2018年11月11日

タンパ・レッド Bottleneck Guitar 1928-1937

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Tampa Red/Bottleneck Guitar 1928-1937
(Yazoo)


ブルースやロックで「スライドギター」といえば、ちょいとギターに詳しい人なら

「お、いいねぇ」

となる魔法の奏法であります。

ガラスや金属で出来たパイプみたいなものをですな、弦を押さえる方の手の小指とか薬指にはめてですな、フレットの上をきゅいーんきゅいーんと滑らせるという、弾き方としては普通に弦を指で押さえて弾くよりも単純なやり方で、音がつい〜っと伸びてゆく、実に不思議な効果が得られる弾き方でありまして、最初その音色を聴いた時はそれがギターの音かどうかも分からなくて、きっとシンセサイザーか何かだろうと思ったぐらいの、まぁ本当に不思議な音が出る弾き方です。

で、このスライドという奏法、先程”単純なやり方”と申し上げましたが、それは単純に音を出すまでの話でありまして、これをいざ楽曲に合わせてちゃんとメロディやバッキングで弾くとなると、本当に難しい。

や、基本的にスライド奏法というのは、オープン・チューニングという、1弦から6弦までをどこも押さえずにジャラーンと弾けば、そのまんまAとかGとかDとかのコードの音が鳴るチューニングを施して、要はその「どこも押さえずにジャラーンと鳴らしながらスライドバーを滑らせていく」という、至極シンプルな仕組みだけに、その中で例えば表情豊かなメロディラインを演奏出来るか?とか、細かい動きでフレーズを繋げていくことが出来るか?と言われれば、もうどこまでも難しく、奥深いんです。

だから、こんな魔法のような奏法を自由自在に操れる達人というのは、これはもう魔術師みたいなもんだべなと思っていたら、ブルースの世界で最初にスライドギターの達人と言われてた人が、正にその”魔術師”の呼び名で親しまれていたという事を知って「おぉなるほど、やっぱりみんなそんな風に思ってたんだ」と、妙に納得したんです。

はい、そんな訳で今日皆さんにご紹介するのは、戦前のシカゴ・ブルース・シーンで大活躍した”スライドギターの魔術師”タンパ・レッドでございます。

この人こそが、大都会シカゴで今に通じるスライドギターのギターソロというやつのキッチリとしたスタイルを築き上げ、ブルースの歴史にもギターの歴史にも大きな足跡を残した巨人であり、まー今小指とか薬指とかにバーをはめてギュイギュイやってる人は、この人のお墓には足を向けて眠ったらいけんじゃろうぐらいの人でありますよ。


この人が主に活躍したのは、1920年代後半から30年代でありますが、もちろんそれ以前からスライドはブルースでは頻繁に使われておりました。

1923年にレコーディングされた、シルヴェスター・ウィーヴァーによる”最初の”ブルースギターのレコード(タイトルはそのものズバリの『Guitar Blues』)もスライドでしたし、それ以前にも南部テキサスやミシシッピでは、スライドバーを指にはめたり、ナイフを滑らせたりするスライド奏法が人気で、特にミシシッピ・デルタ地帯のブルースマン達は、ほとんどがボトルネックスタイルのギターの名手でもありました。

南部デルタのブルースマン達の演奏法というのは、そのほとんどがリズミカルにバシンバシンとギターをぶっ叩く、パーカッシブな、どちらかというと打楽器の延長のような奏法だった訳なんですが(サン・ハウスやチャーリー・パットン、ブッカ・ホワイトなんかはモロそうですねぇ)、タンパ・レッドが確立したスライド奏法というのは、彼らとは全く別のベクトルで「複弦と単弦を複雑に組み合わせた”メロディを奏でる楽器”としてのスライドギター」という、非常に洗練されたそれでありました。

ブルースは好きなんだけどちょっと何言ってっかわかんないという人のために説明しますと、ロバート・ジョンソンという人がおります。

このロバート・ジョンソンという人は、ミシシッピ・デルタ地帯を中心に活動した、生粋の南部っ子のブルースマンなんですね。

彼は少年時代から、サン・ハウスやチャーリー・パットンという、この地のレジェンド達の生演奏を間近に見て「あぁ、俺もこんな風になるべ」と、ギターを始めた人です。

ほんでもって、まだギターなんか全然へったくそだったロバート・ジョンソンがサン・ハウスの前でギター持って演奏すると、これが聴くに堪えないぐらいにヘッタクソだったから、サン・ハウスに「クソガキ、やめんかい!」と怒られた。そこでしばらくロバートは行方不明になり、数年後帰って来た時は、あの時のヘッタクソなガキはどこへ行ったと思うぐらいにメチャクチャ上手くなってたから、サン・ハウスも聴衆も驚いて、その辺りから「アイツは悪魔に魂を売ってギターテクニックを手に入れたんだ」っていう噂が広まったりなんかしています。

この話をもっと掘り下げてみますと、そこにタンパ・レッドの影がぼうっと浮き上がってくるんですよ。まぁ「何で?」と言わずちょっくら与太にお付き合いくださいな。

ロバート・ジョンソンは、確かにその時代(戦前)に居た南部ミシシッピのブルースマン達とは、共通する部分はたくさんありますが、それ以上に独自の洗練を身に付けております。

「上手くなった」というのは、恐らくはギター演奏に関する技術的な事ばかりではなく、サン・ハウスやチャーリー・パットンといったデルタ・ブルースマン達がやらないような「都会で流行ってるスタイルみたいなサラッとした演奏も出来るようになってた」からなんじゃないかと思うんです。

デルタの連中が土の香り濃厚で、強靭なビートをギターからバッカンバッカン叩き出し、ザラついた野太い声を張り上げると、暴力的な熱狂に沸き返るデルタの農村地帯にあるジューク・ジョイント。メインである彼らの演奏の後に、若く端正な顔つきのロバート・ジョンソンが、みんなが聴いたことないような繊細なメロディをギターで奏で、甲高い声を張り上げる。

「何だこりゃ」

「おいおい、オレぁこんなヤツ初めて聴いた・・・」

「ねぇ、彼のギターってクールね。タンパ・レッドみたいだわ」

「タンパ・レッド?誰だソイツは」

「あら、知らないの?今シカゴで人気のギタリストよ」

「アレか、レコードってやつが売れてるっていう・・・」

「そうよ、まさかこんなところでレコードみたいな演奏が聴けるとは思わなかったわぁ・・・(うっとり)」

と、まずその都会の香りのする繊細なブルースで、女達のハートを虜にしたであろうことは想像に難しくありません。そうなんですよ、いつの時代も地元の不良はもちろんモテますが、そこへ都会のオッシャレーな雰囲気を持ち込むヤツは、また別の意味で特別にモテる。

はい、何の話かわからなくなってきましたが、つまりはロバート・ジョンソンは、サン・ハウスに「ヘッタクソめ!うせやがれ!」と言われてから、ギターの猛練習をしていた。

アイク・ジナナンという師匠がいて、その人からギターを習ったという話なんですが、それ以上に彼は旅先でタンパ・レッド、ロニー・ジョンソン、リロイ・カー、ココモ・アーノルドといった、その当時都会で人気を博していたブルースマン達のレコードを聴きまくって、耳コピしまくって”モノ”にしていったんでしょう。

特にロバート・ジョンソンのスライドの曲を聴くと、タンパの優しく歌うようなプレイスタイルからの影響が強く感じられます。ついでに言うとタンパ・レッドからの影響を真正面から受けて、戦後のモダンなエレキ・スタイルのシカゴ・ブルースに取り入れたブルースマンとして、ロバート・ナイトホークとアール・フッカーがいて、この人達がロックギタリスト達に与えた影響はすんごいです。

もひとつ言うと「タンパ・レッドかっこいいなぁ、俺はこの人のスライド大好きなんだよ」と憧れて、そのスライド奏法をスライドじゃなくてチョーキングというスタイルでオリジナルな表現として確立したのがB.B.キングであります。






Bottleneck Guitar 1928-1937

【収録曲】
1.It's Heated
2.You Got to Reap What You Sow
3.What Is It That Tastes Like Gravy?
4.Black Eye Blues
5.The Duck Yas Yas Yas
6.It's Red Hot
7.If You Want Me To Love You
8.No Matter How She Done It
9.Through Train Blues
10.Seminole Blues
11.Too Black Bad
12.Come On Mama, Do That Dance
13.Denver Blues
14.House Rent Scuffle


長々と「タンパ・レッドという人はこんなに凄いんだよ!」という事を説明するためにロバート・ジョンソンの話をしましたが、少しばかり興味は持っていただけたでしょうか?さて、戦前シカゴで大活躍したタンパ・レッドは大人気でありまして、音源もたくさん出ております。

その中でコンパクトに彼の魅力がしっかりとまとめられているのが、LPの時代から定評のあるこのヤズー盤。

ある時は自身の甘い歌声を活かした弾き語り、ある時はピアニストとのデュオで洗練された戦前のシティ・ブルースの醍醐味をじっくりと堪能出来、そして女性シンガーのバックや、小編成のジャズバンドとの共演でも、その共に歌うような、正に”声”といった感じのリアリティに溢れたスライドで、聴く人をどこまでも魅了してしまう、その神業、名人芸をお楽しみください。

タンパのギターは、細かいフレーズを派手に弾きまくるような超絶技巧派ではないのですが、歌との掛け合いの中でさり気なく入れて来るアドリブのワン・フレーズとか、ヴォーカル・パートから自然に流れてきて楽曲やアレンジ全体の雰囲気を少しも壊さないギターソロとかは、実際に超絶以上のテクニックがなければとても弾けたもんではありません。本当の意味での名人芸を極めた名人、とくればもう”魔術師”としか呼ばざるを得ないよなぁというのは、プレイのひとつひとつを聴けば、その穏やかで和やかな演奏とは裏腹な凄味と共に切実に思うのであります。


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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 10:21| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする