2018年12月03日

ビル・エヴァンス ソロ・セッションズ Vol.2

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ビル・エヴァンス/ソロ・セッションズ Vol.2
(Milestone)

少し日が空いてしまいましたが、本日もビル・エヴァンス、ソロ・デビュー後初のソロ・セッション(1963年)の素晴らしさについてじっくりと語って行こうと思います。


このレビューは、アルバム同様「レビューの続編」として書きますので、まずは一度読んでいらっしゃる方も、下のリンクからどうぞ「Vol.1」のレビューからご覧ください。




さて、この1963年1月10日のセッションは、アルバム2枚分の録音をぶっ続けで行った、いわゆるマラソン・セッションというやつであります。

何でそんなことになったのかというと、これは全くの大人の事情で、エヴァンスにはこの時、契約していたリバーサイド・レーベルから移籍の話はありました。

条件が良いレコード会社への移籍はよくあることで、それはまぁいいんですが、エヴァンスとリバーサイドの間には「アルバム〇枚分をレコーディングすること」という当初の取り決めがありまして、そのレコーディング量を消化しないと、次の契約は出来なかったんです。


でも、このリバーサイドのプロデューサー、オリン・キープニュースという人はエヴァンスの才能を本当に愛していた人で、エヴァンスが


「ちょっと言いにくいんだけど、もっといい条件で来てくれってとこがあるからそこ行きたい」

と言った時も、正直エヴァンスがよそに行くことは凄く残念で辛かったけど

「うん、ウチはまぁ小さな会社でまぁギャラもそんなに出せないからな。いいよ、条件がいいとこだったら素晴らしい。もっと君の演奏は多くの人に聴かれるべきだ」

と、快諾し、残ってる分の契約を消化するべく、スタジオの手配もして、エヴァンスが前から「やりたい」と言っていた、ソロ・ピアノでのレコーディングもOKしたのでした。

実はこの時代に、ソロ・ピアノでのレコーディングをするというのは、レコード会社にとってはなかなかの冒険どころか、損になるリスクの方がほぼ確実に大きな選択でした。

何でかつったら、その頃アメリカでジャズといえば、やっぱりスタープレイヤー同士が顔を揃えたセッションが話題になるし、そうでなくてもサックスやトランペットを入れた、豪華な編成のものが好まれました。

エヴァンスが得意とするピアノ・トリオはそこそこ売れましたが、その当時の認識では、まだまだ「ピアノ・トリオはピアノが好きなやつが聴く編成」であり、これで売れたのはごくごく一部。エヴァンスはといえば、この頃にようやくトリオの編成で売れ始めたばかりの若手でした。

そんな時代にソロ・ピアノなんていう地味な編成のレコードを好んで聴く人なんて当たり前のように少数派。

いくら独自の美意識と、高度に完成されたスタイルが人気だったエヴァンスとはいえ、トリオ作品より売れる保証は全くなく、むしろそれまでのトリオやホーン入りの編成のアルバムよりも、まず売れないだろうという確信は、エヴァンスよりもプロデューサーのオリン・キープニュースの方が持っていたと思います。

でも、キープニュースは

「いいね、ソロ。じゃあやってみようか」

と、スタジオにピアノだけを置いて、レコーディングを開始しました。

あ、他のメンバーのギャラを払わなくてもいい、安上がりのレコーディングだから「ま、いいか。売れなくてもそこそこは回収できるだろう」という打算がキープニュースの気持ちの中になかった訳では多分ないでしょう。

実際にレコーディングが完了して「じゃあこのテープどうすんの?」って段になった時に、エヴァンスとキープニュースはじっくりと話し合って

「うん、これはアレだね」

「そうだね、演奏の内容は素晴らしいんだが、果たして一般のリスナーがこれをレコードとして買うかつったら難しいね」

「売れないのかなぁ」

「そうだね、君だってウケ狙って演奏した訳じゃないだろう」

「うん、ぶっちゃけそんなこと全然考えてなかった」

「じゃあレコードにしない方がいいよね」

「そうだね、しない方がいい」

と、リリースせずにこの記念すべき初ソロ・セッションを封印することにしました。


突如このセッションが日の目を見て、世に出されたのがエヴァンスの死後、1985年にリリースされたボックス・セットに「未発表ソロ音源」として収録されたのが初めてのことであります。

それからこのソロは「Vol.1」「Vol.2」としてCDでそれぞれ単独の作品として正式にリリースされたのです。

しかも、そのリリースをしたのは、新しいレーベル『Milestone』のオーナーとなっていた、当時のプロデューサー、オリン・キープニュースです。

既にエヴァンスの名前は、ジャズを代表する1人になっており、彼の作品はどんなフォーマットのであれ、多くのファンにじっくり聴かれ、正しく評価されると信じての、これはキープニュースの渾身の気持ちの表明だったのだと思いますね。このエピソード読むといつも胸をぐっとこみあげてくるものがあるんですよ。いい話・・・。





Solo Sessions 2

【パーソネル】
ビル・エヴァンス(p)

【収録曲】
1.オール・ザ・シングス・ユー・アー
2.サンタが街にやってくる
3.アイ・ラヴズ・ユー・ポーギー
4.ホワット・カインド・オブ・フール・アム・アイ?(テイク2)
5.我が恋はここに
6.オーニソロジー
7.メドレー(ニューヨークの秋〜ハウ・アバウト・ユー)

(録音:1963年1月10日)


さて、内容ですが、これが単なる”つづき”ではありません。

ひたすら内へ向かい、幻想的に詩を紡いでいるかのようだった『Vol.1』とは対照的に、コチラはエヴァンスの気持ちがグイグイのって、彼本来の硬派なグルーヴを繰り出す激しさが、スタンダードの美しい曲のメロディと相俟って、何とも形容し難い狂おしい衝動に彩られております。

静かな導入部から、アドリブに入ると徐々にスピードアップしながら美旋律をたたみかける『オール・ザ・シングル・ユー・アー』から、耳も心もグイグイと引き込まれます。

『オール・ザ・シングル・ユー・アー』って、テーマのメイン・フレーズがとにかく良いメロディなんですけど、エヴァンスは7分ぐらいこの必殺のメイン・テーマ出さずに、のっけからアドリブだけでグイグイ引っ張るんですよ。で、アドリブでガンガンに盛り上げて、最後にこのメインテーマを繰り返しながらスロウダウンしていくこのエンディングが、えぇ、本当に素晴らしくてアタシは何度も何度も繰り返し聴きましたし、今も聴いてます。

「速度を活かしたアドリブでガンガン盛り上がる」ということに関してはラストの『ニューヨークの秋』『ハウ・アバウト・ユー』のメドレーもカッコイイんです。こっちの演奏は、演奏そのものもですが、メドレーを自然に繋げて、かつそれぞれの曲をドラマチックに聴かせるその構成力にも思わずため息が出てしまうぐらいの美しさを感じてしまいますね。

バラードの『アイ・ラヴズ・ユー・ポーギー』は、転じて原曲の美しさを軸に、イメージをどこまでもジワ〜っと広げていくかのような幻想的な演奏。これは中毒性が高い”静のエヴァンス”のある種の究極。

『ホワット・カインド・オブ・フール・アム・アイ?』はVol.1にも入っていますが、ひたすら抽象画のような世界を描いていたテイク1を更に引き締めて輪郭のハッキリしたメロディを引き出した演奏。どちらも甲乙付けがたいですが「こっちの演奏が好き」というファンが多いのは確かに頷ける独自のキャッチーな魅力があります。

で、もうすぐクリスマスなので『サンタが街にやってくる』も楽しみましょう。

こういう「どっから聴いてもポップな曲」で、意外とユルくならず、むしろ鋭いアクセントと挑発的なアドリブをガンガンにぶっこんで、本来の武闘派な顔を見せてくれるエヴァンス、いいんですよね。女性ファンは凄く多いし、実際ロマンチックで詩的なエヴァンスのピアノなんですが、絶対にナンパじゃなくて、むしろ硬派なんです、エヴァンスは。



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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/

posted by サウンズパル at 21:21| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする