2017年06月28日

アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズムセクション

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アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズムセクション
(Contemporary/ユニバーサル)


「毒を食らわば皿まで」

という言葉が好きなので、今日もひつこくアート・ペッパーをご紹介したいと思います。

えぇ、これはもうね、しょうがないんですよ。ペッパーという人の甘美でいてどこか危うい演奏とアルト・サックスのえもいえぬ音色には、何というか「あぁかっこいいなぁ、もう一回聴いてみよう」と思ううちに何回もズルズルと聴く人を引き込んでしまう。もう何度も言いますが、正に”甘い毒”そのものだから、えぇ、これはもうね、しょうがないんです。ペッパーをよく知らないという人もですね、これはもうそういうもんだー、しょうがないんだーと思いながらここからの記事を読んでくださいね。

今日は人気の高いアート・ペッパーのアルバムの中でも「モダン・アート」と並んで特に代表的な名盤と言われている「ミーツ・ザ・リズムセクション」であります。

これはですのぅ、当時の西海岸白人ジャズ、いわゆる”クールなウエスト・コースト・ジャズ”を代表する人気者のアート・ペッパーと、東海岸ニューヨークの粋でイナセなモダン・ジャズ、いわゆる”ハードバップ”を代表する大物のマイルス・デイヴィスのバンドのピアノとベースとドラムのリズムセクションの3人が競演した、今で言うところの「夢のコラボ企画」の走りみたいなアルバムなんですね。

当時はアメリカもニューヨークを中心とした東海岸と、カリフォルニアを中心とした西海岸では、そのスタイルが大きく異なっておりました。

そんなスタイルの違う人気者同士を共演させたら、きっと目新しいカッコイイものが出来るに違いない!ジャズ好きならばそう思うのが自然でありますね。そうでなくてもジャズが好きな人というのはジャズのどこが好きかというと

『個性的なプレイヤー同士が、その個性を思う存分ぶつけ合うことで生まれるマジック』

というのが好きなんです。

んで、ペッパーと”リズムセクション”という一言だけでもうあぁコイツらだとジャズ好きにはピンと来るぐらいに有名だったマイルス・デイヴィスのリズムセクション、すなわちピアノのレッド・ガーランドとベースのポール・チェンバースとドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズの3人による演奏は、果たしてどんな具合に仕上がったのでしょう?

はい、これが言うまでもなく「大成功」だったんです。

元より当時のマイルス・デイヴィスのバンドは、ハードドライヴィングなリズムを繰り出した派手な演奏、ホットな演奏をすることも出来ましたが、マイルスが目指すところは「勢いだけに頼らない都会的な洗練を生み出すサウンド」であり、選ばれたメンバー達もそれぞれそのコンセプトに適う実力とセンスを持った人達でした。

彼らのリラックスしてて都会的な”小粋”をふんだんに振りまくグルーヴ(特にレッド・ガーランドの優雅で気品に満ちたピアノはカッコイイですね)を得たペッパーが、持ち前のメロディアスな感性を全開にして吹かない訳がありません。

一説によるとこの日のレコーディングに臨んだペッパーは

「うえぇ、あのマイルス・デイヴィスのリズム・セクションと一緒にやるのかぁ。怖いなぁ・・・そうだ、クスリをキメたら少し大丈夫になるだろう」

と、自宅でラリラリになっていて、演奏どころか歩くのもヘロヘロな状態で、それでもビビリながらスタジオに入ったとか言われておりますが、本人の回想によると

『ん〜、マイルスのバンドとか言われても実際よくわかんなかったんだよね。ニューヨークで人気なんだって?ソイツらが西海岸にツアーに来て、レコード会社はわざわざ一緒にレコーディングさせるって言う。正直あんま乗り気じゃなかったのよ。オレはあん時体調悪かったし、何しろスタジオには1日しか入れない。で、一緒に演るのは知らんヤツらだし曲もマトモに準備してない。ビビッてなんかないよ、ただ困るよね。だから何とかバックれてやろうと思ったの。遅刻してきたのと体調悪かったのはそもそもクスリが原因だったってのは正直すまんかった』

ということだそうで、とにかく「知らない人と一緒に演奏するの悩んじゃうよね」というぐらいペッパーが物凄く繊細だったというのと、東海岸流儀の”出たとこ勝負のセッションをそのまんま一発録りしよう”というような感覚が、恐らくこの頃の”しっかりと譜面を用意してリハーサルもたっぷりやってからレコーディングする”というのが当たり前の西海岸のミュージシャン感覚にはちょっと理解できないことがあったんではないかと思われます。





【パーソネル】
アート・ペッパー(as)
レッド・ガーランド(p)
ポール・チェンバース(b)
フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)

【収録曲】
1.ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ
2.レッド・ペッパー・ブルース
3.イマジネーション
4.ワルツ・ミー・ブルース
5.ストレート・ライフ
6.ジャズ・ミー・ブルース
7.ティン・ティン・デオ
8.スター・アイズ
9.バークス・ワークス
10.ザ・マン・アイ・ラヴ (ボーナス・トラック)


ところが、そんな繊細さとか感覚の違いとかを、当日ややラリラリになりながらも演奏では見事克服したペッパーも偉いんですけど、ペッパーの緊張を解いてベスト・プレイを導き出したガーランドとチェンバースとフィリー・ジョーの3人が偉いと思いますわ。

こっからは想像の会話です。

ペッパー「・・・あ、どうもお疲れ様です。ご一統様お揃いで・・・」

ガーランド「おうおう、西海岸のスター様のご到着だ。いやぁはじめまして、噂はかねがね聞いてるよ。すっげぇクールなプレイするんだってな。ウチのリーダーも褒めてたよ(嘘、マイルスが注目してたのはチェット・ベイカーの方)」

ペッパー「いやそんな、嬉しいな。今日はひとつお手柔らかによろしく・・・。ん?君随分若いがいくつ?」

チェンバース「ポールだよ。歳はう〜んと、22です」

ペッパー「(ええぇ、こんな少年みたいなベーシストがそんな凄いのか・・・)よ、よろしくポール」

フィリー・ジョー「あー、えーっと、お兄さん大分ヘロヘロじゃねぇか。キメてきたんだろ?後でオレにもちょっと(以下不適切につき割愛)」

ペッパーとフィリー・ジョー(ニコニコ・・・)←会話の結果一番意気投合している。

エンジニア「よーし、じゃあはじめるか!時間ないぞー、一発でバシッとな」

ペッパー「え?ちょっと待って、まだ準備が。それに何やればいいのか・・」

ガーランド「オーケー、アート。まぁブルースやろうか」

ペッパー「(ブルースなら・・・)あ、わかった」

という訳で初顔合わせではお約束のブルース(ここではACEがそれです)を演奏して、お互いの実力の高さ、特にペッパーから見て、この3人の「ツーといえばカー」の見事な即応能力は相当にヤル気を出させて余りあるものだったと思います。

「オレ、こんなフレーズ思いついたんだー」

とガーランドが弾くピアノに合わせてバックの2人が完璧なリズムを提供、それに触発されてアドリブを繰り出すペッパーのプレイを気に入って「よし、じゃあこの曲はオレらの名前を取って”レッド・ペッパー・ブルースでどうだ?」と、笑いも混ぜながら和気藹々の中進むブルース・セッション。

やがて機嫌がよくなった4人で

「スタンダードならどの曲がいい?」

「オレ、あの曲好きなんだー」

「マジか?それニューヨークでもウケてるぜ」

「じゃあやろう」

と、スタンダードのセッションが始まって、生まれた名演が冒頭の『ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ』最初の3音が朗々と伸びてゆく大変にふくよかなこの曲は、ヴォーカルものではヘレン・メリルがクリフォード・ブラウンと一緒にやったもの、インストものならコレといわれるぐらいに素晴らしく完成度の高い”歌”が聴けて、文句ナシの一曲目ですね。

あと、ノリにノッて急速調のリズムの上でペッパーが珍しくアツく吹きまくる『ストレート・ライフ』、フィリー・ジョーが得意のラテン・リズムを転がしながら、ペッパーのアドリブから艶やかな色気を最大に引き出しております。

とにかくブルースもスタンダードも、ペッパーと”リズム・セクション”それぞれのリラックスした中にアツく燃える瞬間がいくつもある、見事にガチンコなやりとりの中で最高に活きておりますね。

最初は

「おうおう、西の代表ペッパーの軽快によく歌うサックスと、東のナンバーワン・リズムセクションのハードに粘るグルーヴの掛け合わせが最高だわい」

とか思ってて、実際にそういう味わいの違うもの同士の融合の奇跡な部分はあるんですが、聴く毎にペッパーの持つ狂おしいメロディ感覚と、リズム・セクションの小粋な深みのある演奏が、本当に自然に溶け合ってるなぁと思って感動し、その自然な心地良さに酔えるアルバムだと思うに至ります。

本当にたった1日の初顔合わせセッションなのに演奏のクオリティは高く、捨て曲もなく、この4人ずっと一緒に演奏してきた人達なんじゃないか?とすら思うほどです。





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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 19:18| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする