2019年02月02日

フレッド・ニール セッションズ

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フレッド・ニール/セッションズ
(Capitokl/Water)


戦後60年代に流行したフォーク・ミュージックというのは、そもそもがニューヨークやサンフランシスコなどの都会に住む白人青少年達による、ある種のルーツ回帰の運動から始まった音楽のムーヴメントでした。

最初の頃は古いブルースやカントリーソングなどのアーティストのレコードを聴いたり、その人達のコンサートを開催したりという動きでしたが、当然の成り行きとして若者達の中からも自ら古いトラッドソングをカヴァーしたり、またはオリジナル曲を作詞作曲したりして自分で歌って演奏するという人が出てきます。

また、ジャック・ケルアックなどのビートニクと呼ばれる文学からの影響や、公民権運動や反戦思想といった社会的背景も後押し、そんな独特の空気の象徴としてボブ・ディランという一人の天才シンガーソングライターが現れ、彼の影響によってまたフォークは盛り上がり、ひとつの文化として定着するのでありました。


そんなフォークソングのひとつの流れとして、アシッド・フォークなるものがございます。

アシッドというのは直接な意味として”酸っぱい”とか或いは”酸”そのものの意味を持つ言葉ですが、音楽の世界では薬物ですね。特に幻覚作用を引き起こす薬物として流行したLSD、これの正式名称がリゼルギン酸ジエチルアミドと言いまして、そいつを指す時の隠語としての”アシッド(酸)”が呼び名として定着、サイケデリックなど、音楽的に明らかなLSDを始めとするドラッグの影響を感じられるもの全般が、やがて”アシッド・ミュージック”と呼ばれるようになりました。

つまりアシッドフォークというのは、ポジティブな人間愛を歌ったものとか、或いは真面目に社会問題を取り扱った、そういういわば”表”のフォークに対しての、薬物の香りのする、アッパーだったりダウナーだったり、とにかくラリッている感じの、反社会的な・・・という”裏”の部分で発展していったフォーク・ミュージックの総称のようなもんだと思ってもらえれば結構です、はい。

元々フォークとか戦前のブルースとかカントリーとか、アメリカのアコースティックな音楽大好きだったアタシは、大人になりたての頃必然的にアシッドフォークなる音楽に惹かれるようになりました。

とはいえ、アシッドフォークは何聴けばいいか分からない、とりあえずティム・バックリィは最初から一発目でその声に撃ち抜かれて大好きにはなりましたが、はて、次は誰を聴けばいいのやらと悩んでおった時に先輩から

「アシッドフォーク聴くんならフレッド・ニールのこのアルバムは聴いといた方がいいぞ」

と教えてもらったのが『セッションズ』であります。

ギターとウッドベースが、たっぷりの隙間に重く静かに残響を響かせる中を、ダウナーに響くフレッド・ニールの枯れた低い声。

楽曲もタイトル通りのジャム・セッションの色合いがとても濃くて、いわゆるポップな感じとは全く無縁、前半はとことんダウナーに、後半はワン・コードを繰り返し掻き鳴らす呪術的な沈んだ色彩の即興の要素をふんだんに織り込んだ演奏で、これが正にまだアシッドフォークとかよくわかんなかった頃のアタシが、理想形として頭の中に描いていた”アシッドフォークのサウンド”だったんです。

解説を読むと、実際このアルバムはスタジオ・ジャムセッションで、全ての曲がリハーサルなしの一発録りだとあり、だからこそ音にも声にも楽曲にも一切の虚飾はなく、剥き出しの生々しい感情とか、”うた”というものの根源的な姿が漆黒の闇の中からありありと浮かび上がってくるようであります。


音楽というのは「それらしい雰囲気を出すために何かを付け足すこと」が割と多いのですが、ここではこのダウナーでローファイな鎮静と陶酔のムードを出すために無駄なものをとことん省いて、内面から滲み出ているもののみを音楽として、歌として鳴らしている。そんなリアリティのストイックな追究が感じられます。




Sessions


【収録曲】
1.Felicity
2.Send Me Somebody To Love
3.Merry Go Round
4.Love Over Yonder
5.Fools Are A Long Time Coming
6.Looks Like Rain
7.Roll On Rosie


ところでフレッド・ニールといえば、長年このアルバムの超絶にディープなイメージでもって、ずっと「アンダーグラウンドフォークのアシッドヒーロー」みたいに思っておりましたが、実際は1950年代から”ちゃんとしたソングライター”として活動していた人で、有名どころではハリー・ニルソンが最初にヒットさせ、その後もスティーヴィー・ワンダー、クロスビー・スティルス&ナッシュ、ベンチャーズからイギー・ポップまでがカヴァーした超有名ポップ曲を筆頭に、カントリーポップスやフォークロックの盛り上がりの初期を支えた、オーヴァーグラウンドな立役者であり、自身もドラッグでヘロヘロだったとか、そういう”アシッドな”エピソードとは実はあまり縁がなかったりします。

早くからフォークブーム発祥の地と呼ばれるニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジではカリスマ的な立場にあり、まだその付近をウロウロしていた若き日のボブ・ディランに「お、君のハーモニカいいなぁ、ちょっと俺のバックで吹いてくれよ」とデビューのきっかけを与えたり、彼の効果的なドローン(一定の音程の低音弦をコード進行に関係なく鳴らし続ける)を多用した12弦ギターの奏法などからジョニ・ミッチェルやティム・バックリィやジェファソン・エアプレインといった、後のサイケ/アシッドフォークの立役者になるような人達が大いにヒントを得たり、様々な音楽的または彼に影響を受けたミュージシャン達との関わりを見るに、とてもしっかりとしたまなざしで音楽を見据えていた賢人というイメージであります。


その初期の頃の傑作は、エレクトラからリリースされたデビュー・アルバムのコチラ↓



楽曲はとてもキャッチーだし、アレンジも活きのいいフォークロックなんですが、やっぱり独特の低い低い声に含まれたダークな成分に、アシッドフォークの原型のようなものを感じずにはおれません。


おっと、この『セッションズ』は1968年にリリースされた3枚目のフル・アルバムです。この頃にはもうシーンはウッドストック目前で、音楽もルーツを深く追究するよりも、もっと新しい過激なものへと世間の関心がシフトして行きますし、2020年目前の今現代は、フォークやロックという言葉も、60年代当時から見たら信じられないぐらい多様化してきておりますが、ひとたびこのアルバムをセットしてその音を空間に放てば、そんな時代の変化も全く関係ない異次元に、永遠にとぐろを巻く循環の音楽が辺りを不穏に染め上げます。

いつまでも変わらない良さを持つものをよくエヴァーグリーンとか言いますが、このアルバムにはエヴァーグリーンの奥底にあるエヴァーダークネスな孤高が、彼のかすれたニヒルなヴォイスと共に刻まれておるのであります。






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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 13:28| Comment(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする