2019年01月06日

キャリー・ベル ディープ・ダウン

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キャリー・ベル/ディープ・ダウン
(Alligator)


前回ご紹介した、ブルースハープ・オールスターズによる最高にゴキゲンなお祭りアルバム『ハープ・アタック!』に参加している中で、とりわけ絶好調なプレイで頭の悪い高校生だった頃のアタシを沸かせてくれたいなせなハーモニカ野郎、キャリー・ベルについて、あれあれ?このブログでまだ書いてなかったよ、おっさんになっても頭悪いなぁ俺。と、昨晩死ぬほど反省しました。

ですので今日はキャリー・ベル。もうね、この人に関しては、ホント皆さんちょっとでもいいから聴いてみてくださいよって人なんで、派手に紹介します。


ブルースハープって楽器は、戦前のアコースティックなブルースの時代からバンド・アンサンブルの中で重要な役割を担っておりました。

トランペットやサックス、クラリネットといった高価でデリケートな管楽器に比べて比較的安価でポケットに入る持ち運びのしやすさ、何より落っことしたぐらいでは簡単に壊れない頑丈さが南部では大いにウケて広まりました。

更に40年代末以降、エレキギターやドラムを入れたバンドスタイルがブルースの主流になってくると、ジャズやジャンプなどのホーン入りのビッグバンドで派手なソロを吹くサックスのように、ハープでも華麗なソロを吹く奏法が確立されます。

戦前にはサニー・ボーイ・ウィリアムスン(T)、そして戦後にはサニー・ボーイ・ウィリアムスン(U)がその進化の土台を作り、50年代にリトル・ウォルターやビッグ・ウォルターという人達がアンプリファイドという電気増幅されたハープの音で「強烈な存在感を放つソロ楽器」としてのブルースハープを世間に印象付けました。










ブルースハープの黄金文化が花開いたのが、1940年代から50年代の大都会シカゴ。

特に革命的なハープのモダン化を成し遂げたリトル・ウォルター、そのリトル・ウォルターにメインのソロを吹かせて戦後のシカゴ・バンド・サウンドを「これだ!」と決定付けたマディ・ウォーターズの功績というのは、これは今でもブルースやそれに強く影響を受けたロックの世界では未だに色褪せないものがあります。

おっと、この話をしたら話が大きく横道に逸れてしまう。。。

で、キャリー・ベルやジュニア・ウェルズ、ジェイムス・コットンといった人達は、そのちょいと下の世代として、第一世代が切り開いたブルースハープの奏法を継承しつつ、そのモダン化をそれぞれの個性でグッと推し進めた人達であります。ちなみに3人共、若手ハープ奏者の登竜門であったマディ・ウォーターズのバンドでの活躍を経験しております。


特にキャリー・ベルは、シーンに出て来た当初、3人の中ではリトル・ウォルターの弟分で、ビッグ・ウォルターの愛弟子として直接ハープを教わり「次の世代のハープのキングはコイツだ!」と最も期待されていた人だったんですね。

しかもキャリーの場合は、ただ良い師匠にくっついてハープの腕を磨いただけじゃなく、南部にいた子供時代から大人達のバンド(義理のおとーちゃんのバンドだそう)で吹きまくり、更に昔からルイ・ジョーダンのファンで「ああいったジャンプバンドのホーンみたいなプレイをハープで出来ないか」という事をずっと考えて、独自にその奏法を研究し、形を築いてきた人です。

が、彼がシカゴにやってきたのは1950年代半ば、そしてこの見ず知らずの大都会で路上からライヴを重ね、ようやくレコードデビューの直前ぐらいまで知名度が高まった時はもうブルース人気が下火になった1950年代の後半になっておりました。

加えてこの時期というのは、B.B.キングに影響を受けた若手ギタリスト達が、ブルース史上最高にド派手なチョーキング奏法をひっさげて、喝采を浴びていた時代であります。既にソロを取る楽器としてのブルースハープは、終わってはないけどちょっと古いものとして停滞の時期を迎えておったという不運によって、彼のソロデビューはその後10年近く流れてしまいました。

で、キャリーは一時期音楽の世界からのリタイアを余儀なくされます。しかし、楽器をベースに持ち替えてセッションに復帰、69年にはシカゴのインディーズ・レーベル、デルマークにほぼ一発録りのデビュー・アルバム『キャリー・ベルズ・ブルース・ハープ』をレコーディングしております。

このアルバムは弱小レーベルの悲しさで、彼の実力に見合ったヒットとはなりませんでしたが、70年代はマディ・ウォーターズのバンドに誘われ、それをきっかけにハーピストとしての参加作がちょこちょこレコーディングされ、新興のアリゲーターから師匠のビッグ・ウォルターと連名でアルバム『Big Walter with Carey Bell』を、そしてアメリカやヨーロッパの小さなレーベルから、ソロ・アルバムもリリース出来るぐらいに、活動は小さく軌道に乗っておりました。





ディープ・ダウン

【収録曲】
1.I Got To Go
2.Let Me Stir In Your Pot
3.When I Get Drunk
4.Low Down Dirty Shame
5.Borrow Your Love
6.Lonesome Stranger
7.After You
8.I Got A Rich Man's Woman
9.Jawbreaker
10.Must I Holler
11.Tired Of Giving You My Love
12.Easy


そして1990年、アリゲーター・レコードが企画した、ハーモニカの名手、夢の揃い踏みアルバム『Harp Attack!』では、同僚のジュニア・ウェルズ、ジェイムス・コットンと同じ”巨人”の扱いで堂々たる吹きっぷりと歌いっぷりを披露してブルースファンに衝撃を与えました。

それ以上の衝撃が、1995年にようやくリリースされた2作目のソロ・アルバム、いや、デルマークでのデビューが「一回いくら」の契約であったことを考えると、このアルバムはキャリーのためにしっかりとしたプロデュースが考えられ、スタジオで時間をかけて作り込まれた、実質的な初ソロと言ってもいいんじゃないかと思います。

もちろん「せーの!」で録音されたデルマーク盤の内容も、エディ・テイラーやジミー・ドーキンス、パイントップ・パーキンスら実力派が揃った、粗さと奥ゆかしさが同居する素晴らしい内容ではありますが、そこから25年近くを経たこのアルバムでの、キャリーの溜めに溜めたブルース衝動を一気に爆発させる勢いは、本当に凄い。愛聴盤として何度も何度も繰り返し聴いてますが、もう何度聴いても「凄い」以外の言葉が出て来ないぐらいにズバ抜けたアルバム。

何が凄いって、ハーモニカを遠慮なくアンプにブチ込んで目一杯歪ませたアンプリファイド音ですよ。

アンプリファイドっていうのは、エレキギターの音量と音圧に対抗して考えられたのですが、経験からいえばいくらアンプで音量を増幅したり歪ませたりリバーブかけても、実際の音の迫力というものは、ハーモニカに息を吹き込んだり吸ったりする呼吸の強さときちんとしたポイントで音を”響かせる”テクニックに依るところが大きいんです。

逆にしっかりとした生音の強さがないと、アンプに突っ込んだハープの音はだらしなく崩れたヨレヨレの音になってしまう。てことは、これだけギンギンのアンプセッティングで、こんだけパワフルで芯のある音を鳴らせるキャリー・ベルってどんだけ生音すげぇんだと思ってしまいます。いやほんと「凄い」んです。

これに加えて、独特の”溜め”と”間”でもってフレーズにヴォーカルばりの豊かな表情を付けて行くその熟練の技の素晴らしさが光ります。

一曲目『I Got To Go』は、リトル・ウォルター作の疾走系シャッフル・ナンバーですが、このオープニングから「うはー!この音ー!!」とのけぞってしまうぐらいのキョーレツな音です。

グッとテンポを落としたミディアム・ブルースの『Let Me Stir In Your Pot』、”タメ”と”吐き出し”の押し引きだけでもう全然聴けちゃう怒涛のファンク『Low Down Dirty Shame』『Tired Of Giving You My Love』、ドロドロのスローでヤクザな凄味が炸裂する『Lonesome Stranger』『I Got A Rich Man's Woman』『Must I Holler』、盛り上げ系シャッフルのインストといえばコチラもノリノリの『Jawbreaker』(一瞬ローランド・カークに聞こえたりもする)、ラストのしんみり聴かせるスロー・バラード『Easy』でも、一貫して緩みないアンプリファイドで、どんなテンポのどんなナンバーにも、ちょっとしたフレーズに至るまで”気”がみなぎっておるんです。

更にバンドも、息子のローリー・ベル(ギター)、カール・ウェザズビー(ギター)、ラッキー・トンプソン(ピアノ)、ウィリー・B・ゲイデン(ベース)、レイ・アリスン(ドラム)という、キャリーのプレイスタイルをしっかりと理解した若手や中堅でしっかりと固め、恐ろしくうねりのあるサウンドでキャリーを好サポートしております。

特に息子ローリーの、絶妙なタイミングで歌とハープに斬り込んだり絡みついたりするギターと、重みのあるラッキー・トンプソンのピアノは、リーダーに負けない迫力で圧倒してきます。ベーシストとして長年他人のバンドサウンドをまとめてきた経験があるからこそのガッチリまとまって粘るグルーヴであり、この辺ももうほんと「凄い」しか出て来ません。

全体的なサウンドそのものは、50年代から続くシカゴ・バンド・サウンドのタフで重厚な持ち味を、90年代型のギラついた味付けでパワーアップさせ、しかもそれに全然あざとさがなく、20年以上経った今でも刺激的なものとして楽しめます。間違いなく「ブルースハープの歴史的名盤」のひとつであります。












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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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posted by サウンズパル at 15:14| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする