2018年07月17日

ジョン・コルトレーン ザ・ロスト・アルバム

625.jpg
ジョン・コルトレーン ザ・ロスト・アルバム
(Impulse!/ユニバーサル)


皆様こんばんは、本日は2018年7月17日、そう、ジャズの、いや、音楽そのものの歴史にその巨大な名を刻む真の巨人、ジョン・コルトレーンの命日であります。

このブログでは毎年コルトレーンの命日のこの日から、夏が終わる8月の末日まで『大コルトレーン祭』と称して、コルトレーンのアルバムレビューや、その魅力などについてとことん語って行きたいと思いますので、皆様どうかよろしくお付き合いください。

で、今年はコルトレーン没後51年ということなんですが、巷ではコルトレーンの話題で大変に盛り上がっております。

何でかと言いますと、出たんですよね。えぇ、出ちゃったんですよ。

2018年6月末に発売された『ザ・ロスト・アルバム』というアルバムなんですが、コレがコルトレーンの死後50年以上の時を経て、いきなり音源が発見されて、いきなりリリースされた、えぇ、色々な見方があろうかと思いますが、ジョン・コルトレーンの全くの”新作”だと言ってもいい、物凄いブツが出ちゃったんですよ。

や、コルトレーンに関しては、やはり大物ですからこれまでも未発表ライヴ音源とか、既発のアルバムをレコーディングした時のセッションのアウトテイクとか、そういった音源が公式/非公式を問わずたくさん世に出ております。

演奏内容は言うまでもなくどれも素晴らしい(やはりコルトレーンという人の音楽に対する真剣さ、妥協のなさがどの録音もみなぎっているからです、ハイ)のですが、残念ながら音質に難があったり、せっかくの演奏の途中でカットされたりしているのなんかもあって、でもまぁファンとしては「うん、それでもコルトレーンの聴いたことない演奏が聴けるんだからありがたいよね」という気持ちと、ちょいとばかりモヤッとする気持ちの両方があったんです。

今回も最初話を聞いた時は

「う〜ん、スタジオ録音ってことらしいんだけど、どのアルバムのアウトテイクかなぁ」

と、やや適当に構えておりました。

そしたら

「いや、どうもそういうヤツじゃないらしい。どのアルバムとも関係ない丸一日分のレコーディングらしい」

と聞いて、ちょっとコレはタダゴトではないと思いました。

ややマニアックな話ですいませんですが、実は60年代からコルトレーンが専属契約していたインパルス・レコードは70年代にABCという大手に経営を売り渡しておりまして、その時経費削減のために、保管庫にあった「リリースされなかった録音のマスターテープ」は、全て廃棄されていて、存在しないはずなんです。

この音源は、実はコルトレーンの最初の奥さんの”ナイーマ”さんが、個人的に持っていたテープからのものでした。

このナイーマさんという人は、非演奏家ながらコルトレーンの音楽活動を献身的にサポートしていた人で、ライヴ会場なんかにテープレコーダーを持ち込んでコルトレーンが後で演奏をチェックできるように録音したり、また、コルトレーンはインパルスから「レコーディングしたテープはコピーして家に持ち帰っていいよ」という特別待遇を受けていて、別れてからもコルトレーンがいつでもチェック出来るように大切に保管してて、実際コルトレーンはアリスと付き合ってからも「なぁナイーマ、いついつの音源なんだがあるかい?チェックしたいんだ」と、フツーに連絡取り合ってたそうです。

おい、コルトレーン。って感じではありますが、まぁこの人は寝ても覚めても音楽ですから、その辺は致し方ない。ナイーマさんも

「あの人と一緒に暮らすには音楽家としてのあの人と、人間としてのあの人を区別して接してあげなきゃダメだったわ。彼?ほとんどサックスの事しか考えてない人間よ」

と言っておりますし、まぁそんな感じだったんでしょう。

コルトレーンは1967年に亡くなって、ナイーマさんも亡くなり、2005年にナイーマさんの遺族が

「何かホコリかぶってるけど大切にしてたっぽいテープが出て来たんだけど」


という事から始まり、レコード会社その他関係各所が調べてみたところ

「おい、これは全く記録にないレコーディングだぞ」

「エライこっちゃ、あのジョニー・ハートマンとのアルバムのレコーディングの前日にスタジオ入ってたなんて、まぁ聞いたことない」


と、ざわめき立ち、もうこれ絶対にリリースしかないじゃんと、権利関係のあれこれを10年以上かかって整理して、この度発売になったという訳です。







ザ・ロスト・アルバム (デラックス・エディション)(UHQ-CD仕様)


【パーソネル】
ジョン・コルトレーン(ts, ss)
マッコイ・タイナー(p)
ジミー・ギャリソン(b)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)

【収録曲】
(Disc-1)
1.アンタイトルド・オリジナル 11386(テイク1)
2.ネイチャー・ボーイ
3.アンタイトルド・オリジナル 11386(テイク1)
4.ヴァリア(テイク3)
5.スロー・ブルース
6.ワン・アップ・ワン・ダウン(テイク1)

(Disc-2)*
1.ヴァリア(テイク1)
2.インプレッションズ(テイク1)
3.インプレッションズ(テイク2)
4.インプレッションズ(テイク4)
5.アンタイトルド・オリジナル 11386(テイク2)
6.アンタイトルド・オリジナル 11386(テイク5)
7.ワン・アップ・ワン・ダウン(テイク6)


*Disc-2はデラックス・エディションのみのボーナスディスク


(録音:1963年3月6日)




(コチラはアナログ輸入盤)


1962年から1963年の前半にかけて、コルトレーンはジャズを代表するスターの仲間入りをして、マッコイ、ギャリソン、エルヴィンという不動のメンバーによるカルテットも無数のライヴやレコーディングでの鍛錬を重ね、そのバンド・サウンドは最高の高みと深みを極めてつつあった充実期であります。

高まる人気に合わせてレコード会社側も、コルトレーンには「もっと色んな人に知ってもらうため」に大衆向けの企画をぶつけます。

すなわち1962年秋から冬にかけて録音した『バラード』





1962年9月にレコーディングした『デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン』




そして、ヴォーカリストのジョニー・ハートマンをカルテットにフィーチャーした『ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン』であります。




つまりこの時期のコルトレーンは「バラードと大物エリントンと一緒にジェントルな演奏をしたアルバムだけを録音していた」と、思われていたし、アタシも思っておりました。

が、いくらレコード会社に言われたからと言って、大人しく言われた通りにバラードばかりをやってた訳じゃないんですね。既に確定していたジョニー・ハートマンのセッションの前日に「ちょっといいかい」とスタジオに入って、会社提案コンセプトはまるで違う、熱気の塊のような演奏を録音してる。

これだけで痛快の出来事ですが、内容は期待してた以上に素晴らしく、また、音質も流石に正規のレコーディングだけあって良好です。

内容についてはコルトレーンの息子のラヴィ・コルトレーンが

「これはちょっと小手調べみたいなセッションなんじゃないかなぁ」

と言ってた通り、まとまったコンセプトの気配はなく、当然既にリリースされているオリジナル・アルバムに比べると、キチッとまとまった作品でもありません。

悪く言うと非常にラフなレコーディングではあるのですが、そのラフな感じがちょっと独特のライヴ感を生み、60年代前期のコルトレーン・カルテット独特の、ややくぐもった熱気を味わって楽しむには、これは十分な内容なんじゃないかと思います。

まずカッコイイのは「アンタイトルド・オリジナル」硬派でダークなメインテーマに重く疾走するエルヴィンのドラム、ガツ!ガツ!とコードを重ねていくマッコイのピアノがフッと途切れて、サックスとドラム、ベースのトリオ演奏になった矢継ぎ早に繰り出されるピアノソロ。これですよ、このライヴ感、カッコイイぜぇ〜と余韻を更に膨らませるような、荘厳なミディアム・スローの「ネイチャー・ボーイ」。

この曲はヘヴィーなテーマから、テナーで”シーツ・オブ・サウンド”と呼ばれるコルトレーン独特の細かく音符を重ねてゆくプレイがジワジワと緊張を高める展開ですが、ぶわっと吹きまくっても演奏そのものの持つ荘厳さ、ヘヴィな質感がほとんど損なわれないのは凄いですね。コルトレーンのソロそのものには、実は迷いも感じますが、それも含めて演奏の雰囲気とはマッチしております。


軽快にシャッシャと走るビートに乗って、やや明るいテーマをソプラノで奏でてからグイグイとアドリブでヒートアップしてゆくコルトレーン、マッコイの気品溢れるピアノ、テーマが決まる『ヴァリア』は、古いオペラ曲をクラリネット奏者のアーティ・ショウがゴキゲンなジャズにアレンジしてヒットさせたのは、スウィング・ジャズ全盛期1930年代のこと。

コルトレーンの代表曲でもある『インプレッションズ』も、この日のセッションではたくさん演奏されています。この曲はオリジナル・アルバムの『インプレッションズ』で20分を超える熱演ライヴが収録されておりますが、やっぱりスタジオでやりたかったんでしょうね。収録時間はいずれのテイクも3分から4分台で、こればっかりはある種の高みに到着したカタルシスを得るには、やはりもっと長い演奏時間が必要だったと言わざるを得ませんが、それでもエルヴィンのドラミングは絶好調で、テイク別のエルヴィンの煽りだけでも楽しいです。

そう、エルヴィンのドラムはこの日絶好調なんです。その好調ぶりはラストの『ワン・アップ・ワン・ダウン』で聴けます。コレもライヴ・ヴァージョンでおなじみですが、アドリブに入ってからのテンションの上り具合と、シンバルの「バシャーン!」に鬼のように込められた気合いにホントのけぞります。

そして、前後しましたが、アルバムを何度もじっくり聴きながら、個人的にこれは素晴らしいとその味を噛み締めているのが『スロー・ブルース』。

文字通りのスロー・ブルースで、11分を超える演奏の中でルーズに展開する前半から、マッコイのソロの途中でテンポアップして走り出す後半とのスイッチが切り替わる瞬間、最初訥々と、何度も激しく逸脱しようとするもテンポに従い、テンポアップしてから目覚めたように吹きまくるコルトレーンのソロ、このアプローチと斬新なブルース解釈(「いや、解釈もクソも火が点いたらオレはこうなっちまうんだよ」とコルトレーンに言われそうですが・汗)が本当に素晴らしいっす。

さてさて、2018年になってリリースされたコルトレーンのこのアルバム、確かにスタジオでレコーディングされ”作品”としては練り込まれていない部分もありますが、そこはまぁ、コルトレーン本人が生きてるうちに「これはリリースせんでもよろしい」と判断した音源です。しかし、この時期のコルトレーンと彼のバンドが持つサウンドの熱気、それをスタジオ盤でありながら素晴らしいライヴ感でもって聴かせてくれるこのアルバムは、ファンでありますアタシには、これからのコルトレーン・ライフに欠かす事の出来ない大切な宝物となりました。

ファンの贔屓目といえば確かにそうですが、コルトレーンって人はやっぱりその真摯な音楽性に魅了された人にとっては、ことごとくそういう感情を沸かせてくれる人なんじゃないですかね。アタシは何だかんだ20年以上コルトレーンを聴いていて『大コルトレーン祭』ももう10年やってますが、コルトレーンの音楽には、年月を経れば経るほどにハマッております。や、そういう音楽を奏でる人なんですよ。









”ジョン・コルトレーン”関連記事


『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』


サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:36| Comment(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする