2018年05月27日

レヴァランド・ゲイリー・デイヴィス Complete Early Recordings


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Rev.Gary Davis / Complete Early Recordings


アコースティックのブルース・ギターというのは、エレキとはちょっと違った特別な演奏テクニックが必要になります。

それはですね、つまり

「親指でベース音を刻むと同時に他の指でテロテロアルペジオとか単音オブリガードとかを弾かなきゃいけない」

というやつです。

ギターを演奏しない、或いはギター・プレイには興味がないという人のために説明しますと

「1本のギターなんだけど、2本同時に鳴っているように何となく聞こえるやつ」

ですね。

ブルースやカントリーという音楽を意識して聴くまでアタシは、ギターといえばコード押さえてジャカジャカしてればいいもんだと思ってましたが、単純なコードカッティングのジャカジャカじゃないあのギターに魅せられてからというもの、元々どうも体質に合わなかったピックを捨て、親指と人差し指と中指を使って、何とかあの”1本だけど2本に聞こえるギター”を覚えたくて、もう狂ったように毎日弾いてましたが、結局親指と他の指を上手く別々に鳴らすことが出来ぬまま、高校を卒業してしまいました。


結局、上京して毎晩家でギターを練習していたら、その”親指と人差し指の分離”はある日いきなり、本当にあっけなく出来るようになるんですが、その前にアタシ、教則ビデオを買いまして、これはアコースティックのブルース・ギターを志す人ならほぼ全員がお世話になっているステファン・グロスマンという人の教則ビデオなんですが、その中で「ゲイリー・デイヴィスさ、彼は凄いんだ」「こういった弾き方はゲイリー・デイヴィスだね」とか、事ある毎に出てくるゲイリー・デイヴィスって人が、当然気になる訳です。

そしたら別のビデオが欲しくなります。

今度は教則ビデオじゃなくて、ホンモノのブルースマン達が演奏しているのを集めたやつなんですが、それにたまたま「Rev.Gary Davis」という人の演奏動画が収録されておりました。

これが凄かったですね、多分自宅で録ったっぽい映像だったんですが、サングラスに背広着たオッサンが、椅子に座ってギター弾いて歌ってる。

歌われてる単語の節々から「あ、コレはスピリチュアル(黒人霊歌)だな」とは分かるんですが、何か葉巻とかくわえて真面目な感じではないんですね。

『Rev.』ってのはレヴァランド、つまりアメリカでは牧師さんとかに付ける尊称だったんですね。つまり訳すると『ゲイリー・デイヴィス師』みたいな感じで、おぉ、この人は牧師さんか!と思ったんですが、牧師さんにしては何かブルースとかも歌ってるし、葉巻くわえてるし、全体的にガラ悪いし・・・こりゃ業界では完全に”アウトな人”で最高だなおいと。

まぁそんなことより、その映像で驚愕だったのは、やっぱりこの人のプレイですね。どっしり構えて、何かくつろぎまくって歌ってるし、ギターも見た感じ適当にテロテロやってる風に見えるんですが、その声もギターも凄かった。えぇ、もうとにかく凄かった。

張り上げても張り上げなくてもガンガン響く声、そして、親指と人差し指完全分離な上に、ハイポジションもリズム刻みながらスイスイ弾いている、あぁごめんなさいね、ギターやってる人以外には「何それ?意味わからん」なこと、アタシは今書いてると思うんですが、そう、ギターやってるアタシにも「何それ?意味わからん」なギターだったんです。

ラグタイムで凄いとか、単音弾きで凄いとか、そうじゃなくてその両方が何事もなかったように当たり前に同時に鳴り響いているその凄さ。

あぁ、そりゃあの教則ビデオの人が凄い凄い言うよな、わかる、わかるよ、うん、何がどーなってるかさっぱりわかんねーけどわかるよ。

と、アタシは激しく頷いたもんです。

ブルースに限らず、音楽の楽しさって、如何に”知らない感動に触れてそれを拡げてゆくこと”だと思うんですが、戦前ブルースのそれは、かかっている謎や不思議のベールが厚いだけに、楽しさは格別なんですね。

気になって調べたレヴァランド・ゲイリー・デイヴィス、南部サウス・カロライナ出身で、幼い頃から色んな楽器を演奏していたけど、失明してからはキリスト教に傾倒し、やがてギターやバンジョーを持って各地を歌い歩く説教師になったと。

説教師というのは教会で説教をする牧師さんとは違って、教会の教えを説きながら各地を旅する人であります。色んなところで神の教えを説きますが、この人達の目的は「神の教えを知らない人に伝導すること」ですので、街の広場とか路地とか、不特定多数の人が集まる所が主な活動の場でありました。

普通にお話をするだけでは、興味ない人は誰も聞いてくれませんから、必然的に楽器を持ってスピリチュアルを歌い、説教もするというスタイルになる訳です。

戦前に活躍した人で有名な人といえばブラインド・ウィリー・ジョンソンですね。








とにかく戦前の説教師には、凄腕のギタリストが多かったといいます。そして、ゲイリー・デイヴィスもその一人です。

で、この人の別の意味で凄いところは、教会とか福音とかゴスペルとか一辺倒じゃなくて、ブルースもフツーに歌って、カロライナや東海岸のブルースマン達ともツルんでいたところ。

彼の弟子と言われているブラインド・ボーイ・フラーという人が、戦前のイーストコーストを代表するブルースマンであることは、ファンんは周知の事実なんですが、まぁそんな感じでこの人はキリスト教の教えを伝える人でありながら、それだけにガチガチにならず、俗世にもしっかりと足を付けておった。

「おい、説教師さん、アンタブルース歌っていいの?」

「ブルースも逆の意味で真実だからな、間違っちゃいねぇよ」

「え?ブルース歌った後にスピリチュアル歌うの?それは流石にマズイんじゃない?」

「うるせーな、ネクタイしめて神様に敬意払えば問題ねぇよ」







【収録曲】
1.I Belong To The Band - Hallelujah!
2.The Great Change In Me
3.TheAngel's Message To Me
4.I Saw The Light
5.Lord, Stand By Me
6.I Am The Light
7.O Lord, Serach My Heart
8.Have More Faith In Jesus
9.You Got To Go Down
10.I Am The True Vine
11.Twelve Gates To The City
12.You Can Go Home
13.I'm Throwin' Up My Hand
14.Cross And Evil Woman Blues
15.I Can't Bear My Burden By Myself
16.Meet Me At The Station


かといってゲイリー・デイヴィスが不真面目な人ではなかったという事は、彼のスピリチュアルとブルースが、的確なテクニックに支えられた極めて(つかハンパなく)高度なものという事実に触れれば分かります。

この人は戦前にもいくつか録音を残しましたが、戦後フォーク&ブルース・リヴァイバルの時にようやく世に出てくるまで、基本的には路上を主な活動の場として、華やかな所には一切出なかった。だからステファン・グロスマンがニューヨークの路上で歌ってる彼を見て声をかけた時、あの伝説の説教師が酷く貧乏な暮らしをしていた事にびっくりしたといいます。

戦後に結構な数の録音を残し、そのどれも水準を落とさず、ハッキリ言ってアルバムに当たりはずれがない人ですが、個人的にやはり好きなのは戦前(1935年)に録音された音源を集めたこのYazoo盤です。

ビデオで観て、その「凄いことを何でもないよという風にアッサリやっている貫禄」に衝撃を受けたアタシですが、いやいや、動画は入り口に過ぎなかった。ビデオではくつろいでやっていたゲイリー・デイヴィス、音盤では凄まじい本気です。

どの曲も軒並み「ストリートでこんな風にやってる人がいたら、たまんなくなって踊り出してしまうだろうな」というぐらいリズミカルで、弾き語りというのが信じられないぐらいブ厚いグルーヴが溢れかえっているんです。

えぇ、ギターは想像以上に凄くて、リズムを刻みながらペケペケと単音の高速フレーズやチョーキングを交えたり、その何でもアリぶりに、聴いてしばらく何も考えられないぐらいです。

そして歌ですね。ガラガラと野太い声で、空間そのものを揺るがすような魂のシャウト、シャウト、シャウトがもう、もう、もう、なんです。

「ブルースとゴスペルって、歌詞違うだけで音楽的には一緒だよね」とか、アタシはその昔ナメたことを言ってましたが(物理的にはきっとそうなんでしょうが)、ゴスペルの人達のシャウトは、単なる叫びじゃなくて、聴く側の心の内側からの歓喜を促すような、そんな不思議で独自の味わいがあるということを、ゲイリー・デイヴィスの歌に教えてもらいました。






”ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜”




『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 13:35| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする