2018年06月16日

風に吹かれて〜ブラック・アメリカンが歌うボブ・ディラン

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風に吹かれて〜ブラック・アメリカンが歌うボブ・ディラン How Many Roads: Black America Sings Bob Dylan

(Ace/MSIレコード)



音楽を聴くという作業は、どこか家を建てる作業と似ております。


まず最初に衝撃を受けた”原点の音楽”があるとすれば、それは家の最も大切な部分を支える柱となり、そこを軸に色んな音楽を聴いて、知って、集めて行く上でまた新しいのを知って、聴いて・・・と、徐々に屋根とか内装とか、窓とかそういったものが出来て行くのです。

アタシにとっての音楽の”柱”は、パンクロックとアメリカン・フォーク・ソングであります。

スピード感があって刺激的なパンクロックと、アコースティック・ギターの伴奏で歌われる素朴なフォークソング、その聴いた印象は全くと言っていいほど違う音楽ではありましたが、何か深い所で通じるものがある。カッコイイ言い方をすれば音楽的な手法は違うかもわからんが、奥底に持っているスピリッツという意味ではこれらの音楽は一緒だと、アタマの悪い中学生ながら、アタシは感じておった訳です。

そもそものきっかけは、パンクロックのどっぷりハマッていた頃に、たまたまテレビで観たカントリー・フェスティバルの演奏でした。

バンジョーとかマンドリンとか、当時見たこともない楽器の物珍しさとか、バンドが全員生楽器でドラムもいないのに、何でこんなに迫力があってウキウキした音を出せるんだろうとか(その時ステージで演奏していたのはブルーグラス界のレジェンド、ビル・モンローでした)、とにかく言葉にならない衝撃を受けて、その夜帰って来た親父に

「あの、アメリカ人がギターとかヴァイオリンとか使ってやる・・・えぇと、あのアメリカの田舎とかでよく流れていそうな音楽ってアレ何だ!?」

と興奮して訊いたら

「そりゃお前カントリーだ、何観たんだ?え?白髪のもみあげの長いじーさんが、ちっちゃいギターみたいなのを持って、見た目とは全然違う高くて若い声で歌ってたって?んで、何か凄い大物みたいな扱いを受けてた?そりゃお前ビル・モンローだろう」


と、教えてもらい、そうだカントリーを聴こう!と思い立ち、じゃあビル・モンロー以外でどのカントリーを聴けばいいのかと更に訪ねたんですね。

そしたら親父、ちょいと考えて

「そりゃお前ボブ・ディランだな」

と。

その時親父が考えておったのは多分

「え〜、カントリーかよ〜、勘弁してくれよ国内盤少ないんだよ〜」

というのと

「ボブ・ディランを知る事でカントリーももっと深く知る事が出来るしブルースも聴くようになるぞしめしめ」

という事だったと思いますが、結果として親父のこの策は大当たりでした。

(詳しくは過去にコラムで書いたコチラを読んでくださればと思います↓)




最初は、何だか鼻つまんだような声で歌う変わったオッサンぐらいに思ってたボブ・ディランでしたが、その時リアルタイムでリリースされた弾き語りアルバム『グッド・アズ・アイ・ビーン・トゥ・ユー』や、雑誌で読んだ記事の「ボブ・ディランはフォークシンガーのウディ・ガスリーに影響を受けた。彼のギターには”This Guitar Kills Fascists”と書いてあった」とかいう文章を読んで、この人の表現姿勢や音楽からの影響の受け方にパンクを感て衝撃を受けたと同時に、ボブ・ディランの楽曲経由でブルースやカントリー、ゴスペルなど、広大なアメリカン・ルーツ・ミュージックの世界にアタシは漕ぎ出す事ができました。

ボブ・ディランの曲って不思議なんですよね。

10代20代の頃、昔(60年代〜70年代)のアルバムを聴いて、その時「ほぉ〜いいねぇ」と思ったら、誰か他の人のカヴァーを聴いて「は!?すげぇいい曲!!」となって、感心してオリジナルを聴くと相乗効果で更に「凄いいい曲だったんだ・・・」と感じる。最初に極め付けだったのがジミ・ヘンドリックスがカヴァーした『見張り塔からずっと』で、それからガンズ・アンド・ローゼスの『天国の扉』バーズの『ミスター・タンブリン・マン』と王道を辿って、それがまたどれもカッコ良かったもんだから、ますますボブ・ディランにハマり、今度は「ボブ・ディランってソウルとかR&Bの人達によくカヴァーされているよね』という話。

サム・クックが『風に吹かれて』を聴いて「この曲は僕達黒人の気持ちを歌ってる、よし、ではこの曲のアンサーソングを作ろう!」と、彼を代表する名曲『ザ・チェンジ・ゴナ・カム』を作り上げたという話と、同じく『風に吹かれて』をカヴァーして大ヒットさせたスティーヴィー・ワンダーが、10代の頃からボブ・ディランの大ファンで、楽曲をカヴァーしまくっていたという事実を知り、アタシの興味はボブ・ディランという一人のアーティストよりも、何故彼の歌うフォークソングが、同時代のコミュニティの違う黒人ミュージシャン達を虜にしたのか?という壮大なテーマに向かっておりました。







風に吹かれて~ブラック・アメリカが歌うボブ・ディラン



【収録曲(アーティスト)】

1.風に吹かれて(O.V. ライト)
2.北国の少女 (ハワード・テイト)
3.あわれな移民 (マリオン・ウィリアムズ)
4.マギーズ・ファーム (ソロモン・バーク)
5.くよくよするなよ (ブルック・ベントン)
6.ビュイック6型の想い出 (ゲイリー US ボンズ)
7.ザ・マン・イン・ミー (ザ・パースエーションズ)
8.ライク・ア・ローリング・ストーン (メジャー・ハリス)
9.神が味方 (ザ・ネヴィル・ブラザーズ)
10.ミスター・タンブリン・マン (コン・ファンク・シャン)
11.戦争の親玉 (ザ・ステイプル・シンガーズ)
12.アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト(ビル・ブランドン)
13.我が道を行く (パティ・ラベル)
14.天国への扉 (ブッカー T ジョーンズ)
15.見張塔からずっと (ボビー・ウォーマック)
16.女の如く (ニーナ・シモン)
17.アイ・シャル・ビー・リリースト (フレディ・スコット)
18.レイ・レディ・レイ (アイズレー・ブラザーズ)
19.今宵はきみと (エスター・フィリップス)
20.エモーショナリィ・ユアーズ (オージェイズ)


言うまでもなくボブ・ディランの音楽には、アメリカン・ミュージックの根っこにある深い部分、つまりカントリーやブルースはもちろん、それより前の時代のヒルビリー(カントリーのご先祖)から、黒人も白人も歌っていたトラッド・ソングやスピリチュアル(ゴスペルのルーツ)などのルーツが最大の滋養となっております。

ディランがこれらの音楽、そして当時それらの楽曲を歌っていた人々への深いリスペクトを作品に反映させていただけではなく”その頃”の感覚、つまり大恐慌時代の貧しい環境に置かれた労働者達や、奴隷時代に報われない強いられていた人々の感情などを、リアルタイムで様々な形で湧き上がっていた社会問題と重ね合わせて「何故?どうして?」というメッセージを常に激しく発していた事は、60年代アメリカの黒人公民権運動そのものに強い刺激を与え、意識を共有する多くのソウルやR&B、ジャズなどのミュージシャン達のインスピレーションの源にもなりました。

だからディランの曲は、ソウルやR&Bのカヴァーが多く存在するんですね。そして、どんな人がどんなアレンジで歌っても演奏しても、あたかもそれが遠い昔から存在するブルースのソウル・アレンジとかに思えてしまうほど、ブラック・ミュージックとしての確かな骨格を持っているんです。

アタシの中では、少年時代にイコールで繋がった『ボブ・ディランとブラック・ミュージック』ですが、それにどういった深い意味があり、カヴァーしている人達がどんな感情を重ね合わせてその曲を採り上げているのかはまだまだおぼろげでありますので、優れたソウル・シンガー達が残した極上のボブ・ディラン・カヴァー曲を、少しでも多く聴きまくって、心の栄養にしたいと思います。

『ブラック・アメリカンが歌うボブ・ディラン』と名付けられたこのアルバムは、編集盤やリイシューを作らせたら本当に素晴らしいものを作る英ACEレーベルの愛がひしひしと感じさせる、極上のボブ・ディラン・カヴァー・アルバムです。

それぞれの曲とアーティストについては思い入れがありすぎて、解説すると文字数がとんでもないことになりそうなので、これはぜひ皆さんで「この曲いい!」という曲をぜひ見付けて堪能してください。そして「ボブ・ディランを歌うこと」で、ソウル/R&Bの人達がどのようなメッセージを世の中に放っていたか(いずれも深く、そして優しくてファンキーな名カヴァーです)を感じてください。





『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 09:57| Comment(0) | ソウル、ファンク、R&B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする