2019年01月13日

キャリー・ベルズ・ブルース・ハープ

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Carey Bell's Blues harp
(Delmark)


前回の更新からちょいと日が経ってしまいましたが、本日もブルース界を代表するハーモニカ名手の一人でありますキャリー・ベルをご紹介します。

さてさて、この人は同じくシカゴを根城に活躍したジュニア・ウェルズやジェイムス・コットンといった、これはもうブルース好きなら誰もが知るビッグネーム達とは同年代であり、しかもプロとして活動を始めた年齢は、もしかしたらこの3人の中では最も早い。何しろ故郷ミシシッピに居た8歳の頃にハープを手にし、10歳になる頃にはもう大人達に交ざって演奏していたというから、天才肌というだけでなく、ステージ・パフォーマンスなんかにも並みならぬものを発揮しておったんでしょう。

それだけでなく、1940年代から50年代という、ブルースがアコースティックからエレクトリックに変わる丁度その過渡期に、しかも南部のカントリー・ブルースからシカゴのシティ・ブルースへと自らのスタイルを進化させながら、グッとモダンになるブルースハープの奏法の革命にも大きく関わった、いわば戦後ブルースの立役者の一人でもあるんです。

シカゴには、キャリーが移住した頃には既にリトル・ウォルターやビッグ・ウォルターといった先輩格のハープ奏者達が最新のバンド・サウンドに見事対応した、粋でモダンな演奏で人気を炸裂させており、キャリーはすぐに彼らに認められてハープの手ほどきを受けたり、彼らが出演するクラブで演奏しながら、徐々に「次世代を担うハープの実力者」として認知されていきました。

ところが、目まぐるしく進化して流行もあっという間に過ぎ去る当時のブラック・ミュージックの流れの中で、50年代後半にはブルースは既に若者の間では少し前の時代の音楽とされ、そんな厳しい状況でも人気を保っていたのは、大音量のエレキギターでド派手なソロを弾くB.Bキングやフレディ・キング、バディ・ガイ、マジック・サムといった面々で、ハープ奏者であるキャリーはその中でいわば取り残されるような形でレコーディングのチャンスも逃し、ブレイクへの道も限りなく閉ざされた苦境に立たされてしまいました。

才能も実力もあるのに仕事がない。ミュージシャンとしてはバリバリに働けるしアイディアもひらめきまくりの20代から30代前半の時期をほとんど不遇のうちに過ごしました。

不幸中の幸いだったのは、ハープの他にベースも弾けたこと。

仕事がなくて困っている時期に、師匠のビッグ・ウォルターやハニー・ボーイ・エドワーズ、アール・フッカーといった仲間達が「今度セッションするからベーシスト探してんだ、誰かいないかな〜・・・おお、いた!」と声をかけ、何とか試練の60年代を乗り越える事が出来ました。


ベースという楽器は一見地味ではありますが、バンド・サウンドでは全体のノリやグルーヴを決定付ける、とても重要な楽器です。

ソロ・デビュー後のキャリー・ベルのヴォーカルとハープのカッコ良さは、すなわち最高にグルーヴするバンド・サウンドと絶妙に会話しているかのような”タメ”と”間”と”勢い”のカッコ良さだなぁと、つくづく思うんですが、そのバンドと一体になったカッコ良さは、実はこの不遇時代にずっとベースをやっていたからこそ体に染み付いたもんだと思います。

もちろん優れたブルースマンは誰もが自分のグルーヴというものを持っていて、それを活かす事が出来るバンド・サウンドとピッタリと息の合った演奏で数々の名演や名盤を作り上げております。キャリーとは同年代のライバルだったジュニア・ウェルズもジェイムス・コットンも、本人達の個性はもちろん「くー!このアルバム本当に凄い!」というアルバムは、もれなくバックがカッコイイ。しかし、キャリーの場合は更にそこから一歩踏み込んだ一体感を巧みに操っている感じがするんですよね。あぁ、これはもう聴いていただかなくてはなりますまい。





Blues Harp

【収録曲】
1.I'm Ready
2.I Got To Find Somebody
3.I Wanna Will My Love To You
4.Blue Monday At Kansas City Red
5.I'm Gonna Buy Me A Train Ticket
6.Come On Over Here
7.I Cry So Much
8.Sad Dreams
9.Everything's Up Tight
10.You Know It Ain't Right
11.Last Night
12.Rocking With A Chromatic
13.I'm Gonna Buy Me A Train Ticket
14.Walking In The Park
15.Carey Bell's Blues Harp



この『キャリー・ベルズ・ブルース・ハープ』は、1969年にキャリーがようやくデビュー作として録音したアルバムです。

当時シカゴには、黒人専門のいくつかのレーベルがありました。有名なところでマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフ、ボ・ディドリーにチャック・ベリーといったブルース、R&B、ロックンロールの大スターを擁するチェス・レコードがありますね。

チェスも大手という訳ではなく「成功したインディーズ・レーベル」ぐらいの規模でした。とりあえず若いブルースマン達はチェスでレコードを出して人気者になりたい訳ですが、ここは有名なのでパッと出の新人にはなかなか難しい。という訳でVeeJayとかCobraとかCheefとか、そういったちっちゃいレーベルに売り込みに行って、運が良ければそういった小さな会社からシングル盤を出してラジオやジュークボックスでのスマッシュヒットが出るか出ないかに賭けておったんです。

しかし、60年代になってくると時代はロックンロールからロック、R&Bから徐々にソウル・ミュージックとなりまして、ブルースやR&Bを録音するレーベルというのは大分減っておりました。

ところがそんなブルース不況にあっても、良質なホンモノのブルースのレコーディングを頑張って、細く長く続いている会社がありまして、それがデルマークだったんです。

元々はミズーリ州のセントルイスでジャズのレコードを中心に売っていたレコード屋のあんちゃんだったボブ・ケスターという人が「よぉぉし!ブルースの都のシカゴに行くぞー!そしてそこでいい感じにやってるブルースとか何か新しくて面白い事をやってるジャズの連中のレコードを作るんだい!」と、何故かブルースが下火になりだした1958年にドカドカとシカゴに進出してきたんですね。


他のレーベルは、とにかく何でもいいからシングルヒットしそうな曲やミュージシャンを引っ張って来て「売れるための」レコーディングをやっていたその時、デルマークは「いや、レコードってのは作品だからな。これからはLP盤をアルバムで聴く時代になるんだよ!」と、正にレコード屋とジャズ好きの思考そのもので、他のレーベルみたいな儲け主義とはまるで逆の発想でもって、良いと感じたミュージシャン達のアルバムを制作するためにスタジオに呼んでレコーディングを行っておりました。

デルマークの事務所は、経営するレコード屋の2階。1階で普通のレコード屋で稼いだカネをレコーディングやLPの制作につぎ込むスタイルなので、当然金回りはそんなによろしくはありません。

でも、オーナーのボブはジャズやブルースが本当に大好きで、ミュージシャンの話は真摯に聞いた。カネがないブルースマンには小銭なら貸した。そして何よりレコーディングはシングルじゃなくてアルバム用のものなので、他のレーベルよりもちょっといい感じのギャラが貰えた(印税をキチンと払える余裕なんてないのですが、それでも当時のミュージシャンにしてみたらすこぶる良心的だった)。

根っからの放浪のブルースマンだったビッグ・ジョー・ウィリアムスなんかは、ボブの好意に甘えて、デルマークの事務所脇で寝泊りしてたといった具合に、とにかくここはブルースマンを単なる商品として扱わず、ミュージシャンとしてそれなりの敬意を払って接していたということなんでしょう。

ずっとハープを吹きたかった、でもハープ吹きとしての仕事はないから何とかベースを弾きながら食い繋いでいたキャリーのソロをレコーディングしたのは、デルマークの心意気でありましょう。

スタジオにはパイントップ・パーキンス、エディ・テイラーら名うてのセッションマン、そして華麗なギターソロで注目を集めていた若手のジミー・ドーキンスらが集められて行われました。

ところがまーこの2回のセッションというのは実にドサクサな感じで、キャリー自身も後に「あのアルバムをレコーディングした時は、何が何だかわかんないぐらいドタバタだったね、内容?う〜んあんまり納得はしてないなー」と語っていて、本人にしてみれば初めてのリーダー作をキチンと練り上げたバンド・サウンドで録音したかったという、気持ちの上での不満をありありと語ったりなんかしております。

つまりその、デルマークにはキチンと時間を取ってスタジオを借り切るカネがなかったんでしょう。しかし、そんなドタバタの中、ほとんど(つうか多分全編)「せーの」の一発録りでレコーディングされたこのアルバム、本人が言うように「ダメ」ではないです。

本人のディープなハーモニカ・プレイに若さ炸裂のやけっぱちヴォーカル、これがまずたまんないし、50年代シカゴのダウンホームな濃い出汁の出まくったバンド・サウンドは、間違いなくディープ・ブルースの豊かなフィーリングを醸しております。いい感じの鋭さで切り込んでくるジミー・ドーキンスのリードに最初は興奮しましたが、たっぷりの間を活かした寡黙なリズムをひたすら刻むエディ・テイラーのサイドギターと、音数を抑えてバシャバシャしてるウィリー・ウィリアムスの泥臭いドラムが格別なんですよ。

完成度でいえば確かに90年代以降のアルバムが輝きまくっているキャリー・ベルですが、このアルバムでしか聴けない粗削りな魅力ってあります。純粋に戦後シカゴのダウンホームな雰囲気がたっぷり味わえる作品としてアタシは推したいですね〜。












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2019年01月06日

キャリー・ベル ディープ・ダウン

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キャリー・ベル/ディープ・ダウン
(Alligator)


前回ご紹介した、ブルースハープ・オールスターズによる最高にゴキゲンなお祭りアルバム『ハープ・アタック!』に参加している中で、とりわけ絶好調なプレイで頭の悪い高校生だった頃のアタシを沸かせてくれたいなせなハーモニカ野郎、キャリー・ベルについて、あれあれ?このブログでまだ書いてなかったよ、おっさんになっても頭悪いなぁ俺。と、昨晩死ぬほど反省しました。

ですので今日はキャリー・ベル。もうね、この人に関しては、ホント皆さんちょっとでもいいから聴いてみてくださいよって人なんで、派手に紹介します。


ブルースハープって楽器は、戦前のアコースティックなブルースの時代からバンド・アンサンブルの中で重要な役割を担っておりました。

トランペットやサックス、クラリネットといった高価でデリケートな管楽器に比べて比較的安価でポケットに入る持ち運びのしやすさ、何より落っことしたぐらいでは簡単に壊れない頑丈さが南部では大いにウケて広まりました。

更に40年代末以降、エレキギターやドラムを入れたバンドスタイルがブルースの主流になってくると、ジャズやジャンプなどのホーン入りのビッグバンドで派手なソロを吹くサックスのように、ハープでも華麗なソロを吹く奏法が確立されます。

戦前にはサニー・ボーイ・ウィリアムスン(T)、そして戦後にはサニー・ボーイ・ウィリアムスン(U)がその進化の土台を作り、50年代にリトル・ウォルターやビッグ・ウォルターという人達がアンプリファイドという電気増幅されたハープの音で「強烈な存在感を放つソロ楽器」としてのブルースハープを世間に印象付けました。










ブルースハープの黄金文化が花開いたのが、1940年代から50年代の大都会シカゴ。

特に革命的なハープのモダン化を成し遂げたリトル・ウォルター、そのリトル・ウォルターにメインのソロを吹かせて戦後のシカゴ・バンド・サウンドを「これだ!」と決定付けたマディ・ウォーターズの功績というのは、これは今でもブルースやそれに強く影響を受けたロックの世界では未だに色褪せないものがあります。

おっと、この話をしたら話が大きく横道に逸れてしまう。。。

で、キャリー・ベルやジュニア・ウェルズ、ジェイムス・コットンといった人達は、そのちょいと下の世代として、第一世代が切り開いたブルースハープの奏法を継承しつつ、そのモダン化をそれぞれの個性でグッと推し進めた人達であります。ちなみに3人共、若手ハープ奏者の登竜門であったマディ・ウォーターズのバンドでの活躍を経験しております。


特にキャリー・ベルは、シーンに出て来た当初、3人の中ではリトル・ウォルターの弟分で、ビッグ・ウォルターの愛弟子として直接ハープを教わり「次の世代のハープのキングはコイツだ!」と最も期待されていた人だったんですね。

しかもキャリーの場合は、ただ良い師匠にくっついてハープの腕を磨いただけじゃなく、南部にいた子供時代から大人達のバンド(義理のおとーちゃんのバンドだそう)で吹きまくり、更に昔からルイ・ジョーダンのファンで「ああいったジャンプバンドのホーンみたいなプレイをハープで出来ないか」という事をずっと考えて、独自にその奏法を研究し、形を築いてきた人です。

が、彼がシカゴにやってきたのは1950年代半ば、そしてこの見ず知らずの大都会で路上からライヴを重ね、ようやくレコードデビューの直前ぐらいまで知名度が高まった時はもうブルース人気が下火になった1950年代の後半になっておりました。

加えてこの時期というのは、B.B.キングに影響を受けた若手ギタリスト達が、ブルース史上最高にド派手なチョーキング奏法をひっさげて、喝采を浴びていた時代であります。既にソロを取る楽器としてのブルースハープは、終わってはないけどちょっと古いものとして停滞の時期を迎えておったという不運によって、彼のソロデビューはその後10年近く流れてしまいました。

で、キャリーは一時期音楽の世界からのリタイアを余儀なくされます。しかし、楽器をベースに持ち替えてセッションに復帰、69年にはシカゴのインディーズ・レーベル、デルマークにほぼ一発録りのデビュー・アルバム『キャリー・ベルズ・ブルース・ハープ』をレコーディングしております。

このアルバムは弱小レーベルの悲しさで、彼の実力に見合ったヒットとはなりませんでしたが、70年代はマディ・ウォーターズのバンドに誘われ、それをきっかけにハーピストとしての参加作がちょこちょこレコーディングされ、新興のアリゲーターから師匠のビッグ・ウォルターと連名でアルバム『Big Walter with Carey Bell』を、そしてアメリカやヨーロッパの小さなレーベルから、ソロ・アルバムもリリース出来るぐらいに、活動は小さく軌道に乗っておりました。





ディープ・ダウン

【収録曲】
1.I Got To Go
2.Let Me Stir In Your Pot
3.When I Get Drunk
4.Low Down Dirty Shame
5.Borrow Your Love
6.Lonesome Stranger
7.After You
8.I Got A Rich Man's Woman
9.Jawbreaker
10.Must I Holler
11.Tired Of Giving You My Love
12.Easy


そして1990年、アリゲーター・レコードが企画した、ハーモニカの名手、夢の揃い踏みアルバム『Harp Attack!』では、同僚のジュニア・ウェルズ、ジェイムス・コットンと同じ”巨人”の扱いで堂々たる吹きっぷりと歌いっぷりを披露してブルースファンに衝撃を与えました。

それ以上の衝撃が、1995年にようやくリリースされた2作目のソロ・アルバム、いや、デルマークでのデビューが「一回いくら」の契約であったことを考えると、このアルバムはキャリーのためにしっかりとしたプロデュースが考えられ、スタジオで時間をかけて作り込まれた、実質的な初ソロと言ってもいいんじゃないかと思います。

もちろん「せーの!」で録音されたデルマーク盤の内容も、エディ・テイラーやジミー・ドーキンス、パイントップ・パーキンスら実力派が揃った、粗さと奥ゆかしさが同居する素晴らしい内容ではありますが、そこから25年近くを経たこのアルバムでの、キャリーの溜めに溜めたブルース衝動を一気に爆発させる勢いは、本当に凄い。愛聴盤として何度も何度も繰り返し聴いてますが、もう何度聴いても「凄い」以外の言葉が出て来ないぐらいにズバ抜けたアルバム。

何が凄いって、ハーモニカを遠慮なくアンプにブチ込んで目一杯歪ませたアンプリファイド音ですよ。

アンプリファイドっていうのは、エレキギターの音量と音圧に対抗して考えられたのですが、経験からいえばいくらアンプで音量を増幅したり歪ませたりリバーブかけても、実際の音の迫力というものは、ハーモニカに息を吹き込んだり吸ったりする呼吸の強さときちんとしたポイントで音を”響かせる”テクニックに依るところが大きいんです。

逆にしっかりとした生音の強さがないと、アンプに突っ込んだハープの音はだらしなく崩れたヨレヨレの音になってしまう。てことは、これだけギンギンのアンプセッティングで、こんだけパワフルで芯のある音を鳴らせるキャリー・ベルってどんだけ生音すげぇんだと思ってしまいます。いやほんと「凄い」んです。

これに加えて、独特の”溜め”と”間”でもってフレーズにヴォーカルばりの豊かな表情を付けて行くその熟練の技の素晴らしさが光ります。

一曲目『I Got To Go』は、リトル・ウォルター作の疾走系シャッフル・ナンバーですが、このオープニングから「うはー!この音ー!!」とのけぞってしまうぐらいのキョーレツな音です。

グッとテンポを落としたミディアム・ブルースの『Let Me Stir In Your Pot』、”タメ”と”吐き出し”の押し引きだけでもう全然聴けちゃう怒涛のファンク『Low Down Dirty Shame』『Tired Of Giving You My Love』、ドロドロのスローでヤクザな凄味が炸裂する『Lonesome Stranger』『I Got A Rich Man's Woman』『Must I Holler』、盛り上げ系シャッフルのインストといえばコチラもノリノリの『Jawbreaker』(一瞬ローランド・カークに聞こえたりもする)、ラストのしんみり聴かせるスロー・バラード『Easy』でも、一貫して緩みないアンプリファイドで、どんなテンポのどんなナンバーにも、ちょっとしたフレーズに至るまで”気”がみなぎっておるんです。

更にバンドも、息子のローリー・ベル(ギター)、カール・ウェザズビー(ギター)、ラッキー・トンプソン(ピアノ)、ウィリー・B・ゲイデン(ベース)、レイ・アリスン(ドラム)という、キャリーのプレイスタイルをしっかりと理解した若手や中堅でしっかりと固め、恐ろしくうねりのあるサウンドでキャリーを好サポートしております。

特に息子ローリーの、絶妙なタイミングで歌とハープに斬り込んだり絡みついたりするギターと、重みのあるラッキー・トンプソンのピアノは、リーダーに負けない迫力で圧倒してきます。ベーシストとして長年他人のバンドサウンドをまとめてきた経験があるからこそのガッチリまとまって粘るグルーヴであり、この辺ももうほんと「凄い」しか出て来ません。

全体的なサウンドそのものは、50年代から続くシカゴ・バンド・サウンドのタフで重厚な持ち味を、90年代型のギラついた味付けでパワーアップさせ、しかもそれに全然あざとさがなく、20年以上経った今でも刺激的なものとして楽しめます。間違いなく「ブルースハープの歴史的名盤」のひとつであります。












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2019年01月05日

ハープ・アタック!

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James Cotton,Junior Wells,Carey Bell,Billy Branch/Harp Attack!

(Alligator)


皆さんあけましておめでとうございます。

昨年もこのブログを読んで頂いていらっしゃる方々から暖かい言葉をたくさんかけて頂きまして、本当にありがとうございます。

ツイッター(@soundspalamami)では、このブログの過去記事をbot登録(ってヤツでいいんですかい?)して流しておりますが、その記事にも反応や質問、ご指摘なんかをよく貰っておりまして、そこから音楽好きの方との交流が始まったり、その方のツイートから溢れる音楽愛に触れて豊かな気分になったり、嬉しいですね。

難しいことはよくわかりませんが、音楽ってのは良いもんです。アタシは貧乏人ですが、それでも音楽を聴いてるとゴキゲンになったりしみじみと感動したり、そういう気持ちになっている時は、これ多分「豊かな気分になってる状態」って言うんだと思います。

どうも世の中は良くなる感じがほとんどなくて、実際に人々の心には余裕がなくて、キレたり病んだりしやすくなっているような気がします。「許せない!」という人もいて「しょうがない」という人もいる。どちらの感情も一旦飲み込んで、世の中がちょっとでもゴキゲンになりますように、今年もささやかながら祈りみたいなもんを込めてグッドミュージックを紹介していきましょうねぇ。


で、お正月です。

正月ってぇとこれは大変におめでたい。

だもんでひとつ景気のいいブルースでも聴きたくなりました。

ん?ブルースってなんつうかこう感情のドス黒い部分をしんみりと暑苦しく歌い上げる音楽だよなぁと思ってる人もいると思うし、ある程度はまーその通りなんですが、なんつうかアレですよ、音楽的には渋かったり感情のドス黒いあれこれであっても、なんつうかブルースの世界の超凄いレジェンドな人達が集まって共演なんかしていると、なんつうか(4回目)こうパーッと景気がいい感じがするじゃないですか。今日はそんなブルースを紹介します。


ブルース、特にバンドブルースに欠かせない楽器としてハープ(ハーモニカ)があるんですけれども、今日ご紹介するアルバム『ハープ・アタック!』に集っているのは、戦後モダン化したシカゴブルースのサウンドを牽引してきた大御所3人と、アルバム発売当時(1990年)”次世代をリードする若手”として注目を浴びていたプレイヤーの計4人でございます。

はい、ジュニア・ウェルズ、ジェイムス・コットン、キャリー・ベル、ビリー・ブランチの4人ですねぇ。

ちょいとブルース詳しい方ならば、最初の3人の名前は大分ピンとくるんじゃなかろうかと思います。

ジュニア・ウェルズは、1932年生まれ。若い頃からシカゴのブルース激戦区サウスサイドで腕を磨き、やがて”天才”と呼ばれたハープの革新者リトル・ウォルターの後釜として、マディ・ウォーターズのバンドに抜擢。70年代は盟友バディ・ガイとコンビを組んだり、独自のファンク路線でジェイムス・ブラウンばりの歌唱やステージアクションなども繰り広げ、98年に亡くなるまでシーンの顔として活躍しておりました。

ジェイムス・コットンは1935年生まれ。南部ミシシッピ州で生まれ、サニーボーイ・ウィリアムスンのラジオを聴いてハーモニカ奏者を志し、その後メンフィスに移り住んでそこで後にシカゴでマディと勢力を2分するボスマン、ハウリン・ウルフと出会います。まだ成人しないうちに荒くれが集うメンフィスで活躍し、何と18歳でレコードデビュー(!)その後シカゴに行ってマディ・ウォーターズのバンドに加入。パワフルなハープの生音と、コクのあるヴォーカルの存在感はピカイチで、この人もまた2017年に亡くなるまでライヴにレコーディングにと大活躍しております。

1936年ミシシッピ生まれのキャリー・ベルも戦後のブルースハープを語るには欠かせない大物ですが、この人の経歴はちょっと変わっていて、ウェルズやコットンと同じように十代でハープの腕前を認められてはいましたが、シカゴに移り住んだ1950年代半ばにはエレキギターでソロを弾く奏法が既に確立され、ハープ人気はちょいと下火になっており、仕方なく食うためにハープの他にベースも弾いていて、ハーピストとしてソロデビューしたのが何と1960年代も後半になってのことです。しかし独特の間を活かした味わい深いサウンドは特に90年代以降に評価され、ロック・ミュージシャン達からも深いリスペクトを集めておりました。

そいでもってこのアルバムでは唯一の若手、ビリー・ブランチですが、30年代生まれの3人より20歳以上も年下の1951年生まれ。出身はカリフォルニア州ロスアンゼルスという都会っ子であり、ブルースはレコードで聴いて憧れ、自分でもやるようになった最初の世代のブルースマンです。1970年代に、シカゴ・ブルースの裏ボスである作曲家/ベーシストのウィリー・ディクソンの元で修行を重ね、80年代には”三ズ・オブ・ブルース”というメチャクチャかっこいいブルースバンドを結成。無理のない新しい感覚で、生ハープもアンプリファイド(アンプに突っ込んだハープ)の両方で素晴らしいテクニックとフィーリングを感じさせる人であります。今は60代のベテランとして、全国のブルースフェスには欠かせない存在です。


いや、素晴らしい。このレコードを録音/リリースしたのはアリゲーターという70年代に設立されたレーベルなんですが、ここは社長さんが「え?ブルースのレーベル?ブルースだけ?いや〜今は昔みたいに流行ってないし正直厳しいっすよ」と言われても「やっかましいわ!ワシはブルースが好きなんじゃ!!」と強引に立ち上げただけあって、昔活躍した大物の録音に積極的だっただけじゃなくて、こういう「夢の顔合わせ」みたいな企画も最高に「く〜、アンタ流石だねぇ、わかってらっしゃるねぇ〜」なものがありました。




Harp Attack

【収録曲】
1.Down Home Blues
2.Who
3.Keep Your Hands Out Of My Pockets
4.Little Car Blues
5.My Eyes Keep Me In Trouble
6.Broke And Hungry
7.Hit Man
8.Black Night
9.Somebody Changed The Lock
10.Second Hand Man
11.New Kid On The Block


さてさて、そんなゴージャスな内容のデラックス・ハーモニカ・アルバムが本作なんですが、いや〜いいですねこれ。大体クセの強いブルースマンが、しかも同じ楽器を演奏する人達が4人も集まったら、さぞかしわーわーな、とりとめのない出来上がりになるんじゃないかという心配が見事に吹っ飛ぶ「キチンと作り込まれた内容」なんです。


まずは全員でヴォーカルとハーモニカソロを回してワイワイやってる1曲目『ダウンホーム・ブルース』から始まりますが、これもヴォーカルとハープにちゃんと均等に時間が割り当てられ、しかもどの音が誰のプレイか分かるように音がしっかりとステレオで独立されて鳴っております。

その後はジュニア・ウェルズ、ジェイムス・コットン、キャリー・ベル、ビリー・ブランチそれぞれメインでフィーチャーされる曲が続き、曲調もあまり出過ぎない程度にそれぞれに合ったスタイルで統一感があります。

もちろん目玉は「ブルースハープの歴史を作って来た巨人達と若手のスーパーセッション」なんですが、内容と雰囲気だけで聴いてみたら、初心者の方でも全然「いいなこれ〜」とくつろぎながら興奮できる内容。

実際アタシがコレを始めて聴いたのも、高校生の時で、店にあったサンプル盤のカセットを「ほれ、ブルースハープ」と母親に渡された時でして、その時はジュニア・ウェルズもジェイムス・コットンも誰それな感じではあったんですが、このジワジワムンムンした雰囲気と、個性的な声のおっさん達の歌声と素人が聴いても「おほ、カッコイイ」と分かるハープにはいい感じに酔わされた覚えがあります。ええそうなんです、ネームバリューとか奏法とか、そういう難しい事は置いといて、ブルースに興味を持っている人にはちゃんと極上のブルースをいい感じのボリュームで楽しませてくれるように、ラフなようでいて丁寧に作り込む。こういうところにアリゲーターの「ブルースのレーベルだぜ!」という職人的ポリシーを感じますね、カッコイイですね。

で、実はこのアルバムは、単なる大物同士のセッションで終わらず、長年参加作は多く出していながらも、ソロとしてなかなか脚光が当たら鳴ったキャリー・ベルを世に知らしめるためにアリゲーターが男気を発揮した企画でもあるんです。

キャリー・ベルはこのアルバムですこぶる調子が良く、アタシが聴く限りでもヴォーカルもハープも渋みと気合いがみなぎっている好演を繰り広げております。

日本に来た時のインタビューで、インタビュアーが興奮気味に

「キャリーさん、あのアルバム良かったっすよー」

と話題を振った時

「え?何のアルバムだって?ハープアタック??ふ〜ん、ウェルズとかコットンとかとやってるアレ?あー思い出した、アレは俺がレコーディングした時は他のトラックは全部出来上がってたよ。俺はみんながやったたつの上からプレイを被せただけだよね」

と、ミもフタもないことをサラッと言ってたりしますが、このアルバムでのプレイがきっかけで、この5年後に代表作とも言える『Deep Town』という名盤をリリースし、98年にはブルースマンにとって最高の名誉であるブルースアワードで賞を受賞してようやく超一流のブルースアーティストとして、世間から正当な評価を受けることになるのです。

絶好調のキャリー・ベル、安定の個性を発揮するジュニア・ウェルズとジェイムス・コットン、そしてベテラン3人の貫禄に負けじと健闘するビリー・ブランチ、4人の濃厚なブルース・フィーリングが喧嘩することなく仲良く響き合う、これは本当に幸せなセッション・アルバムですよ〜。




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