2018年01月03日

ザ・ユタ・ヒップ・クインテット

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span style="font-size:large;">ザ・ユタ・ヒップ・クインテット
(BLUENOTE/EMIミュージック)

当ブログをお読み頂いております音楽好きの皆様、新年あけましておめでとうございます。

サウンズパルの店舗を閉じて、このブログを開始してから早いものでもうすぐ4年になりますが、その間お店の常連さんや、遠方にお住まいのお客さんに「ブログ見てるよ」「アマゾンで買い物する時はアンタのブログのリンクから行くことにするよ」等々、有り難い言葉を頂いてきました。

そして、最近はツイッターで知り合った音楽好きの皆さんから、ブログの感想を頂いたり、リクエストなども頂いたりして、とにかく忙しい合間でも、何とか時間を作ってブログの更新だけはサボッたらいかんなぁと、俄然気合いが入ります。

このブログの目的は、音楽の素晴らしさ、特に読者の方が知らないアーティストの作品を「お、何か面白そうだな♪」と手に取って頂くことにあります。最近の音楽といえばネットでの無料配信などが徐々に主流になりつつあるとも聞いておりますが、レコードやCDという、アーティストや制作側が丹精込めて作った”作品”の素晴らしさというのはやはり確実にあって、アタシ自身もそれに随分と励まされたり良いインスピレーションを貰ったり、色々な思い出を乗っけさせてもらったり、とにかくこんなポンコツな人間でも、人生を豊かにしてもらってるんだなぁと実感しておりますので、古い奴だとか何とか言われようが、音楽作品の素晴らしさを今年も出来るだけ多く語って行くつもりです。

皆様どうかひとつ「あぁ、アイツがまたトサカに火が点いて盛り上がってるぞ」とでも何でも結構ですので、おもしろおかしくお付き合いくださいませね。

という訳で本日も素晴らしい音楽作品の紹介です。

昨年末からレビューを連続投下して、キャーキャー盛り上がっておりますユタ・ヒップなんですが、はい、彼女が生涯で残したオフィシャルなアルバム全4枚の最後(実は録音としては一番最初)の作品『ザ・ユタ・ヒップ・クインテット』であります。

何でこの最初に録音されたアルバムを最後に紹介するんだという話なんですが、実はこのアルバムだけ、リリースはブルーノートなんですが、録音は彼女が渡米する前にドイツで行われたものなんですね。なのでアルバムの雰囲気もメンバーも、彼女自身のピアノ・プレイも、他のアルバムとは随分気色が違います。なのでこのアルバムは、まずはトリオでの演奏を聴いて、そこにホーンが加わったやつを聴いて「あぁユタ・ヒップってこんな人なんだ」ということを頭に入れて聴いて欲しいという、アタシのささやかな勝手です。あいすいません。

そんな事を言っておりますが、実はアタシが個人的に一番好きなユタ・ヒップといえばコレなんです。や、他のアルバムが悪いってことじゃない。ヒッコリー・ハウスもウィズ・ズート・シムズもモダン・ジャズのアルバムとしては最高だし、彼女の楚々としているけど、実は芯の部分に相当熱いものがある個性は十分に記録していて、どれを聴いてもはぁぁカッコイイ・・・とため息を漏らさずにはおれないのです。

それに、本場アメリカのジャズに憧れて、単身やってきたニューヨークで、懸命に本場の音を演奏すべく努力して、実際それを完璧にモノにしててかつバド・パウエルやホレス・シルヴァーの物真似に終わらないオリジナリティを炸裂させているという意味で、やはりヒッコリー・ハウスの2枚はジャズファンならば必携でありましょう。ユタ・ヒップの最高傑作はどれかと訊かれたら、やっぱりこの2枚を挙げます。

それを考慮してもなお、この『ユタ・ヒップ・クインテット』が何故アタシの琴線を盛大に鳴らすのかといえば、それは上手く言葉では言えませんが、あえて言えば、地元ドイツで共にジャズという音楽に真剣に向き合って切磋琢磨している仲間達と、気負いのない”素”の演奏を繰り広げる彼女の、ありのままの優しさや厳しさを聴くことが出来るから、とでも言いましょうか。




【パーソネル】
ユタ・ヒップ(p)
エミル・マンゲルスドルフ(as)
ヨキ・フロイト(ts)
ハンス・クレッセ(b)
カール・ザンナー(ds)

【収録曲】
1.クレオパトラ
2.ドント・ウォーリー・バウト・ミー
3.ゴースト・オブ・ア・チャンス
4.モン・プチ
5.ホワッツ・ニュー
6.ブルースカイズ
7.ローラ
8.ヴァリエーションズ

(1954年4月24日録音)


とにかくその「ブルーノートだけどブルーノートとは違うのだよ」な、演奏を聴いてみましょう。

えぇと、何がブルーノートと違うのか、そもそもブルーノートの音って何だよ?って人も多いと思いますのでちょいと説明を・・・。

アメリカのニューヨークにあるブルーノート・レコードは、ドイツ人でありながら大の黒人音楽マニアだった(ジャズだけじゃなくてブルースやゴスペルも大好き)アルフレッド・ライオンという人が、その耳と直感を頼りに、有名無名関係なく「これはいいぞ!」と思ったアーティストをスタジオに呼んで、衣食住の世話すらしながら、やりたいようにやらせつつ、作品としての完成度やトータルバランスなどにこだわりを発揮したレコード会社なんです。

当時レコードなんてのは「ミュージシャンには録音の謝礼金だけ払えばいい、どんな個性を持ってようがひと山なんぼで売れるようなやつを作ればいいんじゃね?芸術性?アーティストの個性?それはまぁそこそこ・・・」というのが当たり前でしたが、ブルーノートはこれの最後の部分で妥協せず、アーティストの個性をとても大事にしました。

その上でアルフレッド・ライオンが求めるものは「自然なファンキーさ(つまり”黒っぽさ”)」です。

律儀で健気なユタさんは、そんなライオンの期待に懸命に応えようとして、ブルーノート録音の3作では、元々持っていた知的で端正なピアノ・スタイルに、創意工夫を重ねたファンキーさをプラスしたんですね。結果としてそれは大成功を納めたんだと思います。

で、ドイツ録音の本作です。

このアルバムで彼女とそのバンド達のスタイルは、徹底してクールで端正です。

たとえればアタシの大好きなレニー・トリスターノがその叡智と理論を終結させてストイックに作り上げた”クール派”のサウンドのそれに近い。



キッチリと乱れのない”4”をサクサクと刻んでゆくハンス・クレッセのベースとカール・ザンナーのドラムスが的確に繰り出すリズムに乗って、甘みや”オーイェー”な感じがほとんどないカチッとしたコードワークと、淀みなく流麗なソロを重ねてゆくユタのピアノは、ほとんどトリスターノ直系の洗練美でありますし、ソフトな音で理知的に起承転結をコントロールして、クラシカルな対位法を上手に取り込んだハーモニーで乱れなく展開してゆくエミル・マンゲルスドルフとヨキ・フロイトのサックスの絡みなんかも、ほとんど50年代のトリスターノ・グループでのプレイをお手本にしたとおぼしき雰囲気が伺えます。

ユタさん、その辺どうなんでしょうかね?

「はい、貴方が仰るように、このアルバムはレニー・トリスターノのクール・ジャズの手法と類似する表現とよく言われます。音楽を演奏する時に、まず理論としてそのリズムやメロディ、そしてハーモニーがどのような役割を果たすかはとても重要で、私達は演奏の前や後にその事についての議論をよく行っておりました。ただ、私達はヨーロッパの人間で、黒人特有のシンコペーションというものに感覚としての理解が足りない。そこを考えるとトリスターノの的確な論理に基づいた表現は、理に適うものとしてお手本にはしやすかったのだと思います。ただ・・・残念ながら私はトリスターノの音楽はあまり好きではありません。あぁごめんなさい、せっかく良いところを引き出そうと訊いてくださったのに。こんなだから私は駄目なんですね・・・」

あぁ、ユタさんごめんなさい。えぇ、とても丁寧に説明してくださってありがとうございます。よく分かりました。あの・・・そんなに落ち込まないでくださいね。

はい、落ち込んでいるユタさんの代わりに簡単に説明すると、彼女自身はこういった理知的な、いかにもヨーロッパという感じのジャズではなくて、もっとハード・バピッシュな演奏をしたかったんだと仰ってます。この方はそれほどにブラック・ミュージックとしてのジャズへの憧れを真剣に持っておったんですね。

しかし当時のヨーロッパ、特にドイツのミュージシャン達と演奏して妥協のない演奏をするとなると、やはりこのスタイルしかなかったんだと。

彼女の中にはもやもやしたものがあったとは思いますが、それでもこのアルバムが持つ凛とした美しさ、ヨーロピアン・ジャズの”粋”を37分という短い時間に一瞬のタルみもなく凝縮出来る技量は群を抜いているように思えます。もしも彼女が渡米せず、ヨーロッパにとどまったままこのスタイルで作品を発表し続けていても、ユタ・ヒップという人はジャズの歴史に確実に名前を残す人であったでしょう。

そうでなくともこのアルバムが持つキラキラした美しさの中で華やかに湧いている「ジャズって楽しいね、音楽最高だ」という嬉々とした雰囲気、これはやっぱり特別という表現以外ありません。ちょっと洒落たものを聴きたい時も、じっくりと対峙して聴きたい時も、それなりにちゃんとしたものを返してくれるアルバムって、ありそうでなかなかないですもん。






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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 11:34| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする