2018年07月01日

ジ・エクス+トム・コラ Scrabbling at the Lock

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The Ex+Tom Cora/Scrabbling at the Lock
(EX)


80年代後半から90年代にかけての時代は、いわゆる即興演奏による”自由な音楽”を演奏する人達の想像力が、黎明期ともいえる60年代や70年代とは、また違ったベクトルで大いに花開いた時期だったと思います。

そういう時代を牽引したのがジョン・ゾーンであり、前衛パンクの聖典『ノー・ニューヨーク』に参加したコントーションズDNAといったバンド達でありますが、もう一人、忘れてならない人がおります。

トム・コラです。



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チェロという楽器はイメージとして「クラシックの楽器」であります。

もちろんジャズやタンゴなど、クラシック音楽以外でも使われることはありましたし、トム・コラ自身も巨匠であるパブロ・カザルスに師事してクラシックの教育をキッチリ受けた人ではありますが、プロとしてのキャリアにおいて、最初からクラシック以外のフィールドに飛び込み、そしてエフェクターを多用したり、弓で弦を弾くだけでなく、場合によってはガシガシと叩くパーカッシブな奏法を繰り広げたり、まるで楽器演奏そのものの常識に激しく挑戦しているような、そんな演奏をしている人でした。

1970年代後半にニューヨークに拠点を置いた彼は、ジャズ・ヴィブラフォン奏者、カール・ベルガーのアルバムに参加し、プロとしてのキャリアをスタートさせます。

その頃からジョン・ゾーン、フレッド・フリス、ビル・ラズウェル、ブッチ・モリスといった、アンダーグラウンド・ジャズやロック、現代音楽の人々、つまり当時のニューヨークで最も過激と言われるパフォーマンスをやっていた人達と対バンやセッションを重ね、地下音楽シーンに名だたる数々のバンドに参加。

とにかく完全即興から、ジャズやロックやファンクといったありとあらゆる音楽に、トム・コラはチェロ一本で斬り込んで行きました。

しかも、その演奏スタイルというのが凄いんですよね。8ビートだからロックっぽく、ジャズだからスインギーにとか、そういう「それっぽさ」「それらしさ」で胡麻化したりは一切しない、どんなジャンルだろうとどんなリズムだろうと、自らが編み出した音楽の決まり事/約束事に固執しない変幻自在スタイルを貫きながら、かつフリーに逃げず、正面から挑んで”異物としてのカッコ良さ”でどんな音楽とも溶け合える、つまりタダの即興野郎じゃない、筋の通ったやり方でどんな音楽にも真剣に対峙していたのがトム・コラです。


一見激しくガリガリやって、とっつきにくいように思えるかも知れないけど、そのチェロの音の厳しく冴え渡った美しさを聴く時、私はいつも胸が締め付けられるような気持ちになるんです。

どう言えばいいのか未だによく分かりませんが、この人は単に目新しいものをやろうとして即興演奏やアヴァンギャルドの世界に行ったのではなく、チェロという楽器が持つ隠れた攻撃性と、その中にあるエモーショナルな衝動を突き詰めてゆくうちに、ただ弓を横に引くだけではない演奏法や、譜面に囚われない表現法が必要になったからそれをやり、結果としてそれがアヴァンギャルドと言われるようになっただけなんじゃないかと。






Scrabbling at the Lock

【収録曲】
1.State of Shock
2.Hidegen Fujnak A Szelek
3.King Commie
4.Crusoe
5.Flute's Tale
6.Door
7.Propadada
8.Batium
9.Total Preparation
10.1993
11.Fire and Ice
12.Sukaina


オランダを拠点に活動するパンクバンド”ジ・エクス”との1990年の共演作『スクラッブリング・アット・ザ・ロック』です。

えぇ、そうなんですよ。パンク(というかオルタナティヴ・パンク)バンドとチェロの共演なんですよ。

最初トム・コラの名前は知ってるけど、正直どんな音楽をやってるかなんて全然分かんない時に、先輩から「コレはすげぇぞ」と教えられて聴いたのがきっかけで知りました。

「へー、このジ・エクスってパンクバンドなんだー。で、トム・コラはゲストみたいな感じ?ふ〜ん、まぁアレだよね、ロックバンドにチェロつったら、まぁ普段はエレキでギンギンにやってる人達が珍しくアコースティック編成でやってるよーなヤツなんでしょ?そういえばニルヴァーナのアンプラグドにもチェロ入ってたよね〜」

と、まぁナメてましたよね、完全にナメてました。

マイナー・コードのリフがキレ良く掻き鳴らされる1曲目『State of Shock』のイントロ、これでもう完全にヤラレました。

いや、パンク、これは!パンク!!

演奏はエレキギターやドラムが激しく鳴り響くエッジの効いたロックです。それこそフガジみたいな、ゴリゴリのパンクを通ってメロディや曲展開にどんどん軸を置いていったような、そんな感じなんですが、トム・コラのチェロはそのサウンドの中で隅に寄るでもなく、演奏を突き破って自己主張激しくする訳でもなく、まるでエレキギターのように”あの”チェロの音で、”あの”チェロの弾き方で、激しいロックのサウンドとびっくりするぐらい自然に溶け合っているし、びっくりするほど”バンドの楽器”として暴れまくっておるのです。

ガンガンな音の中、チェロで見事な調和を生み出すトム・コラも凄いけど、激しく狂いながらチェロが入ってこれるだけの間合いをちゃんと作っているジ・エクスの力量もなかなかのもの。

それと、このバンドの作り出すメロディの中に、どこかヨーロッパ土着の音楽が持つうっすらとした悲哀が効いてるのもいいんですね。その切ない感じを敏感に感じ取ったトム・コラの感性が、バンド・サウンドの激しさも切なさもしっかりと増幅させている、そんな融合の美しさにひたすら感動して、やっぱり胸が締め付けられるような気持ちになってきます。

え?パンクなのに切ないの?って今言ったそこのアナタ、パンクって切ないんですよ。









『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 23:11| Comment(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする