2018年10月20日

レイ・チャールズ ブルースを歌う

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レイ・チャールズ/ブルースを歌う
(Atlanic/ワーナー・ミュージック)


どのジャンルにも、そのジャンルを代表する偉大なアーティストという人がおります。


で、たとえば”リズム・アンド・ブルース”と聞くとアタシの中にはもうたった一人、そう、レイ・チャールズのあのピアノに向かって座り、黒いサングラスをかけて、顔を斜め上に、まるで天に向かって大声で呼びかけているかのような神々しい姿をぶわーっと思い浮かべてしまうのです。

とは言っても、アタシはレイ・チャールズの全ての作品を熱心に聴き込んだ訳でもなく、当然ですがリアルタイムで彼が飛ぶ鳥を落とす勢いでヒットチャートを爆走していた黄金の50年代や60年代を追っかけていた訳ではございません。


きっかけはやはり、映画『ブルース・ブラザーズ』で、道行く通行人を踊らせるゴキゲンな楽器屋の親父にシビレたからであり、中学の頃に「あのサザン・オールスターズの”いとしのエリー”をカヴァーした大物のミュージシャン」として、レイ・チャールズという人を知ったからでありました。

それからレイは、アタシの中では漠然と「凄い黒人ソウル・シンガー」です。

その頃ようやく洋楽に目覚め、クソガキなりにブルースという音楽に興味を持ち始めた”レイ・チャールズ”という人は、ブルースやR&Bのアーティストというより、もっともっと大きな世界で超有名な大御所ポピュラー・シンガーであり、それゆえに「何だかよくわかんないけどこの人凄い」という漠然から、逆に聴いてみようとCDを手にする行為に手を染めるのをずっとためらっていた人でありました。

ほれ、ビートルズとかローリング・ストーンズとか、余りにも有名過ぎてついつい「まぁそのうち・・・」となってしまうでしょう。

特にハタチを過ぎるまでは、音楽というものに刺激ばかりを求めておりましたので、勝手に”渋い”の枠組みの人として捉えておりましたレイ・チャールズは、そのまま”漠然と凄い人”でした。

ちゃんと聴いたのは、ある日格安のベスト盤レコードを買った時です。

初期1950年代や60年代の曲がたくさん入っていて、それを聴いて初めてレイ・チャールズの声にも、演奏するピアノの音にも、その頃夢中で聴いていたブルースの人達とほとんど変わらない独特の”土の臭い”が溢れている事を知り「レイ・チャールズはブルースだ」と認識することで、初めてこの偉大なシンガーの音楽にのめり込むことができました。

正直なところを書いてしまうと、どうも”レイ・チャールズ”といえば、とにかくみんなから尊敬される大御所ミュージシャンであるとか、盲目というハンディキャップを乗り越えて大成功したとか、流れてくる情報ではそういったことばかりが書かれていて、確かにそれは彼の音楽を形成する大事な部分ではあると思いますが、肝心の音楽についての情報になかなか出会えずに、ちゃんと”好き”になるまでに時間がかかり過ぎてしまったというのはあります。

でもまぁちゃんとレコードを買って聴いて「すげぇ!レイ・チャールズめちゃくちゃカッコイイ!!」と思えてからは、そんなことは些細なこことです。ちゃんと紹介されてなければ、手前で紹介すればいいんだ。



最初に書きましたが、レイ・チャールズは”リズム・アンド・ブルース”を代表する歌手の一人です。

リズム・アンド・ブルースとは何ぞや?と言いますと、まぁブルースです。

ブルースは1900年頃にアメリカ南部で黒人達の手によって生み出されたとされておりますが、そのブルースは生まれてすぐに南部の他のあらゆるスタイルの音楽を吸収し、また影響も与え、徐々に都会に広まってゆくにつれて、その演奏規模を大きなものにしていきます。

広いクラブやホールのステージで演奏するために、楽器編成は多彩になり、音量や厚み、そして華やかさを演出するために、それまで例えばギターなどの弦楽器とせいぜいピアノやハーモニカだけで演奏されていたようなブルースが、ドラムやベースやホーン楽器を揃えたフルバンドで演奏されるようになり、更に聴衆をより楽しませるために、リズムを大幅に強調した、派手でノリノリのアレンジが施され、それが人気を博すようになりました。

特に太平洋戦争が終結して以降、シカゴやニューヨーク、LAやデトロイトといった大都市では、黒人の労働者人口の増加から、そこそこ裕福な人達もちらほら出てきて、更にレコードの普及も拍車をかけ、これらの”イキのいい黒人音楽”が、シングル盤として大量に流通するようになり、独自のヒットチャートを作り出すまでになってきます。

その時代、ブラック・ミュージックといえば「レース・レコード」と呼ばれて区別されておりました。”レース”というのは”人種”という意味で、まだまだ人種差別も激しかった時代であります。

でも、レコード会社にとって、その”レース・レコード”を買ってゆく若者層や、ジュークボックスを置いてそれらの音楽をデカい音でかけるお店からの収益というのはバカに出来なくなりました。ぶっちゃけて言えば大手レコード会社にとっても、それらのレコードは会社の浮沈に関わる大切な売り上げになってきた訳です。

そんな世の流れを受けて、有力音楽誌ビルボードは「レース・ミュージックのチャートを”リズム・アンド・ブルース”と呼ぶことにします」と宣言し、1947年からそれが実際にチャート名として使われるようになりました。

それから50年代は、ブラック・ポピュラー・ミュージックの名称としての”リズム・アンド・ブルース”と、そのルーツ音楽としての名称の”ブルース”が分けて呼ばれるようになり、更に60年代には若者から絶大な支持を得た”ソウル・ミュージック”がポピュラー音楽としての名称を獲得し、リズム・アンド・ブルースはそのルーツ的なものと認識されるようになり、更に更に90年代にはソウルをルーツとする音楽として、新たな”R&B”が生まれ、現在に至ります。

で、レイ・チャールズが故郷南部ジョージア州から北部のシアトルに移り住んだのが1947年、17歳の時。

南部でブルースやゴスペルのディープなフィーリングをたっぷりと骨身に染み込ませたレイ少年が、丁度”リズム・アンド・ブルース”となったばかりの、都会のイカしたブルースに直に触れ、大いに興奮してその世界に飛び込んだであろうことは、想像に難しくありません。

最初はピアノ+ギター+ベースというトリオ編成で、甘く小洒落たブルースを歌うバンドを結成したレイ、40年代後半から50年の間に『How Long Blues』や『See See Rider』といった古典的なブルースをカヴァーしたシングルをリリースしますが、この時期に行っていたライヴ・ツアーでの演奏に目を付けた新興レーベルのアトランティックが

「君の音楽は、もっとレパートリーを増やせば必ず売れる!」

と声をかけてスカウトし、これが大当たり(!)

アトランティックは、レイにベース、ドラム、ホーン、そしてバックコーラスも付けた豪華編成のR&Bバンドを与え、レイの持つ声の良さと天性のグルーヴ感を大々的にバックアップしました。

「曲のバリエーション」というものに、より正面から向き合ったレイは、基本となるブルースに、ゴスペルやラテン、ジャズ(実はジャズ・ピアニストとしても凄腕なのだ)、カントリーなどのありとあらゆる要素を楽曲に混ぜ込むことに成功、ついに1959年にリリースした『ホワッド・アイ・セイ』で、紆余曲折を経てビルボード”リズム・アンド・ブルース”チャートの6位に輝き、R&B不滅の大スター、レイ・チャールズは誕生します。

さて、その後のレイ・チャールズのグレイトな快進撃は、既にあちこちで語られている通りでありますので、今日は彼の音楽の原点にあるブルースにスポットを当てたアルバム『ブルースを歌う』(The Genius Sings The Blues)を皆さんにご紹介します。





ブルースを歌う

【収録曲】
1.アーリー・インザ・モーニング
2.ハード・タイムズ
3.ザ・ミッドナイト・アワー
4.ナイト・タイム・イズ・ザ・ライト・タイム
5.フィーリン・サッド
6.レイズ・ブルース
7.アイム・ムーヴィン・オン
8.アイ・ビリーヴ・トゥ・マイ・ソウル
9.アイ・エイント・ガット・ノーバディ
10.ミスター・チャールズ・ブルース
11.サム・デイ・ベイビー
12.アイ・ワンダー・フー



リリースはレイの人気絶頂の1961年、内容はレイがアトランティック初期(1952年〜55年)にスタジオで吹き込んだ、古いブルースのカヴァーや、オリジナルのブルース曲です。

バックのサウンドはフルバンド、洒落ていて洗練されたウエスト・コースト・マナー、レイが最も大きな影響を受けた西海岸を代表するシンガー、チャールズ・ブラウンを彷彿させる、甘口と辛口が絶妙なブレンドで交錯する、終始深い味わいに溢れた歌唱とサウンドに、ひたすら引き込まれてしまいます。

ガッツリと芯のあるピアノ、奥底から魂を振り絞るヴォーカル、気負いも気取りも一切ない、レイの表現の奥底がスピーカーから迫ってきますが、かといって”渋さ””深さ”だけではなく、さり気ないアレンジの中に仕掛けられたリズムの斬新さや、アレンジのポップさもしっかりと活きていて、聴く側を最初から最後まで退屈させません。

オープニングを飾る『アーリー・イン・ザ・モーニング』の、明るく弾む三拍子に絡むコーラスのウキウキ感、ミディアム・テンポの『ナイト・タイム・イズ・ザ・ライト・タイム』でのコーラスとのポップな掛け合い、『フィーリン・サッド』での、張り裂けんばかりの感情をグッと堪えたやさぐれ感満載の歌い方、そしてオリジナル曲で最もオーソドックスなブルースを感じさせる『レイズ・ブルース』ぶっといベースのウォーキングと見事な対を成すカラフルなピアノが織りなすイントロから、パワフルな声が炸裂する『ミスター・チャールズ・ブルース』いやもう最高ですね。

とにかくアルバム全曲を通して感じるのは「何で”オーイェ〜”とワン・フレーズ歌っただけでこんなにジワッと染みるやるせなさがクるんだろう」という新鮮な驚きと同じ質量の深い感動であります。

数々のヒット曲を持つレイでありますが、基本にして究極の”何か”が、このブルース・アルバムには最高の密度で凝縮されているような気がします。とにかく聴けるのは”最高のブルース”であります。









『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 16:41| Comment(0) | ソウル、ファンク、R&B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする