2019年01月13日

キャリー・ベルズ・ブルース・ハープ

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Carey Bell's Blues harp
(Delmark)


前回の更新からちょいと日が経ってしまいましたが、本日もブルース界を代表するハーモニカ名手の一人でありますキャリー・ベルをご紹介します。

さてさて、この人は同じくシカゴを根城に活躍したジュニア・ウェルズやジェイムス・コットンといった、これはもうブルース好きなら誰もが知るビッグネーム達とは同年代であり、しかもプロとして活動を始めた年齢は、もしかしたらこの3人の中では最も早い。何しろ故郷ミシシッピに居た8歳の頃にハープを手にし、10歳になる頃にはもう大人達に交ざって演奏していたというから、天才肌というだけでなく、ステージ・パフォーマンスなんかにも並みならぬものを発揮しておったんでしょう。

それだけでなく、1940年代から50年代という、ブルースがアコースティックからエレクトリックに変わる丁度その過渡期に、しかも南部のカントリー・ブルースからシカゴのシティ・ブルースへと自らのスタイルを進化させながら、グッとモダンになるブルースハープの奏法の革命にも大きく関わった、いわば戦後ブルースの立役者の一人でもあるんです。

シカゴには、キャリーが移住した頃には既にリトル・ウォルターやビッグ・ウォルターといった先輩格のハープ奏者達が最新のバンド・サウンドに見事対応した、粋でモダンな演奏で人気を炸裂させており、キャリーはすぐに彼らに認められてハープの手ほどきを受けたり、彼らが出演するクラブで演奏しながら、徐々に「次世代を担うハープの実力者」として認知されていきました。

ところが、目まぐるしく進化して流行もあっという間に過ぎ去る当時のブラック・ミュージックの流れの中で、50年代後半にはブルースは既に若者の間では少し前の時代の音楽とされ、そんな厳しい状況でも人気を保っていたのは、大音量のエレキギターでド派手なソロを弾くB.Bキングやフレディ・キング、バディ・ガイ、マジック・サムといった面々で、ハープ奏者であるキャリーはその中でいわば取り残されるような形でレコーディングのチャンスも逃し、ブレイクへの道も限りなく閉ざされた苦境に立たされてしまいました。

才能も実力もあるのに仕事がない。ミュージシャンとしてはバリバリに働けるしアイディアもひらめきまくりの20代から30代前半の時期をほとんど不遇のうちに過ごしました。

不幸中の幸いだったのは、ハープの他にベースも弾けたこと。

仕事がなくて困っている時期に、師匠のビッグ・ウォルターやハニー・ボーイ・エドワーズ、アール・フッカーといった仲間達が「今度セッションするからベーシスト探してんだ、誰かいないかな〜・・・おお、いた!」と声をかけ、何とか試練の60年代を乗り越える事が出来ました。


ベースという楽器は一見地味ではありますが、バンド・サウンドでは全体のノリやグルーヴを決定付ける、とても重要な楽器です。

ソロ・デビュー後のキャリー・ベルのヴォーカルとハープのカッコ良さは、すなわち最高にグルーヴするバンド・サウンドと絶妙に会話しているかのような”タメ”と”間”と”勢い”のカッコ良さだなぁと、つくづく思うんですが、そのバンドと一体になったカッコ良さは、実はこの不遇時代にずっとベースをやっていたからこそ体に染み付いたもんだと思います。

もちろん優れたブルースマンは誰もが自分のグルーヴというものを持っていて、それを活かす事が出来るバンド・サウンドとピッタリと息の合った演奏で数々の名演や名盤を作り上げております。キャリーとは同年代のライバルだったジュニア・ウェルズもジェイムス・コットンも、本人達の個性はもちろん「くー!このアルバム本当に凄い!」というアルバムは、もれなくバックがカッコイイ。しかし、キャリーの場合は更にそこから一歩踏み込んだ一体感を巧みに操っている感じがするんですよね。あぁ、これはもう聴いていただかなくてはなりますまい。





Blues Harp

【収録曲】
1.I'm Ready
2.I Got To Find Somebody
3.I Wanna Will My Love To You
4.Blue Monday At Kansas City Red
5.I'm Gonna Buy Me A Train Ticket
6.Come On Over Here
7.I Cry So Much
8.Sad Dreams
9.Everything's Up Tight
10.You Know It Ain't Right
11.Last Night
12.Rocking With A Chromatic
13.I'm Gonna Buy Me A Train Ticket
14.Walking In The Park
15.Carey Bell's Blues Harp



この『キャリー・ベルズ・ブルース・ハープ』は、1969年にキャリーがようやくデビュー作として録音したアルバムです。

当時シカゴには、黒人専門のいくつかのレーベルがありました。有名なところでマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフ、ボ・ディドリーにチャック・ベリーといったブルース、R&B、ロックンロールの大スターを擁するチェス・レコードがありますね。

チェスも大手という訳ではなく「成功したインディーズ・レーベル」ぐらいの規模でした。とりあえず若いブルースマン達はチェスでレコードを出して人気者になりたい訳ですが、ここは有名なのでパッと出の新人にはなかなか難しい。という訳でVeeJayとかCobraとかCheefとか、そういったちっちゃいレーベルに売り込みに行って、運が良ければそういった小さな会社からシングル盤を出してラジオやジュークボックスでのスマッシュヒットが出るか出ないかに賭けておったんです。

しかし、60年代になってくると時代はロックンロールからロック、R&Bから徐々にソウル・ミュージックとなりまして、ブルースやR&Bを録音するレーベルというのは大分減っておりました。

ところがそんなブルース不況にあっても、良質なホンモノのブルースのレコーディングを頑張って、細く長く続いている会社がありまして、それがデルマークだったんです。

元々はミズーリ州のセントルイスでジャズのレコードを中心に売っていたレコード屋のあんちゃんだったボブ・ケスターという人が「よぉぉし!ブルースの都のシカゴに行くぞー!そしてそこでいい感じにやってるブルースとか何か新しくて面白い事をやってるジャズの連中のレコードを作るんだい!」と、何故かブルースが下火になりだした1958年にドカドカとシカゴに進出してきたんですね。


他のレーベルは、とにかく何でもいいからシングルヒットしそうな曲やミュージシャンを引っ張って来て「売れるための」レコーディングをやっていたその時、デルマークは「いや、レコードってのは作品だからな。これからはLP盤をアルバムで聴く時代になるんだよ!」と、正にレコード屋とジャズ好きの思考そのもので、他のレーベルみたいな儲け主義とはまるで逆の発想でもって、良いと感じたミュージシャン達のアルバムを制作するためにスタジオに呼んでレコーディングを行っておりました。

デルマークの事務所は、経営するレコード屋の2階。1階で普通のレコード屋で稼いだカネをレコーディングやLPの制作につぎ込むスタイルなので、当然金回りはそんなによろしくはありません。

でも、オーナーのボブはジャズやブルースが本当に大好きで、ミュージシャンの話は真摯に聞いた。カネがないブルースマンには小銭なら貸した。そして何よりレコーディングはシングルじゃなくてアルバム用のものなので、他のレーベルよりもちょっといい感じのギャラが貰えた(印税をキチンと払える余裕なんてないのですが、それでも当時のミュージシャンにしてみたらすこぶる良心的だった)。

根っからの放浪のブルースマンだったビッグ・ジョー・ウィリアムスなんかは、ボブの好意に甘えて、デルマークの事務所脇で寝泊りしてたといった具合に、とにかくここはブルースマンを単なる商品として扱わず、ミュージシャンとしてそれなりの敬意を払って接していたということなんでしょう。

ずっとハープを吹きたかった、でもハープ吹きとしての仕事はないから何とかベースを弾きながら食い繋いでいたキャリーのソロをレコーディングしたのは、デルマークの心意気でありましょう。

スタジオにはパイントップ・パーキンス、エディ・テイラーら名うてのセッションマン、そして華麗なギターソロで注目を集めていた若手のジミー・ドーキンスらが集められて行われました。

ところがまーこの2回のセッションというのは実にドサクサな感じで、キャリー自身も後に「あのアルバムをレコーディングした時は、何が何だかわかんないぐらいドタバタだったね、内容?う〜んあんまり納得はしてないなー」と語っていて、本人にしてみれば初めてのリーダー作をキチンと練り上げたバンド・サウンドで録音したかったという、気持ちの上での不満をありありと語ったりなんかしております。

つまりその、デルマークにはキチンと時間を取ってスタジオを借り切るカネがなかったんでしょう。しかし、そんなドタバタの中、ほとんど(つうか多分全編)「せーの」の一発録りでレコーディングされたこのアルバム、本人が言うように「ダメ」ではないです。

本人のディープなハーモニカ・プレイに若さ炸裂のやけっぱちヴォーカル、これがまずたまんないし、50年代シカゴのダウンホームな濃い出汁の出まくったバンド・サウンドは、間違いなくディープ・ブルースの豊かなフィーリングを醸しております。いい感じの鋭さで切り込んでくるジミー・ドーキンスのリードに最初は興奮しましたが、たっぷりの間を活かした寡黙なリズムをひたすら刻むエディ・テイラーのサイドギターと、音数を抑えてバシャバシャしてるウィリー・ウィリアムスの泥臭いドラムが格別なんですよ。

完成度でいえば確かに90年代以降のアルバムが輝きまくっているキャリー・ベルですが、このアルバムでしか聴けない粗削りな魅力ってあります。純粋に戦後シカゴのダウンホームな雰囲気がたっぷり味わえる作品としてアタシは推したいですね〜。












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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 00:00| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする