2018年07月14日

ルーズヴェルト・サイクス フィール・ライク・ブローイング・マイ・ホーン

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ルーズヴェルト・サイクス フィール・ライク・ブローイング・マイ・ホーン
(Delmark/Pヴァイン)


さて、連日の猛暑日が続いておるようですが、皆さん如何お過ごしでしょうか?

奄美も暑いとはいえ、気温はまだ30度そこらで、日陰に入っておればまだ何とかといったところです。びっくりしたのは本土から観光で来られた方に

「いやぁ、奄美ってすごく暑いかと思ったけど、思ったより涼しいんですね」

と言われたこと。

異常気象とかいう言葉は、ここ十数年ぐらい頻繁に耳にするようになりましたが、南の島の方がまだ涼しくて、東京のような緯度の高い所の方が暑くなったってのは、、まぁこれは本当に異常でございますね。いつからこうなっちゃったんだか。

とにかくも皆さん、熱中症にはお気を付けくださいね。

さて、アタシも今週は気合いを入れてブログ頑張ろー!とか思ってましたが、いかんせん体調不良に悩まされ続けておりまして、いつものようにユルい更新で失礼さんでございます。

前回は”ピアノ・ブルースの素晴らしさを、もっと多くの人に知ってもらおう”と、ルーズヴェルト・サイクスの戦前音源をご紹介しました。

ほぼ弾き語りか、サイドにギターのみを付けて豪快かつ軽快に疾走するサイクスの戦前録音は、もちろん聴いてて素直に楽しいし、後のジャズ・ピアノなんかに与えた影響なんかを想像しながら聴いてみても色々な発見があったりと本当に奥深く、ブルース好き、ジャズ好きはもちろん必携なんですが、実はサイクスさん、ミュージシャンとしての本当の快進撃は戦後に始まります。


そう、戦前は上島竜兵だった見た目が、西田敏行に進化しました。しかもアウトレイジ・シリーズの。


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というのは冗談です(汗)

戦後は何と、バンド・サウンドを従えてサウンドをグッとモダン化するんですね。

40年代はジャンプ、50年代からはモダン・ブルース。元々持っていた強靭なグルーヴ感と鍵盤へのアタックの強さが、進化したブルースのリズムとドンピシャでマッチして、更にその太く高い声の魅力も演奏が引き立てるという相乗効果を得て、サイクスのブルースは一回りも二回りもスケールの大きなものへと進化しました。

「戦後になっても人気が衰えなかった」

「ブルースが下火になった50年代後半以降も精力的に活動出来た」

ってのは、本人が語るように運が良かっただけではなく、アタシはやっぱりこの人の底力が、時代と共に進化したブルースのスタイルに上手くマッチしたからじゃないかと思うんです。

それも単純に波に乗ったとか、新しいスタイルを積極的に取り入れたとかではなく、本人はあくまでやりたいスタイルでブルースを弾いて歌っている時に向こうからやって来た流行だとか新しいやり方だとかそういうのが、サイクスの方に寄って来た。

これに対してサイクスは「あぁ、やれるよ。訳ないさ」と、実に自然にやってるんです。

その”新しいサウンドへの対応”が実に見事で、びっくりするぐらい違和感がないっていうのは、やはりこの人のミュージシャンとして、そしてピアニストとしての芸の幅が凄まじく広かったということなんでしょう。

キャリアの長い人が必ずブチ当たる「転換期の壁」というのがあって、例えばB.B.キングのような大成功したブルースマンでさえ、作品を聴くとコレでかなり悩んだフシが伺えますが、サイクスにはそういった迷いというものがほとんどありません。

ホーンを付けたジャズっぽいサウンドでも、エレキギターを入れたモダンなサウンドでも、まるでそんなの昔からやってたと言わんばかりに豪快に声を張り上げて鍵盤を転がすサイクスを聴くと、本人の素晴らしさはもちろん、ブルースという音楽の強さとかたくましさまで感じてしまいます。あぁ、本当にカッコイイ。




フィール・ライク・ブローイング・マイ・ホーン


【収録曲】
1.Feel Like Blowing My Horn
2.My Hamstring's Poppin'
3.I'm A Nut
4.Blues Will Prank With Your Soul
5.Jubilee Time (alternate)
6.All Days Are Good Days (alternate)
7.Sykes' Gumboogie
8.Rock-A-Bye Birdie
9.Moving Blues
10.Don't Bat Your Eye
11.All Days Are Good Days
12.Eagle Rock Me,Baby
13.Jubilee Time
14.Love The One You're With


はい、カッコいいアルバムを紹介しましょうね。

今日はそんなサイクスの、デビューからおよそ40年後の1970年に録音されたアルバム『フィール・ライク・ブローイング・マイ・ホーン』。

これはですのぅ、戦後60年代ぐらいから良質なブルースのアルバムをリリースし続けているシカゴのデルマーク・レコードが、当時ニューオーリンズに住んでいた、当時64歳のサイクスに「最高のメンバー付けますんでレコーディングしてくださいや」と、お願いして、何とロバート・ジュニア・ロックウッド(g)、デイヴ・マイヤーズ(b)、フレッド・ビロウ(ds)という、当時のシカゴ最高のバック・バンド”ジ・エイシズ”の人脈に、ホーン隊(サックス/クラリネットのオイット・マラード、トランペットにキング・コラックス)を加えた、本当に最高のメンバーを従えて制作されたアルバム。

実はサイクス、50年代初頭にリーガルというレーベルで録音した演奏を60年代にデルマークが取りまとめ、その際にアルバムとするには曲数が足りなくて、レコーディングも行ったという経緯があり、デルマークとは付き合いがありました。

60年代のデルマークには、9弦ギターのビッグ・ジョー・ウィリアムスという人が入り浸っていて、コノ人がブルースマンとしての実力はもちろん、根っからの旅人であったので「戦前に活躍したブルースマンの動向は何でも知っていた」ぐらいの人だったので、サイクスとのレコーディング契約も、かつてセントルイスで付き合いがあったビッグ・ジョーの紹介があったのかも知れません。

さてこの内容なんですが、64歳の大ベテランであるサイクスが、鉄壁のチームワークを誇るモダン・シカゴ・バンド・サウンドと、何かもう長年タッグを組んでやってきたかのような見事に引き締まって、パワフルに歌いまくる中に、バラードやスローブルースでは、それまでにない絶妙な哀愁もじっくりと聴かせる素晴らしい内容。

はい、ルーズヴェルト・サイクスって人は、ブルースある程度聴いてきた人には、その大物ぶりや、B.B.キングをはじめとする戦後にモダン・ブルースに与えた影響のデカさなんかもあって、すっかりおなじみだと思うんですけどね、やっぱりギタリストじゃなくてピアニストってことで、一般の音楽好きへの知名度ってのはぶっちゃけ不当に低いと思います。

実際にこの記事読んでる人の中にも、ルーズヴェルト・サイクスって人いまいちよくわかんないという方はいらっしゃると思いますが、そんなギター好きの方、このアルバムはロバート・ジュニア・ロックウッドのプレイが凄いですよ。

「私は元々サイドマン気質だし、本質的にやっぱりサイドマンだと思ってるよ。バックで考えてプレイするのが好きなんだ」

と日頃から言っていたロックウッドの、看板に偽りなしのギタリストとしての凄さが、恐ろしく締まったバッキング、歌とピアノに自在に寄り添うオブリガード、そして言いたいことを過不足なくピシャッと表現して、終わったらサッとバッキングに戻る完璧なソロと3拍子揃ったプレイにビシバシ凝縮されていて、これはもうバンドやるギター弾きにとっては聴くしかない内容だなとアタシ思います。

もちろんそんなロックウッドの好演も、サイクスの揺るぎない存在感あってこそ。1曲目の豪快なシャッフルナンバーから、声の張りとピアノのキレがもう凄い凄い(!)


かと思えばグッとテンポを押さえたスロー・ブルースの『My Hamstring's Poppin' 』『Blues Will Prank With Your Soul』『All Days Are Good Days 』 での都会的な味わいに滲む哀愁、原点のブギ・ウギを斬新に聴かせる『I'm A Nut 』『Love The One You're With 』、ノリの良さで言えばコチラもなジャンピン・ジャイヴな『Sykes' Gumboogie 』、バラードはバラードでも、ニューオーリンズ・スタイルのほんわかした『Rock-A-Bye Birdie』と、楽曲は攻めに攻めた多彩っぷりで、この気迫からは「もうオレもトシだから落ち着いてやりたいね」なんていう守りの姿勢は一切感じさせません。

特にスローバラードの、シャウトから滲み出る哀愁がたまんないです。長い長いブルース人生が凝縮されたからこその声の深み、これこれ、これがブルースなんですよねぇ・・・。






”ルーズヴェルト・サイクス”関連記事


”ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜”





『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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2018年07月10日

ルーズヴェルト・サイクス ザ・ハニー・ドリッパー

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ルーズヴェルト・サイクス/ザ・ハニー・ドリッパー
(Pヴァイン)


「顔が上島竜兵に似ている」

ということで、これから日本で大ブレイクする予定のブルースマンが、今日ご紹介するルーズヴェルト・サイクスであります。

という冗談はさておきで、ブルース好きの皆さん、ピアノ・ブルースってどうですかね?やっぱりアタシも含めてブルースって音楽は、ギター小僧が興味を持ってズブズブとハマッていった歴史が、我が国にはありますので、どうもピアノ弾きながら歌うブルースマンとか、ピアノがメインのアルバムって今ひとつ地味な扱いに甘んじているような気がします。

でも、ピアノ・ブルースって一旦その魅力に気付いてしまったら、とってものめり込んでしまうぐらいに魅力的なんですよ。

そもそもが戦前のギターを弾くブルースマン達は、ロバート・ジョンソンを皮切りに、そのギターの奏法のヒントをピアノから得て、たとえばピアノが奏でる左手のルート音を親指で低音弦を弾くことで模倣して、人差し指は右手のメロディ・ラインのフレーズを真似するということを一生懸命やっておった。

そして生まれたのが、今ではブルースギターの基本中の基本といわれる「ズッズ、ジャッジャ、ズッズ、ジャッジャ」のシャッフル・パターンであります。

とにかくギターに比べて生音がデカかったピアノは、戦前のマイクがなかった時代は特に人気があり、都会的なサウンドに憧れた南部っ子達は、ジュークジョイントやバレルハウス(いずれも田舎にあった掘っ建て小屋のようなライヴスペース)にピアニストが来るとなれば張り切って出かけ、ギターよりデカい音で弾きまくるブギウギに合わせて一晩中でも踊り狂ったという話はたくさん残っております。

特に1920年代後半から30年代にかけては、リロイ・カーを筆頭に、多くの優れたブルース・ピアニストが輩出された年代でありました。


で、そんなピアニスト達を最も多く世に送り出した街というのが、南部と北部の中間地点最大の都市、ミズーリ州セントルイスでありました。

鉄道の分岐点と重工業の街、そして”ちょっと行けばシカゴ”という地理的に恵まれたこの街は、また、南部と北部を行き来するブルースマン達にとっても大切な場所であり、多くのブルースマン達が滞在したり通過したりするうちに、独自のシティ・ブルースというより、南部のブルースがそのまま根付いて洗練された形、何のこっちゃいと思う人もいるかもわかりませんので、パスッと音楽的に説明しますと、ここで生まれるブルースは、都会らしく華やかで洗練されてはいるけれど、根底に粘りと泥臭さもしっかりあるところを聴かせてくれるものだったんです。

さて、ピアノ人材溢れるセントルイスから、全国的な人気を博していたピアニストといえばルーズヴェルト・サイクス。

この人は凄いですよ、その豪快&ドライヴ感溢れるピアノと、カラッとパワフルに声を張り上げる、実にシンプル&親しみに溢れたスタイルを一貫させながら、時代に合わせてサウンドをどんどん進化させ、戦後もずっと第一線に立ち続けて、1983年に亡くなるまで、しぶとい人気をずっとキープしつづけていた人です。

これがどのぐらい凄いことかってアナタ、サン・ハウスやロニー・ジョンソンといった戦前のレジェンドクラスのギター弾き達ですら、軒並み戦後は音楽以外の仕事もせざるを得なかったぐらい生活に困っていたのに、サイクスだけはとりあえずピアニストとして生計を立てることが出来ていた。

つまり戦後になってブルースの人気が下火になっても「ブルース・ピアニスト」としてライヴやレコーディング活動をしてて、更に活動の拠点をヨーロッパとかに移さず、ずっとアメリカにいながらにして、しかもそこそこ売れていたということなんですよ。いや凄い。

で、インタビューで本人に

「サイクスさん、マジですげぇっすけど、何か売れなくならない秘訣とかあったんすか?」

って訊くと

「秘訣?そうだなぁ、人よりちょっとラッキーだったぐらいじゃね?」

と、豪快に答えてるところがまたカッコイイです。






ザ・ハニー・ドリッパー

【収録曲】
1."44" Blues
2.All My Money Gone Blues
3.Boot That Thing
4.Cotton Seed Blues
5.Kelly's Special
6.As True As I've Been To You
7.Mr. Sykes Blues
8.Highway 61 Blues
9.D. B. A. Blues
10.Dirty Mother For You (Don't You Know)
11.The Cannon Ball
12.Driving Wheel Blues
13.Soft And Mellow (Stella Blues)
14.The Honey Dripper
15.Little And Low
16.Night Time Is The Right Time
17.Sad Yas Yas Yas (You Fade Away Like The Morning Dew)
18.Mistake In Life
19.Have You Seen Ida B
20.Papa Low
21.Unlucky 13 Blues
22.Doin' The Sally Long (Flames Of Evaporation)
23.47th Street Jive
24.Low As A Toad


あれこれごちゃごちゃ言う前に「何で?」の部分は実際に音を聴いてみましょう。

とにかくこの人は戦前戦後を通じてずーーーーっと安定して活動してきた人なんで、アルバムも多いし、正直どれも軒並みズッシリとした聴き応えを、ちょいとばかりホロ苦い味わいの深さと共に楽しませてくれるんで、その原点という意味でまずは最初期の戦前録音集をオススメしたいと思います。

始めてのレコーディングは1929年ですが、この時点からこの人のピアノとヴォーカルのスタイルは、もうすっかり出来上がっておりました。

戦前のブルース・ピアノといえば陽気でノリのいいブギウギと、しんみり品の良いスローブルースですが、この人の場合は何せピアノも歌もパワフルで豪快なので、基本はブギウギです。

カツンと前のめりに勢い良く張り出して、そこからロールして粘るスタイル。これは”セントルイス・スタイル”と呼ばれるこの土地独自のものなんですが、実はサイクス、生まれは南部のアーカンソーで、十代から続く放浪の旅の果てにセントルイスに辿り着いたという、根っこに強烈な泥臭さを持っている人であり、そのフィーリングが戦前では実に独特で、例えば3曲目の『Boot That Thing』みたいな、フルスピードでガンガン鍵盤を転がしながら煽るような語りを入れている曲とか、「ツッカツッカツッカ」と軽妙に刻まれるビートに引っ掛けるシンコペーションの至芸から、ソロで最高にブギウギする『Dirty Mother for You』なんかを聴いてると、理屈抜きで胸の奥底からウキウキしてきます。

もちろん初期の大ヒットであり、名刺代わりの代表曲『44Blues』や、洗練された典型的なミディアム・テンポのピアノ・ブルースと言っていい『Driving Wheel Blues』なんかで聴けるちょいとワルな哀愁ももちろんたまんないんですが、基本は「踊ってナンボ、ノセてなんぼ」の戦前ブギウギ・ピアノ野郎の男気、そのどこまでもポップな美学に楽しく酔うために、特にこの人の戦前音源はあります。

あと、この少ない編成(つうかほとんど弾き語り)で、最大にロールしてスウィングして、後を引くグルーヴを残すこのやり方に、凄く影響を受けたのは、同じミズーリ州カンザス・シティのカウント・ベイシーだと思います。

ベイシーの独特の、あの”間”を活かしながらも10本の指がフルに踊るあのピアノのルーツの多分かなりデカい部分を占めているのが、実はルーズヴェルト・サイクスだとアタシは思ってるんですが、残念ながらこの説はジャズの評論ではまだ読んだことがありませんので、ジャズ好きで、特にカウント・ベイシー好きな方には、ぜひともルーズヴェルト・サイクス聴いて検証してもらいたいと密かに思っております、はい。









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2018年07月08日

トキノマキナ メカノフォリア

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トキノマキナ/MECHANOPHILIA
(時野機械工業)


今更言うまでもないことですが、このブログは皆様に音楽をご紹介するブログです。

記事を書いてツイッターやフェイスブックにリンクをえいやと貼ってつぶやけば「いいねぇ」「これカッコイイよね」と、お蔭様で多くの音楽好きの方々から反響を頂きます。

いいですねぇ、嬉しいですねぇ。

はい、ほぼ更新すると何らかの有難いリアクションがありますので、夏バテしながらも何とか続けております。

皆さんからの反響の中で一番嬉しいのが

「これは知らなかった」

「聴いてみたくなった」

という反応ですね。


そう、音楽への感動というのは、知らない素敵な音に初めて触れた時の感動、コレがデカい。

アタシももういいトシでありますので、若い頃からむさぼるように色々な音楽を聴いてきました。

人はこれを知識と言うのかも知れませんが、いやいや、アタシは欲深いので、常に「もっともっとカッコイイ音楽、素敵な音楽があるはずだ!」と、毎日格闘&葛藤です。

読者の方から「これ聴いてみたい!」という言葉を頂けば、アタシはその言葉を発した方の気持ちになって「こういう風に未知の音楽と出会いたい」となるのです。

そこへいくとインターネットというものはやはり便利です。

「あ、ちょっと気になるなぁ」

という音楽のことを誰かがつぶやいてたら、それを覚えておいてすぐ検索をかけると音源が聴けたりしてしまいます。

で「これ好きぃ!」となったやつに関してはやっぱりCDでも何でもいいから、自分だけの音源をいつでも聴けるように手元に置いておきたい。

で、今日ご紹介する音楽はトキノマキナです。

このグループは、現在大阪を拠点に活動する、エレクトロニカ・ユニットですね。

知るきっかけとなったのはツイッターで、フォロワーさんがライヴの告知をリツイートしてたからなんですけど、そもそものきっかけは「音」じゃなくて「名前」だったんです。

「東大阪にある有限会社時野機械工業が開発したアンドロイドと、それを整備する社員(係長)による音楽ユニットとして結成されたトキノマキナ。メンバーは、アンドロイドの野中比喩(ヴォーカルと電子楽器)と、技術課整備係の岡係長(トラック制作)」

ヴォーカルの方の名前が”比喩”(!!)

ちょっとここで、アタシの中の音楽の人の脳とは別の部分の、ことばの人としての脳がピピピーンと反応しましてですね、えぇ、もう何て素敵な名前なんだろうと思い、もう一気に気になってしまったんです。

調べてみたら、この野中比喩さん、元々アイドルとして活動をはじめ、特殊メイクアーティスト、ヴォーカリスト、ノイズアーティスト、コスプレイヤーなどなど、様々な活動をこなす本当の意味でのアーティストと言っていいぐらいの人。

こういう人の音楽は、きっとカッコイイに違いないと思ってトキノマキナ聴いたら、コレが「期待通り」と「予想外」2つのカッコ良さにヤラレる素晴らしい音楽だったんです。


テクノやエレクトロニカというと、どちらかというと爆音でドッコンドッコンな重低音リズムとキラキラした刺さるような上モノが飛び交うダンスミュージックを想像する人も多いかと思いますし、実際アタシもそう思いがちなんですが、トキノマキナのトラックは、総じて電子音に繊細な感情があるかのようにヒリヒリしていて、そのヒリヒリした部分が心の何かこう弱ってるところにも優しく浸透していくような優しい悲哀があり、その音と完全に融合している野中比喩さんのウィスパーヴォイスも本当に染みるんです。




MECHANOPHILIA

【収録曲】
1.A-LIFE
2.LOOP
3.MODE SLEEP
4.NEURONOGRAM
5.RE-PLAY
6.reboot
7.SLAVE-世界が軋む音-
8.TRONSCAPE
9.yuria TYPE-D


アルバム『MECHANOPHILIA』は、2018年リリース、トキノマキナ初となる全国流通CDです。


内容は確かにエレクトロニカと呼べる、全編淀みなき電子音で綿密に構成されたトラックで演奏されておりますが、曲調の多彩さ、ギュッと中身が詰まった、ストーリー性のある歌詞もろもろ含めて「作品」と呼ぶに相応しい(つまり飽きない)CDです。

すごくすごく個人的にそのまんま感じたことを書きますと、エレクトロニカ、つまり電子楽器やサンプリング等の機材を使って製作した音楽というのは1970年代のジャーマン・クラウト・ロックから始まって、そこからアメリカに行ってディスコ文化と融合して、ダンスミュージックとしてのテクノが生まれ、そこから「如何に最先端であるか」というのが、この音楽の命題のようなものだったと思うんです。

で、21世紀になってパソコンで生演奏のような音楽まで全部作れるようになり、極め付けはヴォーカロイドの登場で、ある種の高みを極めた状態になり、さてこれから「人間が作って人間が演奏するエレクトロニカってどうなるんだろう?」と思ってたことの回答みたいなサウンドが、トキノマキナの、この”電子”の質感を最大限に活かしながら、切なかったり優しかったり、そしてどこか懐かしかったりする人間らしい感情をみっしり詰め込んだ音楽だと、アタシはしみじみ感じながら聴いております。

アタシの好きな曲で『SLAVE-世界が軋む音-』という曲がありまして、ビートはドラムンベースっぽく、そしてヴォーカルはエフェクトがかかり、クールな質感がとてもイカシてるんですが、これよく聴くと非常に美しい3拍子で、たとえばアコギ一本でやったら、アイルランドとかその辺の民謡みたいになるんじゃないでしょうか。

何が言いたいのか自分でもよく分かっておりませんが、そんな感じでトキノマキナの音楽って、今の最先端だけど、本質的に”記憶”の深いところに響く、それは聴く人個人のっていうより、もっと気の遠くなるような遺伝子レベルの・・・とか、あぁまた聴きながら一人で色々と心を遠くに飛ばしてエライことになってますが、ほら皆さん、ゲーム音楽とか聴いて「あ、これは何か懐かしい感情が湧いてくる曲だ」ってのありませんか?アレのああいう感じです、ぜひとも聴いて確認してみてください。

そして、今ドキわざわざCDで入手して聴いて欲しいというのには、曲とか内容とかだけじゃない、もうひとつの電子音楽ならではの大きなオマケが付いてるからなんです。

あのですね、このCDには

『ヘッドフォンで聴くと音楽が3D化されるように聞こえる、世界初の画期的な試み』

が、成されてるんです。

これは、トラック制作の岡係長という人が実は凄い人で、アーティスト音源だけでなく、アミューズメントパークの音楽なども実は手掛けている人で、つまり音楽の”効果”のスペシャリストなんです。

で、トキノマキナのアルバムの音響で、まるで映画やアトラクションみたいに、音が「動いてる」ように聞こえる仕組みを施そうとして、施したんですね。

アタシもいい加減機械音痴なんで、こんなヘタクソな説明でアレなんですが、そんな機会音痴のアタシがこんなにしどろもどろになりながら説明してるってことは、それだけにこの音響効果が実際凄いということを言いたいからなんです。

まず、音響効果で最も基本的なものといえばモノラルとステレオですね。モノラルというには録音の最も原始的な形態で、ひとつのスピーカーから音がまとまってズンと聞こえてくるやつです。

これに対してもっと臨場感とか出そうぜって開発されたのがステレオ。

2つのスピーカーからそれぞれ別々に楽器が聞こえるような録音調整が可能になり、これで得られるようになったのが”奥行き”と”拡がり”です。

で、今回は更にそのステレオを細かくして、音が拡がったり空間に奥行きが出来たりとかだけじゃない、ひとつひとつの音が分離したり融合したり、低い音だけが中心で力強く鳴って、上を飛ぶ高音域が頭の周りをヒュンヒュン飛び回ってたりするかと思えば、ヴォーカルが更にその前にフッと出てきて、本当に隣の耳元でささやいているかと思えばふわぁ〜っと空間に拡散して、飛び回ってる音と集合したりする・・・。

最初にアルバムの宣伝でこういう効果についての説明を読んでも

@「どうせお前、高級ヘッドフォンとかじゃないと大して違わないんじゃないのぉ?」

とか

A「3Dってアレだろ?映画のDVDとかみたいな、車酔いしそうな音響効果だろ?うぅ〜んどうかなぁ」

とか思ってたんですが、まず@については、我が家の安物ミニコンポと安物イヤホンとヘッドホンという組み合わせでもフツーに音響効果バリバリです。

で、それがどんな効果だったんだということがAなんですが、いわゆる”臨場感”だけを追求したような、妙に脳にダイレクトすぎる3Dとは、まず別物だと思ってください。


音はキッチリ分離して、まるで聴いているこっちが音空間の一部になってるような、凄い感覚になりますが、それがリアル過ぎてキツいとか、三半規管が疲れるといったことは全くないです。

よくよく聴いたら分離する音は細かく分かれてるんですが、それ以外のわざわざ分けなくてもいい音はしっかりと中心に残してあって、脳が「どの音を追えばいいか分からない」というパニックを起こさないんです。つまり何でもかんでもリアリティな音作りじゃなくて、しっかりと「聴く人がどれだけ感情移入出来て快適な音か」というところまでちゃんと考えて作られている。

トキノマキナのこのアルバム、色んな意味で音楽の革命じゃないかとアタシは心底思っています。

いつか音楽も3Dが当たり前になった時に、このアルバムの価値はきっと高く評価されるとは思いますが、それ以前にこのアルバムに収録されている音楽は、簡単に消費されてなくならない、しっかりとした音楽です。





『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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