2017年12月20日

ローラ・ニーロ モア・ザン・ア・ニュー・ディスカバリー

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ローラ・ニーロ/モア・ザン・ア・ニュー・ディスカバリー
(Verve/Folkways/ソニー)

「声は人間の魂の波動だから、人間の最もピュアな本質が出るんです」

と、スピリチュアル系な人に言われたら

「はぁ、そうですな。はっはっは・・・」

と言ってそのまま退散するしかありませんが、音楽を聴いていると、こういった考えにはある程度の理解が出てきます。

あのですね皆さん、”歌”って凄いですよね。

あぁ・・・、アタシが今更言うまでもありませんが、やっぱり優れたシンガーの声を聴くと魂がうち震えて、そのまんま浄化されていくんだなぁという実感というのは、スピリチュアルな人達に言われんでもそりゃあります。

そして、これも今更アタシが言わんでもなことなんですが、歌ってのは究極に言えば「上手い/下手」じゃない。どんなにお上手な人でも、全く心に響かないシンガーもおれば、その逆で「上手いなぁ」とは思わないんだけど、その声は確かに聴いてるこっちの魂の奥底に鳴り響いて、聴いた後にどうしようもなく焦がれるような感情を抱かせる人もおる。

何でだろう何でだろう?と思っていろいろ考えても「や、この人の歌にはソウルがあるんだな」という結論が出てしまう。歌ってつくづくそういうもんだなぁと。

で、アタシが好きな女性シンガー・・・はいっぱいおりますが、その中でも特別に”ソウルが極まってる人”、分かり易くいえばその声を一瞬耳にしただけで、どうにもやるせない感情に、手前の魂がヒリヒリと共鳴してしまうという人が3人おります。

一人はビリー・ホリデイ、もう一人はジャニス・ジョプリン、そして今日ご紹介するローラ・ニーロです。

ローラ・ニーロという人はアメリカの音楽の歴史において、本当に特殊な存在感を静かに放つ人であります。

その声はどこまでも透明で、たとえるなら真夜中の大海原を感じさせるような、静かな深みをたたえ、それでありながら非常にソウルフルでエモーショナルな歌唱表現。

ジャズやR&Bからの影響を大胆に取り入れた楽曲も、非常に上質なポップスでありながら、どこか微かな”陰”を、悲しい笑みを浮かべながら漂わせているような、そんな痛みと安らぎを同時に感じさせてくれる、不思議で深淵なニュアンスがあるのです。

ニューヨーク生まれのユダヤ系アメリカ人で、ジャズ・ミュージシャンの父親とクラシック愛好家の母親の影響で、幼い頃からたくさんの音楽を浴びるように聴き、特にゴスペルやR&Bには特別のめりこんで、高校生になった頃には自分で作った歌をレコード会社に売り込みに回っていたという、いわゆる早熟の天才。

十代の彼女から曲を”買った”アーティストの中には、60年代フォークを代表するスーパーグループ、ピータ・ポール&マリーもおります。

アタシがローラを知ったのは、丁度彼女が亡くなった1997年の事であります。

「ローラ・ニーロ亡くなったんだって?」

「え?まだ40代だよね」

「う〜ん、でも何となく早く亡くなりそうな感じあったじゃん。癌だってよ・・・」

と、コソコソ喋ってるレコード屋の先輩達の話を小耳に挟んで

「へ〜、誰だろう?」

と思い、こっそりバックルームにあったミュージック・マガジンやレコードコレクターズのバックナンバーを読んだ時、まず顔写真を見ました。

雑誌の片隅に『イーライと13番目の懺悔』という意味深なタイトルのアルバムのジャケットが載っていて、そこにややうつむき加減の色白で黒髪の女性の顔を目にして、何故か

「あ、この人は聴かねばならない」

と思ったんですね。

丁度表では「ローラ・ニーロかけて追悼しようぜ」となっておりましたので、顔を知って数分後に、ローラ・ニーロの音楽も知ることが出来たんです。

その時流したアルバムは確か『ファースト・ソング』という赤いジャケットのアルバムのレコードだったと思います。歌声が流れた時に、心はざわっと不思議に波打ったんですが、正直な感想は「え?もっとドロドロに暗い人だと思ったけど、ジョニ・ミッチェルみたいで聴き易いんだね」でした。

とりあえずその時はそれで終わり。でも、それから数日経っても、最初に聴いた時の、心の不思議な波打ちは収まりません。結局アルバム買ったんですね、先輩に「どれがいいですか?」と訊いても「どれって、どれ聴いてもローラ・ニーロはローラ・ニーロだよぉ」と笑うだけで、教えてくれないので結局最初に見て「これ」と思った『イーライと13番目の懺悔』を。

その話はまた次にするとして、真夜中、家で静かに聴くローラ・ニーロは本当に沁みました。

やはり声、声なんですね究極は。決してインパクトのある声質でもなくて、感情表現もジャニスみたいにいきなりドカッとくるタイプじゃないんだけど、その声は不思議と何だか心のささくれだってるところとか破れかけてるところに入ってくるんです。で、泣ける、何故か泣ける。しかも何か具体的な感情が湧いてきてワッと泣けるんじゃなくて、何にも傷つけられていない純粋な涙がジワッと溢れてくる。あれ、おっかしいな、俺別にヤなことあった訳じゃなくて、悲しいこと思い出した訳でもないのに何だこれ?と思いながらずっとそこに浸っていたくなる、そんな歌声だと思ったし、今もローラの声に関してはそう思ってます。




1.グッドバイ・ジョー(MONO)
2.ビリーズ・ブルース(MONO)
3.アンド・ホエン・アイ・ダイ(MONO)
4.ストーニィ・エンド(MONO)
5.レイジー・スーザン
6.フリム・フラム・マン
7.ウェディング・ベル・ブルース
8.バイ・アンド・セル
9.ヒーズ・ア・ランナー
10.ブローイング・アウェイ
11.アイ・ネバー・メント・トゥ・ハート・ユー
12.カリフォルニア・シューシャイン・ボーイ
13.ストーニィ・エンド(ボーナストラック)
14.グッドバイ・ジョー(ステレオ)
15.ビリーズ・ブルース(ステレオ)
16.アンド・ホエン・アイ・ダイ(ステレオ)
17.ストーニィ・エンド(ステレオ)
18.レイジー・スーザン (ステレオ)
19.フリム・フラム・マン (ステレオ)
20.ウェディング・ベル・ブルース(ステレオ)
21.バイ・アンド・セル(ステレオ)
22.ヒーズ・ア・ランナー(ステレオ)
23.ブローイング・アウェイ(ステレオ)
24.アイ・ネバー・メント・トゥ・ハート・ユー(ステレオ)
25.カリフォルニア・シューシャイン・ボーイ(ステレオ)


当時フリー・ジャズとかブルースの過激なやつとか、サイケのファズ轟音のやつばかり好んで聴いてたにも関わらず、ローラ・ニーロにはすっかりハマり、先輩の「どれって、どれ聴いてもローラ・ニーロはローラ・ニーロだよぉ」も、ほどなくあぁなるほどと理解できるようになります。

ローラはどれもいいんです。

繊細でエキセントリックな性格過ぎて、一時期音楽活動を中断してしまいますが、そこから復活した後のグッとジャズっぽくなったアルバムも良かった。

で、今年はそんなローラ・ニーロの生誕70周年記念らしいですね。

アタシが最初に聴いた『ファースト・ソングス』これが実は19歳のローラのデビュー・アルバムなんですが、最初Verve/Folkwaysというレーベルでリリースした後に、大手コロムビア(日本ではソニー系)に音源が譲渡されたという、多少ややこしい経緯があって、今回その”ややこしいあれこれ”をクリアにした形での、オリジナル盤と同じタイトル(『モア・ザン・ア・ニュー・ディスカバリー』)同じジャケットで再発されて、更にボーナストラックがたくさん付いてモノラルとステレオの両方で曲が楽しめるという訳なんですが、これのモノラル、はい、凄くいいです。

内容は10代の少女のデビュー作とは思えないぐらい音楽的に成熟していて、ジャズとR&Bが高度な次元で自然に融合した、良質な良質なポップです。

ピーター・ポール&マリーに打った『アンド・ホエン・アイ・ダイ』の、爽やかな中に切々と流れる感傷の深さとか、彼女自身の弾くピアノの静謐な響きにも引き込まれる『ビリーズ・ブルース』とか、本当にどの曲も名曲と言えるでしょう。

日本では「玄人受けするシンガー」海外では「60年代から70年代の多くのヒット曲の作曲者」として、アメリカを代表するシンガーソングライターの一人とされていますが、もっともっとこの人の、聴き手の魂を優しく深淵に引きずり込んでゆく、唯一無二の声の魅力が評価されてもいいと思います。



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:27| Comment(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする