2018年04月07日

デイヴ・ブルーベック・クァルテット ブルーベック〜デスモンド

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デイヴ・ブルーベック・クァルテット/ブルーベック〜デスモンド
(Fantacy/ユニバーサル)


デイヴ・ブルーベックといえば、大ヒットして日本のお茶の間にも「ジャズってオシャレな大人の音楽」という認識を埋め込んだ『テイク・ファイヴ』の人であり、ディズニー曲をジャズアレンジで演奏した作品を出したり、映画や舞台の音楽などを多く手がけたり、とかくポップで親しみやすいジャズを演奏する人の代表格という評価がほぼ固まっております。

アタシもブルーベック、たとえば天気のカラッと晴れた休日の午後なんかに

「あ〜、こりゃいいね〜♪」

なんて言いながらよく聴いてます。

ジャズの人でありながらブルーノート・スケールをほとんど使わず、特有の”ズレ”や”タメ”の成分が薄い、サクサクと流れてゆくようなビートに乗って、濁りのない明快なピアノの音が春の小川の如くサラサラと流れるこの人の音楽は、ジャズとかそんなことを意識しなくても、日々を豊かにしてくれるごくごく当たり前の”音楽”として聴ける。

さもありなん。この人の場合は、ジャズ・ミュージシャンでありながら、そのキャリアの初期から、場末の薄暗いクラブハウス向けの音楽ではなく、レコードに刻まれて各家庭に楽しみをお届けする音楽を趣向していたから。とにかく「成功を夢見て夜の街に飛び込み、現場のセッションでとことん鍛え上げられ、ついでに酒とクスリとバクチと女を覚えた」という典型的な”陰”を持つジャズマンのイメージとは、とことん対照的なところにブルーベックはいるのであります。

その原点は彼の生い立ちにまで遡ることが出来ます。

1920年、カリフォルニア州郊外のそこそこ裕福な農家に生まれた彼の家には、母親の趣味で4台のピアノと蓄音機があり、彼の家のリビングは、家族や遊びに来る両親の友人などが集まってほのぼのと音楽を楽しんでいたようで、その雰囲気が楽しかったブルーベック少年、やがて自分もピアノを覚え、家族やお客さんのために演奏して「上手だね」というお褒めの言葉とご褒美の小遣いを貰うことに喜びを感じておった。と、まぁ実にピュアな少年期を過ごし、すくすくと音楽を身に着けておりました。

彼が大好きだった蓄音機のレコードでは、デューク・エリントン、ファッツ・ウォーラーなどと共に、クラシックやヒルビリー(カントリーの前進)を好み、学生時代になるとジャズではなく、地元カリフォルニアのヒルビリーバンドでピアノを弾いており、この幼少期から学生時代の音楽体験が、彼の表現姿勢そのものを決定付けたような感じが致します。

やがて「本格的に音楽を勉強したいなぁ」と思ったブルーベックは、丁度その時フランスから亡命してきたクラシック音楽の作曲家、ダリウス・ミョーという人に出会います。

実はこの人が凄い人で、クラシック音楽家といえども、杓子定規の考え方を持たないその自由かつ時に批判をも受けるぐらいの独創的な作曲をする人で、フランスではエリック・サティらと共に『近現代音楽の大物』とも言われるほどの人であります。

この師匠と若きブルーベックの間で、どのようなやりとりが行われたかの詳細はあまり残されてはおりませんが、最初からガチガチのクラシック教育ではなく、クラシックもポピュラーも同じように「楽しみのための音楽」として素直に吸収していたブルーベックの自由な感性に、20世紀のクラシック界では”反骨”の部分を担う一人であったミョーが「いいね」とならない訳はありません。恐らくは褒めて伸ばしながら理論的な部分は期待を込めて徹底的に厳しく指導したことと思われます。

その証拠に、ブルーベックのピアノのタッチというのは、曲はポップでサラッとしているのにピアノプレイに関しては「うはぁ、そこまでやるか!」というぐらいに激しくガンガンゴンゴン鍵盤を叩きながら感情を炸裂させることがあるんです。でも、そんな激しいプレイでもトーンもリズムも乱れず、演奏そのものの典雅な味わいが褪せないというのは、やはり音楽と演奏の基礎となる部分が相当にしっかりしているからですね。

で、ブルーベックはミョーのもとで理論的な部分に大いに自身を付けて「よし、俺はジャズとクラシックを融合させた、それまで誰も聴いたことのない音楽を作るんだ!」と野望に燃えます。燃えて燃えて地元の色んなところでオリジナル曲や、スタンダードの一風変わったアレンジのものを演奏しまくるのでありますが、残念なことにこの時点では誰も彼の音楽に共感せず、演奏に理解を示す人もいませんでした。

ずっと人気者だったのに、ここで初めてブルーベックは「理解してもらえない」ということに失望し「こうなったらもうジャズなんか止めてクラシックの作曲家になろうかな」と思い詰めて、師匠のミョーのところに相談に行きます。

「せっかく先生に教えてもらった理論を駆使して個性的なジャズをやっているのに誰も理解してくれません。やっぱりボクにはジャズ向いてないんじゃないかと思うのですが・・・」

と、悩みを申告に打ち明けるブルーベックでしたが、これに対するミョーの答えが素晴らしかった。

「君ね、たかだか理解してもらえなかっただけで何を言ってるの。ボクなんかね”あんなのクラシックじゃない”とか”アイツはふざけてる”とか散々言われてきたし、分今もクラシックの世界にいるカチカチ頭の連中にはそう言われてるよ。冗談じゃない、クラシックだって大衆音楽だろ?ジャズだって大衆音楽だ。だから君がアメリカで作曲を学びたいと思うんだったらアメリカの大衆音楽であるジャズを真剣にやるべきで、そこからたくさん学ぶべきだ。つうか君ほんとはジャズ好きだろ?ジャズから多くを学びたいと思ってるんだろ?」

優れた作曲家であるばかりでなく、音楽の数々の現場を潜り抜けてきた師匠の言葉には、有無を言わさぬ説得力がありました。奮起したブルーベックは、ますます独自の手法を探究することに情熱を捧げ、ナイトクラブでもガンガン演奏を行います。

で、客にウケなかったら「何故ウケなかったのだろう」という反省点を徹底的に吟味して、研ぎ澄まされた実験精神とお客さんウケするエンターティメント精神の両方を信じられないレベルで両立させてゆくのです。



【パーソネル】
デイヴ・ブルーベック(P)
ポール・デスモンド(as)
フレッド・ダットン(b,@〜C)
ワイアット・ルーサー(b,D〜Q)
ハーブ・バーマン(ds,@〜G)
ロイド・デイヴィス(ds,H〜Q)

【収録曲】
1.クレイジー・クリス
2.ア・フォギー・デイ
3.ライオンズ・ビジー
4.サムバディ・ラヴズ・ミー
5.アット・ア・パフューム・カウンター
6.マムゼル
7.ミー・アンド・マイ・シャドウ
8.フレネシー
9.ジス・キャント・ビー・ラヴ*
10.ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング
11.マイ・ロマンス*
12.アイ・メイ・ビー・ロング*
13.ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス*
14.ルルズ・バック・イン・タウン*
15.ストリート・イン・シンガポール*
16.オール・ザ・シングス・ユー・アー*
17.不思議の国のアリス*
18.スターダスト*

*ボーナストラック

(録音:@〜G 1951年8月、H〜Q 1952年9月)


一言でいえばブルーベックの音楽は

『ポピュラー・ミュージックとしてのすこぶる聴きやすいジャズ、でも分かる人には分かる実験性の刃を隠し持った音楽』

でした。

ただ、彼のピアノの音は非常に澄み切っていて硬質であり、単独ではポップな曲を演奏していてもどこか厳格な感じになってしまう。そんな時(1948年)初めて8人編成のバンドで共演したメンバーの中に、ブルーベックの理想とする、流麗でどこまでも透き通った音のアルトサックス奏者がおりました。

話をすれば、彼は幼い頃からクラシックやポピュラーをやってきたブルーベックとはまるで対照的に、サックスを手にした時からジャズにどっぷりで、当時大人気だったチャーリー・パーカーのスタイルでクラブのステージにガンガン立ち、更にそこから自分のオリジナリティを確立したいと鍛錬を重ね、自分の持ち味である今のトーンに辿り着いたんだと語ります。

その洗練されたまろやかな音色とは裏腹に、知的な風貌と鋭い眼つき、言葉の節々から感じられる、夜の世界で修羅場を潜ってきた男独特の気性の荒さを感じ取ったブルーベックは「コイツだ!」と思い「一緒にバンドを組まないか?」と声をかけ、男はこれに「あぁいいぜ」と即答します。

この男こそが、この後もずっとブルーベックとコンビを組み『テイク・ファイヴ』を始めとする”ブルーベックの代表曲”の数々も手掛けることになるポール・デスモンドその人であります。

本日ご紹介するアルバム『ブルーベック〜デスモンド』は、1950年代初頭に二人が初めて組んだコラボレーションを収録した実質的なデビュー作で、戦前からポピュラーなスタンダードがブルーベックの軽妙なノリと洗練の中に硬派な味わいを醸す音楽性で見事に料理された傑作アルバムなんです。

サクサクしたノリの良い曲、とことんしっとりとしたバラードの両方で、ブルーベックはいかにも楽しそうにガンガン鍵盤を叩き付け、よく聴くと奇妙にアウトしたフレーズのアドリブを展開していて、デスモンドは淀みの全くない彫刻のような美しい音で美しいメロディを吹いてるんですが、この人の端正なサウンドやフレーズに軟弱さは一切なく、逆に職人ならではの気骨を感じてしまいます。

で、このアルバムの凄いところは「どんなにブルーベックが暴れようとも(特に9曲目『ジス・キャント・ビー・ラヴ』での左手ガンゴンは鬼!)、リズム隊の軽やかなビートとデスモンドの美しいアルトがしっかりと”上質で聴きやすいジャズ”として、難しいことはよくわからずともじっくり聴かせて楽しませてくれるところ」なんです。

ブルーベックといえば『テイク・ファイヴ』以降の60年代のアルバムが、オリジナル曲もたくさんあって人気ではありますが、このアルバムは演奏してる曲がスタンダードばかりなのに、ちゃんとブルーベックとデスモンドの個性が全開で、聴いてるうちに(いや、最初の印象でも)どの曲もこのコンビが書いたオリジナル曲のように思えてしまいます。

アタシは昔からブルーベックに関しては、演奏が上手い人だなぁと思っておりましたが、それ以上の”一筋縄ではいかない強烈な個性”を、このアルバム聴く毎に、感嘆と共に噛みしめております。「テイク・ファイヴ以外で何かないかなぁ」とお思いの方もぜひ。








『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:03| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする