に始まってたんですなぁ。

SP用に録音していた音源がLPになって、ジャケはその時に作られたとはいえ、これは物凄く歴史的なことかも知れません。

おっと、ジャケットの"サーフィン"の話はこれに終わりません。実は内容とも密接にリンクしておりまして、それまでの西海岸ジャズといえば、先に申し上げたように、綿密なアンサンブルが生み出す心地よいグルーヴにノレるものと相場が決まっていたのですが、ここでペッパーは、東海岸のホットでスピーディーなビ・バップのやり方を大胆に取り入れたスリリンなプレイを繰り広げて、新しい西海岸ジャズの「速いけどクールなスタイル」を確立しております。

初期のペッパーといえば、繊細で軽やかなフレージング。そいつにたっぷりの情緒や哀感を乗っけて吹く50年代後半のスタイルがすぐに思い浮かびますが、もっと初期のコチラでは、意外やスパッと芯の強い音で勢いに任せてひたすら吹きまくる、若さと勢いのあるスタイルです。

ハンプトン・ホーズやラス・フリーマンなど、西海岸一流のバックによるスマートな伴奏を得てかっ飛ばすワン・ホーンの前半に、ジャック・モントローズのテナーとハイテクなやり取りを聴かせつつ、ソロになるとやっぱりたまらなくなって疾走するかのような後半、どちらもかなりパワフルで勢いありすぎてもう笑いしか出ないぐらいの快演で、このスリル、疾走感はたとえるならばやはり波乗りでしょう。









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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 21:22| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする