2018年07月10日

ルーズヴェルト・サイクス ザ・ハニー・ドリッパー

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ルーズヴェルト・サイクス/ザ・ハニー・ドリッパー
(Pヴァイン)


「顔が上島竜兵に似ている」

ということで、これから日本で大ブレイクする予定のブルースマンが、今日ご紹介するルーズヴェルト・サイクスであります。

という冗談はさておきで、ブルース好きの皆さん、ピアノ・ブルースってどうですかね?やっぱりアタシも含めてブルースって音楽は、ギター小僧が興味を持ってズブズブとハマッていった歴史が、我が国にはありますので、どうもピアノ弾きながら歌うブルースマンとか、ピアノがメインのアルバムって今ひとつ地味な扱いに甘んじているような気がします。

でも、ピアノ・ブルースって一旦その魅力に気付いてしまったら、とってものめり込んでしまうぐらいに魅力的なんですよ。

そもそもが戦前のギターを弾くブルースマン達は、ロバート・ジョンソンを皮切りに、そのギターの奏法のヒントをピアノから得て、たとえばピアノが奏でる左手のルート音を親指で低音弦を弾くことで模倣して、人差し指は右手のメロディ・ラインのフレーズを真似するということを一生懸命やっておった。

そして生まれたのが、今ではブルースギターの基本中の基本といわれる「ズッズ、ジャッジャ、ズッズ、ジャッジャ」のシャッフル・パターンであります。

とにかくギターに比べて生音がデカかったピアノは、戦前のマイクがなかった時代は特に人気があり、都会的なサウンドに憧れた南部っ子達は、ジュークジョイントやバレルハウス(いずれも田舎にあった掘っ建て小屋のようなライヴスペース)にピアニストが来るとなれば張り切って出かけ、ギターよりデカい音で弾きまくるブギウギに合わせて一晩中でも踊り狂ったという話はたくさん残っております。

特に1920年代後半から30年代にかけては、リロイ・カーを筆頭に、多くの優れたブルース・ピアニストが輩出された年代でありました。


で、そんなピアニスト達を最も多く世に送り出した街というのが、南部と北部の中間地点最大の都市、ミズーリ州セントルイスでありました。

鉄道の分岐点と重工業の街、そして”ちょっと行けばシカゴ”という地理的に恵まれたこの街は、また、南部と北部を行き来するブルースマン達にとっても大切な場所であり、多くのブルースマン達が滞在したり通過したりするうちに、独自のシティ・ブルースというより、南部のブルースがそのまま根付いて洗練された形、何のこっちゃいと思う人もいるかもわかりませんので、パスッと音楽的に説明しますと、ここで生まれるブルースは、都会らしく華やかで洗練されてはいるけれど、根底に粘りと泥臭さもしっかりあるところを聴かせてくれるものだったんです。

さて、ピアノ人材溢れるセントルイスから、全国的な人気を博していたピアニストといえばルーズヴェルト・サイクス。

この人は凄いですよ、その豪快&ドライヴ感溢れるピアノと、カラッとパワフルに声を張り上げる、実にシンプル&親しみに溢れたスタイルを一貫させながら、時代に合わせてサウンドをどんどん進化させ、戦後もずっと第一線に立ち続けて、1983年に亡くなるまで、しぶとい人気をずっとキープしつづけていた人です。

これがどのぐらい凄いことかってアナタ、サン・ハウスやロニー・ジョンソンといった戦前のレジェンドクラスのギター弾き達ですら、軒並み戦後は音楽以外の仕事もせざるを得なかったぐらい生活に困っていたのに、サイクスだけはとりあえずピアニストとして生計を立てることが出来ていた。

つまり戦後になってブルースの人気が下火になっても「ブルース・ピアニスト」としてライヴやレコーディング活動をしてて、更に活動の拠点をヨーロッパとかに移さず、ずっとアメリカにいながらにして、しかもそこそこ売れていたということなんですよ。いや凄い。

で、インタビューで本人に

「サイクスさん、マジですげぇっすけど、何か売れなくならない秘訣とかあったんすか?」

って訊くと

「秘訣?そうだなぁ、人よりちょっとラッキーだったぐらいじゃね?」

と、豪快に答えてるところがまたカッコイイです。






ザ・ハニー・ドリッパー

【収録曲】
1."44" Blues
2.All My Money Gone Blues
3.Boot That Thing
4.Cotton Seed Blues
5.Kelly's Special
6.As True As I've Been To You
7.Mr. Sykes Blues
8.Highway 61 Blues
9.D. B. A. Blues
10.Dirty Mother For You (Don't You Know)
11.The Cannon Ball
12.Driving Wheel Blues
13.Soft And Mellow (Stella Blues)
14.The Honey Dripper
15.Little And Low
16.Night Time Is The Right Time
17.Sad Yas Yas Yas (You Fade Away Like The Morning Dew)
18.Mistake In Life
19.Have You Seen Ida B
20.Papa Low
21.Unlucky 13 Blues
22.Doin' The Sally Long (Flames Of Evaporation)
23.47th Street Jive
24.Low As A Toad


あれこれごちゃごちゃ言う前に「何で?」の部分は実際に音を聴いてみましょう。

とにかくこの人は戦前戦後を通じてずーーーーっと安定して活動してきた人なんで、アルバムも多いし、正直どれも軒並みズッシリとした聴き応えを、ちょいとばかりホロ苦い味わいの深さと共に楽しませてくれるんで、その原点という意味でまずは最初期の戦前録音集をオススメしたいと思います。

始めてのレコーディングは1929年ですが、この時点からこの人のピアノとヴォーカルのスタイルは、もうすっかり出来上がっておりました。

戦前のブルース・ピアノといえば陽気でノリのいいブギウギと、しんみり品の良いスローブルースですが、この人の場合は何せピアノも歌もパワフルで豪快なので、基本はブギウギです。

カツンと前のめりに勢い良く張り出して、そこからロールして粘るスタイル。これは”セントルイス・スタイル”と呼ばれるこの土地独自のものなんですが、実はサイクス、生まれは南部のアーカンソーで、十代から続く放浪の旅の果てにセントルイスに辿り着いたという、根っこに強烈な泥臭さを持っている人であり、そのフィーリングが戦前では実に独特で、例えば3曲目の『Boot That Thing』みたいな、フルスピードでガンガン鍵盤を転がしながら煽るような語りを入れている曲とか、「ツッカツッカツッカ」と軽妙に刻まれるビートに引っ掛けるシンコペーションの至芸から、ソロで最高にブギウギする『Dirty Mother for You』なんかを聴いてると、理屈抜きで胸の奥底からウキウキしてきます。

もちろん初期の大ヒットであり、名刺代わりの代表曲『44Blues』や、洗練された典型的なミディアム・テンポのピアノ・ブルースと言っていい『Driving Wheel Blues』なんかで聴けるちょいとワルな哀愁ももちろんたまんないんですが、基本は「踊ってナンボ、ノセてなんぼ」の戦前ブギウギ・ピアノ野郎の男気、そのどこまでもポップな美学に楽しく酔うために、特にこの人の戦前音源はあります。

あと、この少ない編成(つうかほとんど弾き語り)で、最大にロールしてスウィングして、後を引くグルーヴを残すこのやり方に、凄く影響を受けたのは、同じミズーリ州カンザス・シティのカウント・ベイシーだと思います。

ベイシーの独特の、あの”間”を活かしながらも10本の指がフルに踊るあのピアノのルーツの多分かなりデカい部分を占めているのが、実はルーズヴェルト・サイクスだとアタシは思ってるんですが、残念ながらこの説はジャズの評論ではまだ読んだことがありませんので、ジャズ好きで、特にカウント・ベイシー好きな方には、ぜひともルーズヴェルト・サイクス聴いて検証してもらいたいと密かに思っております、はい。









『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:10| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする