2018年04月21日

バド・パウエル ザ・シーン・チェンジズ!

DYn21eUU8AAAXmz.jpg
バド・パウエル/ザ・シーン・チェンジズ 〜アメイジング・バド・パウエル5

(BLUENOTE/EMIミュージック)


本日もバド・パウエルということは、アタシは今絶好調に夏バテしております。

いや、眩暈がですね・・・。まぁいいか。

本日皆様にご紹介しますのは、バド・パウエルのアルバムの中でもダントツの人気、そしてもはや「モダン・ジャズ・ピアノを代表する名盤と語り継がれる作品」と言っても良いのではないでしょうか。バドがブルーノート・レーベルに残した『アメイジング・バド・パウエル』というタイトルを持つ5枚の作品の最後を飾る『ザ・シーン・チェンジズ』であります。

かつて、ジャズ喫茶が全盛の頃、このアルバムがひっきりなしにリクエストされていたと言います。

それこそ気合いの入ったジャズファンから、ジャズはそんなに詳しくないよという人まで次々魅了して大人気を獲得した。

バドのアルバムは、他にも凄い作品というのがいっぱいあったにも関わらず、そして、バドは確かに偉大ではありますが、その頃(日本でジャズ喫茶が全盛だったのは1960年代から70年代)は50年代の名作のリイシューはもとより、新譜として刺激的かつ内容の素晴らしいアルバムもたくさん出ていたにも関わらず、です。

ジャズにおける『ザ・シーン・チェンジズ人気』は、それから80年代、90年代になっても消えることなく残り続けました。

ブルーノートの名盤がCDでリイシューされると、やっぱりこのアルバムや、ソニー・クラークの『クール・ストラッティン』が中心になって、それはそれは売れるんですよ。


しかも、買う人のほとんどが「ちょっとこれからジャズを聴いてみたくて・・・。で、最初に聴くんだったらやっぱりピアノかな?で、これがすごくいいって聞いたんで・・・」という感じで買っていくんですね。

そのあまりにも自然な「何となくコレ」といった感じを見ると、あぁやっぱりこのアルバムの良さはしっかり語り継がれているんだなぁと、感慨もひとしきりだったんです。


その”もの”について、具体的な情報が薄くなるほど時が経過しても”何となくの伝承”として、魅力が知られてるって凄くないですか?

アタシは素直に凄いと思います。


で、このアルバムに何がそんなに人の心を惹き付けるんだろうと考えて、実際聴いてみますと「あぁ、これだ」と、ジャズそんなによくわかんない人でもピンとくる強烈な要素がひとつあります。

それはですね、やっぱり冒頭の『クレオパトラの夢』です。

この曲はミディアム・アップの程良い(聴いた人の耳がしっかりついてこれる)速さで、哀愁たっぷりのマイナー・スケールが走るナンバー。

つまり

”ノリがいいのに暗い”

曲なんです。

あぁ、やっぱりアレだよ。クレオパトラの夢なんて初心者向けで、バドにはもっといい演奏がどーたらこーたら言う人もいますけど、これはいいよ。やっぱりねぇ、アタシも含めて日本人は、こういった哀愁系疾走ナンバーに弱いんだ。この曲は今風に言うところのエモい曲ですよ。元々エモい、つまりダークなカッコ良さが売りのバドなんですが、その中でも特にエモい曲がこの『クレオパトラの夢』だということは、バドが大好きで、アルバム何枚も買って、どのアルバムにもしっかり中毒になったアタシでもこれは認めざるを得ない。

何だかんだ言ってもこのイントロが鳴って曲が走って行くのを聴くだけで、理屈抜きで胸がギューッとなる感じに襲われてついつい追いかけてしまう。

もちろんアタシ個人的に”好き”なバドのアルバムは他にあります。

でも、そういったお気に入りを聴いてもなお、このアルバムを思い出したように聴くと、このアルバム独自の「持ち味のダークさから、ちょっぴり哀しみの成分を抽出して増幅させた感じ」に、ついクラッとなってしまいます。






【パーソネル】
バド・パウエル(p)
ポール・チェンバース(b)
アート・テイラー(ds)

【収録曲】
1.クレオパトラの夢
2.デュイッド・ディード
3.ダウン・ウィズ・イット
4.ダンスランド
5.ボーダリック
6.クロッシン・ザ・チャンネル
7.カミン・アップ
8.ゲッティン・ゼア
9.ザ・シーン・チェンジズ

(録音:1958年12月29日)



はい、このアルバム独自の”哀しみ”これが日本人特有の「演歌(マイナー調の音楽)に本能的に惹かれる心」を、多分どうしようもなくくすぐってしまうんですね。

アメリカでは、「バドのたくさんあるうちの、まぁ悪くない1枚」ぐらいの評価であり「何で日本ではアレが特別人気なんだ!?」とびっくりされるという都市伝説も聞いたことがありますが、それはすっごく分かります。派手で景気のいいゴージャスな表現と、このアルバムでのバドのピアノ表現は、まるで対極にあったりします。

でも、単純に”暗い”だけじゃあないんですね。看板の『クレオパトラの夢』だって、ノリだけ聴くとシャキシャキとしたテンポでドライブするナンバーですし、バドがこのアルバムのために気合いを入れて作曲したオリジナル曲のほとんどは、ミディアム・テンポなノリのいい曲が多いんです。

だけど全体のイメージが、ジャケットの色合いとピッタリ重なる、そこはかとなく重たいブルーな雰囲気というのが、やっぱり最大のポイントでしょう。

ピアノだけを聴くとバドは非常に調子が良さそうではありますが、ところどころ音が乱れて、グシャッと潰れているところなんかもあります。でも、この”潰れ”を、バドは実にカッコいいジャズ的な”崩し”に持って行くんです。

「バドは天才だ」と、色んな所で書かれていて、その引き合いに初期のバリバリ指が動いていた頃の超絶プレイは出されますが、いやいやいや、ちょいとお待ちよお父さん、アタシはバドの”天才”は、こういう風に無意識でマイナス要素も音として出た時にプラス要因にしてしまう、この体に染みついたセンスの良さにこそあると思います。

このアルバムは、バックのサポートの素晴らしさも特筆モノです。

ベースのポール・チェンバースは、言うまでもなくこの時代、レコーディングにセッションにライヴの助っ人にと一番忙しかった人で、安定したぶっといビートを提供する間違いのないベース・プレイはもちろん、フロントでガンガンやっているピアニストやホーン奏者のアドリブ・メロディを引き立てる歌心溢れるウォーキングがとにかくズバ抜けている人です。

形こそは王道のモダン・ジャズ、つまりビ・バップの定型をしっかりと守るバドですが、アドリブで「どう切り込んでくるか分からない緊張感」ってのが結構あるんですが、アドリブでノリノリになって次々出てくるフレーズに、チェンバースは迷うことなく”この瞬間で一番歌ってるベースライン”をサラッとぶつけてバドのメロディアスな側面をしっかりと引き出しております。

そして、それ以上にバドの個性を引き出しているのが、バドとは長年の付き合いのドラム職人アート・テイラー。

特にミディアム・ナンバーで決まりに決まるビシバシと歯切れの良いスネアとシンバルが、最高に決まっておりますよ。しかもほぼ全編スティックじゃなくてブラシを使っているんですが(バドの指示だといわれております)、これがもう鋭い!

ドラマーのバンドでの重要な役割は、全体のグルーヴを支えて、ソロを奏でるフロントをガンガン煽りまくることだと思うのですが、テイラーのビシバシ決まるドラムは正にそれで、もちろんこの強靭なグルーヴの上でバドがアドリブに集中出来ているのは伝わってきますし、それ以上に”刻むこと”に全神経を動員した結果、バドの全てのプレイがハッキリと浮彫りになって妖艶な輝きを放っておるようであります。


ノリノリで切なくて、どこか暗くて夜が似合う。これはジャズの醍醐味になるイメージの一部でありますが、まだジャズとかよくわからなかった頃のアタシがジャズに抱いていて、そして憧れていたイメージであります。

で、バドを選ぶ「何かよくわかんないけどジャズのカッコいいピアノのやつが聴きたいなぁ」という人の期待も、このアルバムが持つ、ノリノリで切なくて、どこか暗くて夜が似合う、そんなイメージが十分に満たしてくれるでしょう。切なくてカッコイイものに感動する時、選ぶ言葉は「くぅ〜切ない!素敵!」でいいんです。『ザ・シーン・チェンジズ』は、理屈じゃないいくつかの要素だけで、人をコロッと虜に出来る、やっぱり素晴らしいジャズ・ピアノの名作なんです。





”バド・パウエル”関連記事



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 00:51| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする