2017年09月20日

バッハ:無伴奏チェロ組曲(マイスキー)


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バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲(マイスキー)
(ユニバーサル)


あのー、よくロックとかブルースで

「ギターは顔で弾く」

というのがありますね。

つまり、ギタリストというのは、ソロを弾いてる時にどんだけ顔に感情を込めるかが命なんだ。キュイーンとチョーキングをかましたら、そん時ゃ顔でも「キュイーン」と言ってなきゃいけない。そういうやつです。

あ、今日は久々にクラシックの紹介なのに、いきなりそんな話をしてすいませんねぇ。でも、この話しないと今回は先に進まないんですよ。

で、本日ご紹介するミッシャ・マイスキーです。

現代クラシックにおいては、もうチェロの凄い人ですよね。

その凄い人なんですが、アタシはテレビで最初にこの人の演奏を観て聴いた時に、凄まじい衝撃を受けましたというお話であります。

まぁ顔ですよ、見て下さい。

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顔全体に生やした見事なお髭と、万遍なくフサフサしている天然カーリーヘア、そして胸元が大胆に開いたルネッサンスかロココ調かというオッシャレーなシャツという出で立ちのこの人を観て、アタシは

「あ、コレはカッコイイ。そんじょのマジメーなクラシックの人と違って、何かロックを感じる。きっと凄い演奏をしてくれるはずだ」

と、期待してテレビの前で何故か正座してました。

演奏が始まると、やはり期待通り、いや、期待以上にこの人は、大きなアクションで、ロマンスのオーバードーズとも言いたくなるぐらいに情熱のこもった素晴らしい音色とフレーズをチェロから放ち、もうアタシのハートはまっすぐに貫かれた訳なんですが、それ以上に顔です。

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彫の深〜い、実に男らしい見事な髭をたくわえた、まるでどこかの王様のような威厳のある顔が、演奏中はもう何か目一杯ウットリしてて、とろけるような顔で弾いてるんですよ。

ちょっと今、googleの画像検索で「ミッシャ・マイスキー 顔」で検索したんですけど、やっぱりリアルタイムの演奏中の顔には敵いません。アレはそれぐらい衝撃がデカかった。

アタシはもう感動やら楽しいやらで「顔!顔!あぁああーー!!」と、テレビの前で笑い転げながら歓喜の声を上げておったんですが、これ、バカにしてるんじゃないですよ。友川かずきを最初に聴いた時もそうだったんですけど、人間というのは、自分の理解を遥かに超えたカッコイイものに出会った時は、あらゆる感情を突き破った”笑い”が出てくるんですよ。

いや、ホント、こん時のマイスキーは最高にカッコ良かった「クラシックにもこんなぶっ飛んだ人いるんだ」と、生まれて初めて思いました。






(Disc-1)
1.無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007 第1曲:Prelude
2.無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007 第2曲:Allemande
3.無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007 第3曲:Courante
4.無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007 第4曲:Sarabande
5.無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007 第5曲:Menuet I/II
6.無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007 第6曲:Gigue
7.無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV1010 第1曲:Prelude
8.無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV1010 第2曲:Allemande
9.無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV1010 第3曲:Courante
10.無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV1010 第4曲:Sarabande
11.無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV1010 第5曲:Bourree I/II
12.無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV1010 第6曲:Gigue
13.無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV1011 第1曲:Prelude
14.無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV1011 第2曲:Allemande
15.無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV1011 第3曲:Courante
16.無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV1011 第4曲:Sarabande
17.無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV1011 第5曲:Gavotte I/II
18.無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV1011 第6曲:Gigue

(Disc-2)
1.無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009 第1曲:Prelude
2.無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009 第2曲:Allemande
3.無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009 第3曲:Courante
4.無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009 第4曲:Sarabande
5.無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009 第5曲:Bourree I/II
6.無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009 第6曲:Gigue
7.無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調 BWV1008 第1曲:Prelude
8.無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調 BWV1008 第2曲:Allemande
9.無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調 BWV1008 第3曲:Courante
10.無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調 BWV1008 第4曲:Sarabande
11.無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調 BWV1008 第5曲:Menuet I/II
12.無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調 BWV1008 第6曲:Gigue
13.無伴奏チェロ組曲 第6番 ニ長調 BWV1012 第1曲:Prelude
14.無伴奏チェロ組曲 第6番 ニ長調 BWV1012 第2曲:Allemande
15.無伴奏チェロ組曲 第6番 ニ長調 BWV1012 第3曲:Courante
16.無伴奏チェロ組曲 第6番 ニ長調 BWV1012 第4曲:Sarabande
17.無伴奏チェロ組曲 第6番 ニ長調 BWV1012 第5曲:Gavotte I/II
18.無伴奏チェロ組曲 第6番 ニ長調 BWV1012 第6曲:Gigue


この人すっかり気に入って、これはぜひCDを買わんといかんと思ったアタシ、早速名前をメモして色々と調べましたら、やっぱり凄い人だったんですね。

ソビエト連邦のラトビア共和国に生まれ、10代でソビエト連邦の音楽賞とかチャイコフスキーコンクールとか、とにかく有名な賞で次々と良い成績を獲得して、その時チェロの神様と言われていたロストポーヴィッチに「君、私の弟子になりなさい」と誘われて、才能をメキメキ伸ばすんですが、マイスキー家はユダヤ人の家系。自由のないソ連でのキツい生活に耐えかねたお姉さんがイスラエルに亡命してしまい、そのとばっちりを喰らってミッシャも逮捕され、強制収容所に送られることになります。

22歳の青年マイスキーに課せられたのは18ヶ月の強制労働でした。

これが終わってさぁ音楽の世界へ戻ってチェロが弾けるぞと思っていましたが、当局から「出所したら兵役だ」と言われます。

「これは二度とチェロを弾かせないつもりだ、この国にいる限りは俺は音楽の世界に戻れない」

と悟ったマイスキーは、同じユダヤ系のお医者さんに相談。「この人は精神病です」という診断書をまんまと書いてもらって兵役を回避できます。

ここら辺り、タダモノではないですね。その後、あらゆるコネやツテを使って、何と海外移住の正式な許可を獲得して、まずはアメリカへ、そしてイスラエルへと脱出。タダモノでないぶりを存分に発揮して、音楽の世界に復帰するどころか、師匠のロストボーヴィッチも「あの人は凄いよ」と認める伝説的なチェロ奏者グレゴール・ピアティゴルスキーに弟子入りし、更に若手で最も注目されていた天才ピアニスト、マルタ・アルゲリッチとコンビを組んで、一気に世界的な人気を獲得しております。

アルゲリッチといえば、この人も凄まじい情念を、そのピアノ演奏に叩き付けることが出来る稀有の才能であります。この人の演奏と対等に渡り合えて、かつ高度な技術で共に最高のハーモニーを奏でることが出来るのは、やはりマイスキーしかおらんかったのでしょう。

この話を知って

「あ、この人はますます間違いない」

と思ったアタシ、とりあえずこの人は色々やってるけど、バッハの演奏においては特にすげぇよ、個性的だよという情報を入手して、バッハといえばの「無伴奏チェロ組曲」を最初に買いました。

結論からいえば、もうホント凄かったです。

バッハの無伴奏チェロ組曲といえば、定番中の定番であるパブロ・カザルスとか、重厚な雰囲気でこの曲の作品としての価値を決定付けたヤーノシュ・シュタルケルとか、名盤がたくさんあります。

その中で「どれが一番」というのはとても決められないぐらい、どの人の演奏も気合いが入っててカッコイイのですが、その中でも”個性的”という意味でマイスキーの演奏は、最初に映像を観た時のインパクトが全く削がれないぐらいの、見事な際立ちっぷりを見せて(聴かせて)くれました。


「バッハの音楽には人間のあらゆる感情が詰まってる」

というマイスキー、その言葉通りにシンプルなだけに底無しの奥深さを持つバッハのチェロ組曲の中に、本当にあらゆる感情を見出して引き出しているんじゃないかというぐらい、豊かな情感に満ち溢れた演奏です。

とにかくその、キリッとした鳴りの音色で、速いところは速く、緩やかなところはそれ以上遅くしたら演奏がダレてしまうギリギリを見極めた絶妙な間合いで、激しく緩急を付けて弾いていますが、この独特の緩急が、聴いているこっちの意識も大きく揺らして回してしまうぐらいの、ヤバいグルーヴを生み出しております。

アタシは常日頃

「バッハはグルーヴ」

と思っています。

バッハの完璧な構造の楽曲から、優れた演奏家は聴く人の意識をどこか高い次元に連れ去ってくれるグルーヴを生み出してくれるんですが、マイスキーの感情のオーバードーズなチェロ組曲は、まずバッハとかクラシックとかそんなよく分からん人にも、聴いて「これやっべぇ!」という陶酔が満ち溢れてます。

ちなみにこの「バッハ:無伴奏チェロ組曲」は、彼が移住後の初期の頃(1984年と85年)の録音で、99年には更に進化した2度目の録音を残していて、どっちもカッコイイです。





『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:20| Comment(0) | クラシック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする