2018年06月03日

カリプソ・ローズ ファー・フロム・ホーム

DYn21eUU8AAAXmz.jpg
カリプソ・ローズ/ファー・フロム・ホーム
(Because/Pヴァイン)


はい、気温も順調に真夏日の軌道に乗ってきましたので、今日は皆さんが大好きなカリプソでございます。

カリプソってなぁに?

と、よく訊かれますね。えぇ、アタシも2ビートのスッタンスッタンのビートに乗って、ゴキゲンなパーカッションやらが鳴り響いてトロピカルな旋律とメロディが聞こえたら「あ、カリプソ♪」と、よく意味もわからんまま言っておりました。

カリプソってのはアレですね、一言でいうと「カリブ海の島々の音楽」です。

南北のアメリカ大陸があって、その丁度真ん中付近の右側のところがカリブ海ですね。

そこにはいろんな島がありまして、ざっと有名な所だけ挙げてもキューバやジャマイカ、ドミニカ、バハマ、トリニダード、トバゴとか、ひとつの島とかいくつかの島も合わせて独立国となっているのも多いです。

ここはコロンブスがアメリカ大陸を発見してから「ヨーロッパからの船団が最初に立ち寄る停泊地」として開発され、入植がなされました。

そして、この島々は奴隷貿易の拠点でもあったんですね。

大陸各地に送られる奴隷達もたくさんおりましたが、ここで形成された大規模なサトウキビ畑(植民地政策に砂糖は欠かせないものでした)で働く労働力として、たくさんの黒人奴隷が働かされておった訳です。

元々住んでいる人達が少ないものですから、カリブの島々は人口に対する黒人の割合というものがとても多くなります。

そこで彼らの故郷であるアフリカの音楽的な特色が色濃く残ったまま発展していったのが徐々にカリプソという音楽になりました。

アフリカの音楽的特色というのは、色々ありますが一番大きなのが様々なパーカッションを使って繰り出される独特のリズムです。

アメリカでは黒人奴隷に対してパーカッションやアフリカの宗教などはとにかく危険と見なされて、徹底的に禁止されておりました。

が、カリブはそこのところが比較的ユルかった。一説によるとカリブの島々はフランス植民地だった所が多く、フランスはイギリスと比べて色んな意味でユルかったようで、奴隷達が太鼓でコミュニケーションを取ることも「まぁよかろう」と禁止しなかったから、カリプソにはアフリカ音楽の伝統が色濃く残っているとも言われております。

確かに、アメリカのブルースがああいったどこかやるせない感じの音楽なのに対し、カリブの音楽は陽気で横揺れの心地良いグルーヴなのには、その昔の政治的な事情もろもろが影響しているだろうとは思います。


さてさて、一口に「カリプソ」と言っても、その中身は実に多種多様、一言で「これがカリプソだ!」と即答するのは実に難しいんですが、今日はカリプソを代表するシンガーとして、1950年代から活躍する女王、カリプソ・ローズをご紹介して、カリプソをまだよく知らない方への参考にして頂きたいと思います。

カリプソ・ローズはトリニダード・トバゴに1940年に生まれ、60年代にはもう既に同地の国民的シンガーになりましたが、その人気は周辺諸国だけにとどまらず、アメリカやフランス、イギリスなどの国でもヒットを飛ばし、世界中に「カリプソ」という音楽を広めた人でもあります。


トリニダード・ドバゴといえば、ちょいと詳しい人なら「あ、あのスティール・パンの国だ」とすぐ反応してくださることでありましょう。そう、スティール・パン、またはスティール・ドラムと呼ばれるあのドラム缶で出来た、独特の涼しげな音を出す不思議な楽器の本場です。

トリニダードは、他の南米諸国と同じようにカーニバルが盛んな土地で、スティール・パンもズラッと並んでトラックの荷台の上でパレードしながら演奏するという、何とも賑やかな使い方をされておりますね。

カリプソという音楽そのものも、実はこのトリニダードのカーニバルから発展して拡がっていったんだという話があるように、ここはカリプソの本場も本場。

「チャカスッチャカ、チャカスッチャカ」という駆けるようなテンポのリズムが忙しなく鳴らされる、カリプソならではの独特のリズムが、後にソウルや他のラテン諸国のメロディーなども絡めて「ソカ」と呼ばれる音楽へと進化して行きます。カリプソ・ローズがデビューして人気を博していった時代は、正にトリニダード・トバゴの、カーニバルの時に演奏される”お祭り騒ぎの音楽”であったカリプソが、ホールでの演奏にも対応出来るように、どんどんポップス化していった正にその過渡期であります。




【収録曲】

1.Abatina
2.I Am African
3.Leave Me Alone (Feat. Manu Chao)
4.Far from Home
5.Calypso Queen
6.Zoom Zoom Zoom
7.Trouble
8.Love Me or Leave Me
9.No Madame
10.Woman Smarter
11.Human Race
12.Wah Fu Dance!



実はカリプソという音楽は、アメリカのジャズやR&Bにも多大な影響を与えていて、たとえばルイ・ジョーダンやボ・ディドリー、ソニー・ロリンズなんか聴いておりますと、特にリズム面において「あ、これはカリプソ!」とバッチリ分かる曲や演奏があったりして、どっちも知るととても楽しいのです。

カリプソ・ローズの昔の演奏を聴いていると、アメリカのポピュラー音楽やジャズなんかを、陽気で激しいカリプソにアレンジし直してカヴァーしています。

その背景には「アメリカのミュージシャンがアタシ達の音楽やってるのを、逆にこっちが歌ったら面白いかもね♪」という、ちょっとキュートないたずら心がチラッと見えたりしてカッコイイんです。そう、このカリプソ・ローズという人は、レジェンドでありながら、そしてカリプソの根っこにあるソウルを常に熱くたぎらせながら、今風のアレンジにも全然ひるむことなくチャレンジし続け、そして世界でのカリプソ人気をどんどん不動のものにしていってる、本当にカッコイイおばちゃんなんですよ。

2016年にリリースされた『ファー・フロム・ホーム』は、正にそんなローズおばちゃんの根っからのパワフルさと、骨太さを保ちながら美しく進化してきたカリプソの集大成です。

何と、このアルバムでは元マノ・ネグラ、現在はミクシチャー・ロックのカリスマとして多くの世代から支持を集めるスペイン系フランス人ミュージシャン、マヌ・チャオとガッツリ組んで、極上のラテン〜カリプソの、楽園のような音楽を聴かせてくれます。

いやもうこれ、凄いですよ。カリプソの「チャカスッチャカ」の強靭なビートに、ラテンの哀愁のメロディーも乗れば、サンプリングされたコーラスも実に渋くキマッてるし、何よりローズ自身の声が、とても御年70ン歳の妙齢のご婦人の声とは思えないほど明るく張りがあって、聴くだけで元気が出てくる、ジャンルなんざ関係ねぇ!ってなるぐらい突き抜けたアルバムです。いやほんと、凄いよなぁ、スカまでやってるんですけど、それが全然取って付けたような不自然さはなくて、むしろ「あぁ、スカのルーツってやっぱりカリプソだよ」と思わせてくれるこの説得力。

よくある「ワールド・ミュージックの現代版アレンジで聴きやすい」とか、そういう作為は全く感じません。むしろ素直に楽しく聴いてるうちにローズの声のパワーにすっかりノックアウトされて、カリプソという音楽を、気付けばより深く楽しめる一枚。つうかもうカリプソ入門用として、持っておいても全然良いです。色々と音楽的に特色ある部分を挙げればもっともっと魅力を語れそうな気もしますが、こういうのは理屈より先に楽しむことが大事だよ、ということで。










『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:15| Comment(0) | ラテン/ブラジル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月01日

ロイ・ブキャナン Roy Buchanan

625.jpg
ロイ・ブキャナン/Roy Buchanan
(Polydor/ユニバーサル)



高校の頃、一本のビデオを片手に上機嫌で帰って来た親父が、テレビの前にドカッと座るなり

「おい、今日はコレ見るぞ」

と、言うやビデオをセットして勝手にチャンネルを変え、缶ビールをプシュッと開けました。

アタシは昔から大河ドラマっ子でしたので

「何すんだやめろ」

と、思ったのですが、もちろんウキウキになってる親父にそんな事言っても聞かないのは分かり切ったことなので黙っていました。

「お前ブルースつったらコレよコレ、コォレを見らんと話にならん」

とか何とか言いながら、雑な手付きでリモコンをギシャギシャやっておりますので

「ほーん、ブルースかぁ、そんならまぁ見るか」

とか思って、まぁ観ることにしました。


そのビデオは、アルバート・コリンズとロニー・マックとロイ・ブキャナンによるブルース・コンサートの映像でした。

もちろんその頃は3人の名前も全然知らなかったのですが、興奮して横で「イェ〜イ♪」とか言ってテーブルを叩く親父の横で、アタシも釘付けになって観ておりました。


10フレットだか12フレットだか、とにかくあり得ないポジションにカポを付けて、長い指で弦をカキーンと引っ掻いて、あり得ない太さの音を叩き出す、オマケに長い長いシールドを引っ張って客席を練り歩き、客席の椅子に座って弾くという驚愕のパフォーマンスが最高に楽しかったアルバート・コリンズ、フライングvを派手に聴きまくり、最もノリのいい曲が多くてその頃のアタシには一番音楽的な親しみを感じたロニー・マック(後で「あの人はスティーヴィー・レイ・ヴォーンが若い頃夢中になってた人なんだよ」と知って凄く納得)、そしてロイ・ブキャナン。


ロイ・ブキャナンだけ”そして”と書いたのには訳があります。

そう、何事にも派手で豪快なアルバート・コリンズとロニー・マックに関しては、あぁこのファンキーな感じは確かにファンキー大好きファンキー人間な親父が機嫌良くなるわ〜。と納得もしたし、そのファンキー人間の血を引いているアタシも一発目からグッと来ましたが、一人だけテンションの違う、終始何やら深刻そうな顔をして、歌もサラッとしてて声も張り上げない、曲調もどことなく寂し気な感じのロイ・ブキャナンだけはどーにもとっつきにくいというか、ぶっちゃけよくわかんなかったです。

しかし、ホンモノというのは、いつも後から徐々に気になってしまうものであります。

そのビデオはアタシもなかなか気に入ったので、親父がいない時も一人でコッソリ観ておりました。

テレビの部屋にギターとギターアンプなんかも持ってきて、ちょっとでも盗めるところがあれば盗んでやろうとしてたんですね。

で、アルバート・コリンズとロニー・マックの所は真剣に観ながらギターで耳コピとかしてたんですが、ロイ・ブキャナンはまぁ何かよくわかんないから、ギターで好きなフレーズ弾きながらテロテロ”ながら聴き”をしていたところ、急に!本当に急になんです。

ノン・エフェクトでザリッと歪んだテレキャスの音、そのチョーキングや早弾きやピッキングハーモニクスやボリュームつまみを使ったハーモニクス奏法や、アーム付いてないのにまるでジミヘンのアーミングみたいな音を出す奏法や、実に考えられるギターのテクニックみたいなものが全部詰まった演奏の奥の奥からつんざくような叫びと言うんですかね、そういった静かだけど激しい感情の凄まじいものがいきなりザクッと耳に刺さって、その時初めてロイ・ブキャナンという人のプレイに釘付けになってしまいました。


気になって調べたら、何とこの人は、エリック・クラプトン、ジェフ・ベックをはじめ、世界中のロックの名だたるギタリスト達が尊敬し、そのテクニックを必死で盗んだ人で(ジェフ・ベックがテクニック面で大きな影響を受けた事は有名)、何とブライアン・ジョーンズが亡くなった後にローリング・ストーンズのギタリストとして参加して欲しいとオファーされた程の、超凄腕のギタリストだった事が判りました。

しかし、それだけの凄腕&世界中のロック・レジェンド達から賞賛され尊敬される程の人でありながら、ヒットを連発するスターダムな存在にはなり得なかった。そのため『世界最高の無名ギタリスト』という、有難いんだか有難くないんだかよーわからん呼び名まで持っております。

彼が売れなかった理由は、性格的に繊細過ぎたとか、流行に乗ったり合わせたりするのが苦手だったとか、色々と言われておりますが、要するにギターを弾く事は大好きで、自分のプレイを聴いた人が喜んでくれる事は望むところだったのですが、ロックスターとか華やかでスキャンダラスな世界の雰囲気というのがどうにも合わなかったんでしょう。

ローリング・ストーンズからの正式な加入要請も「いや、自分そんなガラじゃないんで・・・」とあっさり断っておりますし、80年代の最も脂の乗った30代後半から40代前半という時期を「何か音楽ビジネスってのが嫌んなっちゃった・・・」と引退状態で過ごし、それでも頑張って85年には復活するんですが、1988年、48歳の時に路上で泥酔して潰れていたところを警察に保護され、その留置所の中で首を吊って自殺・・・。


彼の音楽には、繊細で華やかな場が苦手だったというより他に、何かこう不幸な人間の背負う宿命みたいなものを静かに受け入れているような、そんな気がしてなりません。

他の追随を許さない超絶テクニックを持っており、プレイそのものは確かにちょっとでもギターをかじっている人には「凄い!」と絶句させる程の強烈なインパクトを持ちますが、その音からはどこか暗い宿命を背負い、それを静かに受け入れているかのような、そんな哀しさを常に感じてしまうんです。

そしてそれ故にどうしようもなく惹かれます。






【収録曲】
1.スウィート・ドリームス
2.逃亡者
3.ケイジャン
4.ジョンズ・ブルース
5.幽霊屋敷
6.ピートズ・ブルース
7.メシアが再び
8.ヘイ・グッド・ルッキン



ロイ・ブキャナンは1939年にアメリカ南部アーカンソーに、牧師の子として生まれました。

クラプトンやジェフ・ベック、ジェリー・ガルシア、ジョージ・ハリスンといったロック・レジェンド達に敬愛されているから、きっと彼らより相当年上なんだろうと思ったら、意外とそんなに離れておりません。

9歳でギターをはじめ、15歳ですでにプロとして活動しており、様々なバンドでいわばセッションマンとして腕を磨き、その中には後の”ザ・バンド”の前進となるホークスもありました(ちなみにザ・バンドのロビー・ロバートソンもロイから多大な影響を受けていることを公言しております)。

1972年、33歳という遅咲きのデビューを果たした時は既にアメリカでは知る人ぞ知る存在で「いや、あんだけの腕があるのにデビュー遅すぎるだろ」とミュージシャン達の間では歓迎と共に激しいツッコミも挙がったとか何とか。

で、今日のオススメはその1972年にリリースしたソロ・デビュー作『ロイ・ブキャナン』なんですが、ブルースとカントリーの両方に深い影響を受け、それを自分ならではのスタイルで消化し、そこに更なる独自のテクニックを加えて作り上げた彼のスタイルは、この時点でもう完璧に出来上がっていて、作品としての完成度はとても新人の1作目とは思えないぐらいに高いです。


ブルースをやってもフレーズの泥臭さやチョーキングでの情緒だけに流れることなく、クールにソロを組み上げてゆく、カントリーをやってもピッキングハーモニクスなど、それまでにあまり使われなかった技巧を凝らし、とにかくジェフ・ベックが”何をやってもジェフ・ベックのギター”であるように、この人もまた”何をやってもロイ・ブキャナン”と分かる弾き方のクセがあり、とにかく1曲の中に持てる技の全てをぶっこんでくるんですね。

その神業が拝めるのが、カントリー曲代表の『ケイジャン』とブルース曲代表の『ジョンズ・ブルース』なんですが、まぁとにかく聴いてください。根っこの部分は流石にホンモノとしか言いようのないカントリーであり、ブルースなんですが、そこで繰り広げられているギタープレイは、ジャンルも「誰々っぽい」という安直な形容も超えております。

そして、やっぱり「あぁ、ロイ・ブキャナンだなぁ」という、情念が一瞬の激しさと、永遠のようなヒリヒリとした哀しみの空気を纏って消えてゆく哀愁のスロー・ナンバーに心惹かれます。

この作品では冒頭の『スウィート・ドリームス』と7曲目の『メシア再び』これはもう祈り、深く美しい祈りとしか言葉が出てきません。


とにかくロイ・ブキャナンを聴いていると、そのギター・プレイに込められたテクニックの凄さと、それを上回る情感の豊かさと、更にそれを上回る音楽全体に漂う静かな絶望みたいなものに圧倒されて聴き入って、そして言葉が出なくなってしまうのです。

言葉が完全に出なくなってしまいましたので、今日はここらへんで、おやすみなさい。






『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:01| Comment(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする