2018年10月18日

リー・コニッツ モーション

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Lee Konitz/Motion
(Verve)



1940年代末にデビューし、2018年現在も常に第一線で現役を続けているリー・コニッツ。

この人の凄いところは、ただ「ずっとジャズをやってた」というだけではなく、長い現役生活の中で常に自身の表現を進化させるためのハンパない努力を続けてきたところであります。

デビューして真っ先に飛び込んだのは

「今、世間では”熱く盛り上がるジャズが流行ってる、私はこれに対抗して構造美を極め尽くした真の芸術としての新しいジャズを作ろうと思う」

と唱え、”ホットなジャズ”、ビ・バップに唯一対抗できるジャズ理論である”クール”を立ち上げてその後にジャズにとんでもない影響を与えたピアニスト、レニー・トリスターノのグループであります。

トリスターノは楽曲と演奏に関しては一切の妥協を許さないとても厳しい人で、しかし、コニッツは若干ハタチそこらでありながら他の誰にも似てない鋭い音色と、これまた他の誰をも及びもつかない斬新なテクニックを編み出し、トリスターノの求める音世界を、アルト・サックスでほぼ完璧に描ききりました。

コニッツが凄いのは、実はこの後なんですね。

トリスターノのバンドでは、鋭く知的にコントロールされたアドリブのフレーズで、当時誰もがNo.1と認める天才チャーリー・パーカーの吹き方とは全く違うサックス奏法のやり方で、唯一向こうを張っていたのですが、トリスターノと袂を分かった50年代、今度は個性を保ちながらパーカーのビ・バップに接近して、より知的で抑制の効いたモダン・ジャズのスタイルを打ち立てます。

このコニッツのスタイルに大きく影響を受けたのがマイルス・デイヴィスで、彼のトレードマークである、刺すような美しい音色のミュート・トランペットや、アレンジに凝った繊細なバンド・サウンドなどのアイディアは、コニッツら白人の”クール派”から受けた影響が相当大きいのだとも言われております。

更に60年代以降は、スタイルの違う様々な世代のアーティストらとも共演し、いわゆる「モダン・ジャズ」の範疇から大きく逸脱した演奏の場にもひょいと顔を出し、一切動じることなく軽やかに、かつ思考を刺激するカッコいいソロを展開し、その都度アーティストとしてのスケールを拡げているのがコニッツさんなんです。

ところがコニッツさん、どんなに後輩達に大きな影響を与えても、どんなに皆から「アナタは本当の革命家だ!」と絶賛されても、自分が中心になってシーンをリードして、自分が作り上げたスタイルの王様になろうとは微塵も思わず「いやぁ、そんなこと言われてるうちはオレはまだまだなんよ」とばかりに、サックス持って”何かもっと核心に迫る音楽はないか”と、常に現場に足を運んでいたところが、この人の本当に凄いところ。

むしろ

「自分のスタイルを探究することに夢中で、シーンがどうのとか新しいスタイルがどうのとか、そういうことに気を向ける余裕なんてないんだよね」


とでも言わんばかりに”演奏に捧げてる人”なのであります。

おぉカッコイイ、何だかジェフ・ベックみたいでありますなぁ。。。


で、本日ご紹介するのは『モーション』というアルバムです。



(購入はコチラから↓)

Motion


【収録曲】
リー・コニッツ(as)
ソニー・ダラス(b)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)


【収録曲】
1.アイ・リメンバー・ユー
2.オール・オブ・ミー
3.フーリン・マイセルフ
4.恋の味を御存知ないのね
5.帰ってくれればうれしいわ
6.アウト・オブ・ノーホエア
7.四月の想い出
8.イッツ・ユー・オア・ノー・ワン

(録音:1961年8月29日)


1960年代といえば、ビ・バップもハード・バップも一応の山場を越え、若手もベテランも混沌の中でオリジナルな表現を手にしようと必死にもがいていた時代です。

そんな中、33歳でもうベテランとも言えるキャリアを積んできたコニッツが「即興演奏とは何か?」というシビアな問いを敷き詰めて世に放った、究極的にストイックな作品がこの『モーション』であります。

編成はコニッツのアルト・サックスにソニー・ダラスのベースとエルヴィン・ジョーンズのドラム”のみ”。


おお、ピアノとかギターとか、他の管楽器とか、そういう派手な音を出す楽器がない分のスカスカを、サックスの吹きまくりとベースの動きまくり、ドラムの派手な叩きまくりで補って余りあるパワフルな演奏で聴かせるのだな!そうだよなぁ、ジャケット赤いし、何つってもドラムがあの”叩きまくり””ブ厚いリズム生み出し怪人”のエルヴィン・ジョーンズだし、ジャケット赤いし・・・。

と、思ってたら、実際はその全く逆でありました。

コニッツのプレイが吹きまくりのホットなキャラじゃないのは、当然といえばそうなのですが、エルヴィン・ジョーンズはいつもの(というかコルトレーンのバンドでやってるようなあの派手な叩きまくり)スタイルじゃなく、大きく逸脱しないビートを繊細に「ビシャッ!ピシャッ!」とキメており、ソニー・ダラスのベースもぶっとい音ではありながら、遊びをかまさない堅実な”4"を黙々と刻んでいるだけ。

楽曲はどれも有名スタンダード、つまりジャズをちょっとでも聴いてきた人には「お、この曲だぁ。いいね〜」となるようなポピュラーなものばかり


・・・なんですが!

どの曲もほとんどそのスタンダードの肝であるテーマの部分をマトモに演奏せず、いきなりアドリブに突入しています。


コニッツのアドリブというのは、分かりやすい起承転結の骨組みを敢えて外して、フレーズが横に横にスルスルスルと流れて言って、いつの間にかひとつの楽曲を構成する”流れ”になってるような、本当に独特なものなんですが、これがこのアルバムでは、淡々としたバックのリズムに乗って終始流れてはフッと消え、流れてはフッと消えております。

これはどういうことか、つまりコニッツはこのアルバムで

「とにかく一切の無駄を削り取って、アドリブの更に核心部分だけを本気で突き詰めた表現をしよう!」

と、気合いが入りまくってるんですね。

それにしても聴けば聴くほど異様な緊張感と表現の不思議な鋭さに溢れた演奏です。

コニッツが好きな人は、このアルバムを最高傑作に挙げる人も多く、アタシもその意見には大いに賛成します。

しかし、相当に厳しい音です。こんなコアだけの音楽を聴いて、アタシみたいな中毒者はもうたまんないのですが、例えば「これからジャズを聴きたいです」という初心者の方にこれ、う〜ん、CD屋としてはオススメしたいけどどうやってオススメしよう「何か退屈だ」と言われたらアタシは深く傷付きます。う〜ん・・・。


と、思っていたある日、たまたまコレをお店の中で流していたら、フラッときたお客さんが

「今かかってるこれ、ジャズですよね?すごくカッコ良くてボクなんかにはこういうのがわかりやすくていいなぁ」

と、ふわ〜っとおっしゃるのですよ。

アタシびっくりしまして、お客さんに

「こ、これわかりやすいっすか!?実はこのアルバムは・・・」

と、上に書いたようなことをちょいとばかり手短に説明したんですね。

そしたら

「へー、そーだったんだ。でもそれってさ、ジャズをよく知ってる人の感想だよね。ボクなんか全然知らないもんだから、ただこのサックスいいな〜って思って聴いてた。だって楽器の音少ないじゃない、だからサックスの良さが凄くストレートに響くよね。この人誰?へー、リー・コニッツって言うんだー、この人カッコイイねぇ〜」

と、迷いなくCDを掴んで

「これ、いくら?」

と言ってくれたんです。

どうでしょう、この話。

確かにアタシの意見は

「他と比べて更にアドリブに特化したコニッツ」

「有名スタンダードのテーマが出て来ない」

「派手に叩くはずのエルヴィンが知的で繊細なドラムで堅実にサポートしてる」

「故にわかりづらい」

と、ジャズやコニッツを知らないと比較すらできないような聴き方を元にした意見で凝り固まってました。

でも「ジャズを聴きたい!」って人は、そういう背景とかアレンジとかスタンダードがどうとかそういう頭で考えることじゃなくて

「ジャズのイイ感じの雰囲気を味わいたい!」

なんですよね。

確かにそうだ、深く反省しております。


で、「ジャズの雰囲気を聴かせる」って意味では、コニッツの深みに溢れたサックスというのは、これはもうどう考えてももってこいなわけでありまして、コニッツがずっと現役を続ける中で楽器ひとつ持って最前線に立ち続けた理由というのも「とにかくジャズってカッコイイんだぜ、聴いてくれよ」ってことを、関わってきたあらゆる世代の人に身をもって伝えたかったからだったんじゃないかなということをふと思い、やっぱりリー・コニッツって最高にクールでカッコイイなと思っておるのであります。







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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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posted by サウンズパル at 22:44| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする