2018年01月10日

バディ・ガイ ストーン・クレイジー

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バディ・ガイ/ストーン・クレイジー
(Alligator/Pヴァイン)

バディ・ガイといえば、現在(注:2018年)81歳にしていまだバリバリの現役。

B.B.キング亡き後のブルース界では、今や長老として若手を引っ張る第一人者であります。

1960年代に故郷ルイジアナからシカゴへ移り住み、先輩であるマディ・ウォーターズや同年代の仲間であるマジック・サム、オーティス・ラッシュ、フレディ・キングらと技を競い、その感情に任せて暴力的にギターを泣かせるプレイスタイルと、血管も切れんばかりのヒステリックなシャウトでシカゴ・モダン・ブルース・シーンの一翼を担ってきました。

その頃のプレイに衝撃を受けたのがジミ・ヘンドリックス、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジといったスーパー・ギタリスト達で、そのアグレッシブ極まりないギターはその後のブルースよりもロック・ギターに与えた影響の大きさで、感嘆や驚嘆の声と共に語られる事が多い、とにかくまぁレジェンドといえば今現在この人以上に相応しい人はいないでしょう。

が、この人ほど実は、実際の音楽と”レジェンド”という何だか遠く有り難いところに居るような飄々とした大御所のイメージとは程遠い人はいないんです。

どの年代のどのアルバムでも、この人のプレイといえば、心身の奥底にある衝動をコントロールすることなく、常に全力でドバー!と出すことのみに特化していて、何というか売れようがトシ食おうが、ドス持って捨て身で突っ込んでゆくチンピラの気概を、この人はいつまで経っても感じさせるんです。

試しにこれ↓


2017年のコンサートの動画なんですが、カジュアルなオシャレをしてギャリギャリの音でギターを弾きじゃくり「イャァァアアア!!」という裏声のシャウトをも厭わない。

しかも渾身のトチ切れたようなシャウトをして満面の笑顔(!)

これが80過ぎのご老人だよと言って、バディ・ガイ知らない人のうち何人が「そうだね、年相応に渋いよね」と思うでしょうか。えぇ、年齢なんてこの人にとってはタダの数字に過ぎんのです。

で、本人はこんな凶悪なプレイをするにも関わらず

「いや、オレはマジック・サムとかオーティス・ラッシュみたいにゃ上手くは弾けないんだよな」

と、照れながら語るほどのウルトラ・シャイ。

そのシャイぶりは実は筋金入りで、シカゴに出てきて出演させてもらえるところを必死で探していたのに、ドギマギしてしまってその事をいつも上手く切り出せないので、見かねた先輩のマディ・ウォーターズが

「コイツはいいギターを弾くんだぜ」

とあちこち連れて回り、仲間のオーティス・ラッシュに

「なぁバディ、おめぇいつまでもそんなんじゃあせっかくいい腕持ってんのにラチがあかねぇ。オレがレーベルを紹介するよ」

と、当時ラッシュが所属していたコブラ・レコードを紹介され、そこでようやくソロ・デビューにあり付けたという話はとても有名です。

そこを指摘すると

「あぁそうだよ、オレはシャイなんだ。何で”バディ”って名乗ったんだろうな、本当は”シャイ・ガイ”なのになぁ(笑)」

と、謙遜して言うでしょう(そう、シャイだけどとってもお茶目なんです)。

えぇ、そういう人なんです。これ以上の回りくどい説明は要らんでしょう。

今日はそんなバディ・ガイの持ち味である”キレの醍醐味”が最高に楽しめる狂気の名盤『ストーン・クレイジー』をご紹介いたしましょう。





【収録曲】
1.I Smell A Rat
2.Are You Losing Your Mind?
3.You've Been Gone Too Long
4.She's Out There Somewhere
5.Outskirts Of Town
6.When I Left Home

バディが”シカゴ・モダン・ブルースの若手注目株”として注目を浴びたのが1960年代。

この地の牙城であるチェス・レーベルに初のフル・アルバム(チェスから出したシングルを集めたLP)『アイ・ウォズ・ウォーキン・スルー・ジ・ウッズ』を1968年にリリース。

70年代は更に勢いに乗り、かつ生涯最高の相棒と言えるハープ吹きのジュニア・ウェルズとのコンビを本格的に始動し、シカゴ・モダン・ブルースのヤバいエキスを煮込んで煮込んでぶちまけたような凄まじいノリの作品を多数リリースしております。

このままバディは順調に活動して、ノリにノッて今に至るのかなと思うでしょうが、ここから長く苦しい不遇の時代が続きます。

バディはもちろんブルースマンとして、ライヴでは好調な活躍をしていたし、彼をリスペクトするロック・ミュージシャン達からは相変わらず兄貴兄貴と頼りにされてはおったんですが、80年代といえばとにかくテクノロジーを尽くした最先端な音楽がもてはやされていた時代。

いかにバディといえども、音楽シーンの華やかな表舞台には出ること叶わず、悶々とした日々を過ごしていたんです。

このアルバムが録音されたのは1979年。

丁度不遇の時代に入る直前に、シカゴで立ち上がった新興のインディーズ・レーベル”アリゲーター”によって録音されたアルバムなんですが、これがもう狂気、怒気、緊張感、フラストレーション、その他もろもろのものが限界まで詰め込まれたかのような、まるでこれから始まる不遇の時代を先取りしたバディが「どうにもならねぇこと」と必死で、いや捨て身で格闘しているかのような、壮絶な内容であります。

編成はバディと弟フィル・ガイのサイドギターにベース+ドラムスの最小限、収録曲はたったの6曲なのですが、1曲の長さと重さが半端なく、聴いていて息が詰まるほどの空気が最初から最後まで充満しております。

どれぐらい凄い内容かというと

「バディの最高傑作と言ったらコレだよな」

と言った人が、その直後に

「でも、気迫が凄すぎて正直最後まで聴くのがしんどいんだ」

と、驚嘆と落胆の声を同時に上げるほど。

この時バディは40を過ぎた辺りなんですが、先ほども言ったようにこの人にとっては年齢なんぞはタダの数字でしかありません。

楽曲を単なる素材と冷酷に割り切って、与えられた時間のほとんどをギター・ソロの即興で、渾身の念を込めて、そして普段は出さない「ウゥン、ウゥン、アァ〜ア」という唸り声も交えて、普段の”カミソリのような”と形容される鋭角なソロに尋常ならざる加重を乗っけたナタのようなチョーキングで、一曲辺りの長い空間を切り裂いてゆくバディ。

何度も何度も聴いて、アタシ自身も「楽しむぞ!」という意識が、この怨念の塊のようなパフォーマンスに弾き返されてるんですが、それでもこのアルバムは間違いなくこの人の狂気の側面が最高に詰まっているものであり、ここに音作りやプロデュースなどの、制作側の”大人の意見の反映”は一切ありません。

ブルースってもちろんカッコイイ音楽で、それこそその楽しさを知ると、もう毎日がウキウキになってしまうぐらいの音楽ではあるんですがどうでしょう、もっと深くブルースを好きになるために、たまにはこれぐらいヘヴィなものを聴いてみるのもいいと思います。



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2018年01月09日

永井ホトケ隆のブルースパワー・ラジオ・アワー

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永井ホトケ隆のブルースパワー・ラジオ・アワー
(Pヴァイン)

このブログは”奄美のCD屋”が、有名無名古今東西に関係なく良い音楽を紹介しようと、割とイキリ立って実際耳にして「これは本当にいいぞ!」と感じたものを紹介しているブログです。

その音楽を知っている人はもちろん、その音楽を知らない人にこそ、出会って衝撃を受けたりジワッと深く感動して欲しい。そして願わくば、このブログを読んで新たな音楽に出会う皆さんが、それぞれの人生をもっと豊かなものにするために、音楽というものをじゃんじゃん活用して欲しい。そういうささやかな願いを込めて書いております。

というわけで、アタシの大切な音楽として”ブルース”という音楽があります。

ブルースは今のロックやR&B、ポップスなど、アメリカやイギリス原産のポピュラー・ミュージックの最も大きなルーツのひとつとして、音楽を語る時絶対にハズせないという、音楽史的観点から言うところの重要度や影響の大きさもさることながら、やっぱりあらゆる音楽の、精製前のネタといいますか素と言いますか、そういったものであると思うんです。

ルーツだから崇めなさいとか、そんなことを言う人には耳を貸さなくてもいいと思います。やっぱり大事なのは音楽としてどうなんだ、感動出来るのか、ということなんですが、イエス、ブルースという音楽は、古き良き時代の空気を濃厚に纏いながらも、その実その音楽から醸し出される深いコクや味わい、人間の感情のコアの部分にうごめくもののリアルな息遣いのようなものを、誕生から100年以上経った今の時代にも余計な装飾ナシでキッチリと聴く人の耳と心に届けてくれる素晴らしい”今の音楽”です。

ブルースを聴いて、そのカッコ良さにシビレて、そして自分自身もブルースという音楽を必死で聴き狂い、挙げ句歌ったり演奏してしまうような人がいて(はぁいアタシです♪)、そういったのめり込み方を”ブルースに憑りつかれる”とか言いますが、今日ご紹介するCDは、我が国日本において”ブルースに憑りつかれた男”が何とブルースを紹介するラジオ番組を、そのまんまパッケージングしたという正気の沙汰とは思えない素晴らしい企画のコンピレーションなのであります。

日本に”ブルース”というものが入ってきたのは、実は戦前なんですが、B.B.キングやマディ・ウォーターズなど、いわゆるブルースマンと呼ばれる人達が本格的に紹介され、レコードもお店に並ぶようになったのは大分後で、1970年代が始まるか始まらないかぐらいの頃だったと思います。

丁度ビートルズ旋風が吹き荒れて、そこから若者が大量にロックに目覚めた時期ですね。

そんな60年代末から70年代初頭に

『ロックバンドをやっていた時聴いたブルースにシビレるぐらいの衝撃を受け』

た人達が、我が国におけるブルース第一世代としてシーンを牽引し、今も最前線で大活躍していて、この世代の方々が素晴らしいと思うのは、自分で演奏して楽しむだけじゃなく、ブルースという音楽を知って欲しい!楽しんで欲しい!と、書籍や雑誌での執筆やメディアでのブルースの紹介を、凄く分かり易く丁寧にしてくれているというところにあります。

本日ご紹介する永井ホトケ隆さんも、そんな日本を代表するブルースマンであり、積極的にブルースの魅力を世に紹介している偉大なブルース伝道師の一人です。

元々大学時代にロックバンドをやっていましたが、在学中に耳にしたブルースに衝撃を受け「コレだ!」と思って翌年の1972年、自身のバンド”ウエストロード・ブルース・バンド”を結成。ブルースの拠点として盛り上がっていた大阪で、憂歌団や上田正樹、山岸潤史らと関西のブルース・シーンを築きつつ、東京で活躍する妹尾隆一郎、吾妻光良、小出斉らとも親交を深め、様々なセッションやライヴイベントの主催をするだけでなく、ギター教則本の執筆にも力を注ぎ、日本でブルース人口を広めることに大きく貢献します。

この人の功績は本当に書ききれないほどいっぱいあるんですが、今現在、演奏活動以外で最も注目を浴びているのが、ラジオのパーソナリティであります。

青森県弘前市のFMアップルウェーブにて『BLUES POWER』というラジオ番組を、2008年から開始。

この番組は永井ホトケさんが、毎回解説と共にブルースを流し、その魅力や実際に体験した貴重なエピソードを語る番組として放送を開始して以来、ジワジワと人気が盛り上がり、今は青森や東北だけでなく、全国のコミュニティFMなどから聴けるようになりましたが、何と、アタシが住んでいるあまみエフエム”ディ”でも日曜日の夜10時からの番組として放送されてるんですね〜♪

番組タイトルは、ホトケさんが最初に結成したバンド、ウエストロード・ブルース・バンドのファースト・アルバムのタイトルからで「聴けばブルースが好きになる」のコンセプト通り、主に一人のブルースマンやブルースウーマンにスポットを当てて、そのアーティストの素晴らしさ、音楽のカッコ良さ、人間的な魅力、そして自らミュージシャンであるホトケさんは、演奏スタイルなどについても、非常に丁寧に、愛のある関西訛りの喋りで、かなり掘り下げて解説してくれます。

しかもその解説が、全然マニアックじゃないんですね。「とにかく聴いてもらおう、知ってもらおう」と、物凄く考えておられて、ブルースマンの面白いエピソード(ホント人としてぶっ飛んでる人達ばかりなので、最高なエピソードばっかなんですよブルースマンは)を中心に、知らない人が聞いても楽しく夢中に聞かせてくれるんです。

もちろん選曲も最高で、代表曲と言われるような有名曲から「そんなにヒットした曲じゃないけどこれは凄い演奏なんですよ」というレアなものまで、番組の中で1曲丸々しっかりとかけてくれる。


【収録】
1.ザ・ブルース・パワー/I BELIEVE
2.DJ Talk about “Mojo Hand”
3.ライトニン・ホプキンス/MOJO HAND
4.DJ Talk about “Riding In The Moonlight”
5.ハウリン・ウルフ/RIDING IN THE MOONLIGHT
6.DJ Talk about “Roll ‘N’ Roll”
7.ジョン・リー・フッカー/ROLL ‘N’ ROLL
8.DJ Talk about “Keep On Drinkin’”
9.リトル・ブラザー・モンゴメリー/KEEP ON DRINKIN’
10.DJ Talk about “Swingin’ The Boogie”
11.ジェームス”ピート”ジョンソン/SWINGIN’ THE BOOGIE(SUNSET ROMP)
12.DJ Talk about “Hey Hey Baby”
13.Tボーン・ウォーカー/HEY HEY BABY
14.DJ Talk about “Blue Shadows”
15.B.B.キング/BLUE SHADOWS
16.DJ Talk about “Talkin’ Woman
17.ローウェル・フルスン/TALKIN’ WOMAN
18.DJ Talk about “Match Box Blues”
19.ブラインド・レモン・ジェファーソン/MATCH BOX BLUES
20.DJ Talk about “The Sky Is Crying”
21.エルモア・ジェイムス/THE SKY IS CRYING
22.DJ Talk about “Little By Little”
23.ジュニア・ウェルズ/LITTLE BY LITTLE
24.DJ Talk about “Easy Baby”
25.マジック・サム/EASY BABY
26.DJ Talk about “I Can’t Quit You Baby”
27.オーティス・ラッシュ/I CAN’T QUIT YOU BABY
28.DJ Talk about “I Feel So Good”
29.J.B.ルノアー/I FEEL SO GOOD
30.DJ Talk about “Kansas City”
31.ウィルバート・ハリソン/KANSAS CITY
32.ブルース・ザ・ブッチャー/VOODOO MUSIC



ただ、ひとつだけ不満があるとすれば、30分番組なので、楽しく深いトークとゴキゲン極まりない選曲で、気持ちが最高にノッてきているうちに、あっという間に番組が終わってしまう。

ブルースが好きで、或いはホトケさんのこの番組でブルースのカッコ良さに目覚めた人は、きっと次の回まで淋しい気持ちで過ごすんじゃないかと思います(はぁいアタシです)。

だもんでこの番組をもっと楽しみたい!ブルースをもっと好きになりたい!という人、はたまた番組を聴いてみたいけど、夜は大体家にいないという人のために、何と『ブルースパワー』番組そのまんまの内容を忠実に再現して、しかも収録時間もたっぷり長いCDが、2015年に番組放送7周年記念盤としてリリースされました!

これはもう細かい事は言いません、聴きましょう。

収録されているのは、ブルースといえばこの人のこの曲!ぐらいの有名曲がたっぷりと、興味はあっても"最初の1枚"としてはなかなか手が伸ばし辛い戦前ブルースが3曲(特に戦前ピアノのリトルブラザー・モンゴメリーと、ジャズにも大きな影響を与えたジェームス・ジョンソンのブギウギ・ピアノの2つを入れたのはホント素晴らしい!)、そしてホトケさんの「この人絶対カッコイイから聴いて!」という愛を強く感じるシカゴの個性派&社会派シンガー、JBルノアーや、実はマルチ楽器奏者のR&Bシンガー、ウィルバート・ハリソンなど、渋いところも解説付きで聴けるのも有難いところです。

収録曲は番組同様全て丸々1曲がキッチリ手抜きなく入っておりますので、このCDは全くブルースのCDを持っていない人のための、これ以上ない入門用コンピレーションとしてオススメです。

また、ブルースをある程度聴き込んだ、またはこれに入ってる曲は大体持ってるよという人にとっては、ホトケさんの解説を聴くだけでもお釣りがくるほどの価値があります。

実際数々の現場でブルースマンのぶっ飛び行動や、人としての暖かさや奥深さにたくさん触れてきたホトケさんが語るエピソードの数々は、ブ厚いディスクガイドや本と同様かそれ以上の価値があり、既に知っている(持っている)ブルースのCDやレコードを、今の100倍深く楽しませてくれるでしょう。これはアタシが保証します。

あんまりホトケさんのトークの中身を書くとネタバレになりますので書きませんがひとつだけ、ブルースマンというのは、若い人がブルースを歌ったり演奏することを、自分の事のように喜んでくれる人達
なんです。

日本人だからとか白人だからとか、そんな事は関係ない、みんな心にブルースを持っている。だから俺達は魂込めてブルースをやってきたし、それを若いヤツらが受け継いでくれるのは嬉しいよ。

というような、ホトケさんが本当に嬉しそうに語るブルースの巨人達の暖かいエピソードを聞いて、アタシはブルースが好きで本当に良かったし、ブルースという音楽がますます好きになりました。

ブルースマン、自分の事なんかより、ブルースを聴いてもらう、知ってもらう、そして好きになってもらう事の方が大事なんですよ。

そしてそんな巨人達のスピリッツを引き受けるかのように、全国をツアーしながらブルースの魅力を伝えることに全てを惜しまない永井ホトケ隆さん、最高にカッコいいブルースマンです。




↓そして『永井ホトケ隆のブルースパワー』大好評につき、2018年1月25日に第2段がリリースされます!これも聴くぞー!!みんな聴いてー!!





”ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜”



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2018年01月08日

DNA on DNA

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DNA on DNA


1970年代末期のアメリカ、ニューヨークの最先端であり最前衛の音楽をまとめたコンピレーション『ノー・ニューヨーク』の衝撃は、広く世界に、ではなく、世界の音楽や芸術シーンに深い衝撃を与えました。

パンク、或いはロックという音楽の側面からいえばこれはある意味イギリスのロンドンで起こったパンク・ロックのムーブメント以上にジャンルやカテゴライズの壁をぶち壊し、音楽のあらゆる要素が計画的無秩序に裁断され、粉砕されたその美しく危険な残骸を残骸のまま輝かせた、ということになりましょうか。

や、実はこのノー・ニューヨークというコンピに収録されたバンド達の演奏は、過激で暴力的でありながら、その表現の根幹には知性を感じさせるものが多いんです。

だから聴いてると、心と体は

「うをー!カッコイイ!ぎゃー!!」

と、ストレートに反応してしまいますが、頭の中にはどこか哲学的文学的な思考というのがループします。

一番最初に衝撃を受けたのは「ヴォーカルのやつが絶叫してサックスを吹く」というコントーションズでしたが、それとは別に「こんなにハチャメチャなのにクール!」と、これまた価値観や常識に捕らわれた脳味噌に回し蹴りを喰らわせてくれたバンドが"DNA"でした。

とにかくもうアート・リンゼイのキョーレツ極まりないノイズ・ギターです。

「ギャリギャリギャリギャリ!!」と耳をつんざくような凄まじく尖った雑音、どこをどうやって押さえて、どんなエフェクター使ってるのか?まず聴いた時にそんなことを思いましたが、何と、聞くところによるとアート・リンゼイ氏は12弦ギターに弦を11本だけ張って、それらの弦をまったくチューニングしないでムチャクチャに掻き鳴らしてるんだとか。

えぇぇ恐ろしい、何それ怖い・・・。

と、アタクシ狂喜しました。

そもそもこのDNAというバンドが、オリジナル・メンバーの3人(アート・リンゼイ、ロビン・クラッチフォード、イクエ・モリ)が3人共、楽器をマトモに弾けない”超”の付く初心者。

それぞれの話をすると、リンゼイ氏はDNA以前はパンクバンドでヴォーカルなどやっていたそうですが、元々は詩作に精を出す文学志向の青年で、ドラムのイクエモリは日本人ですが「ニューヨークの前衛シーンが面白いと聞いて・・・」ぐらいのノリで、ガッツリNYの過激なロックシーンを見たいという本気の青年(レックと言う人で、この人は帰国してフリクションというバンドを結成、日本のアンダーグラウンド・シーンのカリスマになりました)に付いていっただけなんですね。

で、ニューヨークには、音楽や文学、アートや演劇など、とにかくジャンルに関係なく過激で面白いもの、それまで誰もやってなかったようなことをやろうという若者達のパーティーがよく行われていて、そこでリンゼイ氏がメチャクチャなギターを弾いているバックで「おい、誰かドラムやってくれ」ということになり、”たまたま8ビートらしきものが叩けた”イクエ・モリを「君いいね、バンドやろう」と、リンゼイ氏とロビンが声をかけたことが始まりと言われております。

で、その声をかけたロビン・クラッチフォードは、一応キーボードを弾いてたけど、もちろん両手使ってちゃんと弾ける訳ではなくて、1本の指で鍵盤をガー!っと押さえてたと。

そんな連中がバンドをやる訳です、出す音は自ずと客観的に見れば”常識に囚われない/斬新な音楽”になります。

結成した78年にシングルを出し、続いてプロデューサーのブライアン・イーノの肝入りで『No New York』に参加。

この時の演奏が、マンハッタンの片隅でしか知られてなかったDNAの名をアメリカ東海岸の地下シーンに轟かし、しかもその評判は音楽(ロック)界隈ではなく、やっぱりアート界隈で「最高じゃねぇか!」「素晴らしい、価値観への新たなる挑戦だ!」と話題になりました。

ところがその直後に新しいバンドを結成したいという理由からロビンが脱退。

で、後任のメンバーとして、ベーシストのティム・ライトという人が加入します。

名の知れたパンク・バンド”ペル・ウブ”の結成メンバーであり、唯一ちゃんと楽器が出来るティムの参加は、DNAの音楽の質を一気に高めました。

リンゼイ氏もイクエ・モリも、流石に文学やアートに造詣が深いだけあって、素人とはいえ、そのセンスは並外れております。

ハチャメチャとはいえ「ここでこういうタイミング、こういう間で放ったら効果的である」ということをキチンと考えているフシが伺えるリンゼイ氏のギターはもちろん、イクエ・モリのドラムも「バスとスネアでリズムの軸を刻んで、タムやシンバルでオカズを入れる」というドラムのセオリーに則らず、タムタムで軸のビートを刻んだり、とにかく予測不可能なパターン度外視のリズムも本当に素晴らしく「これは磨けば確かなものになる」と、ティムは直感でそう思ったのでしょう。




【収録曲】
1.You & You
2.Little Ants
3.Egomaniac's Kiss
4.Lionel
5.Not Moving
6.Size
7.New Fast
8.5:30
9.Blonde Red Head
10.32123
11.New New
12.Lying on the Sofa of Life
13.Grapefruit
14.Taking Kid to School
15.Young Teenagers Talk Sex
16.Delivering the Good
17.Police Chase
18.Cop Buys a Donut
19.Detached [Early Version]
20.Low
21.Nearing
22.5:30 [Early Version]
23.Surrender
24.Newest Fastest
25.Detached
26.Brand New
27.Horse
28.Forgery
29.Action
30.Marshall
31.New Low
32.Calling to Phone


アルバム『DNA on DNA』は、そんなDNAの、最初期のシングルや、6曲入りたった10分ぐらいのデビュー・ミニ・アルバム『A Taste of DNA』と、ライヴ音源も含む編集ベストであります(リリースは2004年)。

ベストとはいえ、1978年の結成から84年の解散まで、短い期間で残した彼らのスタジオ音源の全てが入っておりますので、これはもうこれさえ持っていればOKぐらいの決定盤でしょう。

初期の野放図なカオス演奏もカッコイイけど、やはりティム加入後の、ほとんどの曲を2分弱とか3分以内に収めた、無駄のない深淵な演奏が絶品です。炸裂する初期衝動の中に奥深い知性をたたえながら、どこまでも聴き手の想像力を刺激して止まない”間”がたゆたう演奏は、俳句にも喩えられるほどに研ぎ澄まされた芸術性をやはり有しております。




『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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posted by サウンズパル at 12:09| Comment(2) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする