2018年04月23日

ホロヴィッツ モスクワ・ライヴ1986


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ホロヴィッツ/モスクワ・ライヴ1986

(Deutsche Grammophon Gesellschaft /ユニバーサル)



体調絶賛不良中でございますので、ピアノものしか聴けません。

という訳で、ここ数日はバド・パウエルを聴きまくり、そこからジャズやクラシックのピアノを穏やかに聴いております。

ん?「穏やかに」というのはちょっと違いますねー。


カッコいいピアニストってのは、もちろん「うぅぅっ」ってくるぐらい耽美な音を奏でるんですが、その耽美の中にどうしようもない哀しみだとか、ふとした狂気の部分を感じさせてくれる人が多い。っていうかそういう部分がないと、ただの「綺麗でお上手なピアノね」で終わってしまって思い出に残らない。

これ、アタシだけかなぁと思ったら、周囲のピアノ好きの意見を聞いたり、ネット好きな人のブログレビューなんか読んでおりますと「あ、この人も狂気感じているなー」と思って安心します。

うん、安心していいもんだろうかとちょっと思いますが、そういうもんです。そういうもんらしい。

で、今日はクラシック。

ウラジミール・ホロヴィッツといえば、20世紀を代表する巨匠として、クラシックの世界ではもうレジェンド中のレジェンドであります。

バロックからロマン派、近現代音楽までそのレパートリーは幅広く、どんな時代の曲だろうが、その澄み切って豊かに鳴り響く音色で見事に演奏してしまう。

しかも余りにも独自の解釈で(例えば古典をロマン派っぽく弾くとか)自分流に演奏してしまうので「ホロヴィッツの演奏は、作曲した音楽家でなくホロヴィッツ聴くための演奏なんじゃね?」と皮肉られたりとか、あるコンサートで指揮者と意見が合わず「いや、オレはぜってーこのテンポじゃなくてもっと速くこうだ!」と、演奏中にマイ・テンポに設定変えしてしまい、結局オーケストラも巻き込んでノリノリに仕立て上げ、聴衆からやんやの喝采を受けたとか、また、極度の神経過敏で、そのために体調を崩してしまうこともしばしばで、演奏にはその調子のムラが出てしまうこともあったり、病院から大量に処方された薬を飲みながら、お酒も好きでガンガン飲んでしまい、フラフラになったままコンサートを行ったりと、まぁなかなかにパンクな人です。

もちろんホロヴィッツという人を、アタシはアタシなりに、そういった「天才とか巨匠ならではの破天荒エピソード」で決定的に好きになった訳ですけれど(えぇ、ミーハーです)、そのもっと前、そんなエピソードを知らない時に、アタシはやっぱりその澄み切った、豊かに響く音色の魅力にヤラレてしまいました。

最初に聴いたのは、やはり定番のシューマン『子供の情景』だったと思いますが、ここでびっくりしたのが、音が消え入りそうなほど小さく弾いた時に掠れない。言うまでもなくピアノの音の大小というのは、タッチでの指の力の強弱なんですね。つまり大きな音を出そうと思ったら指に力を入れて、小さく出そうと思ったら指の力を抜いて鍵盤を叩く。

で、当然小さな音を出す時は力を極力抜いている訳ですから、音の輪郭は音量相応に微かな響きになるんですよ。でも、ホロヴィッツの小さな音は、音量は限りなく小さいのに、その音には芯があるどころか凛として粒が立っているんです。

まるで録音時に機械の方をいじって、音量レベルだけを落としたような音ですが、普通に考えて演奏の途中で何回もそんな絶妙な演出を、しかも昔の演奏家がする訳がありません。

本当に不思議なんですが、これ、ホロヴィッツ独自の”技”のようで、どんなに名人と言われるピアニストも、限りなく小さな音でこれほどしっかりと音を響かせることは出来ないんだということを後で知って、もう完全にこの人すげぇとなった訳です。





【D.スカルラッティ】
1.ソナタ ホ長調 K.380(L.23)
【モーツァルト】
2. ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330(300h) 第1楽章: Allegro moderato
3. ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330(300h) 第2楽章: Andante cantabile
4. ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330(300h) 第3楽章: Allegretto
【ラフマニノフ】
5. 前奏曲 ト長調 作品32の5
6. 前奏曲 嬰ト短調 作品32の12
【スクリャービン】
7. 練習曲 嬰ハ短調 作品2の1
8. 練習曲 嬰ニ短調 作品8の12
【シューベルト/リスト編】
9. ウィーンの夜会 (ヴァルス・カプリース 第6番)
【リスト】
10. ペトラルカのソネット 第104番 (巡礼の年 第2年≪イタリア≫から)
【ショパン】
11. マズルカ 嬰ハ短調 作品30の4
12. マズルカ へ短調 作品7の3
【シューマン】
13.トロイメライ (≪子供の情景≫から)
【モシュコフスキ】
14.火花 作品36の6
【ラフマニノフ】
15.W.R.のポルカ


演奏:ウラディミール・ホロヴィッツ(p)


晩年は衰えたとか、指が動かなくなったとか、色々細かいことを言われてはおりますが、アタシにとってはそんなことはどうでも良くて、要はこの人の豊かな音色が堪能出来る盤だったら、もう何でもいいんです。

という訳でこの人の「音の凄さ」は、コンサートでの生演奏を録音したアルバムでリアルに聴くことが出来ます。

このモスクワ・コンサートは、ホロヴィッツ83歳の時にモスクワで行った、演奏もお客さんの反応も最高の一枚。

ウクライナ生まれで、ずっとアメリカを拠点に活動していたホロヴィッツが、久々に故郷(当時ウクライナはソビエト連邦)に錦を飾る形となったこのコンサート。当然本人は気合いが入ってますし、お客さんにしては「ソビエト圏の伝説の英雄が来る」という期待感でもう胸がいっぱいだったでしょう。

跳ねるように闊達なスカルラッティのソナタから始まって、モーツァルト、ラフマニノフ、スクリャービン、ショパン、シューマンと、過去に名演を残した得意の作曲家のナンバーを総動員してお客さんの期待に応え、それに対するお客さんの拍手や「ブラボー」のやりとりが本当に心温まるんですが、このコンサート、特にモーツァルト以降のホロヴィッツの没入の仕方がもうハンパないんです。

ラフマニノフの前奏曲(嬰ハ短調)からスクリャービンの練習曲が、感情炸裂(でも、音は乱れない)の凄まじいハイライトが、やっぱり名演と言われておりますし、事実名演極まりないぐらい、聴いてるこっちの意識まで根こそぎ持って行きます。

で、そんな根こそぎ持って行かれたままの感情に追撃をかけるようなショパンのマズルカ、切ない!あぁ切ない!!

・・・はいすいません、興奮し過ぎました。もうね、何と言えばいいんでしょう、クラシックとか巨匠のとか、このアルバム聴く時は一切そんなもん頭から外して聴きましょう。音楽です、超音楽です。

ハァハァ、こんな感情丸出しなのに、こんなに美しく乱れないピアノって、もうね、もう何と言えばいいんでしょう。


『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:56| Comment(0) | クラシック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする