2018年12月11日

ソロモン・バーク ライヴ・アット・ザ・ハウス・オブ・ブルース

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ソロモン・バーク/ライヴ・アット・ザ・ハウス・オブ・ブルース
(Sony/Pヴァイン)

ソウルシンガーといえば、このブログで何度も書いているように

「小さい頃は教会でゴスペルを歌っていて、歌手としてデビューするために世俗のR&Bやソウルを歌うようになった」

というのが、割とお約束のパターンであります。

アタシ達日本人にしてみれば

「へぇぇ、アメリカさんの教会って凄いんだー。歌上手い人がいっぱいいるのねー」

ぐらいの認識かも知れませんが、教会というのは本質的には真剣にお祈りを捧げたり、神父さん牧師さんによる、聖書のお話をたくさん引用した真面目な説教を聞く所です。


それはゴスペルを歌うアメリカの黒人教会でも同じことです。

教会でゴスペルを歌う、或いはゴスペルを聴くために教会に集う彼らにとって「ゴスペル」とは、決して享楽的にはしゃぐための音楽ではなくて、信仰と共にある、それこそ生活の奥底にある罪や穢れを祓い清めてくれる大切な音楽なのです。

歴史をさかのぼればアフリカ黒人が奴隷としてアメリカに連れて来られてきた時に、先祖代々伝わる土着の信仰を禁止され「キリスト教だったら良い」と定められたんですが、もう本当に人間として扱われなかった、どうしようもなく辛い毎日を送る彼らにとっては、言ってみれば白人から与えられた白人の宗教がキリスト教ということになるんですが、それでもそれ以外に精神的に何もすがるものがない黒人奴隷達にとってみれば、それにしがみつくしかなかった。

で、南北戦争というのが起きて、結果として「奴隷なんてもうやめよう」という人達が勝利して、黒人は自由の身になるんですが、自由になったところで南部では相変わらず最低限の賃金で、今度は労働者としてこき使われるんですね。

カネもない、学もない、世の中に出ても底辺で貧しい暮らしを送るしかないという人達の絶望がブルースへ、「いや、それでも真面目に生きてればきっと救われる」という希望がゴスペルへと流れて行って、戦前から戦後のブラック・ミュージックというものが、歴史に深く根を張って動いている訳です。

えぇと、戦後ゴスペル出身の歌い手がソウルシンガーとして次々と成功を収めているうちに、教会の方もそういった歌手の育成などに力を入れてきた感は確かに今現在は大分ありますが、それでもやっぱりアメリカは凄いなぁと思うところは、2000年代になっても「お、このシンガーはどこか普通と違う底力がある歌を歌うなぁ」と思わせるようなズバ抜けた人がいて、経歴を調べてみるとやっぱり教会出身だなんてことが往々にしてあったりすることなんですよ。

これは多分理屈じゃ測れない、もう民族的無意識とか、そういう途方もないレベルの話なんじゃないですかね。と思うぐらい、ゴスペルっていうのはアメリカ黒人音楽の根底にあるんですね。

で、本日ご紹介するソロモン・バークなんですが、彼の場合は「教会の聖歌隊で歌ってた」なんてレベルじゃなくて、説教の方ですよ。これの天才的な人で、10歳になるかならないかぐらいの時から壇上で説教をすることにかけて天才的な才能を発揮してたと言うんですから、これは並大抵のシンガーではありません。

え?説教ってそんなに凄いのか?何か説教って言ったら親とか先生とかがガミガミ怒る時のアレでしょ?ですって?何を言いますか。

説教というのはですね、親や教師の小言じゃなくて、元々は牧師さんとかお坊さんが、神様や仏様のありがたいお話を説くことを言うんですよ。「教えを説く」と書いて説教です。

ほいでゴスペルの説教というのはですね、最初に「みなさん、神様はこう言われました」「聖書にこう書いてあります」とか、そういう真面目な”語り”が徐々に熱を帯びて、段々リズミカルになって信徒さんを煽るんですね。で、信徒さんも興奮して「その通り!」とか「神よ!」とか、煽りに応えてコール・アンド・レスポンスが成立する。こっからグルーヴが生まれ、徐々に説教とコール・アンド・レスポンスが歌になっていって最終的にじゃじゃーんとゴスペルが演奏されるというのが、昔からの教会での祈りの流れなんです。

そう、熱心なファンにしてみれば

「いやいや、ゴスペルつったらみんな曲が始まってからのアレだと思ってるでしょ?違うんだよ、ゴスペルの醍醐味はあの説教からのコール・アンド・レスポンスまでちゃんと聴かないと味わえないね」

ってヤツでして、アメリカではちゃんと歌とは別になっている「説教のレコード」なんてのも売られてたりしてて、これが「あ、〇〇牧師の説教だ、コレ凄いんだよな、もうノリノリだよ」と、実に熱狂的に受け入れられたりしておりました。

だから説教というのは、まずは聖書(新約旧約どっちも)に関する深い理解がないとダメで、次に真剣な信徒さんを納得させられる話の才能と、教会を熱狂へと誘う煽りのスキルと、最終的にズバ抜けた歌の上手さとか、トータルで色々ないと出来ないという、凄く高度なものなんです。

10歳なるかならないかぐらいでその高度なトータルスキルを求められる説教で「天才」と言われたソロモン・バークは、だから歌とライヴの才能というのに、もう凄まじく溢れまくっておったんでしょう。何と15歳で歌手デビューを果たし、その5年後にはR&Bシンガーとして、メジャー・レーベルのアトランティックからレコードをリリースしています。

彼がメジャーデビューしたのは1960年ですから、世代的にはソウルが流行る前のR&Bの世代のシンガーで、レイ・チャールズと共にR&Bという音楽をよりゴスペルに近づけて、ソウル・ミュージックの時代を未来から引き寄せた最大の功労者と言えるでしょう(もう一人の功労者はサム・クック)。

ソロモン・バークという人のルックスは、ハッキリ言ってイカツいです。

持ち前の巨体に、特に若い頃は目付きも鋭くて大体初期のジャケットなんかはイカツい顔で写っておりますから、ゴリゴリのパワー系シャウターと思われがちですが、実際聴いてみるとびっくりするほどふくよかな声質だし声域も無理なく超低音からか細い高温まで自由自在、歌も緩急を巧みに駆使した独自の節回しプラス、説教で培った”語り”の要素をメロディーに実に自然に挟み込む、ハッキリ言って1950年代のデビュー前から「歌」というものの無限の可能性が一人の人間の声の中にここまであるんだと思わせるぐらい、スケールの大きなシンガーです。




【収録曲】
1.Introduction Everybody Needs Somebody To Love
2.Medley
3.Cruel World
4.Cry To Me
5.Candy/Candy Rap
6.Got To Get You Off My Mind
7.No Nights By Myself
8.Ain’t Nobody’s Business
9.Down In The Valley
10.I Want A Little Girl
11.Medley
12.Good Rockin’ Tonight


確かこのブログでソロモン・バーク紹介するのは初めてだったはずなので、今日は「まずはこれ!」というアルバムを・・・というかコレはソウルとかR&Bとかそういうの知らなくても別にいいから、歌が好きな全ての人に聴いて欲しい、本当に素晴らしいライヴ盤です。

や、実は彼の代表作(スタジオ盤)は初期アトランティック時代にたくさんあって、その辺のアルバムは確かにソウル名盤特集とかでも真っ先に挙げられる類のものです。本当に素晴らしい。でも、歌以外の部分(語りや即興での物凄い煽り)の魅力といえばやっぱりライヴ盤にこそ詰まってるし、しかもこのライヴは1990年代のアルバムなんですけど、この人は底力凄いんで、2010年に亡くなるまで一切声が衰えたことなかったし、あぁ、興奮して何を言ってるのかわかんなくなってきましたが、とにかくマイナーレーベルからのリリースだったけど、Pヴァインが国内盤だからきっと悪いアルバムじゃないんだろうと思って買ったらこれが予想を軽くぶっとばして凄く凄いし、あぁぁ、今聴きながら書いてるんですけどね、聴きながらはいかんですよ、語彙が崩壊してしまいます。

正気を失う前にひとつだけ、このアルバムでやっているのは、ほぼ初期のまだ”ソウル”と呼ばれる前のR&B時代の名曲のセルフカヴァーです。

90年代に50年代〜60年代の曲をベテランシンガーがやる。

こう書くと熟練を極めた歌手が懐メロをくつろいで歌ってるんだろうとか、そういう風に思うんでしょうが、50年代〜60年代のR&Bが、アレンジや雰囲気も当時のものとそう変わりないのに、何だかものすごく”今の音楽”してるんです。で、今2018年なんですが、2018年に聴いても変わらずこのライヴは”今”のリアルな音楽として迫ってくる。これはちょっと凄く凄いことだと思います。あ、すいません、やっぱり語彙が崩壊しますんで後は聴いて確かめてください。








『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 21:53| Comment(2) | ソウル、ファンク、R&B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする