2017年06月27日

アート・ペッパー モダン・アート

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アート・ペッパー/モダン・アート
(Intro/ユニバーサル)


「サーフ・ライド」で若さ炸裂の爽快なペッパーのアルト・サックスを聴いていたら、ついあれも聴きたいこれも聴きたいと、この3日ぐらいすっかりアート・ペッパー祭状態でした。

サックスといえば突き抜けた過激なスタイルも大好物なんですが、そういう激しいヤツをガーッと聴いた後に、メロウなトーンで優しく切なく吹いているサックスを聴くと「おぉ、かっこいい・・・」と、クラッとなってしまいます。

でも、そこはジャズですがら、単純に”綺麗”とか”上手い”とかいうのではダメで、一見端正で破綻のない演奏の内側に、どこかやりきれない哀しさとか、もっといえば背後にうっすら感じる破滅の気配みたいなものがないと満足できません。

いかにも真夜中のバーなんかが似合う、ニューヨークの黒人ジャズに比べ、軽妙でオシャレ、カラッとした昼間の空気が似合って健康的だね、なんて言われる1950年代のウエスト・コーストの白人ジャズではありますが、実はアタシは、この一見健康的で何の屈託もなさそうな明るいジャズの中にこそ、そういった”どうしようもなさ”の類の気配をとても感じて、胸がギューッとなってしまうのです。

で、アート・ペッパーです。

50年代にジャズという枠組みを超えて、ハリウッド俳優並の人気を誇ったジャズ界の二大色男といえばチェット・ベイカーとこのペッパーですが、彼らの演奏は、正に切なさと狂おしさと、マイルドな表現の奥底に秘められた破滅の匂いそのものでした。

デビューしたその頃から、いわゆる重度の麻薬中毒患者だったんですね。

ペッパーの方は懸命な断薬治療をして中毒を克服しており、ベイカーの方は晩年までヘロインにドップリで、最後はホテルの部屋から落下するという、事故なのか自殺なのか他殺なのかよく分からない不幸な最期を迎えております。

最期に関してはともかく、50年代から60年代に活躍したジャズマンのほとんどは、麻薬や酒、ギャンブルに溺れ、異性関係でのトラブルをいくつも抱えるなんてことは珍しくないことでありました。物理的には黒人であれ白人であれ、来るか来ないか分からない仕事で一攫千金を狙い、レコード会社からは印税を搾取され、マフィアが経営するクラブで日銭を稼ぎ、少しカネが入ったら彼らの”ビジネス”の顧客にされて、色んなところから骨の髄まで搾り取られる生活の中におり、一方で華やかなステージで脚光を浴びてモテまくる。

こんな中にいたら、マトモな感覚なんか来るってしまいます。繊細で感性が敏感な人ほど、何が信じられることで何が信じられないことかの判断が崩壊し、唯一信じられるもの=「確実に現実から逃避させてくれるもの」としての麻薬に手を出すことに、さほど抵抗はなかったのかも知れません。

悲しいかなこれが当時のミュージシャンを取り巻く環境でありました。

才能に溢れながらも表現のことや生活のことで多くの苦悩を抱えていた若き日のペッパーも、苦悩の果てにやぶれかぶれになってヘロインに手を出したであろうことは想像に難しくありません。

デビュー作「サーフ・ライド」のセッションをすべてレコーディングした後に彼は麻薬の不法所持で最初の逮捕。最初は微罪だったので、療養施設でリハビリをして社会復帰した後に西海岸で最も売り出し中のジャズ・レーベル”コンテンポラリー”と契約を交わすのですが、実はこの間に小遣い稼ぎ(実際は麻薬を買うカネ欲しさ)にイントロという小さなレーベルでの仕事を一個だけ引き受けます。

スタジオに集められたのは”サーフ・ライド”でも素晴らしいコンビネーションをキメた、この時期の西海岸サウンドにはなくてはならないピアニストのラス・フリーマンに、ベースのベン・タッカーにドラムのチャック・フローレスという一流どころの面々でありましたが、ペッパーにとってはそんなことよりも日銭が欲しい、早くしようぜ、何やるの?うぅ〜ん、まず適当にブルースやって、後はスタンダードでもやるか。はい、じゃあはじめよう、ワン、ツー・・・。





【パーソネル】
アート・ペッパー(as)
ラス・フリーマン(p)
ベン・タッカー(b)
チャック・フローレス(ds)

【収録曲】
1.ブルース・イン
2.魅せられて
3.君微笑めば
4.クール・バニー
5.ダイアンのジレンマ
6.サヴォイでストンプ
7.恋とは何でしょう
8.ブルース・アウト


ぐらいの感じだったと云います。

実はこのペッパー、最初の逮捕と治療もどこ吹く風で、シャバに出たらもうとっととヘロインを仕入れて打ってたんですね。

初期ペッパーの名盤といえばもうひとつ「ミーツ・ザ・リズム・セクション」というアルバムがありますが、コレもレコーディングのときはもうクスリでヘロヘロになって、スタジオに遅刻してきて、吹いてる時も意識朦朧で大変だったそうなんですが、この時期のペッパーのコレが”平常運転”なのです。

でも、そんなヘロッヘロでまるでダメな状態のペッパー

「本当はチャーリー・パーカーみたいにエキサイティングなトーンでバリバリに速い曲を吹きまくりたいんだー!」

という思いとは裏腹に、麻薬の悪影響で思うように気合いが入りません。

でもね皆さん、ここからがあり得ない話なんですが、そんな”気合いが入ってないはずのペッパーの音”が、レコーディングされた演奏からは何とも甘く艶やかなトーンで、独特の憂いを帯びた美しい旋律を奏でているんです。

麻薬中毒のことを知らなければ、全く破綻のない「こういうスウィートな演奏をする人なんだ」で当たり前に通用する音です。

(恐らくは)ペッパーの演奏前の状態を見て「あぁ、コレはオレらが必死で盛り上げないとダメだぞ」と思ったであろうメンバー達の、すこぶる爽快な”カチッ”とした綺麗にスウィングするビートは全編に渡って見事で、特にバンドの中心となっているラス・フリーマンの決して主役を押しのけない、でもソロの中では全力で歌世界を築き上げる知性と品性に満ちたピアノは素晴らしいのですが、冒頭の「ブルース・イン」エンディングの「ブルース・アウト」で、ペッパーとピッタリ呼吸の合ったベースを聴かせるベン・タッカー、もう最高です。

そんなバックのキッチリしたグルーヴに、ペッパーの情緒てんめりで妖しく美しく鳴り響くアルト・サックスの音、えぇいもう麻薬中毒とかそういう色眼鏡ナシで聴きましょうや。

・・・でも、やっぱりどこか危険な香りがするよぉ!

この独特な危険なカッコ良さは、マイナー・レーベルでのちょっとしたレコーディングのつもりだった、ヘタをすれば録音したペッパー本人の記憶にもあんまり残ってないぐらいのレコードを、奇跡の大名盤に育て上げます。

くれぐれもペッパーは本調子ではないのです。で、どんなに素晴らしい才能を持っていても、麻薬がそれを終わらせることはあるけれど、開花させることは絶対にないのです。でも、このアルバム全編を覆いながらペッパーのプレイのあちこちから胸の内を破って出てくるかのような切ない切ないエモーションは、ちょっと何事でしょうという感じであります。やっぱりどうしようもなくジャズなアルバムなんです。

この音と出会ってしまったばかりにアタシの人生どこか変わってしまったかもなぁ・・・。

でも、まぁいいか。







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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする