2019年02月25日

トゥーツ・シールマンス イメージズ

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トゥーツ・シールマンス/イメージズ
(Candid)


しばらくブログを休んでる間、何かとバタバタしておりまして、家に帰ったら何かこうホッと出来る音楽を探しているうちに、穏やかなジャズに流れ着く事が多い最近ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

このブログをご覧になっている皆様の中にも、昼間は一生懸命働いて、夜になるとホッと一息する時間を求めてネットとかでリラックス出来る音楽をお探しの方も多いんじゃないかと思いますので、丁度いいやということで、今日はアタシが家でボケーっと抜け殻のようになって聴いているジャズをご紹介しましょうという訳で、今日はジャズ・ハーモニカ奏者のトゥーツ・シールマンスという人を紹介します。

ハーモニカっていう楽器は、小学校でも習うし、昔からアタシ達日本人には馴染みの深い楽器ですね。あと、フォークなんかでもギター持ちながらハーモニカ吹いたり、ブルースにはブルースハープっていう立派なスタイルもありますし、実に親しみやすい楽器でありながら、その実奥が深く、色んなジャンルに合わせる形でそれぞれ奏法が確立されてきたという長い歴史もございます。

では、ジャズではどうかというと、まーこれがおりません。色々とレコードをいっぱい出しているぐらいの有名人になってくると、トゥーツ・シールマンスとリー・オスカーという人ぐらいでありましょうか。

何故いないのかというと、ハーモニカという楽器が実に難しいからなんでありますね。

や、穴を通して息を吸ったり吐いたりするだけで音が出て、なんなら和音もすぐに吹けてしまうハーモニカは、実はジャズのように複雑な和音構造を持って半音とかが当たり前に出て来るフレーズを細かく吹くというのがとんでもなく難しい。難しいからそもそもやりたがる人がいない。それに、サックスとかトランペットとか、見た目も派手でソイツを抱えてデカい音を出すってのはいかにもカッコイイんだけど、それに比べてハーモニカ。ん?あのちっちゃい筆箱みたいな、音もそんなにデカくない楽器やって楽しいの?と思う人は、ミュージシャンの中でも恐らく多数。


でも、トゥーツ・シールマンスはそんな世間の偏見(?)にも負けず、このハーモニカという楽器を見事に上質なジャズを奏でる楽器として良い演奏を沢山残しましたし、問答無用のこの楽器の第一人者として、ジャズの世界で一際輝く存在感を放ちましたし、そのズバ抜けたセンスと軽やかなフットワーク、それと「ジャンル?うん、ボクはあんまりこだわらないなぁ〜」という懐の広さで、ベテラン世代でありながら70年代後半に出て来たフュージョンにもいち早く理解を示し、80年代以降はクインシー・ジョーンズのコンテンポラリーなR&Bアルバムや、ジャコ・パストリアスのバンドでその軽やかなハーモニカを披露し、ビリー・ジョエルにポール・サイモンといったポップスのミュージシャンとも積極的に共演、そして何と久保田利伸、レベッカ、南野陽子の作品にもしれっと参加するという、ついでに言えばアメリカでは大人から子供達まで誰もが知っている人気番組『セサミストリート』のあのテーマ曲の作曲者でもあるという、びっくりするほど幅広い活躍で、ポピュラー音楽全般にも深く関わっているという、実に凄い人なんですよ。

それでいて、根っこから実にオシャレで洗練されたホンモノのジャズを感じさせるスタイルは、どんなにバックが変わっても、或いは共演するメインのアーティストがどのような音楽性だろうが一歩も退かずに死守するという、何というかミュージシャン道を通り越して、武士道とか騎士道にも通じるポリシーを感じます。


はい、トゥーツ・シールマンスはベルギーに生まれ、第二次大戦中にジャズに目覚めて、特に隣国フランスのギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトに憧れて、まずはギターでジャズを習得します。

やがて戦争が終わり、アメリカで本格的なジャズ演奏家になりたいと思ったシールマンスは、50年代にアメリカに移住。大御所ベニー・グッドマンにそのセンスの良さを買われ、以後コンスタントに活躍することになります。

ハーモニカで有名になってからもギターは変わらず弾いておりまして、これが口笛とかスキャットとかとユニゾンで一緒に歌ったり、洒落たボサノヴァを奏でたり、なかなかに味のあるもんでございますよ。

で、ハーモニカなんですが、実は彼にとってハーモニカは、幼い頃から慣れ親しんだ「ちょっとした余技の楽器」だったんです。

ところがヨーロッパに居た頃から「コイツで何か出来ないかなぁ」と考えているうちに、ギターを弾きながらホルダーに固定して、まるでフォークシンガーのようないでたちで軽く吹いておったら、お、これがなかなかいけるじゃないか、ていうかハーモニカの音って思ってた以上にジャズと合うんだなぁ、どれどれ、ほんならちょいとコイツでスタンダードでも吹いてみようかということになりまして、じっくり感情を込めて吹いてみたら、周囲からも「いいねぇ、ギターもいいけどハーモニカもメインの楽器にするべきだ」と認められ、それ以来ギターとハーモニカの二刀流で。

ほいでもってジャズでハーモニカというのは珍しいし、何よりシールマンスが奏でるハーモニカの独特の淡くドリーミーな音色と、半音階もオクターブぐらい離れた音符を繋ぐような複雑な奏法も軽くこなす優れたテクニックで築き上げられた無二の個性が多くの人を心地良く魅了し、2014年に体調不良で引退(その2年後の2016年に94歳で大往生)するまで、第一人者として常に最高に洗練されたハーモニカとギターのプレイでファンを楽しませておりました。





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【パーソネル】
トゥーツ・シールマンス(harmonica)
ジョアン・ブラッキーン(p)
セシル・マクビー(b)
フレディ・ウェイツ(ds)


【収録曲】
1.Days Of Wine And Roses
2.I Never Told You
3.Dr. Pretty
4.Airegin
5.Images
6.Day Dream
7.Giant Steps
8.Snooze
9.Stella By Starlight
10.Revol

(録音:1974年9月16日)


キャリアの長い人で、時代によって様々なスタイルを吸収し、それを軒並み「はいよ〜」とばかりに軽〜くこなせちゃってる人でありますが、やはりこの人の根底に淀みなく流れているのは、上質なジャズのリズムとエレガンスであります。

いやほんと、どの年代のリーダー作も参加作も、ちょろっとハーモニカ吹くだけで空気が爽やかな気品に満ち溢れ、しかもそれが決して軽くなく、ジャズの持つ特有の哀愁やスリリングな質感をもしっかりと感じさせてくれるから、トゥーツ・シールマンスって人は本当にどれ聴いてもいいんですが、ガッツリとジャズをやっているハーモニカをまずは聴いて浸りたい方には、この70年代のライヴ・アルバムがオススメです。

楽曲は、古くから演奏されているおなじみのスタンダードナンバーの中にジョン・コルトレーンのハイテクな難曲『ジャイアント・ステップス』なんかもあって「お、これどうやって料理してるんだろう?」と、曲名を見るだけでウキウキします。

そしてバックを固めるメンバーがまた、ジョアン・ブラッキーンにセシル・マクビー、フレディ・ウェイツと・・・おぉ、それぞれ濃いキャラクターと、オーソドックスからアヴァンギャルドまでこなす音楽性を併せ持つ、70年代にはそれこそ硬派でクセの強いアルバムを出したり参加したりという、実に魑魅魍魎な人達ではありませんか。


さて、こんな感じの、いわば武闘派な若い連中を従えて、シールマンスはどうしてるかといえば、これが”どうもしない”んです。

いや、もう、びっくりするほど穏やかに滑らかに、大人の男の上品さをハーモニカで匂い立つエスプリと共に「ふわぁん」と醸している。実際のプレイそのものは、激しく攻めているにも関わらず、ハーモニカという楽器が持つ柔らかい特性ゆえか、それともシールマンスの人柄ゆえか、演奏全体からみなぎる激しさを、スーッと美しくまとめ上げ、純粋に心地良いジャズとして最初から最後まで聴かせてくれます。

ていうかシールマンスのほんのり憂いを含んだハーモニカの音、ほんといいなぁ・・・。




『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 22:49| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする