2017年12月19日

ヒューストン・ジャンプ・ブルース


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ヒューストン・ジャンプ・ブルース

(Pヴァイン)

さて皆さん、昨日の『ジャズとブルースの隙間の話』お楽しみ頂けたでしょうか?





ここでお話したのは、1930年代から40年代の、主にニューヨークでブームを巻き起こした大衆音楽”ジャイヴ”と”ジャンプ”のことでありますが、さぁ、本題はここから(!)今日はアメリカ地図をずずずぃ〜っと下ったアメリカ南部で、1940年代から50年代にかけて大流行した独自のジャンプ・ミュージックについて語ります。

はい、勘のいい読者の方は「南部っていやぁブルースの本場だもんな」と思ったに違いありません。そうなんです、ブルースの歴史はミシシッピとテキサスから、ジャズの歴史はその中間にあるルイジアナ州の港町、ニューオーリンズからと言うように、この一帯はアメリカ大陸を席捲する全てのブラック・ミュージックの故郷。

しかし、ジャズが港町ニューオーリンズの軍港閉鎖の煽りを受けてごっそり北部の都市シカゴ、続いてニューヨークへと旅立ってからも、南部ではトラディショナルなスタイルのジャズやブルースが、依然根強く好まれており、ここで独自の音楽へと変容を遂げていったんですね。

さて、お話はブルースの一方の故郷テキサスであります。

テキサスといえばブルースの故郷であると同時に、西部開拓の一大拠点、そしてカウボーイの都として、アメリカの中でもとりわけ、良く言えば開拓当初の精神を堅持している、悪く言えばスーパー保守な土地柄として、今も半分冗談で「アメリカの中の独立国家」「南部共和国」とか呼ばれているところであり、色んな意味で独立性が高いというのは、以前もお話しましたが、これは音楽の分野ではより顕著に表れておりました。

何でかというと、メキシコに国境を接している土地柄もありましょうが、テキサスは他のアメリカ南部の州と違って、ダラスやヒューストンなど、なかなかの規模の大都市を州内にいくつか持っていたんです。だから北部の大都市との関わりをさほど持たなくても自前で何となく成り立ってしまえる。そういう強みがあったんです。

だから「シカゴやニューヨークでこんなのが流行ってるよ!」という情報が入ってきても、それを

「おぉ、都会の音楽、イカすなぁ!」

と、こぞって真似するんじゃなくて

「シカゴがニューヨークが何かちゃ!ワシらのやっとる事のがカッコ良かたい!!」

「おぅ、クラブもようけあるし人口も500万からおっとぞ!負けんわ!!」

と、何かと張り合う気持ちの方が強かったらしく、どこか強烈にオリジナルなものになってしまうというのが、テキサスから生まれた音楽の宿命でもありました。

そんなテキサスはヒューストンの土地柄から生まれたのが、ヒューストン・ジャンプであります。

これ、いわゆる都会の”ジャンプ・ミュージック”の形態(ビッグバンドにヴォーカル、そしてホンカーと呼ばれるソロでバリバリ吹くテナー・サックス奏者が一通り揃ったフルバンド)を下敷きにしたものがほぼ土壌になっておるんですが、ここでテキサス独自の楽器が大々的に主役張ります。

そう、エレキギターです。

テキサスは元々ブルースがジャズを凌ぐほどガッツリと人気を掴んで離さなかった土地であります。

ピアニストもサンタフェを中心に素晴らしい人材が多く世に出ておりますが、やはりギターの歴史は戦前のブラインド・レモン・ジェファソンが独自に切り開いた単弦奏法をエレキギターで発展させたT・ボーン・ウォーカーという巨人が出現し、またT・ボーンに影響を受けた”ソロを弾くギタリスト達”が40年代次々に出てきて音量(アンプに突っ込んだら管楽器と対抗できる音が出るというのは、当時凄まじく画期的なことでした)とテクニックを競って、テナー・サックス奏者同士のバトルと同じくエレキギター同士のバトルというものステージの目玉となる出し物でありました。

ここなんですよ、ヒューストン・ジャンプと他のジャンプ・ミュージックとの決定的な違いというのは(!)。

はい、その違いを決定的に裏付ける人物が1940年代に”Tボーン・ウォーカーのライバル”として現れました。

ジャジ―で洗練されたフレージングで聴衆を魅了していたTボーンに多大な影響を受けながら、あくまで南部の荒くれだったワイルドネスを表現のコアとして、ギャリンギャリンにトンガッた音で弾き倒す、ルイジアナ生まれのクラレンス・”ゲイトマウス”・ブラウンその人であります!

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(見よ!このワルそーな顔!!)


ゲイトマウスのド派手で攻撃的なギター・プレイは、フルバンドの凶暴なホーン・アンサンブルにも負けない音の強さと存在感を放っておりました。ヒューストンで活躍するバンドマン達はこぞって彼のスタイルを真似し、また、バックバンドもコッテコテのブルースギターやブリブリのホンク・テナー、ガンガンなブギウギ・ピアノに合わせた、極端に弾むタテノリのシャッフルビートを、聴き易さより扇情的なノリに特化した形にどんどん研ぎ澄まされて、これが”ヒューストン・ジャンプ”となって行ったのです。





ゲイトマウス・ブラウンの初期ピーコック音源は、そんな感じのモロにゴキゲンなヒューストン・ジャンプ・サウンドであります♪


さて、この”信じがたくアグレッシブ”なギタリスト、クラレンス・”ゲイトマウス”・ブラウンとその周辺で発展したヒューストン・ジャンプは、曖昧ではなくハッキリとその後のロックンロールに直接の影響を与えます。 何せビートも激しいし、サウンドも”大きいことはいいことだ”とばかりに派手でギラギラしております。

ヒューストン・ジャンプはテキサスだけじゃなく、ルイジアナやミシシッピといった南部一帯で大人気でした。ティーンエイジャーだったエルヴィスも当然ヒューストン・ジャンプの疾走するビートには大きく感化されたことでしょうし、この辺の影響を語るとキリがありません。



さて、この狂乱の音楽は多くのスターを生んでおりますが、ロックンロールの分野で有名なのが何といってもビッグ・ジェイ・マクニーリー



そして後にアトランティックの専属として、アレサ・フランクリンのバックバンドや70年代は多くのジャズファンク名盤を残したキング・カーティス。



この辺の超の付くテナー・サックスの名手もヒューストン・ジャンプ出身で、いずれも野太い音でエレキギターと張り合いながらブリブリゴリゴリ言わせておった。




【アーティスト/収録曲】
1.メルヴィン・ダニエルズ・ウィズ・キング・カーティス・オーケストラ/Boogie In The Moonlight
2.メルヴィン・ダニエルズ・ウィズ・キング・カーティス・オーケストラ/I’ll Be There
3.メルヴィン・ダニエルズ・ウィズ・キング・カーティス・オーケストラ/Hey Hey Little Girl
4.メルヴィン・ダニエルズ・ウィズ・キング・カーティス・オーケストラ/If You Don’t Want My Lovin’
5.キング・カーティス/unknown instrumental
6.キング・カーティス/unknown instrumental
7.クイン・キンブル/Blue Memories
8.クイン・キンブル/Feel My Broom
9.ラッキー・イーノイス/Zig Zag Ziggin’
10.ラッキー・イーノイス/Crazy Man Crazy
11.クラレンス・ガーロウCrawfishin’
12.クラレンス・ガーロウ/Route“90”
13.コニー・マクブッカー/Love Me Pretty Baby
14.コニー・マクブッカー/All Alone
15.コニー・マクブッカー/Love Me Pretty Baby
16.ペパーミント・ハリス/Bye Bye Fare Thee Well
17.プリーチャー・スティーヴンス/Whoopin’&Hollerin’
18.プリーチャー・スティーヴンス/So Far Away
19.マーシー・ディー/True Love
20.マーシー・ディー/Come Back Maybellene
21.キング・カーティス/unknown instrumenta
22.キング・カーティス/unknown instrumental
23.ペパーミント・ハリス/The Blues Ain’t Nothing


という訳で、我が国で編集されたアルバムの中では最も"ヒューストン・ジャンプ"という音楽がまとまった形で聴く事が出来るアルバムがコチラ。

モダン/RPM/フレアといった1940's〜50'sの南部のイカしたブルースの、ジュークボックス・ヒット狙いのシングル盤をザクザク出していたレーベルの、アルバム未収録のレア曲ばかりを我が国のPヴァインが掘り起こして編集したという凄いコンセプトのオムニバスであります。

「レア音源集」といえば、マニア向けで初心者にはちょっとアレなんじゃないの?とかの心配は、この辺りの音楽にはご無用と思ってください。

何てったってアレンジだの編成だの知名度だの、そんな小難しいことなんかよりもノリと熱量が全てのヒューストン・ジャンプ。聴けば楽しく踊れる明快な曲ばかりであることをまず保証致します。

立役者のクラレンス・"ゲイトマウス"・ブラウンこそ入ってはおりませんが、その変わり目玉として入っているのが、若き日のキング・カーティス絡みの9曲(!)、録音データを見ると1952年と53年ですから、何とコレ、カーティスがまだハタチになるかならないかぐらいの時期の、間違いなく超初期の掘り出し物。

前半はメルヴィン・ダニエルズなるシンガー/ピアニストとの5曲、後半は自身のバンドを率いての「タイトルなし」のインストが4テイクなんですが、まずメルヴィン・ダニエルズの甲高くパンチの効いた唄いっぷりが豪快ですね〜。

ピアノも丸みとそれなりの重みのある音で、ガラゴロとロールしていて、このピアノだけでもかなり聴かせるブルースになってると思いますが、ドサッぽいカーティス・バンドのモワモワしたノリが、むせ返るほどに濃い熱気で相乗効果。

続くカーティス・バンドのインストは、カーティスの一本気なパワフルブロウもいいけれど、横でいい味出している謎のバリトン・サックスの醸すロウダウン&ロッキンなノリがたまりません。

その他の収録は、コニー・マクブッカー、マーシー・ディー、ペパーミント・ハリス、クラレンス・ガーロウ、ラッキー・イーノイス、プリーチャー・スティーヴンスと、およそ一般の音楽ファンには馴染みのない名前が並びますが、皆さん、ヒューストン・ジャンプの醍醐味はむしろここからですぞ!

ここからは、キング・カーティス絡みのトラックでは聴けない、ヒューストン・ジャンプがヒューストン・ジャンプたるゆえんの"エレキギターとホーンのえげつない絡み"がもうふんだんで、いやぃエグいエグい。

ヒューストン・ジャンプではこの人アリ!と言われたギター名手にカル・グリーンという人がいて、この人は後にソウル・ジャズ/ジャズ・ファンクの、いわゆる"コテコテ"ものの世界でも知る人ぞ知る存在になるんですが、このカル・グリーンが参加してるのがクイン・キンブルのFG、コニー・マクブッカーのLMNで、特にFでのフルバンドを向こうに回して炸裂するワイルド過ぎるギター弾き倒しは、アルバート・コリンズを通過してスティーヴィー・レイ・ヴォーンにまで突き抜ける、テキサス・ギターの魂の系譜が一気に脳裏に拡がるかのような名演です。

そうそう、コニー・マクブッカーも忘れちゃならんヒューストン・ジャンプの偉大な立役者の一人で、何とB.B.キングのバックバンドにいて、名ピアニストとして名を馳せた人でありんす。

ルイ・ジョーダンの都会派ジャンプ・サウンドに憧れたB.B.が、ヒューストン・ジャンプの大物をバックに従えていたという、ブルースの骨太な歴史の一幕にも思いを巡らせたところで、ねっとりべっちょりしたクセだらけのヴォーカルの味わいと、狂ったテンションのバンドのノリも素晴らしいペパーミント・ハリスや、素性が全く解らない正真正銘の"謎のシンガー"、プリーチャー・スティーヴンスの破壊力ハンパないシャウターぶりに、チャック・ベリーの『メイビリーン』のほとんどカヴァーといっていい『カムバック・メイビリーン』でのポップな中に死ぬほどグルーヴィーなテキサス・ピアノの真髄を噛み締めるマーシー・ディーと、ホントこのアルバム全編ゴキゲンで、退屈させてくれません。


その昔先輩に

「ヒューストン・ジャンプって何ですかね?」

と訊いたら、一言

「ノリだよ」

と言われて「???」となりましたが、いや、わかる、わかります。全てがノリとイキオイな、歪んだギターと吠えるテナー・サックスと、狂ったテンションでズダスダ言ってるビートだけで説明が付いてしまう。

ジャンプ・ミュージックっていうのは確かにジャズとブルースの融合で、両方のオイシイところが上手くブレンドされた音楽ですが、ブレンドされてから無駄なものがものが全部吹っ飛んだ感が物凄くあります。

「ジャズとブルースの間」を、特に日本で教えてくれる本やサイトは少ないけれど、聴いてみると本当にその部分には楽しくてゴキゲンな音楽いっぱいあるし、こりゃあ聴いて楽しまなきゃ損なんです。皆さんレッツ・ジャンピン・ジャイヴ!





『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 20:25| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする