2017年11月04日

ボビー・ティモンズ ジス・ヒア

6.jpgボビー・ティモンズ/ジス・ヒア
(Riverside/ユニバーサル)


ジャズやブルースなんかが好きで聴いておりますと

「イェ〜イ、ファンキーだね♪」

とか

「く〜、アーシーでたまらん」

とか

「ブルース・フィーリングがあるね〜」

とか

ゴキゲンなやつを聴いていると、ついそういう言葉が口を付いて出てくることがあります。

ブラック・ミュージックに思い入れのある方なら

「うんうん、わかるわかる。ファンキーでアーシーでブルース・フィーリング溢れてるやつはカッコイイよね」

と、大いに賛同してくださるところなんですが、かつてお店に来てくれたジャズ初心者のお客さんに

「何がファンキーなのか全然わかんない、アーシーって何?ブルース・フィーリングってむずかしい」

とツッコまれたことがありまして、あぁ、そうだよね、知らずに使っている専門用語が、初心者の人から見たら何だか難しくて壁が高いような感じに思えることってあるよね。と、大いに反省した記憶がございます。

で、アタシ自身もジャズやブルースやソウルにファンク。その辺を分かったようなつもりで聴いてはおりますが、ふと口から漏れるこれらの言葉が意味する本当のところって何だろうか?と考える日々です。

や、こういったことは理屈ではなく、単純に「これがファンキーだよ」と思うものを聴いて頂ければ良い、それを聴いた人が「イェ〜イ」ってなればそれがファンキーなんじゃないか。大体お前はいつもそうだ、考えなくていいことをいつまでもそうやってウジウジ考えて悩むから、いつまで経ってもロクな大人になれんのだ。

という心の声が、今しがた脳内に響いたような気がしますが、うん、そうですね、心の声氏の言うことも一理あります。

はい、サクサクいきましょう。

とりあえず

『ファンキーとかアーシーって何?』

今日はジャズ編ですね。

ジャズという音楽は、誕生してすぐにブルースという音楽を主な成分として成長してきました。

ブルースっていうのは、アフリカから奴隷としてアメリカに連れてこられた黒人達の子孫が、宗教音楽の”スピリチュアル”と共に、心のよりどころにしていた音楽で、言うなればアメリカ黒人の民俗音楽と言えるでしょう。

ブルースは歌とともに、ジャズは管楽器などをメインに添えたインストの多い音楽として、時に寄り添いながら、時に独自の道を歩みながら発展していった訳なんですが、戦後になるとジャズの世界でビ・バップという新しいスタイルが誕生し、ジャズは古い概念を次々と脱ぎ捨てて凄まじいスピードで進化してゆく音楽となり、この時点でその大元であるブルースとは、かなり隔たったところで鳴り響いているものでした。

ビ・バップというのは一言でいえば、コードの複雑化、フレーズの高速化などによって、元々持っていた娯楽性の高い部分をそのままに、鑑賞音楽としての芸術性を高めることにシフトしていったジャズであるといえるでしょう。

これが1940年代半ばから1950年代初頭にかけて行われたんですが、1950年代中頃には、若いプレイヤー達の中から

「なぁ、ジャズがどんどん難しいものになっていったら、お客さんにあんまウケないよなぁ。もっとこう、色んな人が楽しめて、かつ聴いてカッコイイものを作ろうや」

みたいな流れがぼちぼち出てきます。

この中心におったのが、当時”ジャズ・メッセンジャーズ”というバンドでブイブイ言わせておったアート・ブレイキーとホレス・シルヴァーであります。

二人はドラマーとピアニストとして

「キャッチ―で、バンド全体がノレるような曲」

を、ガンガン作って演奏しておりました。

彼らが思うところの「キャッチ―」つまり”バンドの演奏にお客さんが一体になって盛り上がれるイメージ”というのは、実はジャズのステージではなく、彼らが幼い頃から親しんでいた教会でのリヴァイバル、つまりゴスペルのコンサートにその究極があったわけです。

ゴスペルというのは、まず牧師さんが聖書の言葉なんかを引用して、お話をします(これを”説教”といいます)。

段々その説教に熱が入ってくると、自然と歌っぽくなるんですね。

で、そのリズムに合わせてオルガンが「ミャ〜」っとコードを鳴らしたりする。

そうすると牧師さんの説教がますます歌っぽくなる、つうかそこでゴスペルの有名な曲とかのフレーズに説教を合わせて歌う訳です。

そしたら今度はギターやらドラムやらが絡んできて、もう完全に”ライヴ”のノリになってくる。

ここで重要なのはお客さんです。

お客さんは牧師さんの説教の段階で、既に

「そうだ!」

とか

「神よ!」

とか、そういう愛の手を入れて、牧師さんの”ライヴ”に参加しとるんです。

牧師さんが何か言えば、熱狂した聴衆がアツく応える。

これ、ちょっと味方を変えてこんな風にしてみましょう。

「オーイェー、ノッてるかーい!」

「イェ〜イ!」

「お前ら今日は最高だぜ!」

「ワー!」

「オーケー、じゃあ次の曲は〇〇だ。サビのとこ一緒に歌ってくれよな」

「イェーイ!パチパチパチ」

(ズンダカダカダカダカダカダンダン・・・)

(サビ)

「イェーイ〇×▲※!」

「〇×▲※〇×▲※※!!」


・・・ちょっとアレですが、はい、こういうのってよくロックのコンサートとかでも見る光景ですね。

実はコレも、ずーーーーーっと源流をたどってゆくとこのゴスペルの「よびかけ」と「応答」に行き当たります。

これを専門用語で

コール・アンド・レスポンス

といいます。

よくよく聴いてみると、ジャズの曲にはこのコール&レスポンスを上手に演奏の中に取り入れた曲が多い。

例えばメインになるテーマ部分で、管楽器がワン・フレーズを弾いて、それをバックが返すとか、或いは管楽器同士でそれをやって、各自のアドリブに入ってゆくとか、そういった感じで使われますが、とにかくこの、ゴスペル由来のコール&レスポンスがメインテーマの主になっている曲というのは、聴いていて気分がムクムクと盛り上がる、ちょいと一杯クイッとやりながら「イェ〜イ」と、聴いてるこっちも合いの手を入れたくなる曲、つまりファンキーな曲が多い訳であります。


さぁ皆様、実はモダン・ジャズにおいては”ファンキーこの1曲!”というものがございます。

ここまでくればもう勘のいい方ならお分かりと思いますが、モダン・ジャズで最も有名な曲と言われている、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの『モーニン』です。



このメインテーマ、最初にピアノが奏でるのが”コール”で、その後管楽器が「パー、パッ♪」とやってるのが”レスポンス”。次の小節では管楽器がコールをやってピアノがレスポンスしている。いや、見事ですね、実にカッコイイ。

1950年代半ば以降のハード・バップと呼ばれる音楽が目指していたのは、このワン・フレーズに凝縮されているような

・シンプルで、かつ完成度の高いカッコ良さ

だったんです。

ほんで、今日はこの曲「モーニン」の作曲者、ピアノのボビー・ティモンズのアルバムをご紹介しましょう。




【パーソネル】
ボビー・ティモンズ(p)
サム・ジョーンズ(b,@AC〜H)
ジミー・コブ(ds,@AC〜H)

【収録曲】
1.ジス・ヒア
2.モーニン
3.ラッシュ・ライフ
4.ザ・パーティ・イズ・オーヴァー
5.プレリュード・トゥ・ア・キス
6.ダット・デア
7.マイ・ファニー・ヴァレンタイン
8.降っても晴れても
9.ジョイ・ライド


何で「モーニン」が入ってるアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのアルバムじゃなくて、ピアノのボビー・ティモンズのアルバムなのか?それはここ数日アタシが「く〜、カッコイイなぁ」と思いながら聴きまくっていたからです。

それと、このアルバムこそがピアノ・トリオという最小限の編成の中に凝縮された”ファンキー”つまり、オシャレでスタイリッシュでかっこいい黒人音楽のカッコ良さが、ジャズを好きな人にも、まだそんなに好きでもない人にも十分に伝わる形でしっかりと楽しめるからなんです。

ボビー・ティモンズは1956年にケニー・ドーハムの”ジャズ・プロフェット”に参加して、その後アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズに参加して、名曲名演を数多く残しております。

バンドでの彼は、決して派手に前に飛び出さず、フロントのバックで実に職人魂溢れる、小粋なプレイを身上としておりました。

だから彼がバックでピアノを弾くと、バンド全体の演奏がキリッと締まるんです。

で、このアルバムは1960年に録音された、ティモンズにとっての初めてのリーダー作。

バックにベース、ドラムスを従えたティモンズのプレイはどうなんだろうと言いますと、これが実に粋でイナセな”都会の夜”を思わせる、渋い味わいに満ちた素晴らしいアルバムです。

注目曲はやはり「モーニン」でしょう。

コール&レスポンスで盛り上がるために作られたこの曲ですが、ティモンズはピアノでコールとレスポンスを一人演じながら、濃厚ななブラックコーヒーのようなプレイで聴かせます。

テーマからジワジワと盛り上がるアドリブも、決して勢いに任せたりはせず、じっくりと腰を据えて鍵盤の一打に内側に持っている”ブルース”を込めながら、ジワジワとアドリブで熱く盛り上がってゆく。

いいですねぇ、これですよ、これを”ファンキー”と言わずして何と言いましょう。

とにかくこの曲が聴ければ、それでもうアルバム一枚買うだけの価値があるぐらいの「モーニン」のカッコ良さですが、伴奏なしのソロで弾く「ラッシュ・ライフ」や、バラードの「マイ・ファニー・バレンタイン」なんかも、すこぶる沁みる名演です。

散々”ファンキー”と言っておりますが、アタシはこの人の魅力は、トリオでもフルバンドでも、良い感じの味わいになっている”抑えた音のカッコ良さ”にあると思います。

例えばブルースだったら、粘り気のあるフレーズをしつこく繰り返したり、どこまでも引き延ばすところが味です。でも、洗練と共に進化してきた都会の音楽であるところのモダン・ジャズでは、繰り返せるところや伸ばせるところをどこでキレよく寸止めにするか、つまり引き算で演奏するかが、その演奏者のセンスになってきます。

そういう意味でティモンズは天才的なセンスの塊ですし、彼のピアノそのものに、この時代のモダン・ジャズ(ハード・バップ)のカッコ良さが、とても伝わりやすい形で詰まっております。


ともかく「ピアノでジャズな気分を味わいたい」という方、これは長くお手元に置いておける一枚ですぞ。



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:20| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする