2018年04月18日

バド・パウエル ストリクトリー・パウエル

253.jpg

バド・パウエル/ストリクトリー・パウエル

(RCA/SMJ)



ストリクトリー・パウエル!あぁ、言葉の意味はよーわからんが、何という胸を打つ言葉の響き、そして俯いて一心不乱にピアノを弾いているパウエルのポートレイトが大写しになったこのほの暗いジャケットの何と美しいことでありましょう。

このアルバムには特別な思い入れがあります。

あれはいつだったか、多分若い頃であります。

みんなそうだと思いますが、訳もなく気分が落ち込んで、一人になると何だか酷く感傷的な気分になって、涙がボロボロ落ちる時期がありました。そう、若い頃です。

特に都会に住んでいて一人、どうしようもなく孤独感にさいなまれ「あぁ、俺はひとりぼっちなんだ」と、すごく寂しくて悔しくて情けなくなってしまう、そんなブルーな気持ちは、あろうことか仕事の休憩時間に襲ってきました。

バックルームでアタシは一人、そしてドア一枚隔てた表(職場)では、同僚さんがお客さんと喋る声や、BGMで流している賑やかな音楽が聞こえます。

この賑やかな感じがいけなかった。

弁当も食べる気にならず、ペットボトルのお茶をボーっと持っているだけで、無性に悲しくなってきます。もちろん理由なんてないのですが、深みにハマッてしまった心は、もっともらしい理由ばかりを求めてしまいます。

いけない、こんな気持ちではいけない・・・。

考えても考えても、いや、考えるから余計に気持ちは落ち込むものです。

その時、ふと、周囲の音が一瞬止まりました。

多分表のCDを変えるためにストップしたのでしょう。

やがて・・・。

軽快な調子のピアノ、ベース、ドラムがジャズを奏でました。

あぁ、こんな気分の時はこういう音楽がいいなぁと、少し気持ちがホッとしましたが、イントロが流れ終わってメインテーマをピアノが奏でた時、妙な違和感が耳に重くのしかかってきました。

不思議・・・曲はゴキゲンなのに、ピアノの、特に左手のタッチが凄まじく粗くて重いんです。その粗くて重いタッチが醸すムードは、その時アタシが抱えていた、訳もなくどん底な不安や寂寥とシンクロして、グイグイと心を惹き付けます。

正直ジャズは好きになり始めた時期だったけど、まだまだその頃は感情を激しく揺さぶってくれるフリー・ジャズにしか、強烈には惹かれておりませんでしたが、このジャズ、何の変哲もないストレートなジャズでしかもピアノ・トリオの演奏なのに凄い。心を激しく揺さぶって、狂おしくかき乱す何かがある。

それはお客さんが中古の状態を確かめるために視聴したレコードでした。

覚えておこうと遠目からチラッと見ましたら、音のイメージにピッタリのポートレイトに、僅かに確認できた”POWELL”の文字。

あれ?バド・パウエル?

そう、知っているどころか何枚か持っていて家で聴いているはずの、あの有名なバド・パウエルです。

帰宅して家に2枚あるバドのアルバム『ザ・シーン・チェンジズ』と『ジニアス・オブ・バド・パウエル』をじっくり聴いてみました。

どちらも彼の代表作として有名なアルバムです。

実際『ジニアス・オブ・バド・パウエル』は、初期の頃の、凄まじいスピードで駆け抜ける前半の収録曲にパンク・スピリッツを感じ、『シーン・チェンジズ』は、曲として気に入ったマイナー・チューンの『クレオパトラの夢』をいいなと思って、ちょっとオシャレな作品として聴いておりました。

しかし、アタシは実はちょっとだけ気付いておったんです。この人の本質は、テクニックとかオシャレではなく、根底にある狂気の部分とか、ジャズという音楽の持つ、暗くて重い”どうしようもなさ”の部分で音楽やってるところなんだろうなということを。

実際に初期の名盤『ジニアス・オブ〜』で感じたのはカミソリのような鋭い狂気、精神的にボロボロになった1950年代後半の人気盤『ザ・シーン・チェンジズ』で感じたのは、この人特有の、どこか重たくて引きずるような情念の魅力でありました。

それはまだぼんやりとした直感的なものだったのですが、この日聴いたバド・パウエルの演奏で、アタシの直感は確信に変わりました。








【パーソネル】
バド・パウエル(p)
ジョージ・デュヴィヴィエ(b)
アート・テイラー(ds)

【収録曲】
1.ゼアル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー
2.コスクレイン
3.虹の彼方に
4.ブルース・フォー・ベシー
5.タイム・ウォズ
6.トプシー・ターヴィ
7.ラッシュ・ライフ
8.エレジー
9.ゼイ・ディドント・ビリーヴ・ミー
10.波止場にたたずみ
11.ジャンプ・シティ


(録音:1956年10月5日)


この日聴いて、狂おしく虜になってしまったのが『ストリクトリー・パウエル』バドのアルバムでは珍しいRCAというメジャー・レーベルの、たった2枚しかない作品のひとつで、最初に録音されたものだということでした。

そして、中期から後期のバドの持ち味といえる、重く沈んだ音色が奏でる独特のムードが演奏の前面に出た最初のアルバムとされております。


恐らくは彼がこの頃抱えていた精神の病、ドラッグ、アルコールその他もろもろの影響が色濃く出たのでありましょう。RCAの2枚目である『スインギン・ウィズ・バド』よりも好調に走る演奏や、右手の華麗なアドリブのノリは鳴りを潜め、アルバム全編がミディアム・スロウから、盛り上がってもちょっと小走りになる程度のテンポで統一され、それが余計にバドの指から繰り出される重く歪んだ情念の響きを際立たせております。


最初に胸倉を掴まれたのはもちろん1曲目の『ゼアル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー 』でありましたが、アルバムをじっくり聴くと、ポピュラー曲として有名な『虹の彼方に (Over The Rainbow)』の、訥々とした弾きっぷりからジワリと迫る切実な感傷、『ラッシュ・ライフ』の、夕暮れの光景がボロボロと音を立てて崩壊してゆくような滅びの美のようなもの、破れた哀しい恋の感情が歌われる『ゼイ・ディドント・ビリーヴ・ミー』、流れるような気品の中に何とも言えない寂しさが溢れる『水辺にたたずみ』など、さり気ないスタンダード曲が、どれもバドの情念にまみれて本当に素晴らしいんです。

アタシはこのアルバムに激しく心打たれたことがきっかけで、バド・パウエルというピアニストの本当の素晴らしさに気付きました。単純に「調子が良くて、胸のすくような快演を繰り広げているアルバム」でもないし、アドリブも冴えまくっている訳ではありません。でも、この病んだ精神の奥底から訴えてくる音楽衝動の切実さ、これが多分バド・パウエルという人がジャズの中でも大きく語られ、今も虜になってしまう人を増やし続けている理由のような気がします。









”バド・パウエル”関連記事



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 00:50| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする