2017年08月19日

スウィート・インスピレイションズ

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スウィート・インスピレイションズ
(Atlantic/ワーナー・ミュージック)

ここ1ヶ月の間、コルトレーンを中心にハードなジャズばかりを集中的に聴いておりましたので、気が付いたらふと音楽にポップさを求めてしまいます。

こういう時は60年代のソウル・ミュージックだよなぁ〜、と、しみじみ思いながら聴きまくっておりましたのがコチラ、ジャケットからしていかにも60年代後半の、ポップでキッチュでサイケな衣装もカワイイ女の子3人組”スウィート・インスピレイションズ”でありますよ。

中身は至福な楽曲と、まるで極楽のような見事なハーモニーが重なり合う、もう本当にこの時代の

「かっこいいソウル・ミュージック?」

「そうこれ!」

で決まりの、とにかく歌が上手い女性ヴォーカルものをお探しの方になら、目をつぶってもオススメできるぐらいのやつなんです。

そう、スウィート・インスピレイションズ、このグループは単純に心地よく聴くだけでも最高ですが、実はこの時代のガールズ・ソウルを語るには欠かせない、とても重要なグループです。

何で重要なのかというと、彼女達は教会でゴスペルを歌ってた、そのグループがそのまんまソウルのグループとしてデビューし、認められたんですね。

それのどこが重要なのかというと、今でこそゴスペルは、プロのシンガーになるための登竜門的な音楽になっておりますが、その流れを作ったのが、このスウィート・インスピレイションズなんです。

もちろん、彼女以前にも「教会でゴスペルを歌ってたのが、プロになってソウルシンガーになった」

という歌手はおりました。

代表的なのはサム・クックとアレサ・フランクリンです。

この人達は、ゴスペルのスタイル、培った歌唱法を全面に押し出して大成功しましたが、言うまでもなくゴスペルという音楽は、神様を讃える宗教音楽であります。

それこそ戦前なんかは「ブルースなんぞ悪魔の音楽、あんなもの歌う人間は地獄に落ちる」と、徹底して世俗の歌や、そういった娯楽に溺れる人間に対しては、教会音楽の世界は結構容赦なかったんです。

そういった考え方は戦後も根強く残っておりまして、50年代以降ゴスペル出身のシンガーがR&Bの歌手になるなんて言うと「教会で歌ってた人間が、R&Bなんていう世俗のイヤラシい音楽を歌うなんてとんでもない」と、非難されていた。そういう意識がまだまだあったんですね。

だからサムもアレサも、ゴスペルの世界を離れて、自分は俗世の音楽をやりますと、キッチリ”転向”した上でR&Bやソウルで、男と女の愛の歌などを歌ってた、またはその必要があったんです(アレサはその罪悪感に苛まれて、純粋なゴスペルアルバムをリリースしたりしております)。

この流れが徐々に緩和されていったのが1960年代半ば、10年以上にも及ぶ運動の末に、人種差別を禁止する公民権法が制定され、アメリカ黒人の社会的権利がようやく認められるようになってからであります。

この運動によって芽生えたのが「ブラザー、シスターみんなで手を取り合って世の中を変えて行こう」という意識であります。

こういった意識を持つんだぞと、音楽の世界からずっとメッセージを発し続けていたのがサム・クックを中心としたソウル・シンガー達であり、彼らのメッセージは「ソウルもゴスペルと同じく、人類愛を歌っているね」と、信仰に篤い人々からも一定の評価を得ました。

そしてアレサ・フランクリンもこの時期アトランティック・レコードと契約を交わし、それまでずっと抑えていたゴスペル・フィーリングを全面に打ち出した”ソウル”を歌い、これで大ブレイク。「アレサが歌うとちょっとした男女の恋愛の歌もまるで人類愛を歌ってるように聞こえる」といった世間の評価は、これもまた世俗と信仰の壁を薄くすることに大きく貢献しました。


ちょいと長ったらしくなりましたが、ブラック・ミュージックを深く楽しむために、教会音楽と世俗音楽の関係と、公民権運動ってのは絶対に避けて通れないお話なんで、まぁよくわからんでも「あぁそうか」と思って心の片隅に留めておいてくださいね。

で、スウィート・インスピレイションズであります。

彼女達は、元々がニューヨークのお隣のニュージャージー州の教会でゴスペルを歌ってた聖歌隊であります。

この中で透き通る力強い高音のヴォーカルを自在に操り、天才少女と呼ばれていたのが、リード・シンガーのシシー・ヒューストン(当時の名前は”シシー・ドリンカード”)。

彼女の活躍は凄まじく、十代の頃にはもう”ドリンカード・シンガーズ”という自分の名前を冠にしたグループを率いております。そして、1950年代の末には一流が集うニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演し、ライヴ・アルバムも作っております。

ついでに言うとシシーはホイットニー・ヒューストンの母親であり、80代になった今でも現役のゴスペルシンガーとして活躍中です(2017年現在)。



【収録曲】
1.オー・ホワット・ア・フール・アイヴ・ビーン
2.ブルース・ステイ・アウェイ・フロム・ミー
3.ドント・レット・ミー・ルーズ・ディス・ドリーム
4.ノック・オン・ウッド
5.ドゥ・ライト・ウーマン、ドゥ・ライト・マン
6.ドント・ファイト・イット
7.スウィート・インスピレイション
8.レット・イット・ビー・ミー
9.アイム・ブルー
10.リーチ・アウト・フォー・ミー
11.ヒア・アイ・アム
12.ホワイ(アム・アイ・トリーテッド・ソー・バッド)

この”ドリンカード・シンガーズ”が前身となって、えりすぐりの実力派シンガーばかりを集めて結成されたのがスウィート・インスピレーションズ”です。

男女の甘い恋愛を想起させる”スウィート”という単語と、霊感を意味するそのまんまゴスペル用語である”インスピレーション”を掛け合わせたグループ名は、ソウルの世界において彼女達が「ゴスペルの背景を持っている」という堂々たる宣言であり、実に画期的なことだったんです(元々は”インスピレイションズ”という名前でソウルを歌いたかったけど、その名前は既に使われていたので”スウィート”を付けたということが結果的にインパクトを与えました)。

で、この当時のメンバーであるシシーと、双璧を成すパンチの効いたリードのエステル・ブラウン、バックで絶妙なコーラス・ワークの屋台骨を支えるマーナ・スミス、シルヴィアシェムイルの4人が奏でるハーモニーは、完全にゴスペルのそれであります。

シシーが伸びやかな声で主旋律を歌えば、そこに全く声質が違うのに何の違和感もなく掛け合い、ヴィブラートを見事に絡め合いながらリードを交代するエステル、このコンビネーションがとにかくもう見事で、バラードもファンキーなナンバーも、とにかく「あぁ、美しい」と、素直に浸れる感動的なものに仕上がっていて、それでいて敷居の高さは全く感じさせないんですね。最初に聴いた時それこそソウルとしてのキャッチ―さ、ゴスペル(の歌唱法、コーラスワーク)としての上質さの両方に、それこそ撃ち抜かれました。こんだけポップなのに、何かこう心洗われた気分になるのは一体どういうことだろう、凄い!あぁもう言葉もないと、もうそんな感じです。

楽曲はオリジナルに加え、ウィルソン・ピケット(この人もゴスペル出身)、アレサ・フランクリン、ディオンヌ・ワーウィックの素晴らしいカヴァーがいずれも美しいハーモニーで時に繊細に、時に力強く綴られております。

特にアレサの名バラード「ドゥ・ライト・ウーマン・ドゥーライト・マン」は絶品であります。



彼女達は、実はグループとしての活躍よりも、アレサ・フランクリン、エルヴィス・プレスリーのバック・コーラス隊として有名だったりするんですが(上の動画のコーラスが”スウィート・インプレッションズ”です)、既にバックを務めていたアレサの、本家にも迫るクオリティを聴くと、本当に凄い実力を持った人達なんだなぁと、しみじみ感じ入りますね。

この後はさっきも言ったように主にアレサやエルヴィスのバックとして活躍していたスウィート・インプレッションズ、グループとしては大々的なヒットを飛ばすというよりは、細く長い活動で今に至り、ブラック・ミュージック界の屋台骨を支えております。

で、60年代後半の洗練を見事パッケージしたこのアルバムの次にリリースされたのが、実に味わい深いゴスペル・アルバムで、コレがまた最高なんですが、そのお話はまた次の機会に。。。





『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 11:56| Comment(0) | ソウル、ファンク、R&B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする