2018年10月22日

ソニー・スティット イッツ・マジック

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ソニー・スティット/イッツ・マジック
(Delmark)


いきなりですが、ジャズが生まれたのが今から100年ちょい前の1900年代、そして、サックスがソロを取る花形楽器になったのが1920年代のことであります。

最初に”サックスでソロを吹く”というスタイルを確立したのが”ジャズ・サックスの父”(私は親父とよんでいます)コールマン・ホーキンス。

この人が確立した吹き方を、戦前はみんな研究したり模倣したりしながら、10年もしないうちに、それぞれが独自のスタイルを確立し、あちこちのジャム・セッションで”サックス対決”が繰り広げられ、凄腕やカリスマと呼ばれる偉大なサックス吹きが世に出ております。

やがて大恐慌と大きな戦争が過ぎ去った1940年代後半、ひとりの演奏家が、それまでのサックスの奏法の常識を覆す驚きのリズム感とスピード感でもってその演奏法に大革命を起こし、これが”ビ・バップ”と呼ばれる新しい時代の、後に”モダン・ジャズ”となる音楽の礎となったと言われております。

はい、ご存じチャーリー・パーカーであります。

チャーリー・パーカーはとにかくその存在感が凄くて、その後に出て来たジャズ・サックス奏者のほとんどに強い影響を与えておりますが、実はパーカーが40年代に作り上げたスタイルというのを、同年代で独自に模索してオリジナルなものとして確立した巨人がおります。

それがソニー・スティットであります。

スティットはその余りにも優れたテクニックと根底にブルースを持つ表現の豊かさから、長い事「パーカーのスタイルを早くから極めた」とか「パーカーの優秀な模倣者」とか言われておりましたが、実は1943年にチャーリー・パーカーと出会った時に


「へぇ、びっくりしたよ。お前上手いなぁ!」

「お前こそ凄いじゃないか!てか、俺らのスタイルって似てるなぁ」

と、互いに認め合う一幕があったようです。

ソロというのはどんな楽器でもそれまで客を沸かしていたスピードというのがあるのなら、演奏者は他と差を付けるために、更なるスピードを目指すもの。

きっと二人は互いを意識するずっと前から「他より速いフレーズ」の鍛錬に鍛錬を重ね、自然と同じアルトサックスという楽器でアプローチが似ていったんだと思います。

ところがアタシ、パーカーとスティットが”似てる”とは、実は最初からあんまり思ってなかったんですよ。

ひとつには音色の違い。

弾力のある太い音、ゆえに高音で駆け抜けてもどこかその音の中に”含み”があるパーカーと、ソリッドで繊細、ゆえにキラキラ成分が多めなスティットとは、トーンのキャラクターが正反対と言っても良いのです。

そして、楽曲に対するアプローチ。

パーカーのプレイは、とにかく”アドリブ”に特化しております。

その、ふっ切れにふっ切れたプレイを聴くと、オリジナル曲なんかはほとんどテーマ部分が”ソロに突入する前のリフ”的であり、スタンダード曲すらも”アドリブの素材”として割り切って大胆に料理をしているように思えます。

つまり、アタシがパーカーを聴く時は、パーカーの”曲”でなく、ひたすらアドリブを聴いて感動したり興奮したりしてるんだ、と思う程です。

スティットの場合は、もちろんこの人もアドリブに関しては天才的な冴えを持っている人ですが、どんなに高速で飛び上がっても、テーマのメロディとアドリブがしっかりと結ばれておるように感じます。


パーカーは若くして亡くなり、その後スティットは1982年に亡くなるまで、40年近いキャリアを常に第一線で活躍し、多くの作品もリリースします。

で、スティットのカッコイイところは、多くのジャズファンから「パーカーに似てる」と言われても、心ない一部の人達から「パーカーの二番煎じじゃないか」と言われても、自らが切り開いてきた”バップ”の吹き方を変えることもなく、かといって媚びることもなく、堂々と己を貫きました。

その為に評価は決してスターダムに昇ることもなく、また、ジャズそのものの流行が沈静化した1960年代からは録音も減り、とにかくサックス持って生演奏の場にたくさん行って日銭を稼ぐ生活に明け暮れておりました。

が、実はこの時期の録音こそが、スティットが”パーカーの何たら”からようやく解放され、サクッと粋な演奏で聴く人を惹き付けるものが多い。





IT'S MAGIC



【パーソネル】
ソニー・スティット(asBCEGI,ts@ADFH)
ドン・パターソン(org)
ビリー・ピアーズ(ds)


【収録曲】
1.Four
2.On Green Dolphin Street
3.Parker’s Mood
4.How High The Moon
5.Shake Your Head
6.It’s Magic
7.Getting Sentimental Over You
8.Just Friends
9.Body And Soul
10.They Can’t Take That Away From Me

(録音:1969年)


シカゴにあった小さなブルースのレコード会社デルマーク、実はここはシカゴ時代のサン・ラーやアート・アンサンブル・オブ・シカゴ、ジミー・フォレストなどなど、良心的な(そして硬派な)ジャズのレコードもしっかりと録音してくれている素晴らしいレコード会社なのですが、そこに1969年、スティットがフラッと録音したアルバムがあります。

多分スティットにしてみれば「とりあえず録音したらギャラもらえるっつうから、うん、臨時収入は何より有難かったからさ」ぐらいのレコーディングだったと思います。ついでに言うとこのアルバムは長らくその存在すら忘れられていて、デルマークの倉庫で眠っていたものが、録音から大分経ってから発見されてようやくリリースに至ったとかいう、うぅんそれ大丈夫かぁ?なブツなのですが、どうしてどうして、リラックスした雰囲気の中で冴えに冴えるスティットの職人技のアドリブが楽しめる、実に良いアルバムだったりするんです。

バックはドン・パターソンのオルガンと、ビリー・ピアーズのドラムスのみ、そしてスティットはアルトとテナーを半分ずつ吹き分けております。

この時代はソウルやファンクの流行というのがあって、ジャズマンも積極的にオルガンを起用したり8ビートや16ビートなんかでオシャレにハネたアレンジを取り入れたダンサブルな曲を作ったり、アルバムを出したりしてました。

はい、この編成というのは、いわゆる”ソウル・ジャズ”のそれであります。

でもスティットはいつもの4ビートを軸に、アレンジやリズムを派手に飾らず、いつものバップ・フレーズを力まず自然に吹いております。


まずはテナーで2曲、ミディアム・テンポの軽快なリズムとオルガンのバッキングに乗って繰り広げられる歌心豊かなアドリブ。

ここらへんの「テーマから自然にスラスラ湧き上がるアドリブ」の上手さは、もうこの時点で20年以上現場で鍛えまくったスティットの、男の余裕みたいなものを感じますね。肩の力は抜けているのに、締めるところはしっかり締めて、盛り上がる所はグイグイと盛り上げる。

この年代のスティットを聴くと「すげぇプロ根性」と、感心してしまうのですが、それはこういうアドリブのカッコ良さにあるんです。

で、凄いのはアルトを持った3曲目から。

『パーカーズ・ムード』という、そのものズバリのチャーリー・パーカー作曲のブルースです。


さあどうしよう、ここにきてふっきれたはずのパーカーの曲を・・・というのは完全な杞憂で、スティットは内から湧いてくる独自のブルース・フィーリングと、ライバルであり友であったパーカーの”らしい”アドリブのフレージングをも楽しんでるかのように吹いております。いやお見事、これはもう完全に”ソニー・スティットのブルース”以外の何物でもありません。

アルバムは全体的に、オルガンとドラムが軽くサポートして、スティットが表裏のない芯の強さに溢れた爽快さで、聴く人の「ジャズが好き」という心を、最初から最後までくすぐって興奮させて、時にじわっと来させてくれる、どこまでもゴキゲンなアルバムです。

それにしても「フラッとスタジオに入ってみた」ぐらいの軽いセッションのはずなのに、セッション全体でタルむことなく、サックスのどのフレーズにもしっかりと気合いが入っていて、かつそれが過剰じゃないって、これなかなか出来そうで出来ることじゃあありません。やっぱりスティットは偉大なミュージシャンでありますよ。





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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:16| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする