2017年11月06日

ドン・フリードマン サークル・ワルツ

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ドン・フリードマン/サークル・ワルツ
(Riverside/ユニバーサル)


昨日はボビー・ティモンズ『ディス・ヒア』を皆さんにご紹介しながら、ジャズにおける”ファンキー”とは何か?ということをお話ししましたので、本日はモダン・ジャズが成熟を極めた1960年代、今度はファンキーに代表される”ノリを求めるベクトル”のジャズとは真逆の方向から”鑑賞音楽としての質を重視したジャズ”というものについてお話しましょう。

ちょいとのっけから難しいことをのたまってしまったような気がしますが、コレはつまりアレです。ノリがいいのばっかり聴いてると「あー、何かこうメロディアスなやつも聴きたいね〜」と思うのが人情で、ジャズの世界にもそういうのがあったんですね。クラブでワイワイ言いながら聴くジャズもいいけど、家で静かにレコードで楽しみたいなぁとか、はい、そういうやつです。

具体的にいえば、クラシック音楽の耽美性を、ジャズ・ピアノの表現手法に大々的に盛り込んだスタイル。

とくれば、まず思い浮かぶのがビル・エヴァンスですね。

もちろんクラシックからの影響は、戦前からジャズの中に深く食い込んでおりましたし、モダン・ジャズ黎明期には、レニー・トリスターノというパイオニアがおりますが、エヴァンスはトリスターノの”クール”と呼ばれる水も漏らさないようなストイックな表現に、情緒の甘い毒を上手に絡めて「それを求める人誰もが感動できるようなピアノ表現」というものを大成させたんです。

ジャズ・ピアノの分野では”エヴァンス以降”あるいは”エヴァンス派”と呼ばれる一群がいて、今もこの流れを汲む人達の人気は非常に高いです。良いアーティストはたくさんおりますし、良い作品も多くあります。いずれも耽美でウットリするような美しい表現に秀でた人、多くおります。

知的でカッコ良くて、心の奥底の切ない部分をヒリリと刺激してくれる、そんなジャズ・ピアノが聴きたいという方のために、本日はこの界隈を代表する人の美しいアルバムをご紹介しましょうね、というわけでドン・フリードマンです。

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2016年に亡くなるまで、スタイルを変えることなく活動していた人なので、画像検索したら近年のとっても上品な老ジェントルマンな写真がたくさん出てきます。いいですよね、いかにも芸術家という感じがそのお姿からも滲み出ていて実にカッコイイ♪

この人は”エヴァンス派”の筆頭と呼ばれるピアニストで、耽美なメロディ重視のプレイ・スタイルは正にエヴァンスとの共通点をいっぱい見出すことが出来ますが、年齢的にはエヴァンスと同世代であり、幼い頃からガッツリクラシックを学んでいる(元々ジャズではなく、クラシックのピアニスト志望だった)そのやり方をあくまで自分なりにジャズ表現として寡黙に磨いてきた人であります。

ついでに言えばこの人のピアノ、最初は「お、これはビル・エヴァンスみたいでかっこいいね」となりますが、じっくりと聴けば聴く程、この人にしかないオリジナリティの虜になってしまって、正直アタシは「うん、この人はエヴァンス派というよりは、同時代にたまたま近いスタイルでもって世に出てきたライバルと言っていいんじゃないか」と思っております。



【パーソネル】
ドン・フリードマン(p)
チャック・イスラエル(b,@〜DF)
ピート・ラ・ロカ(ds,@〜DF)

【収録曲】
1.サークル・ワルツ
2.シーズ・ブリーズ
3.アイ・ヒア・ア・ラプソディ
4.イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ
5.ラヴズ・パーティング
6.ソー・イン・ラヴ
7.モーズ・ピヴォティング

この人の代表的名盤と呼ばれ、発売から50年以上経った現在も、多くのピアノ・ファンに聴かれ続けているのが、1962年録音の『サークル・ワルツ』であります。

全編美しく滑らかなタッチで奏でられるピアノと、ビル・エヴァンス・トリオ二代目ベーシストとして活躍したチャック・イスラエルの憂いのあるベース、そしてアタシ個人的に好きなドラマーNo.1のピート・ラ・ロカの鋭利な切れ味のドラムによるトリオ編成で、えも言えぬ幻想美に彩られた世界が描かれております。

一言でいえば「知的でロマンチック」たとえば一曲目『サークル・ワルツ』、イントロからどこか物哀しいメロディが躍動しながら立ち上がる瞬間の感動や、ハイ・テンポながらもそのアドリブにはふんだんに抒情が盛り込まれていて、聴く人の意識をどこか知らない”遠く”へ誘ってくれる『シーズ・ブリーズ』、静かなイントロからベース、ドラムが入ると加速して香気を振りまいてゆく『アイ・ヒアー・ア・ラプソディ』と、冒頭3曲だけでも、「はぁ美しい、はぁぁ美しい...」が止まりません。

中盤以降もその詩情の質を高純度で維持しながら、アルバム一枚分の憧憬をじっくり聴かせるフリードマンですが、後半に無伴奏ソロで奏でられる『ソー・イン・ラヴ』がクライマックスでしょう。穏やかなイントロ、急加速するアドリブ、そしてヒリヒリした余韻を残しながら消えてゆく何か...。これぞリリシズム!と、何度聴いても感動がこぼれて上手く言葉になりません。

特に素晴らしいのが、メロディアスに展開してゆくピアノのメロディーに、ピッタリ息を合わせ、歌うようにリズムを変化させてゆく、ピート・ラ・ロカのドラムです。

ラ・ロカといえば、以前にもジョン・コルトレーンの『Live At The Jazz Gallarey』でご紹介したように、個性的な管楽器奏者との共演においては、かなり独自のタイム感で、ある意味”かみ合わないところ”が魅力だったりします。

そんなラ・ロカがアタシはもう大好きなんですけど、このアルバムでのラ・ロカ、やっぱり絶妙な”間”と空白で、独自のアクセントを付けて叩いているんですが、その”間”と”空白”が、ピアノやベースの醸す抒情に、細かいところまでピタッ、ピタッと合わさるんですよ。

エヴァンスと違ってフリードマンの音色は、硬質で情緒に流されないところなんですが、そんなフリードマンの音色とも合った、細くしなやかなドラムの音も、いや本当に素晴らしい。



個人的に、ドン・フリードマンのアルバムで好みのものといえば、このアルバムより更に得意分野である現代音楽の方に踏み込んで、冷たい音で実験的なメロディーを紡いでゆくアルバムの方だったりするんですが、それでもやっぱり『サークル・ワルツ』を時折集中的に聴きたくなって、このアルバムにしかない、ひんやりと儚い抒情に浸りたくなるのは、やっぱりこのアルバムが作品としての”特別な何か”を持っているから。そして、どこをどう聴いても「最高に美しいジャズ・ピアノ作品」として、誰にオススメしても間違いがないからだと思うからであります。
















『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 18:40| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする