2019年01月05日

ハープ・アタック!

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James Cotton,Junior Wells,Carey Bell,Billy Branch/Harp Attack!

(Alligator)


皆さんあけましておめでとうございます。

昨年もこのブログを読んで頂いていらっしゃる方々から暖かい言葉をたくさんかけて頂きまして、本当にありがとうございます。

ツイッター(@soundspalamami)では、このブログの過去記事をbot登録(ってヤツでいいんですかい?)して流しておりますが、その記事にも反応や質問、ご指摘なんかをよく貰っておりまして、そこから音楽好きの方との交流が始まったり、その方のツイートから溢れる音楽愛に触れて豊かな気分になったり、嬉しいですね。

難しいことはよくわかりませんが、音楽ってのは良いもんです。アタシは貧乏人ですが、それでも音楽を聴いてるとゴキゲンになったりしみじみと感動したり、そういう気持ちになっている時は、これ多分「豊かな気分になってる状態」って言うんだと思います。

どうも世の中は良くなる感じがほとんどなくて、実際に人々の心には余裕がなくて、キレたり病んだりしやすくなっているような気がします。「許せない!」という人もいて「しょうがない」という人もいる。どちらの感情も一旦飲み込んで、世の中がちょっとでもゴキゲンになりますように、今年もささやかながら祈りみたいなもんを込めてグッドミュージックを紹介していきましょうねぇ。


で、お正月です。

正月ってぇとこれは大変におめでたい。

だもんでひとつ景気のいいブルースでも聴きたくなりました。

ん?ブルースってなんつうかこう感情のドス黒い部分をしんみりと暑苦しく歌い上げる音楽だよなぁと思ってる人もいると思うし、ある程度はまーその通りなんですが、なんつうかアレですよ、音楽的には渋かったり感情のドス黒いあれこれであっても、なんつうかブルースの世界の超凄いレジェンドな人達が集まって共演なんかしていると、なんつうか(4回目)こうパーッと景気がいい感じがするじゃないですか。今日はそんなブルースを紹介します。


ブルース、特にバンドブルースに欠かせない楽器としてハープ(ハーモニカ)があるんですけれども、今日ご紹介するアルバム『ハープ・アタック!』に集っているのは、戦後モダン化したシカゴブルースのサウンドを牽引してきた大御所3人と、アルバム発売当時(1990年)”次世代をリードする若手”として注目を浴びていたプレイヤーの計4人でございます。

はい、ジュニア・ウェルズ、ジェイムス・コットン、キャリー・ベル、ビリー・ブランチの4人ですねぇ。

ちょいとブルース詳しい方ならば、最初の3人の名前は大分ピンとくるんじゃなかろうかと思います。

ジュニア・ウェルズは、1932年生まれ。若い頃からシカゴのブルース激戦区サウスサイドで腕を磨き、やがて”天才”と呼ばれたハープの革新者リトル・ウォルターの後釜として、マディ・ウォーターズのバンドに抜擢。70年代は盟友バディ・ガイとコンビを組んだり、独自のファンク路線でジェイムス・ブラウンばりの歌唱やステージアクションなども繰り広げ、98年に亡くなるまでシーンの顔として活躍しておりました。

ジェイムス・コットンは1935年生まれ。南部ミシシッピ州で生まれ、サニーボーイ・ウィリアムスンのラジオを聴いてハーモニカ奏者を志し、その後メンフィスに移り住んでそこで後にシカゴでマディと勢力を2分するボスマン、ハウリン・ウルフと出会います。まだ成人しないうちに荒くれが集うメンフィスで活躍し、何と18歳でレコードデビュー(!)その後シカゴに行ってマディ・ウォーターズのバンドに加入。パワフルなハープの生音と、コクのあるヴォーカルの存在感はピカイチで、この人もまた2017年に亡くなるまでライヴにレコーディングにと大活躍しております。

1936年ミシシッピ生まれのキャリー・ベルも戦後のブルースハープを語るには欠かせない大物ですが、この人の経歴はちょっと変わっていて、ウェルズやコットンと同じように十代でハープの腕前を認められてはいましたが、シカゴに移り住んだ1950年代半ばにはエレキギターでソロを弾く奏法が既に確立され、ハープ人気はちょいと下火になっており、仕方なく食うためにハープの他にベースも弾いていて、ハーピストとしてソロデビューしたのが何と1960年代も後半になってのことです。しかし独特の間を活かした味わい深いサウンドは特に90年代以降に評価され、ロック・ミュージシャン達からも深いリスペクトを集めておりました。

そいでもってこのアルバムでは唯一の若手、ビリー・ブランチですが、30年代生まれの3人より20歳以上も年下の1951年生まれ。出身はカリフォルニア州ロスアンゼルスという都会っ子であり、ブルースはレコードで聴いて憧れ、自分でもやるようになった最初の世代のブルースマンです。1970年代に、シカゴ・ブルースの裏ボスである作曲家/ベーシストのウィリー・ディクソンの元で修行を重ね、80年代には”三ズ・オブ・ブルース”というメチャクチャかっこいいブルースバンドを結成。無理のない新しい感覚で、生ハープもアンプリファイド(アンプに突っ込んだハープ)の両方で素晴らしいテクニックとフィーリングを感じさせる人であります。今は60代のベテランとして、全国のブルースフェスには欠かせない存在です。


いや、素晴らしい。このレコードを録音/リリースしたのはアリゲーターという70年代に設立されたレーベルなんですが、ここは社長さんが「え?ブルースのレーベル?ブルースだけ?いや〜今は昔みたいに流行ってないし正直厳しいっすよ」と言われても「やっかましいわ!ワシはブルースが好きなんじゃ!!」と強引に立ち上げただけあって、昔活躍した大物の録音に積極的だっただけじゃなくて、こういう「夢の顔合わせ」みたいな企画も最高に「く〜、アンタ流石だねぇ、わかってらっしゃるねぇ〜」なものがありました。




Harp Attack

【収録曲】
1.Down Home Blues
2.Who
3.Keep Your Hands Out Of My Pockets
4.Little Car Blues
5.My Eyes Keep Me In Trouble
6.Broke And Hungry
7.Hit Man
8.Black Night
9.Somebody Changed The Lock
10.Second Hand Man
11.New Kid On The Block


さてさて、そんなゴージャスな内容のデラックス・ハーモニカ・アルバムが本作なんですが、いや〜いいですねこれ。大体クセの強いブルースマンが、しかも同じ楽器を演奏する人達が4人も集まったら、さぞかしわーわーな、とりとめのない出来上がりになるんじゃないかという心配が見事に吹っ飛ぶ「キチンと作り込まれた内容」なんです。


まずは全員でヴォーカルとハーモニカソロを回してワイワイやってる1曲目『ダウンホーム・ブルース』から始まりますが、これもヴォーカルとハープにちゃんと均等に時間が割り当てられ、しかもどの音が誰のプレイか分かるように音がしっかりとステレオで独立されて鳴っております。

その後はジュニア・ウェルズ、ジェイムス・コットン、キャリー・ベル、ビリー・ブランチそれぞれメインでフィーチャーされる曲が続き、曲調もあまり出過ぎない程度にそれぞれに合ったスタイルで統一感があります。

もちろん目玉は「ブルースハープの歴史を作って来た巨人達と若手のスーパーセッション」なんですが、内容と雰囲気だけで聴いてみたら、初心者の方でも全然「いいなこれ〜」とくつろぎながら興奮できる内容。

実際アタシがコレを始めて聴いたのも、高校生の時で、店にあったサンプル盤のカセットを「ほれ、ブルースハープ」と母親に渡された時でして、その時はジュニア・ウェルズもジェイムス・コットンも誰それな感じではあったんですが、このジワジワムンムンした雰囲気と、個性的な声のおっさん達の歌声と素人が聴いても「おほ、カッコイイ」と分かるハープにはいい感じに酔わされた覚えがあります。ええそうなんです、ネームバリューとか奏法とか、そういう難しい事は置いといて、ブルースに興味を持っている人にはちゃんと極上のブルースをいい感じのボリュームで楽しませてくれるように、ラフなようでいて丁寧に作り込む。こういうところにアリゲーターの「ブルースのレーベルだぜ!」という職人的ポリシーを感じますね、カッコイイですね。

で、実はこのアルバムは、単なる大物同士のセッションで終わらず、長年参加作は多く出していながらも、ソロとしてなかなか脚光が当たら鳴ったキャリー・ベルを世に知らしめるためにアリゲーターが男気を発揮した企画でもあるんです。

キャリー・ベルはこのアルバムですこぶる調子が良く、アタシが聴く限りでもヴォーカルもハープも渋みと気合いがみなぎっている好演を繰り広げております。

日本に来た時のインタビューで、インタビュアーが興奮気味に

「キャリーさん、あのアルバム良かったっすよー」

と話題を振った時

「え?何のアルバムだって?ハープアタック??ふ〜ん、ウェルズとかコットンとかとやってるアレ?あー思い出した、アレは俺がレコーディングした時は他のトラックは全部出来上がってたよ。俺はみんながやったたつの上からプレイを被せただけだよね」

と、ミもフタもないことをサラッと言ってたりしますが、このアルバムでのプレイがきっかけで、この5年後に代表作とも言える『Deep Town』という名盤をリリースし、98年にはブルースマンにとって最高の名誉であるブルースアワードで賞を受賞してようやく超一流のブルースアーティストとして、世間から正当な評価を受けることになるのです。

絶好調のキャリー・ベル、安定の個性を発揮するジュニア・ウェルズとジェイムス・コットン、そしてベテラン3人の貫禄に負けじと健闘するビリー・ブランチ、4人の濃厚なブルース・フィーリングが喧嘩することなく仲良く響き合う、これは本当に幸せなセッション・アルバムですよ〜。




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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 18:47| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする