2017年11月17日

O.V.ライト イントゥ・サムシン

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O.V.ライト/イントゥ・サムシン
(Hi/SOLID)

しとしとと冷たい雨の降る11月です。

何となく”歌”が聴きたくて、我が家のCDをあれこれ物色してますが、今日は「やっぱり歌といえばソウルでしょう」な気分。そうです、ソウルです。

え〜、ソウルにも色々ありまして・・・と言うと長い上にややこしい話になりますので割愛。名だたるシンガー”しか”いないソウルの世界でアタシがこよなく愛するのが、ディープなフィーリングとパワフルな歌唱で聴き手の魂までも強引に浄化してしまう”親方”ことO.V.ライト。

もうね、この人の声はスピーカーから出てきた瞬間に、聴いてる方の意識が別次元に飛ばされるんですよね。

十代の頃から南部のゴスペル・グループ(サンセット・トラベラーズ)で活躍し「天才リードシンガー」と呼ばれていたけれど、それこそリードともなれば”凄い”は当たり前の連中がゴロゴロしている中で頭ひとつ抜きん出た存在だったというのは、つまりもう形容する言葉もないぐらい、その歌声は素晴らしかったということです。

喉から腹からつま先まで、体全体を大きく震わせて放たれるその渾身のシャウトは、強いだけでなく、聴き手の心を激しくゆさぶった後に、えもいえぬ優しさが、じんわりじんわり沁みてくる。

えぇ、アタシは無学な日本人だ。英語の歌を聴いてパッとどんなことを歌ってんだかわからない。それでもねぇ、歌ってのはそんなじゃないんだよ、頭で聴くんじゃなくて魂(ソウル)で聴いてグッときたら、それが言葉以上の真実なんだよ。と親方はいいます。

イエス、ブラザー。おぉイエス、あぁいいねぇ・・・。と、聴いているうちに心の洗濯と漂白までも終わり(つまりCDやレコードが全部再生し終わったということ)さぁ俺も強く生きるべと、そんな力を与えてくれる親方の歌唱。あぁイエス・・・。

バイオグラフィーを辿れば、そのパワフルを極めた聖なる歌声とは裏腹に、服、車、酒、麻薬などであっという間にカネを消費して、ギャラはその場で使い果たす。特にヘロインに関しては何度も逮捕され投獄され、晩年には薬代欲しさで窃盗をしてしまって逮捕されてしまう。41歳で亡くなったのも結局は長年の不摂生に麻薬の常習がたたって血管がボロボロになったことが原因の心臓発作。

その歌声で多くの人を救いながらも、自らは何ひとつ救われなかった悲しい人生を見るに何ともしのびない気持ちになりますが、歌を聴いてると、何かもう人生全てを投げ打って”うた”に特化した人だったのかな、本人は多分それに気付いてなかったんだろうけどと思ってしまいます。

さてさて、そんなO.V.ライト親方が、麻薬中毒や度重なる逮捕投獄のトラブルにまみれながらも最後の魂を振り絞って名唱を聴かせてくれるのが、1977年から亡くなる1981年まで在籍していた南部メンフィスのハイ・レコード時代。

よく「O.V.ライトの全盛期は、ハイの前のバックビート時代だ」という声も聞きます。

確かにバックビート時代は素晴らしいという意見に異論はありませんが、この時代の音源がようやくCDで普通に出回って聴けるようになったのは、実はつい最近の事で、個人的にはそれ以前から十分な「凄さ」を教えてくれたハイ・レコード時代のアルバムに並みならぬ愛着を感じております。や、親方がシャウトしてスクリームすれば、それがいつの時代の音源であろうが、バックが何だろうがそりゃもう最高なんですが。

で、そんなバックビートにはデビュー後の1965年から1974年まで所属しておりましたが、なかなか大ヒットを出せず、しかもそのプライベートに様々な問題を抱えていたO.V.は、バックビートが倒産し、大手ABCに会社を売却した1975年に2枚のシングルを出した後に契約を解除されております。

実は73年から75年まで、例によって麻薬で逮捕されて刑務所に居たんですね。

逮捕され、レコード会社からの契約も解除され、身体には未だ麻薬中毒から抜け出せないという三重苦を抱えていて、ほとんど”もうダメな状態”にあった1976年、メンフィスにあるハイ・レコードがO.V.を拾う形で契約を取り付けております。

肉体的にも精神的にも、恐らくこの人は最期まで立ち直ることは出来なかったと思うんですが、マイクに向かった時は別人だったと、多くの関係者が証言しております。

ハイというレーベルは、南部メンフィスにありながら、独特のメロウな洗練されたサウンドが売りのレーベル。

ゴスペル上がりのR&Bシンガー特有のワイルドネスを持った、O.V.親方のヴォーカル・スタイルというのは、実はこの洗練された70年代型のサウンドとは水と油だったんです。

しかし、久々のレコーディングで意欲に燃えていた親方の気迫がそうさせたのか、移籍第一弾の「イントゥ・サムシン」は並々ならぬ完成度の高さと、メロウネス溢れるハイ・サウンドと魂のヴォーカルが奇跡の融合をこれでもかと聴かせてくれます。



【収録曲】
1.イントゥ・サムシング(キャント・シェイク・ルース) 
2.アイ・フィール・ラヴ・グロウイン 
3.プレシャス・プレシャス 
4.ザ・タイム・ウィ・ハヴ 
5.ユー・ガッタ・ハヴ・ラヴ 
6.トライング・トゥ・リヴ・マイ・ライフ 
7.メドレー:ゴッド・ブレスト・アワ・ラヴ〜男が女を愛する時〜ザッツ・ハウ・ストロング・マイ・ラヴ・イズ


ピアノだけをバックに、切々たるほぼアカペラのヴォーカルから、ファンキーなバンド・サウンドが入った瞬間にゴキゲンなミドル・アップのテンポでグイグイ攻めるオープニングの「イントゥ・サムシング(キャント・シェイク・ルース)」で、もう”決まり”であります。

本人曰く『ディスコ・サウンドを取り入れた』と語るアルバムですが、どんなにテンポアップしても、どんなにバックが華やかでも、声の切実度が常にメーター振り切っている親方の歌唱に、ディスコの(良い意味でも悪い意味でも)あの軽薄さはありません。

この一曲でガッツリ聴き手の心を沸点に高めて「ア・フィール・ラヴ・グロウィン」「プレシャス・プレシャス」「ザ・タイム・ウィ・ハヴ」と、たたみかけるバラードで、一気に天国の階段の最上段まで持って行く。そしてラストのソウル史上に残る名唱「ゴッド・ブレスト・アワ・ラヴ〜男が女を愛する時〜ザッツ・ハウ・ストロング・マイ・ラヴ・イズ」の12分にも及ぶ感動の嵐。

このメドレーはですね、アル・グリーン、パーシー・スレッジと、彼が目標としたシンガーの代表曲を歌って最後に、自分自身のデビュー曲をかますんですよね。曲と曲、それぞれのクライマックスからサビの凄さ、そりゃもちろんですが、この時親方の心に去来した想いは一体どんなだったろうと思うと胸の熱が止まりません。

とりあえず親方の作品に”これはハズレ”というのはございませんが、これ以降恐らく体調の悪化により、歌い方をメロウなものにシフトしてゆくO.V.の、これは最後の絶頂を記録したものであると共に「ソウルと呼ばれた音楽」その輝きの一番最後の方の、儚く美しい瞬間を刻んだものであると思います。

いや、もう何か泣けちゃって、このレビュー多分文章になってないです。







『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:32| Comment(0) | ソウル、ファンク、R&B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする