2017年07月24日

マイルス・デイヴィス スティーミン

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マイルス・デイヴィス/スティーミン
(Prestige/ユニバーサル)

コルトレーンの歌心の源流を追って、ここのところ初期マイルス・デイヴィス・クインテット時代のコルトレーンを集中的に聴いております。

改めて聴いてやはり思うのは、コルトレーンのプレイのポリシー、つまり「それまでテナー・サックスでは誰もやってなかったシャープなサウンドで、エッジの効いたプレイをする」というのは、この時代既に確固たるものとしてコルトレーンの中で固まっていたんだなぁということです。

コルトレーンのデビューは遅く、マイルスのグループに参加した頃は既に30になろうとしていた頃でしたが、彼にとってはライバルであり、少し年下のソニー・ロリンズがその5年前には19歳にして堂々たる吹きっぷりで世間を沸かせていたことを考えると「俺は本当にジャズで食っていけるのか?」と、考え悩むばかりの20代であったであろうことは想像に難しくありません。

しかし、彼が20代ももう終わりに近付き、憧れのチャーリー・パーカーと一緒に演奏をしていたマイルスに声を掛けられた時は、既に20代の頃夢中で練習していたビ・バップの時代は終わりを迎えようとしておりました。

「ひたすら早くてヒップなフレーズを、熱気と技術に任せて吹きまくる」

というビ・バップから

「よりファンキーで、楽曲全体を考えたメロディアスなアドリブと、洗練されたモダンな演奏を」

というハード・バップの時代に突入した1950年代半ばにようやくソロ・アーティストとしての可能性を掴んだコルトレーン。そして、その時代を牽引して次の時代のドアに手をかけていたのが、自分をスカウトしてくれたマイルス・デイヴィスその人だった訳ですから、嫌でもやる気はみなぎろうというものです。

コルトレーンはしかし、その時点ではジャズ界隈のリスナーからはまだまだ未熟で何をやりたいのかよく分からないテナー吹き、という扱いを受けておりました。

テナーサックスといえばソニー・ロリンズのように、中低域を活かしたズ太い音で、よどみなく粋でイナセなフレーズを、リズミカルに次々と生み出すもの。或いはまだリスナーのほとんどは、ビ・バップより前の時代のスウィング・ジャズ・テナーの豪放磊落な、分かり易い男らしさがほとばしるプレイの残滓を追っていたのかも知れません。

このようなファンの感覚は

「誰もやってなかったことをやる」

と決めたマイルスにとってはどうでもいいものでした。

コルトレーンにとっても、エリントン楽団のジョニー・ホッジスが最初のアイドルであり、ちょっと前まではR&Bのアール・ボスティックのバンドで豪快で野性味溢れるホンク・テナーも”お仕事”で吹いていたのです。いかにロリンズやスタン・ゲッツら当時の一流テナーマンに比べて技術的には数段劣るとはいえ、プロとして求められさえすればある程度スイスイ吹けるぐらいの基本的な実力はあったでしょうが、コルトレーンの意識も

「自分ならではの、まったく新しいプレイスタイル」

な訳ですから、理解してくれるよき仲間と共に、大いに試行錯誤、切磋琢磨するべき時間は必要だった訳であります。

グループに加入したその年の1955年の演奏には、確かにコルトレーンの迷いが見て取れます(アルバム「ザ・ニュー・マイルス・デイヴィス・クインテット」)が、マイルスのコンセプトへのコルトレーンの理解力は素晴らしく、次の作品の「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」から、プレスティジでの最後のレコーディングであります”マラソン・セッション四部作”に至る1956年の一連の演奏を聴くと、もうたった1年のうちに何があったんだと思う程の技術的な上達と、他の誰にも似ていないしっかりとした個性が確立されたサウンドとフレーズが見事に花開いているのです。



【パーソネル】
マイルス・デイヴィス(tp)
ジョン・コルトレーン(ts,ACD)
レッド・ガーランド(p)
ポール・チェンバース(b)
フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)


【収録曲】
1.飾りの付いた四輪馬車
2.ソルト・ピーナツ
3.サムシング・アイ・ドリームド・ラスト・ナイト
4.ダイアン
5.ウェル・ユー・ニードント
6.オエン・アイ・フォール・イン・ラヴ

(録音:@〜CE1956年5月11日,D10月26日)


という訳でマイルスの”Prestige四部作”は、マイルスの優雅で繊細なトランペットの妙技と、センス最高ハード・バップ・ジャズをどのアルバムでも心ゆくまで楽しめますが、コルトレーン・ファンにとっても最初の飛躍が刻まれた胸の透くようなカッコイイ演奏にシビレることが出来る素晴らしいアルバム達です。

本日ご紹介するのは「クッキン」「リラクシン」ときて「スティーミン」です。

何となく四部作の中では、ジャケットがかわいい「クッキン」と「リラクシン」は人気ありますが、「スティーミン」と「ワーキン」はあんまり語られることがないような気がしませんか?

うんうん、内容的にはアルバム単位で甲乙付け難いのは本当ですし、せっかくなんでもっと多くの人に「スティーミン」と「ワーキン」を聴いてほしいので、今日は大いに語りましょうね。もちろんコルトレーンを中心に。

さて、本作スティーミンは、こちらも「リラクシン」同様に、リラックスして聴ける極上のジャズです。

更に目玉としては、ノリノリのビ・バップ曲「ソルト・ピーナッツ」と、セロニアス・モンクのコミカルなノリの良さが光る「ウェル・ユー・ニードント」での、コルトレーンの炸裂するプレイでしょう。

マイルスとしては、もうこの時点でビ・バップの急速ナンバーは「もういいか」という認識だったとは思いますが、アルバム4枚分のレコーディングをせねばならないからというのと、やっぱりライヴなんかではキャッチ―で速い曲はウケが良かったんでしょう。

それにここまでに散々ビ・バップをやってきたメンバー達にとっては”お手のもの”であります。

マイルスがミュートを外してパラパラパラ!と吹きつつも、ところどころで絶妙に音を抜いて間を活かした(コレが最高にセンスいい!)ソロをすれば、コルトレーンはそれまで溜めてきたものを一気に吐き出すかのような細かい手数での激しい吹きっぷり。

それを受けて”モダン・ジャズの世界で一番派手なドラムを叩く男”(←今考えた)フィリー・ジョー・ジョーンズがハイライトとなるド派手なドラムソロで山を作って一瞬のテーマをマイルス、コルトレーンがパッと吹いてズシャッと終わり。くーカッコイイ、スタジオ盤なのに何でこんなにライヴっぽいんだろう。

感動の余韻を更に膨らますかのように、今度はマイルスがワン・ホーンで歌う見事なバラード「サムシング・アイ・ドリームド・ラスト・ナイト」から、再びコルトレーンが参加しての、怒涛の「ダイアン」そして「ウェル・ユー・ニードント」。

「ダイアン」はミディアム・テンポの小唄ですが、おっと、言い忘れていたけどこの曲のコルトレーンのソロも目玉です。

テンポに合わせた絶妙の”抜き””スカし”なら、コルトレーンはテンポに対して倍ぐらいの数の高速フレーズをブチ込む思い切ったアドリブで突っ走るんですが、この時勢い余り過ぎて「キュイッ!」と音が裏返るミス・トーンを出してるんです。コレがもう最高にシビレます。いいなぁジャズって。。。

そしてセロニアス・モンクの「ウェル・ユー・ニードント」ですが、この頃まだその独特過ぎる個性ゆえに、一般人気とは縁遠かったモンクの曲を「何でだよ、カッコイイものはカッコイイじゃねぇか」と積極的に演奏していたのはマイルスです。

マイルスの代表作と思われている「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」だってモンクの曲です。

聴く分には独特の”飛び””はずし”が、リズムと絡まってウキウキするモンクのミディアム・アップ・ナンバーは、実は演奏する側にとっては実に難しいのですが、こんなもん結成して毎晩のようにライヴやってたマイルス・バンドの手にかかりゃ朝飯前。

コミカルで摩訶不思議な”うねり”のあるテーマをズラしたタイミングでカッコよくハモるマイルスとコルトレーンから、マイルスのスムースなソロからコルトレーンの力強いトーンが「ぎゅいーん」とフル加速していくこの流れ、たまらんですね。そこからバトンタッチした、珍しく低音をガラゴロミステリアスに転がすガーランド、その間もずーっとブイブイとぶっとい4ビートを刻み続けているチェンバースのベース、スネアとハイハットとシンバルを細かく使い分けて効果的に突っ込むところにピシャッと突っ込んでゆくフィリー・ジョーのドラム。たまらんですね、実にたまらんです。

最後は再びマイルスのワン・ホーンでの美しいバラードで、結局コルトレーンはこのアルバムではバラードでは参加せず、ミディアムからアップテンポの曲のみの参加となっておりますが、それだけにギアの入ったコルトレーンの凄さに「うひゃー!」と興奮するにはもってこいのアルバムなんじゃないかと思います。良いよ。

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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』


サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 19:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする